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J/53  作者: 池金啓太
三話「善意と悪意の里へ」

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神格への貢物

「そうだ五十嵐、誰もいなくなったんだ、そろそろ邪薙に話を聞きたいんだが」


「でも先生、監視が」


ずっと静希達を見ていた人物がまだ注視している可能性がある


まだ警戒を解くわけにはいかないのではないか


「どうやらそれどころじゃないらしいぞ、さっきから監視の気配がない」


城島の言葉に雪奈と熊田が周囲を探るが、どうやら本当らしく監視されてはいないようだった


特殊部隊が突入するとあっては静希達の監視など二の次なのだろう、切羽詰まった状況になっているということは理解できる


「それにずっと中に入れたまま放置しているんだろう、そろそろ出してやれ」


そういえばずっとカードの中に入れっぱなしで詳しい会話内容などを聞くのをすっかり忘れていた


静希はいっけねとトランプを取り出して中にしまったままだった邪薙を取り出す


静希達の前に現れた邪薙は眉間にしわを寄せてしまっている


どうやらご機嫌斜めのようだ


「なんだ、すっかり忘れられていると思ったぞ」


「悪かったって、へそ曲げないでくれよ」


茶色の体毛を持つ犬の顔を持つ大男の神格、邪薙は地面に胡坐をかいて微妙にそっぽを向いてしまう


明利と鏡花がなにも言わずに撫でに行くと心地よさそうにしているが、それでもまだ機嫌は直りそうになかった


「まぁそういわないでほしいな神格邪薙、こっちにも事情があったんだ」


「ふん、あちらの都合で呼び出され、今度はそちらの都合で待たされるとはな」


城島の策に乗ったとはいえ予定をかなり遅らせて行動している


本来なら朝一で邪薙を回収する予定だったのを数時間単位で変更しているのだ


いやな場所に数時間も長く拘束されるというのは決して気分のいいものとはいえないだろう


それはたとえ神格としても同じことのようだ


「あらら、わんちゃん神様は完全にすねちゃったね、どうする静?」


「神様の怒りを納めるって・・・またカードの中にでも入れろってか?」


「いや、ここはやはりお供え物だろう、饅頭とか酒の類だ」


確かに神への供物として酒はよく用いられているのを目にする


他には作物、米や野菜などがあげられるがこの場にはないものばかり


「先生、酒とか持ってないですか?」


「私の職業は一応教師だぞ、職務中に酒なんて持っているはずがないだろう」


「いや、昨日職務中に大量に飲んでましたよね?」


「言っておくが私は下戸だぞ」


一応などと自分で言いだすようではお終いだなと感じながら、酒の線はなしだろう


どうやらこの犬神もどきは酒が飲めないときたものらしい


明利と鏡花に撫でられ続けている姿を見るとこいつ本当に神様かと思いたくなるがここではスルーしておいた方がよさそうだ


所持品の中で何かないものかと探しているが、全員ろくなものがない


陽太は財布と携帯しか持ち歩いておらず、明利も同じく財布と携帯、そしてハンカチと植物の種をいくつか


鏡花も貴重品とハンカチ、熊田も同じで雪奈はそれにプラスしてナイフを所有


「なんだよ、どいつもこいつも貢物の一つも持ってねえのかよ」


「よし、じゃあそんな偉そうなことを言う陽太君の財布を丸々神様に捧げましょうか」


「ちょっ!悪かったって!」


陽太の財布を返しながら静希も自分の持っているもので何かないかと捜索し始める


他の班員と同じく携帯に財布、ハンカチ、十得ナイフにメモ用紙、なんともあたりさわりのない所持品ばかりだった


「んだよ静希ろくなもん持ってねえな」


「よし、同じくろくなもん持ってねえ分際で偉そうなことほざきやがる陽太君の財布の中身を全員で分配しましょうね」


「わ、悪かったよ!もう言わねえよ!」


財布の中身をぶちまけようとする静希を必死に抑えながら陽太は懇願する


そんな陽太と書いてバカと読む存在はさておき静希は手持ちだけではなくトランプの中まで探し始める


武器や気体を除きハートシリーズやダイヤシリーズのトランプには日用品と貴重品が収められている


そんな中静希はトランプの中に一つ食べ物が入っているのに気がつく


朝食時に風香からもらったドーナッツ


朝から甘いものを食べる気にはなれずにトランプの中に保管していたものだ


仮にも日本らしい古風な名前を持つ神にドーナッツを渡すことになるとは


人生何が起こるか分からないものである


「どうぞ邪薙様、これをご賞味ください」


「ふむ・・・これは・・・なかなか」


ハンカチの上にドーナッツを置いて邪薙の前に差し出すと、犬顔は何やら目をつむってふむふむと頷いている


どうやら実際に食べるわけではないらしく、目の前に供物としてささげられた物を味覚とは別の感覚で味わっているようだ


味覚を使っていないのに味わうとはなんとも妙な表現だが、目の前の犬神もどきはそうとしか思えない動きをしている


その顔は先ほどまでの眉間にしわを寄せた猛犬のような形相から縁側で昼寝している老犬のような穏やかなものに変化していく


犬にも表情があるんだなと静希はこの時初めて理解したのは別の話である


「んん!洋菓子を供えられたのは初めてだが、なかなかいいものだ・・・!和菓子にはない、別の次元の甘露・・・これはいいものだ!」


どうやら満足していただけたご様子、先ほどまでの不機嫌ぶりはどこへやらご機嫌なオーラを飛ばして明利と鏡花に撫でられ続けている


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