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J/53  作者: 池金啓太
三話「善意と悪意の里へ」

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異様の欠片

「静・・・どういうつもり?」


この距離でも耳を澄まさなくては聞こえない程の小さな声で雪奈が話しかけてくる


どうやら雪奈もまだ完全に事態を把握しているわけではないようだ


「雪姉、いま誰かから見られているような気配はする?」


できる限り小さな声で静希も答えると雪奈はようやく納得したようで眉間にしわを寄せる


「なるほど・・・今まで気づかないのも間抜けだけど、気付かれるっていうのもずいぶん間抜けだね」


「俺は先生に言われるまで知らなかった、てか今も気配なんて読めない」


どうやら雪奈は持ち前の感覚で視線と気配を感じ取ったようだ


獣並みの感性の持ち主でなければそんな芸当ができるのは百戦錬磨の城島くらいだと思っていたが、やはり雪奈も規格外


だがこれでほぼ全員が現状の異様さに気付いただろう


やたらと活動的な城島、必要以上のことを口にしようとしない静希、そして鎮静化したいと頼んできた神格に対してのエルフ側の行動


状況の全容を把握していない人間でもここまで不安要素がそろえば警戒の色を強めざるを得ない


中でもこの村に来てからの城島の行動が逐一異常だ、エルフの一挙一動に対して殺意を覚えていると言っても過言ではない


村の西端、旧集会所の建物にたどり着き、とりあえずその中の捜索に移ることにする


立ち入り禁止の文字があったが、万が一神格がこの中に入りこんでいたらという設定の下行動している静希達にとっていかなる場所も立ち入りを禁止されるいわれはない


旧集会所は石動の言うようにかなり老朽化が進んでいるのだろうか、一歩進むごとにきしむ音が聞こえてくる


ところどころ床には穴が開き、中には扉が外れているままの部屋もあった


一番大きな部屋にたどり着くとさらにそれは酷いものとなっている


あちこちに穴が開き、蜘蛛の巣や埃でいっぱいになっている


一歩歩くごとに埃に静希達の足跡が残り、嫌悪感が加速していく


神格がこんなところにいないのはわかりきってはいるが、どちらにせよ監視の目がある以上最低限の仕事はしているように見せなくてはいけない


「・・・静、明ちゃん」


あたりを捜索している最中、雪奈が二人を呼ぶ


「何か見つけたのか?」


「これ見てみ」


雪奈が指さしたのは蜘蛛の巣だ


ぱっと見たいした大きさではない、それに蜘蛛の巣ならあちこちにできている


それほど重要なものとも思えないが


「ん・・・んん!?」


そう思いかけた時、静希はその蜘蛛の巣の異様さに気付く


「この蜘蛛の巣、半分以上欠けてるんだよ」


蜘蛛はその種類によって巣の形が変わるものが多い


ここにある蜘蛛の巣は全て正常円網と呼ばれる世間一般的によく知られる規則正しい形を持つものだった


だが雪奈の示す蜘蛛の巣だけまるで円網が何かによって引きちぎられたかのように変形してしまっている


「どう思う?」


「普通に考えるなら動物の仕業だろうけど・・・この位置は・・・」


蜘蛛の巣のある位置は大きな部屋から開きっぱなしの倉庫らしき扉と清掃用具の入れてあるロッカーを結ぶようにできている


こんなところを動物が通るとは考えにくかった


「しかもドアのとこみてみろよ、微妙に埃の積もり方が違う」


「誰かが扉を閉めたってことか?」


開きっぱなしの扉に巣をつくった蜘蛛は哀れ何者かによって扉を閉められ、そしてその巣を破壊されたことになる


「でも、ここは立ち入り禁止って書いてあったよね・・・」


「そう、立ち入り禁止のはずなんだ、誰かが入ることがあるとは思えないんだけど・・・」


静希は倉庫の中を見てみる


中にはいくつものガラクタにしか見えないようなものが散乱している


窓は一つだけあり、かなり大きい、開けてみると外は村の外へと通じているようだった


「静・・・足元見てみろ」


「え?」


静希が足元に目を向けるがそこには何もない


特に何の変哲もない床


「あれ?」


そう『何も』ない、ただの木でできた床なのだ


そこには埃もなく、小さなゴミも見当たらない、もちろん今までの床には残っていた静希の足跡も残っていない


まるでこの倉庫だけ時間でも止められていたのか、ガラクタの近くにありそうな蜘蛛の巣も一つとしてなかった


この部屋だけが妙に清潔な空間で作られている


埃もゴミも蜘蛛の巣もなく


「誰かが掃除したのかな?」


「でも大広間には俺ら以外の足跡はなかったぞ?」


「確定しているのは、さっきの蜘蛛の巣は動物じゃなくて誰かがやったってことになるな」


その誰かが、立ち入り禁止の場所にわざわざ入りこんで何をしていたのかは知らないがどちらにせよ何かをしていたのは間違いないだろう


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