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J/53  作者: 池金啓太
三話「善意と悪意の里へ」

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事件の波紋

その後、軍まで出動したことにより村の隅々まで徹底的に調査され今回の事件の原因の究明が急がれた

城島の読み通り夕方頃には静希達はお役御免となり一足先に帰路につくことになった


帰る際に東雲姉妹に抱きつかれまた会えるようにと言われた静希が戸惑っていたのが印象的だったと石動は語った


そして週が明けて月曜日の放課後、静希は城島に呼び出され職員室まで来ていた


「おぉ、来たか五十嵐、さて報告することがいくつかあるんだが・・・」


「なんで俺だけ呼ばれたのか、嫌な予感がしますね」


「ふふん、いい勘をしている、いいニュースと悪いニュースがあるが、どっちから聞きたい?」


他の班員の姿はなく、静希だけが呼ばれたことにある種の不信感を抱えていたがそれが確率半分から確信へと変わった


「じゃあ悪いニュースからで」


「ふん、私たちがエルフの村から去った後、日曜日の明け方に軍特殊部隊の包囲網を破って逃走する人物がいたそうだ」


「は?」


静希は耳を疑う


軍の特殊部隊といえば戦闘などの専門家だ


包囲戦、殲滅戦、制圧戦、どんなことでもこなす部隊


そんな部隊の包囲網を突破するなどとおよそ人間業とは思えない


「そしてその後の事情聴取でわかったが、どうやらエルフの長に悪魔と神格の召喚陣を教えた奴がいるらしい」


「包囲網から抜けた奴が、そいつだと?」


「可能性は否定できない、お前のレポートに書かれていた旧集会所の埃のないガラクタ部屋、そこに潜伏していたものとみて今調査しているところだ」


失念していた


静希はてっきりエルフの長か村の誰かが自身で思いついて計画を実行に移したとばかり思っていた


エルフの裏で誰かが暗躍している可能性を微塵も考えなかった


「その人物の特徴は?」


「一切不明だ、エルフの仮面のようなもので顔を隠していたらしい、身長は百七十前後、髪もなにもかも隠していたらしいな」


せめて似顔絵でも作れればまだ捜索のしようがあるが、顔を隠していたのでは身体的特徴は貴重な情報源だが、背丈は上に限り多少のごまかしがきく


「そいつはいつごろエルフたちと接触を?」


「四月頭だそうだ、それから村の各員と相談し実行に移したらしい」


四月の頭、静希達が実習へと赴いたのは四月の中旬、そしてその十日程前には風香が行方不明になったということは、接触してから数日で召喚に挑戦したことになる


「エルフたちがろくに情報統制などもしなかった、いやできなかったのも」


「そいつの指示か、そいつが突然やってきて、チャンスとばかりに食いついてそういった準備をする暇もなく、トカゲの尻尾に使われたか、恐らく後者だな」


静希の考える筋書きはこうだ


ある日平穏を絵にかいたような村にある仮面の人物が現れる、そしてその人物はこういうだろう


『エルフの威信を取り戻す方法があるがいかがかな?』


エルフの権力を取り戻したい長は戸惑いながらもその提案に食いつくだろう


そして運よく、いや運悪くも双子の姉妹は二桁の歳になり精霊召喚の儀を行うことに


そのタイミングに合わせて悪魔と神格を呼び寄せることになるが結果は失敗


それからのことは静希の知る通り、神格の召喚にも挑戦したが結果は同じく失敗


エルフに召喚のことを教えた人物は調査として静希達が、そしてそれから一日も経たずに軍がやってきたことを知りすたこらさっさと逃亡劇を繰り広げた


「エルフを隠れ蓑に暗躍ですか・・・」


「でかすぎる隠れ蓑だ、正直あいつらがどうなろうと知ったことではないが、逃した奴の足取り一つつかめないのは痛い、部隊としての面目は丸つぶれだそうだ、鳥海のやつが嘆いていたよ」


確かに重要参考人ともなるべき人物を逃がし、足取りがまったくつかめないというのは痛い


少なくとも逃げたそいつは何を目的にしたのかは知らないが悪魔や神格を召喚するといった技術を保有している、非常に危険だ


「そのせいでエルフの長だけに罪を着せるわけにもいかなくてな、厳重監視の下仮釈放扱いになっているよ」


「むしろそっちの方が先生的には悪いニュースですか?」


よくわかったなと笑いながら資料を机に置く


「そこから俺に出来ることはなさそうですね、で?いいニュースとやらは?」


「ふん、これはあまり公にはできないことだが、お前の能力、および身辺の情報に規制をかけることが決定した」


「・・・それのどこがいいニュースなんですか」


自分の情報に『見せられないよ』の絵を出されたところで嬉しくもなんともなく


モザイクをかけられている気分だ、自分はわいせつ物ではないというのに


「少なくともお前のトランプの中身が外部に漏れることは少なくなったということだ、かなりの権限を持っても破れないようになっている、お前の平穏無事な生活は守られそうだぞ?」


「そんなんで守られてるんですか?」


「少なくとも方々から無茶な依頼は少なくなるだろうな、胃薬を買う必要もなくなるか?」


「少なくなるってことは、なくなることはないんですか」


「そりゃ無理だ、こちらとしてもお前に頼まなくてはならない依頼も出てくるかもしれない、その時は黙って快諾しろ」


「拒否権は?」


「ない」


静希は深々とため息をつく


厄介事が片付いたかと思えば厄介事の種は着々と育っているようだ


いやな予感しかしない上に碌な目に会わなさそうだ


「先生に提出したあのボタンについては?」


ボタンとはあの妙に小奇麗ながらガラクタにまみれた部屋で明利が見つけたボタンだ


報告ついでに城島に解析を頼んだのだが


「ありゃただのボタンだったな、市販されてるワイシャツのボタンだ、何の変哲もなく何の特徴もない、があそこに例の脱走者がいたという証拠でもあるな」


あの村にはボタン付きの服を着ているものは少なく、立ち入り禁止の区域に入るものはさらに少ない


だからこそ外部の人間のいた証拠でもあるのだが、その証拠が凡庸すぎては役に立たない


「連絡事項は以上だな、くれぐれも注意しろよ・・・といってもお前にその言葉は余計か」


「そうですね、できるならもっとのんびりとした人生を歩みたかったです」


「運が悪かったと思って諦めることだな」


失礼しますと言って静希は職員室から退室する


自分の情報に規制がかかるなどいいことではないとは思うが、メフィや邪薙の情報が外部に漏れないという点ではありがたい


よくわからないお偉いさんからどこそこを殲滅してこいなんて言われても困るの一言だ


これ以上の面倒事は御免なのだが


『ねえシズキ、帰りに駅前のチーズケーキ買っていかない?』


『ふむ、神にはお供え物がつきものだな、ショートケーキで手を打とう』


自分の能力の中に入った悪魔と神がそれを許してくれそうにない


こうして静希のトランプのスペードの3に神格が取り込まれることになる


少なくとも彼らが静希とともにいる限り静希に平穏は訪れないであろうことは確定的に明らかである


ちなみに、悪魔の契約により静希は一晩メフィストフェレスの抱き枕とされたのは別の話である


ようやくと第三話が終了しました


更新一日一個でも進行が遅いからなんとも言い難いですな


これからも楽しんでいただければ幸いです

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