問題の有無
「隊長!装備確認終了しました!」
隊員の一人が鳥海に向かって報告する、鳥海は顔を引き締めて隊員の前に立つ
「それでは村に突入、一班は村長、および重要人物を確保、他の班は調査にあたれ」
掛け声とともに全員が村へと走っていく
規律された軍隊というのは動きも発言もなにもかも機敏だ
自分達にはないものだなと感心しながらその様子を眺めていた生徒六人は呆然と立ち尽くす
「これでとりあえず問題はないだろう、今日の夕方には帰れそうだな」
「・・・」
「静希、どした?なんか問題発生か?」
状況が終了したにもかかわらず浮かない顔をしている静希
陽太はさすがの長い付き合いでそれを察知したが、何を考えているかまでは分からない
「いや、問題はないんだけど・・・問題ないのが問題なんだよ」
「・・・ん?どゆこと?」
「ん・・・なんか上手くいきすぎてないか?」
「上手くいきすぎてるんなら、むしろいいことじゃない?」
鏡花の言葉に静希は頭を働かせる
どうにも違和感がある、何かがおかしいのは分かっているのにその『何か』がわからない
「先生、今回のこと先生はどう思います?」
「ん?私としちゃあ笑いが止まらないけど?あの古狸にひと泡もふた泡も吹かせられたんだからな」
決定的に聞く内容を間違えたなと反省しながら静希は思考の切り口を変えてみる
自分達の立場ではなくエルフの立場になってみよう
今回の召喚事件、エルフにとって得になることは城島の言うとおり、過去の権威を取り戻すこと
そのために悪魔と神格を召喚した
リターンは大きい、ではリスクはどうだろうか
「先生、もし今回の事件、悪魔の召喚と神格の召喚をエルフの長が行っていたことが立証されたと仮定して、罪とかは問えるんですか?」
「もちろん罪になる、悪魔や神格といった存在は精霊と違い人に御しきれるものじゃない、いわば制御できない核を使おうって言ってるようなものだ、二つ同時に行った場合・・・そうだな死刑は難しいだろうが無期懲役は確定だろうな」
静希が想像しているよりもかなり重い罪だ
当然と言えば当然かもしれない、悪魔を呼んだだけで街一つ滅ぼせるような力があるのだから
逆に言えばそのリスクを冒してまで召喚しようとするだけのリターンがあるということでもある
悪魔の力を制御できるのであればそれこそ国相手と取引することだって容易になるかもしれない
神格の場合はその信仰の有無によって力が上下してしまうため安定した力は期待できないがその分悪魔よりは良心的だ、どちらにせよ強い影響力を持つだろう
「そんだけのリスクを負おうって奴らがこんな簡単にお終いになるとは思えないんだ、俺なら成功の場合のパターン複数、失敗の場合のパターンを大量に用意して準備する」
「なるほどね、エルフの対応は確かにあまりほめられたものではないし」
「普通に委員会を通して依頼してきたんだもんな」
委員会のコネを利用して情報統制はしているのだろうが、それにしてもいつかはばれることだ
事故で済ますつもりでも、事実がどこから漏れるか分からない以上は軽率な行動は避ける
「でも静、一件目の悪魔の時はエルフの迷子の捜索って依頼だったじゃんか、ちゃんとカモフラージュしてんじゃん」
「捜索部隊が全滅でもすれば確かにそれで責任を委員会側に押し付けられただろうね、実際それを狙ってたんだろうけど、それでも教員含めた捜索班全員が悪魔にやられる可能性ってどれくらい?」
完全に戦いとなっても撤退や抗戦、身を隠したり囮になったりと行動は山ほどある
その中で完全に捜索隊がやられる可能性はいかほどだろうか
それも、捜索隊を完全に消そうとしている人物が目標ならまだしも、相手は意識を喪失し暴走している少女、そして取り憑いたどんな存在かもわからない悪魔
「なるほど、確かに悪魔に遭遇してから少なくとも十分程度は生き残れていた、五十嵐達の実質戦闘時間を含めてもそれだけの時間があれば逃げることもできる」
熊田の言葉に静希はそういうことですと頷いてエルフの村を見る
銃声こそ響いていないものの、少しずつ騒がしくなってきている、恐らく大人たちがいろいろと揉めているのだろう
「エルフの行動はどうにも行き当たりばったりな、完全に考察されてないその場しのぎの策な気がするんだ、これだけの規模のことなら年単位で会議とかして決めてもいいだろうに」
「・・・確かに情報の管理能力のなさは見ていられないものがある、それに今回の依頼も妙に焦っているような印象は受けたな」
先日長と会った時のあの声や態度が演技でなければ、妙に苛立っているようだった
事実を隠そうとしている点と、故意に悪魔や神格を呼びだしたのは確かだろう
だがそうまでして得られるものは本当にエルフ族の沽券だけかといわれると、リスクに見合っていないような気がする
それこそもっと大きな目的があってもおかしくない
結局失敗に終わっているわけだからそんなことを考えていても仕方ないのは分かっているが、頭の中に在るもやもやが静希の思考を加速させていく




