特殊部隊
明利の手の中にあるのはボタンだった
ワイシャツなどにつけられている何の変哲もない白いボタン
「ボタンだね、糸がついてるってことは千切れて落ちたのかな?」
「糸が古くなってたのかな、切ったって感じじゃないけど・・・」
「・・・ボタン?」
そのボタンを見て静希は違和感を覚える
「なあ、この村の人たちって皆和服みたいなの着てたよな」
「そうだね、風香ちゃんや優花ちゃん、石動ちゃん以外は皆かな?」
今まで見てきた大人のエルフたちはみな不思議な服装をしていた
エルフ特有の衣服なのだろう、東雲夫妻や村ですれ違う人々、そして長に至るまで、子供以外は皆そういった服装をしていた
「さっきの足跡、俺とほとんど同じ大きさ、子供がここにきて落としたってことはない、じゃあこのボタンって誰が落としたんだ?」
子供がここを秘密基地にしていたというのならまだあり得る話だが、先ほどの足跡は子供にしては大き過ぎる
そしてこのボタン
大人は皆ボタンなど付いている服を着ていないのにもかかわらず見つかり、そして窓際には思わせぶりな足跡
「かなり昔に落とされてそのまま放置された可能性はないかな?」
「ないわけじゃないけど・・・糸の劣化具合によるな、鑑定とかできりゃいいんだけど」
じっくり見てみても糸の酸化の具合など、どれほど劣化したのかなど静希達にはわかりようがない
窓からあたりを眺めていると静希の額に黒い銃口がつきつけられる
一瞬思考がフリーズした
「うわっ!?」
悲鳴とともに仰け反って部屋の中を転がるが、向けられた銃口は変わらず静希達を捉えている
瞬間、雪奈が動いた
転がった静希を跳び越えてナイフを抜き窓から伸びる銃の先にいる男の喉元に向けてナイフを走らせる
なにも考えていないただの反射
行動そのものが反射で行えるほどに雪奈は場慣れしている
雪奈のナイフが男の喉元に
男の拳銃が雪奈の眉間に
互いに命を握った状態で停止した
明利は静希が突然大声をあげたのにも驚いたが、自分達に銃口が向けられていることにも驚いていてそこから動けずにいた
何せそこにいたのは過去テレビなどで見たことのある軍の制服に身を包んだ男性だったのだ
「銃をおろせ、胴体とさよならしたいか?」
「そちらもナイフをおろせ、まだ死にたくないだろう」
その言い草に静希は瞬時に交戦状態になると判断しトランプを二人の周囲に展開する
いつでもナイフを射出できる警戒そして威嚇態勢
「銃を下ろす方が先だ、でないと全身ナイフで串刺しにするぞ」
静希と雪奈を見比べる
雪奈は自分の目の前に、そして静希は明利をかばうように立ち、これ以上何かされないように警戒を強めている
観念したのか男は銃を下ろす
「君達は喜吉学園の生徒で間違いないね、能力名と氏名を教えなさい」
突然現れておいていきなり身分確認、嫌な予感と静希の予想が半分ずつ的中しているようだった
「あぁ?質問するのはこっちだ、何でこんなところにいる?この部屋にいたのはお前か?」
「待て雪姉、どうやら敵じゃないみたいだ」
静希が自分達の能力名と名前を述べると軍服姿の男性は銃をしまい、静希達に部屋から出てくるように指示する
「一体あんた誰なんです?いきなり銃向けなくてもいいじゃないですか?」
静希はこの男が少なくとも敵ではないと判断していた
「いやすまない、こちらも指示を受けてやったことなのでね、私は特殊部隊のものだ、怪しいものじゃない」
雪奈の憤慨ぶりに対して静希は頭をフル回転させていた
「あ、あの、何でこんなところにその、特殊部隊の人が?」
「ははは、私の口からは言えないな、こちらも仕事なんでね、ついてきてくれるかい?」
明利の質問には答えずに軍の隊員は三人を並ばせて自分の後についてこさせる
「神格が逃亡したんだってね、酷い事態だ、へたすりゃふもとにまで被害が及ぶ、君達が無事でよかったよ」
「そりゃそういう報告はしましたけど、早くないですか?」
「いやいや、迅速に行動というのが私達の」
「城島先生の指示ですね?」
静希の指摘に隊員は言葉を失う
「静、どういうこと?」
「城島先生、やたらと今回の件に協力的だったからこのくらいやるかもとは思ってたけど、特殊部隊呼ぶとは思わなかった・・・あの人のコネってやつかな、事前に連絡でもしてたんだろ」
「すごいね、そうか、君が五十嵐君だったね・・・なるほど、先輩の言っていた通りだ」
森の中を突き抜けて村の入り口付近にたどり着くと、そこには大量の軍服に身を包んだ隊員と、それらの中心にいる城島の姿を見つけることができる
隊員は皆アサルトライフルを装備しており、周囲に警戒しながら円陣を組んでいる
人数は十人を軽く超えている
「隊長!学生三人を保護しました」
「・・・おぉ、君達が」
城島と話している隊長と呼ばれた男性が静希達の下にやってくる
「城島のやつから話は聞いているよ、私は鳥海、この部隊の隊長をやっているものだ」
大きな身体に渋い声、だが友好的な声と目をした男性、それが第一印象だった
城島とはえらい違いだと思いながらその眼を見ていると、鳥海の後ろから城島がその首を掴む
「おい鳥頭、人の話は最後まで聞け、この村に在る四か所の召喚陣の調査と長の家への強制介入、できるのか?」
「あ、あぁ、可能だ、すでに許可も出ている」
「先生、周りの隊員さん達がおびえてるんでやめてもらっていいですか?」
特殊部隊だというのに城島の気迫に負けている隊員達は、少しではあるが隊長に憐みの目を向けていた
ちょい更新遅くなったのとキリが悪かったので二話更新
お楽しみいただければ幸いです




