彼女の意思
「・・・なにを・・・しているの・・・?」
母の問いに、ユーリアは答えなかった。
自分が拳銃を向けられているという状況が理解できないのか、母は呆けた表情を浮かべてしまっている。
そしてその表情は徐々に怒りへと変わっているようだった。
「ユーリア、それを向けることがどういう意味かわかってるの?おもちゃだとしても笑えない冗談よ!?」
母が声を荒げているのを聞いたのか、男たちの視線がこちらに向く。そしてようやくユーリアが銃を所持し、母に向けているという事に気付いたのだろう。
彼ら自身も銃を構えて応戦しようとしていた。
だがそんな様子の男たちを母は制してユーリアに言葉を飛ばしていた。
「ユーリア、答えなさい!どうしてそんなものを私に向けるの!?貴女はそんなものをもっちゃ」
「私を大量殺戮兵器にしようとした人がそれを言うの?」
大量殺戮兵器
その言葉を聞いて母は眉をひそめた。この娘が一体何を言っているのか、それをすぐに理解したからである。
「小型の核兵器をたくさん複製させて、私にたくさん人を殺させようとしてる人が、私がこれを持つことになにを言えるの?」
「あなた誰からそんなことを・・・!?」
誰から、いや今はそんなことを聞いている場合ではない。ユーリアが自分たちが何をしようとしているのかを理解してしまっている。
そしてこうなってしまったら説き伏せる以外に彼女に協力してもらうことはできなくなってしまう。
能力者が能力を使うのは他人が強制できることではない。どんなに他人が使ってくれと懇願しても、それを強制しようと、結局能力を使うのは本人の意思次第なのだ。
「ユーリアききなさい。この世界は今歪んでいる。能力者と無能力者の格差が広がる中で、私達無能力者は声を大きくしなければいけないの。能力なんてものを持ってる人間が大手を振って暴れられるような今の世界を変えるために」
「私も能力者よ!」
ユーリアは叫びながら母の足元に拳銃を放つ。
銃弾は床にめり込み母の声を銃声と銃の脅威が遮った。
これが本物であることはこの場の全員が理解した。モデルガンなんかではない。今ユーリアがもっているのは本物の拳銃なのだ。本物の拳銃を彼女の能力で複製したものなのだ。
「お母さん、核兵器を使えばたくさんの人が死ぬんだよ?たくさんの人が悲しむんだよ?私はそんなことしたくない。」
「あ・・・あなた・・・!へ・・・平気よ、たくさん武器を持ってるってことを理由にして政府に交渉すれば。」
「さっきお母さんは誰とでも戦えるし誰にだって勝てるって言ったよね?それは核兵器を使う前提の話でしょ?」
母が述べたことはすでに静希が予想していたことだ。今さら言われたところで何ら不思議はないし動揺もない。
ユーリアは母を大量殺戮者にしたくはなかったし、自分もそうなりたくなかった。
自分の能力でそんなことをしたとなれば、全ての責任は自分に重くのしかかるだろう。そんなことにはなりたくなかった。
母は何とか自分を説得しようとしているようだった。僅かに顔をひきつらせながらもどうにかして自分を言いくるめようとしているようだが、ユーリアの考えは揺るがない。
能力を使うのは結局自分自身だ。自分が後悔しない使い方をしろと、ユーリアは静希にそう習った。
だから核兵器は絶対に複製しない。たとえこの場で殺されそうになったとしても。
「お母さん。私はたまにしか会えなくても、普通に暮らせてればそれでよかったよ、世界なんて変わらなくてもいい。おじいちゃんやおばあちゃん、お父さんやお母さんと一緒に暮らせれば、それでよかったよ。」
自分たちのやろうとしていることがどうでもいいと言われているようで、母は眉間にしわを寄せてしまっていた。
子供が一体何を言うのか。その怒りが徐々に募る中、母は叫んだ。
「あなたはまだ子供だからわからないのよ!大人の世界に口を出さないで!あなたは私のいう事だけ聞いていればいいの!私の言う通りに能力を使っていればそれでいいのよ!」
母の言葉を受けて、ユーリアは泣きそうになってしまった。
この人は、自分を娘として以前に、道具としてしか見ていないのだ。核兵器を複製するための、道具としてしか見ていないのだ。
テロリストとして自分の娘の能力を利用するために、部下に自分を狙わせたのだ。
この人は、自分を大事にしてくれない。自分の言う通りになる、人形のような存在しか愛してくれない。
そんなのは嫌だ。
ユーリアは拳銃を持つ手に力を込めながら歯噛みした。
「私は・・・!私は能力者!自分の能力をどう使うかは自分で決める!」
それは今までの道中で学んだこと。教えてもらったこと、そしてそうしようと思ったこと。
「私はユーリア・コリント!お母さんの道具なんかじゃない!」
ユーリアが引き金を引こうとした瞬間、男たちがユーリアに向けて一気に接近してくる。
拳銃を奪い取ろうとしているのだろう、彼我の距離が近づいていく中、ユーリアは目を見開いた。
だが次の瞬間、男たちの進攻は突如現れた障壁によって阻まれた。
一体何が起こっているのか、ユーリア自身理解できなかった。
こんな能力自分は持ち合わせていない。だがこの唐突に現れた三枚の障壁は自分を守る様に顕現していた。
何がどうなっているのか、それを理解するよりも早くユーリアは思い出した。
お守り代わりに持たされた一枚のトランプ。きっと自分を守ってくれるとそう言っていた一枚のトランプ。
ユーリアはそれを取り出してまじまじと確認してみた。
何かが変わっているわけでもない変哲もないトランプだ。だがこれが自分を守ってくれたのだということは容易に想像できた。
どういう原理なのかはわからない、どんな秘密がこのトランプにあるのかはわからない。
だが静希はしっかりと自分にお守りを持たせてくれた。そして自分をこうして助けてくれている。
「ユーリア!これを外しなさい!」
母たちはこの障壁を破ろうと必死に攻撃している。だが障壁はびくともしなかった。
拳銃で撃っても机を叩きつけても、この障壁は全く動じず自分を守り続けてくれていた。
母たちはこの障壁を張ったのが自分だと思ってくれているようだが、ユーリアはそれが静希の力の一部であることはわかっていた。
だからこそトランプをしっかりと手で握り祈っていた。
自分を守ってほしいと。助けてほしいと。
すぐ近くにいながらユーリアに近づくこともできない。このままではユーリアを連れてこの場から脱出することもできないと、母は焦り始めていた。
この場から脱出するのはユーリアも一緒で初めて成り立つことだ。
核兵器とユーリアはセットで動いてこそその意味を成す。なのにユーリアを連れ出すことができないのでは本末転倒だ。
せっかくこの場に引き寄せることができたというのに。
「ユーリアききなさい!私たちがやろうとしていることは確かに危ないことよ!人を殺すかもしれない!でも必要なことなの!」
「たとえお母さんたちに必要だとしても、私はそれをやりたくない!」
「我儘言わないの!それは絶対に必要なことなの!何でいう事聞かないの!?」
「私の能力の使い方は私が決める!私の能力なんだから!」
例え何を言われても、ユーリアは自分の考えを曲げるつもりはなかった。
大量殺戮兵器になんかならない。誰かを殺すような核兵器を複製なんてしない。
自分は後悔しないように能力を使うだけだ。母のいうような使い方で能力を使えばきっと後悔する。
だからそれはしない。静希達に教わったことだ。
ユーリアはそれが正しいと思ったのだ。
静希達は自分で考えて自分で決めろと言った。
選択を迫り、自らで考えてその答えを導き出せと自分に言った。自分で出した答えは時折間違えることもあるだろう。だが自ら考えることで引き起こした失敗は経験になり、次の糧にもなる。
苦しみもするだろう、悩みもするだろう。だがそれは生きる上で必要なことなのだ。
母は考える必要などなく、自分のいう事だけを聞いていればいいと言った。
時にはそれも正しいことだろう。人生の先輩として正しい教訓を授けることができるのは親にとって必要なことでもある。
だがそれが常に正しいとは限らない。自分の考えだけを実行させるのは、自らの意見を押し付けているだけだ。
今回の場合は、ユーリアは親の言う事が正しいとは思えなかった。
なにせ核兵器を複製させるなどという事が正しいことだとは思えなかったのだ。
静希から聞いていることはほとんど正しかった。両親がテロリストだったという事を除いては。そのほんの小さな嘘が自分に対する気遣いであるとユーリアは気づいていた。
だからユーリアは親ではなく、静希を信じることにしたのだ。今まで自分を守ってくれた静希を信じることにしたのだ。
例えその結果取り返しのつかないことになろうとも、後悔はない。それは自分が決めたことなのだから。
「お母さん・・・私はお母さんたちを助けたかったよ・・・テロリストにつかまってるんだとばかり思ってたから・・・」
テロリストという言葉に母は強く憤りを感じたのか、障壁の向こう側から何やら喚き散らしている。
自分に対する暴言なども含まれているだろう。だがユーリアの耳にはそれらは届いていなかった。
両親にあったらどうするか。静希に問われた答えを今ここで再び出さなければいけない。
両親が死んでいた可能性はもう消えた。両親がテロリストであった場合の答えを出さなければならない。
「お母さん・・・私はお母さんたちと一緒にはいかない・・・私はテロリストにはなりたくない・・・!可能ならお母さんを捕まえる・・・!」
母がそれを聞いているのかどうかなど関係ない。もう母を助けることはできないのだ。いや最初から母を助けることなどできなかったのだ。
「それが・・・私の出した・・・答え・・・!」
ユーリアがそう言い切った瞬間、彼女から少し離れた天井が轟音とともに崩れていく。その場にいた男たちを下敷きにしながら崩れる中、ユーリアが待ち望んだ人物が立っていた。
「待たせたな・・・少し手間取った・・・」
瓦礫の上に立っている静希を見て、ユーリアは安心して大きく息をついていた。この状況において最も頼りになる存在が現れたのだから。
静希はユーリアの近くに歩み寄る、周囲に展開している障壁を解除するような動作をすると障壁は消えうせていく。やはり静希の能力だったのかとユーリアが感心している中、彼女を自分のそばに引き寄せた。
「状況は大まかながら理解した・・・それでリア・・・こいつはどうする?」
静希が敵意を向けている人物はユーリアの母親だ。静希を憎々しげに睨んでいる母を見てユーリアはつらそうな表情をする。
選ぶのは自分だ、自分で決めなければならない。自分の親だからこそ自分が決めるべきなのだ。
「捕まえて・・・この人も・・・テロリストの一員だから・・・!」
「・・・わかった・・・任せろ。」
静希はユーリアから少し離れると簡単に彼女の母を拘束して見せた。
ワイヤーのようなもので縛り、完全に身動きを封じると瓦礫に埋まってしまっている男たちにも同様の措置を施していく。
「シズキ・・・聞きたいことが・・・」
「話は後だ。ここが危険なのはわかってるな?」
「・・・安全な場所に移動してから・・・ってことね。」
そう言う事だと言うと、静希はユーリアを抱えて穴の開いた天井を浮遊し始める。それに引き連れられるようにユーリアの母と近くにいた男たちも浮遊して上の階に移動していた。
到達した場所が自分たちが最初にとおった一階だったということを知ってようやく今までいた場所が地下にあったということを知ったユーリアは周囲を確認しながら静希の体に抱き着いていた。
今度は何があっても離れないという気持ちの表れだったようだが、周囲にいる軍人風の男たちを見てその必要がないのだという事を悟る。
既にこの建物は制圧されているのだ。テロリストと思われる人間達も確保されつつある。
「ミスターイガラシ・・・この下は・・・」
「一つは通信室・・・もう一つは確認していない。たぶんそこにあるな。確認頼む。あとこいつらの連行も」
近くにいた部隊の人間にそう告げると、自分が連れて来た武装集団とユーリアの母を差し出す。
一瞬だけユーリアに視線を向けたが、彼女は自分の母から目を逸らそうとはしなかった。
口をふさがれているために何かを言うこともできない状態で、ユーリアの母は部隊の人間に連行されていった。
その姿をユーリアはその目に焼き付けていた。
「万が一を考えて俺たちはこの場から離脱する。この後は連合軍の本部に向かう予定だ。本部にもそう伝えてくれ。」
「了解しました。ご武運を。」
部隊の人間に見送られながら近くに止めていた車にやってくると同時に、アイナとレイシャが透明化を解いて姿を現した。
状況が終了してからずっと自分たちのそばについていたのだろう。
「アイナ、レイシャ、こいつを頼む。このまま移動する。」
「了解しました。さぁミスコリント、また移動ですよ。」
「よく頑張りましたね・・・行きましょう。」
二人により添われる形で後部座席に乗り込み、静希は運転席に座って車を動かして移動を開始した。
自分の母親が乗せられた護送車を見ながら、ユーリアは目を細める。
あれが正しかったのかどうかはわからない。母を捕まえることが正しかったのか否か。自分には理解できなかった。
まだ結果が出ていないのだ。それが正しい行為だったのか否か、今はまだ誰にもわからない。
「・・・シズキ・・・質問良い?」
「・・・あぁ、いいぞ。」
「・・・お父さんとお母さんがテロリストの一員だって・・・最初から知ってたの?」
ユーリアの言葉にアイナとレイシャは目を見開いていた。
あの状況だ、知らずにいたほうがおかしい。だからこそ知ってしまったのかという悲痛な表情が覗えた。
隠していたことが知られたという事もあって、アイナとレイシャは静希の返答を待っていた。
「あぁ、相手のことを調べるのは当然だからな。テロリストの構成員と、その関係は徹底的に調べ上げた。お前の両親はテロリストの中でも幹部的な存在だったんだよ。」
「・・・どうして・・・黙ってたの?」
自分で聞いておきながら、ユーリアはその答えをすでに知っていた。
自分のことを気遣ったからに他ならない。
いきなり戦闘に巻き込まれた少女に『お前の両親はテロリストでお前を大量殺戮兵器に変えるために行動した』なんて言えるはずがない。
もしそんなことを言われたら、ユーリアは今こうしてはいられなかったかもしれない。
だが聞かずにはいられなかった。静希の口から答えを聞きたかった。
たとえどんな答えでも、静希は自分に正直に答えてくれる。ユーリアにはその確信があった。
自分が真摯に対応すれば、静希もそれに応じてくれる。自分が真剣に聞いたなら、静希も真剣に答えてくれる。そう思ったからだ。
隣にいるアイナとレイシャは心配そうにしながらユーリアと静希に交互に視線を入れ替えている。
そんな中、ユーリアの視線は静希から動かなかった。
「理由は二つ。まず一つはお前と行動しやすくするためだ。自分の親がテロリストだなんていうやつを、お前は信用したか?」
「・・・わからない・・・でも最初に言われたら・・・たぶん信じられなかったと思う・・・」
当然のことだ。普通に暮らして生活して働いているはずの両親がテロリストだなんて言われても、信じられるはずがない。
たぶん自分がそう言われたら、最初に静希にそう言われたら、自分は信じなかっただろう。
静希の言葉も、そして静希自身も。
何者かに襲われ、敵も味方も分からないようなあの状況ではまずユーリアの信用を勝ち取ることが最優先であると静希は判断したのだ。
だからこそ、自分は味方だということを知らしめるためにも、あえて教えなかった。
あの場でこの事実を教えていれば、恐らくユーリアは静希も自分の敵なのではないかと思っていただろう。
「・・・じゃあ、二つ目は?」
静希は理由が二つあると言っていた。一つ目の理由は非常に合理的だ。それに何より静希は自分に誠実だった。両親のことに関しては秘密と嘘を吐いたかもしれないが、その全てに関して自分に選択権を与えてくれた。
教えたうえで選ばせてくれた。だからこそ二つ目の理由が気になったのである。
「二つ目は・・・正直言ってまともな理由とは言えないな。どっちかっていうと俺個人の都合だ。」
個人の都合、それがどういう理由であれ何かしらの訳があるはずだ。静希が自分に隠していたことへの理由が一体なんなのか、ユーリアは知りたかった。
「たぶん、昔の俺だったら全部お前に話したうえで選ばせてたかもしれない。俺の個人的な考え含め全部話して全部手の内明かして、それで選ばせてたかもしれない。」
「・・・じゃあ・・・何でそうしなかったの?」
昔の静希はそうしていた。それならなぜ今の静希はそうしなかったのか。
アイナとレイシャはその時の話をすでに彼女たちのボスから聞いている。かつてエドが窮地に立たされた時の事だ。
当時と今で何か変化があったのだろうかと考える中、静希は苦笑してしまっていた。
「なんだかな・・・話したと思うけど、俺も子供ができただろ?そのせいもあってか子供に対して妙に甘くなる時があってな・・・」
それは能力者としての静希の性格ではなく、人の親としての静希の一面だった。
子供ができたことで、自分の子供とそれを比べてしまう。そのせいで非情になり切れないことがあるのだという。
「特にお前の名前、俺の娘に似てたからな・・・なんというか他人のような気がしなくて少し気を使った。」
ユーリアが彼女の名前、静希は彼女を『リア』と呼んでいた。それは自分の娘の名前が優理という名前だったからに他ならない。
少しでも余計な感傷を避けるためにそう呼んでいたのだが、やはり親としての情は湧いてしまっている。
自分の娘もこのようになるのかと、どこか影を重ねてしまっているのだ。
以前の静希ならば、相手がどこの誰だろうとどのような年齢だろうと一度決めたら容赦することはなかっただろう。
幼少時彼の訓練を受けたことがあるアイナとレイシャはそのことを知っている。自分がどれだけ情けない表情をしようと、どれだけつらい思いをしようと、静希は手を休めてはくれなかった。
だが今の静希は、自分の子供ができたことで僅かにではあるが子供に対して甘くなっている節があるようだ。
任務でありながら、その対象に対して気遣いができる程度には。
「それがお前に両親のことを教えなかった理由だ。納得したか?」
「・・・うん・・・納得した・・・納得したけどまだ不満。結局私は・・・また普通に暮らすことはできない・・・」
両親を救い出してまた平穏な生活を送りたい。それがユーリアにとって最大にして唯一の願いだった。
だが両親がテロリストだということが判明し、もはやそれは叶わない。母親からの供述があればユーリアの父親もいずれ拘束されることだろう。
ユーリアがこのまま逃げれば、核兵器もいずれ確保される。結局は時間の問題だったのだ。
だがユーリアの生活に関しては時間は解決してくれない。複製という能力が判明した以上、また何者かがユーリアを襲うだろう。
その力を利用しようとしてくるだろう。そうなったら平穏な生活などは絶対に送ることはできない。
「それに関してはこれから司令部に行ったときにでも協議する。軍の庇護下に入るのかどうかはお前の好きにしろ。後ろ盾があって損はない。」
ユーリアが平穏な生活を送るにあたって必要なことは、つまりは彼女を守る存在である。
それは軍でもいいし別の組織でもいい。とにかくユーリアに手を出してはいけないと思わせることが重要なのだ。
ユーリアを手に入れることで得られるメリットよりも、それを手に入れるまでに犠牲にするデメリットが上回れば、必然的にユーリアを襲う人間は限りなく少なくなる。
「前にも言ったけど、お前が平穏な生活を送るには誰かに守ってもらうしかない。もちろんそれなりの代償は払わされるかもしれないけど、お前の願うものの為なら仕方がないだろうな。」
「・・・っ!・・・そう・・・そうだよね・・・」
静希の言葉に、ユーリアは何か思いついたようだった。
それはこの状況を打開でき、なおかつ平穏な生活が約束されている。ただそれを許してくれるかどうかがネックだ。
ユーリアはその考えを胸に秘めながら後部座席に背中を預ける。ダメだったらまた別の手段を考えよう、そう思いながら。




