人外保管庫
手を胸に当てわずかに頭を下げると邪薙の身体が淡く光る
信仰を得たことで、守る存在を得たことでそれに足る力を得ているのだと静希は理解した
「いいなぁ静、ねえわんちゃん神様、私のことも守ってくれないか?」
「構わないが、シズキほど強くは守ってやれないぞ?」
「いいよいいよ、お願いね」
軽く契約を取り付けてしまっている雪奈を見て静希は呆れるが、呆れているのは静希だけではなかった
「これで悪魔に神格か・・・人外保管庫の異名をとるのも遠い日じゃないかもな」
「今度は精霊?妖精なんかもいそうよね」
「あとは・・・幽霊?妖怪?」
「頼むからやめろお前ら」
これ以上妙な存在を受け入れるわけにはいかないと思いながらも、このままだとまた増えるような予感がして静希は戦々恐々である
悪魔に引き続き神格、まだ四月だというのになんという過密スケジュールだろうか
十二月あたりには魔王でもひきつれていそうで怖い
「よし、ミスター人外保管庫、村に入るからさっさと邪薙をしまえ」
「先生、そのいい方やめてもらえませんか?」
「ん?いやか?」
「不名誉極まりないです」
収納系なのにも関わらず入れられるものが物質ではなく人外だなんて収納系統としては不名誉の極みのようなものだ
多くの物を入れ、運搬運用できてこその収納系、勝手に出てくる、言うこときかない、扱いに困る人外なんて専門にしたくはない
「とにもかくにも村の中に入ってみるか、何か変化があるかもわからん」
「こっちとしては気が重いですが」
ノリノリな城島に比べ静希の気分は重い
あれだけエルフが求めていた神格を自分の守護神としてしまっているのだ
何を言われるかわかったものではない上にまたあのエルフの偉そうな口上を聞かなくてはいけないかと思うと虫唾が走る
神格邪薙をスペードの3に入れ静希達はエルフの村の中に入っていく
村の中には銃を装備し巡回している特殊部隊の隊員が複数、聞き込みをしているものもいれば家屋の入り口を警護しているものもいる
数刻前までは平和そのものだった村が一触即発な状況に様変わりしてしまっている
中には状況を理解していないため驚く者もいれば何やらもめている人たちもいる
特に長の家の前には多くの人が集まり部隊の人間を非難しているのがうかがえた
どうやら部隊の隊長達はあの家の中を捜索、そして長に対しての会談を開いているようだった
隊員二名が入り口を抑えているがエルフが本気になればものの数秒でかたずけられてしまうだろう
それができないのはやはり軍という権力のなせるものだろうか
「あ、五十嵐!」
村を回っていると家に帰っていたはずの石動が駆け寄ってくる
どうやら村の異様な状況を察知して静希達を探していたようだった
「一体これはどういうことだ?なぜ軍がこの村に?」
「あー・・・これはその・・・」
「何てことはない、神格が村から抜け出したので一応護衛として派遣してあった部隊を呼び寄せただけだ、万が一を考えてな」
説明しにくい内容を城島は簡単に嘘をついてごまかす
これが大人の汚さかとも思ったが、長が東雲姉妹を使って悪魔と神格を呼び出したなどということが村に知られればどうなるか分からない
「そうだったのですか、して神格は?」
「問題なく拘束した、直に事態は収束するだろう」
石動への説明を終えて城島は長の家の中へとエルフと隊員を押しのけてはいっていく
「おい静希、行かなくていいのかよ」
「もうあの長とは話したくねえよ、話してると胃が痛くなりそうだ」
「あはは、確かにちょっとひどかったものね」
「職人気質のおじいちゃんとかあんな感じだけど・・・」
「私も静に賛成だ、風香ちゃん達と遊んでた方が有意義だよ」
「ふむ、他にすることもないだろうしな」
反応はまちまちだが、これ以上のごたごたは御免だと言わんばかりに静希達は長の家から離れ東雲家へと向かう
後は大人達、鳥海や城島たちが交渉するだろう
静希達の目的は神格の鎮静化
今回の実習の任務は果たした
当初の目的の東雲姉妹と戯れるのも悪くない
思えばただ東雲風香から改めて礼を受けるだけだったのにもかかわらずずいぶんと大事になってしまったような気がする
静希はため息をつきながらスペードの3を手に取る
悪魔に引き続き神格
本当に人外保管庫なんて言われるようになったらどうしようかと結構真剣に悩んでいた




