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J/53  作者: 池金啓太
三話「善意と悪意の里へ」

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優しい(?)静希

そんなことを話していると家のインターフォンが鳴り、ご主人が出るとどうやら噂をすれば影、石動の登場だった


以前の約束を覚えていたのだろう、わざわざ東雲の家まで迎えに来てくれたらしい


「おはよう、皆よく眠れたか・・・ってあの人たちは何をしているんだ?」


「おはよう石動、あの二人は気にするな、性癖のことについて対立しているだけだから」


朝っぱらから何をやっているんだと不審がっていたが、そこは華麗にスルー安定ということらしい


こいつにさっきの話を聞かせたらいろんな意味で暴走しかねない、もしかしたらそっちの趣味があるかもわからない、聞かせないに越したことはないだろう


少々強引にでも話を先に進めようとする


「今日案内してくれるんだろ?早めに頼むよ」


こうでも言わないと先ほどまでの会話が漏れそうで怖い、特にテーブルをはさんで口論を続ける二年生が一番怖い


「あ、あぁそうだな、とりあえず村を一周しながら召喚陣などを見ていこうと思うのだが」


「それにお前この前に用務員のおばちゃんまで口説いてたそうじゃないか、はっきりいって趣味悪いぞ」


「なんだと!?あの人は人柄もいい魅力的な女性だぞ、貴様のような殺傷万歳な人間とは違って温厚だしな」


「・・・あの二人は何とかならないか?」


「あぁ、ちょっと待ってて、物理的に黙らせてくる」


これ以上話が長引くのは御免だ


不毛な会話もすでに飽きを通り越して呆れさえ浮かんでくる


人の性癖などそれぞれでいいではないかと思うのだがあの二人はそうはいかないようだ


にっこりと笑って静希は二人に近づいてトランプを二枚取り出す


「ちょっといいかな二人とも」


「あぁん?静、私はこいつと決着付けるべきなんだ!あっちにいってなさい!」


「五十嵐、すまんが止めないでくれ、俺はこいつに熟女の良さを」


「ちょっと黙ってろ」


二枚のトランプからほんの一瞬、二人の顔面めがけて気体が噴き出す


その瞬間に二人は咳こみだして顔を真っ赤にして涙と鼻水を垂らしだしている


催涙ガス


護身用のスプレーとして各種類のある一般人にだって簡単に手に入る代物だ


しかもとても軽く、カードの中に入れておくのだって容易だ


何せ市販品を買ってカードに向けて射出するだけでいいのだから


しかも市販品は一回五十グラム程度、十倍近くの量を保管しておける


対人戦においては非常に有効な手だ


「し、静ごほっ!げほっ!なにするんごほ!」


「いい加減無意味に不毛なお話はやめようぜ雪姉、熊田先輩、家の人にも俺達にもご迷惑だ」


雪奈が何か言おうとするが静希は知ったことではない


とっとと顔洗って来いと邪笑を浮かべながら二人を洗面所に送る


とりあえず二人の口論は止まったのだ、何も問題ない


「ねえ明利、前あいつのことをとっても優しいって紹介したわよね?あれのどこが優しいのよ」


「し、静希君は優しいよ、気配りできるし、友達は大事にするし、むやみに人を傷つけないし」


「へえ・・・」


確かに外傷は負わせていない、今のだってただの威嚇行為と取れなくもない


だがなんの警告もなくいきなり催涙ガス顔面零距離噴射は優しい人間のやることだろうかと鏡花は疑問に思う


ナイフを刺されている人間としては静希が優しい人間だとは思えなかった


三十分ほどして二人が顔を洗い、未だ鼻を赤くしながらも戻ってきた後で明利が軽く治療を行い、石動によるエルフの村案内ツアーが開催された


「この村の入り口は二か所、私達の入ってきたふもとの駅から上る山道を外れた場所、そしてそのほぼ対面に位置する山に登っていく道だ」


以前東雲を捜索する際もそっちから出たんだと付け足して石動は二つの場所を案内する


夜には確認できなかったが、この村はコンパスで引いたような綺麗な円を描いているらしく、その南端と北端に村に進入できるルートがあるらしい


夜中に見た発光する球体は今はその輝きを失っておりただの白い球体として土台に乗っている


「なあ石動、あの光る物体はなんなんだ?そこいらで見かけるけど」


「光る?あぁあれは光具という蛍光灯のようなものだ、電気ではなく魔素を吸収して発光する特殊な植物を中に入れてある」


「植物?ひょっとしてメソロンギ草?」


「知っているのか、博識だな」


さすが植物に詳しい明利、どうやら一発で正解を引き当てたようだ


というより光る植物なんてものがあるなんてこと自体が驚きだ


「明利、そのメソ・・・なんとか草って?」


「えとね、ギリシャのメソロンギっていうところで見つかった植物で、夜中に呼吸するのと一緒に魔素を吸引して発光する組織を持ってるの、発光原理は蛍のそれに近いらしいけど、私も詳しくは知らないの」


なんという無駄知識、いや植物をよく使う明利にとっては必要不可欠な知識なのだろう


なるほど電力を通さなくとも発光していられる理由はそれか


通常の植物は生物が行う酸素を吸い二酸化炭素を吐く呼吸以外に、日中においては光合成を行い酸素を作り出す、夜間において光合成が行われることはないがこのメソロンギという植物の場合夜間においては魔素を吸うことで発光する性質を持っているのだろう


村のあちこちにある球体の中にはメソロンギ草とやらが入れてあるのだろう


エコな生活というのはこういうことなのだろうか


「にしてもすごいんだな、電気使うよりこっちのがよっぽど効果的」


「いいか、大人の魅力に甘えたいという願望を持つ半面、その大人をちょっと困らせたいと思うのもまた道理だ、二面を味わえるという意味では年上の方がいいに決まっている」


「ふざけるなよ?年下の可愛さや背伸びして自分を楽しませようとしてくれたりちょっと強気な面を見せてくれた方がいいに決まっているだろ、昔の静はそれはもう可愛かったんだぞ」


先ほどまで静かにしていたのに明利の説明が始まって全員が聞き耳立てていたらこのありさまだ


どうやらあの二人は徹底的に自分の性癖について語りつくさないと気が済まないらしい


「ちょっと二人ともいいかな」


「「なんだ!?」」


論議を邪魔されたのを不快に思っているのか同時に睨むが、先ほどのトランプをまた取り出す


「さっきの催涙ガス、まだ残ってるんだけどさ、俺はこれをどうしたらいいと思う?」


満面の笑みで二人にそう告げると二年生は苦笑いしながらあわてだす


「できるのならまた使うこともあるかもしれないから温存しておきたいんだよね、この気持ちわかってくれるかな?」


「あ、あぁもちろんわかるとも」


「だ、大丈夫だよ静、私は年上のお姉さんだ、引き際はわかってるって」


「そう、ならいいんだ」


あれってやっぱり脅しだよねと鏡花が明利に言いながらも寒気を覚えていた


あの笑みをした静希は非常に怖い、鏡花はそれをすでに骨の髄まで味わってしまっているのだから


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