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J/53  作者: 池金啓太
三話「善意と悪意の里へ」
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神格の矜持

「さて、機嫌も直ったところで話を聞かせてもらえるか?連中はお前に何を言った?」


ようやく話を先に進めるべく城島が明利と鏡花を邪薙から離れさせ、先の長の様子を聞く


この証言があるかないかで長に対する対応が大きく変わってくる


それがたとえ白でも黒でも、この証言の重要度は変わらない


「何てことはない、連中の高尚な一族の誇りを長々と述べた後私に協力を求めてきた、ずいぶんと上の立場からのもの言いでな、聞くに堪えなかったが」


「再現できるか?」


「問題ないが、少々長いぞ?」


一言一句聞き洩らすようなへまはしないという事実を証言するかのように邪薙による長の会話の再現が始まる


邪薙の言うように長々と高説たれながら暴言と侮蔑を含めエルフの一族がいかに素晴らしいか、そして人間がいかに愚かであるか、その二点に終始していたように思う


そして最後にエルフの繁栄をもう一度取り戻す、そのためにお前の力を貸せ、なに報酬程度なら簡単に用意してやるなどといったところで邪薙の我慢にも限界が来たようでその場を脱出したようだ


よくもあれだけの内容を覚えながら正気でいられたものだと感心する


静希はもはやエルフの一族がどうのこうのの時点で軽く聞くことを放棄していた、それほどにひどい内容だった


「まあなんだ、災難という他ないな、我々にとってもお前にとっても」


城島が誰かに同情するとは思わなかった全員が目を丸くするが、その心境にも頷ける内容だったのだから仕方がない


数々の暴言を含むある種の説教とも取れなくもない演説もどき、あんなことを一日でも聞いていたら堪忍袋の緒が何本あっても足りはしない、静希なら半日で怒りで頭がおかしくなるだろう


最初に邪薙が正気を失っていた理由がよくわかった


「まったくだ、出会っていきなりあんなことを言われ、拘束された時にまた言われ、そして演技の際にまた言われ、長くこの世界にいるがあんな苦行は初めてだ」


「そんなに災難に遭ったのによく村を滅ぼさなかったな、俺なら焼け野原にしてるぞ」


確かに陽太なら間違いなく暴走してあたり一面を火の海にするだろう、周りは木に囲われ建築物も皆木でできている、燃えやすさは一級品だ、さぞ上手に焼けることだろう


「前にも言ったが、すでに滅んだとはいえ私は村の守り神だ、今もその誇りを忘れたわけではない、人を傷つけることは私の存在を否定することにもつながる、それだけはできない」


正気を失い、またあの言葉を聞いたことで、私はそれに気付けたよとしみじみそう語る邪薙に、静希は神様の片鱗を見た気がした


いかに外見が犬っぽくても洋菓子が好きだろうとこの眼前にいる存在は神なのだ


人知を超える力を持ちながらそれでもなお誰かを守ろうとする守り神


この神に守られていた村はさぞ幸福であっただろう、滅んだ今となっては確認の取りようはないが


「神格邪薙、この事件は間もなく終結するだろう、この後どうするつもりだ?」


「ふむ・・・特には決めていないが・・・そうだな・・・」


邪薙は全員を見渡した後に静希を見る


少し悩むような視線を泳がせた後、迷わずに顔をあげる


「まずは今回の件、私を正気に戻し、誇りを思い出させてくれた、感謝の言葉もない」


「い、いや、私達はほとんどなんにもしてないけど・・・」


全員に向けられた言葉に鏡花は戸惑っている


いや、だれしも戸惑うだろう、先週悪魔の存在を知り、そして次の週には神格と出会ってこうして頭を下げられているのだ


二週間ほど前の自分にこうなることを教えてやりたい気分だ、きっと過去の自分は信じないだろうけれども


静希がそう思っていると邪薙は立ちあがり静希の前に立つ


「そこでだシズキ、お前さえよければ私にお前を守護する役目をくれないか?」


邪薙の申し入れに静希は一瞬頭が機能停止する


「え・・・?は?」


静希と同様一年生布陣も思考が止まっているのか静希と邪薙を見比べながら右往左往している、はたから見れば奇妙な映像だ


「おぉ、静やったな、神様がおうちにやってくるじゃないか」


「めでたい・・・のか?」


まだ処理能力に余裕のある二年生二人がお祝い?の言葉を投げかけるがこの状況を喜んでいいのか微妙なところである


「一応真意を聞こうか?なぜ五十嵐に?」


「私を正気に戻したのはシズキだ、そして一番世話になった、村は滅びもはや私を縛る物は何もない、可能ならば私はまた何かを守る存在になりたい」


それは守り神としての矜持、何かを守ることでしか自信を体現できない不器用な表現なのだろう


その眼は怒りにも驕りにも染まっておらず、真直ぐに静希を見ている


「シズキ、今一度問う、私をお前の守護神としてはくれまいか?」


「あ・・・いや・・・本当にいいのか?俺ただの学生だぞ?」


「構わない、私も信仰がたったの数人では使える力はたかが知れている」


戸惑う静希は全員を見渡す


全員もはやどうとでもしろというお手上げポーズだ


「せ、先生・・・いいんですか?」


「いいと思うぞ、少なくとも流浪の神でなくなる分またどこかに召喚されるということもなくなるだろう、予防線にはなる」


せっかく助け船を求めたのにあっさりと承認されてしまう


邪薙は静希の言葉を待っている


そして班員も、先生も静希の言葉を待っていた


「そうだな・・・最近俺の家の防犯が気になってたし、ちょうどいいのかもな」


静希はベランダから部屋の中を覗いていた二人を軽く睨むが、二人は即座にそっぽを向く


よもや自分は関係ないとでもいい張るつもりだろうか


だが今はそんなことはどうでもいい


「邪薙・・・えと、邪薙原山尊、俺の守護神になってくれ」


「心得た、この身朽ち果てるまで、お前を守ることを誓おう」


一話の前書きをちょこっと変更


これからもお楽しみいただければ幸いです

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