二対二
タイマーは未だゼロを表示しており、開始に至ってないことを確認する
「んじゃさっき言った手順だな、その状況を作るのは俺の仕事、状況を作ってからはお前の仕事だ」
「了解・・・でもそんなうまくいくかな」
「作戦は上手くいくかどうかじゃなくて、どうやって上手く事を運ぶかだよ、なんとかするって」
トランプ一式を取り出しながら静希は気合を入れなおす
「お前もちょっとは気をつけろよ、この森、へたすりゃ全焼なんだから少しは手加減しろよ」
「わかったよ、注意しておく」
さすがにこの森を全焼なんてさせたら陽太は怒られるだけでは済まないだろう、そこは十分注意する必要がある
デジタル音がタイマーから鳴り響き、タイマーが動き始める
「んじゃいくか」
「よっしゃ!」
門を越えてまずは北門の方角へと一直線に走る
「正面から行って勝機あるのか?明利が感知してたらすぐばれるぞ?」
明利の能力『慈愛の種』は触れた他者や他の物体に同調することでその性質や状況を知ることができる、ただ同調する対象が生物でなければいけないという条件が付いている
同調することによりその周囲の状況を擬似的に知ることができるのだ、森などは生き物の宝庫、同調する媒介には困らない、索敵し放題というわけではないものの、触れた時に能力を発動してマーキングをしていれば多少離れていても同調できる、索敵範囲を広げないためにもいろいろと妨害したい
「じゃあお前がさっさと倒しておきたい敵がいる時はどうする?」
「まっすぐ行ってすぐに攻撃する、お前だってそうだろ?」
「あぁそうするね、今回の相手が明利一人だったら俺も間違いなくそうしてるよ」
後々になって厄介な能力は始めに潰しておくに限る、それが自分達のことをよく知る明利ならなおさらだ、実際潰すことはできなくても妨害して少しでも効果範囲を減らしておきたい
「なんか策がありそうだな」
「当たり前だ、何もしないで突っ込むのは馬鹿のやることだよ」
静希はトランプを取り出して邪な笑いをする
一方、北門から森の中に侵入した女子二人は明利の能力により索敵範囲をわずかずつだが確実に増やしていった
等間隔にある木に触れマーキングを施し同調することで周囲の状況を詳しく把握していた
対して鏡花は正面からの攻撃に備えてトラップをいくつか設置していた
形状変化による落とし穴や即座に発動できる壁や拘束用の能力の準備も万端だった
「でも幹原さん、本当に正面から来るの?」
トラップを設置し終えた鏡花はマーキングをしている明利に駆け寄る
現在位置は北門から南門に二十mほど移動した位置、まだほとんど移動できていないのが現状だ
「う、うん、間違いないと思うよ、特に陽太君は真直ぐ突っ込んでくると思う」
「あぁ、響は確かに突っ込んできそうね、大声あげながら」
能力を発動して真直ぐに突っ込んでくる陽太の姿がありありと想像できる
「そういえばさ、五十嵐ってどうやって戦うの?収納系の戦闘って私見たことないからわからないんだけど」
収納系は本来戦闘には向かないとされている、もし戦闘状況になった場合は主に物資運搬などの後方支援が仕事となっている、能力活用においてはもっとも日常的なために非日常である戦闘には向かないとされている能力の一つである
「静希君は、能力でしまってある物を出して攻撃してくるんだけど、何が出てくるかは分からない」
「んん、こればっかりは出てからのお楽しみってこと?」
「うん、静希君自身あまり戦うの好きじゃないし、私も静希君が戦ってるとこって数えられるくらいしか見たことないし」
「ふうん、けっこうレアなのね、運がいいかも」
運がいいのかなと明利は首をかしげる
明利自身あまり戦いが好きではなかった
自身の能力で他人を癒すことはできても傷を見るのは嫌だったし他人が傷ついているのも嫌だったためにできるなら戦いたくないと思っていた
だから静希と敵対している今は非常に怖い、静希が怪我をするのではないかと気が気でなかった
「噂をすればきたみたいよ?」
鏡花の言葉に明利は顔をあげると、前方から赤い炎を身にまとった陽太が高速で接近してくるのが見えた