気付く者と気付かぬ者
「とりあえず報告はします・・・」
こうして神格が逃げ出したことが公然たる事実になった以上、これからシズキが行う行動は決定した
「報告?誰にだ」
「もちろん先生にですよ、こうなったら俺達じゃどうしようもない」
静希は携帯を鳴らして再度城島を呼び出す
『もしもし、城島だ』
「先生、確定情報です、神格が長の家から逃げ出しました」
『あぁそうか、まったくまずいことになった、災害が起こる前に何とか間に合えばいいのだが』
最初からこうなることが分かっていたのだから間に合うかどうかなど思案する必要はない
間に合うとわかっているようなそんな声だ
「とにかく伝えました、俺達はこれから神格の捜索に向かいます」
『無理はするなよ?』
城島はもう半分笑っているように聞こえる
これから先何が起ころうとしているのか彼女は分かっているのだ
電話を切り、廊下に座ったままの長を睨みつける
「俺はもう行きます、これ以上余計なことはしないでください」
再三にわたる忠告を無視した長に対し、もはやこれ以上の言葉はない
何せ呼び出したものを抑えさせておいて自分でその封を切ってしまったのだから
問題はなかったはずなのに自分で問題をつくった長にとってこれほど突き刺さる言葉はないだろう
長の家を出ていく静希はこちらに向かってくる陽太達を発見する
そこには石動の姿が見えない、一班だけで行動しているようだ
「お前ら、先生はどうした?」
「先生に指示仰いだらあんたの指示に従えだって、あっちはあっちで忙しいみたいよ」
「何やらかすのかわかんないけどそうとう楽しそうだったぞ」
もはやその言葉だけで十分すぎるほどに嫌な予感しかしない
この村に来てから、いや前回の目標の正体を知ってからというもの城島のエルフに対する行動の奇抜さというか行動の読めなさは常軌を逸している
何をしだすかわからないからこれ以上はどうしようもないが不安感だけが募っていく
「石動は?」
「先生に言われて家に戻ってるみたい、ここからは任務だからって」
どうやら城島は石動を今回の件にこれ以上関わらせるつもりはないようだ
それはつまり石動が今回の件に関わっていないということを確信したということでもある
静希にとっては願ってもないことではあるが、村の案内が途中だからまだ土地勘がつかめないのは辛いところだった
とりあえずは行動しなくてはならないだろう、名目上は神格の捜索という内容なのだ
どこから誰が監視しているか分からないが、ひと固まりでいるのはあまり良い行動とは言えない
「状況を簡単に説明するぞ、長がちょっかい出したせいで、地下から『神格』が逃げ出した、俺達はこれから神格の捜索に移る」
状況の説明を軽く終えて静希は全員に目配せする
名前すらすでに知っている邪薙のことをわざわざ『神格』と呼んだことへの違和感
この意味がわかったならそれで十分なのだが、この班には鈍い人間が二名ほどいる
だが口に出したらアウトだ
「なあ静希、んなこと」
「それじゃあ前と同じ、俺、明利、雪姉チームと陽太、鏡花、熊田先輩チームで分かれて『神格』の捜索に移る、城島先生に遭遇したらその都度情報の共有をすること」
全員に目で合図しながら指示を飛ばしていく
特に陽太には強く睨む
二度目の言葉の違和感に気付けないようなら少々強引でも黙らせるしかないと思っていた
「だから何言ってんだよ静希、んなもむが」
「わかったわ、目標を発見したらすぐに連絡する」
「こちらのことは我々に任せろ、そちらもぬかりなくな」
どうやら陽太に向けた視線を代わりに鏡花と熊田が理解してくれたらしく陽太にそれ以上言葉を出させる前に強制的に口をふさぐ
こういう時に頭の働く人間がいると助かる
陽太が何やらもがくが、鏡花と熊田の二人がかりの拘束を破ることができずそのままおとなしくなる
「それじゃあ時間もない、急いで捜索を開始する、俺達は村の西側、陽太達は村の東側を、終わり次第報告した後捜索範囲を村の外へ変更する」
不満そうに見ている陽太を完全に無視して静希は指示を飛ばす
陽太の視線ももっともだ
捜すも何も、昨日の作戦通りなのであればすでに神格は静希の保護下にあり、すでにこの捜索自体に意味がないということだ
それでも捜索をしなくてはならない理由
陽太が知らない監視の存在
鏡花は何とはなしに気付いている、そして熊田はすでに能力によって確認を済ませていた
二人に目配せをして二人はうなずいてくれる
何とかうまくしてごまかしてもらうしかない
ここで全てをばらしてしまっては何もかも自作自演だということが村の側に知られてしまう
それは避けなければ城島の用意している策にも影響を及ぼす
「それじゃあ行動開始!」
静希の号令とともに全員が動き出す
静希達は西側へ、陽太達は東側へと走り出す




