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J/53  作者: 池金啓太
番外編「現に残る願いの欠片」

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小屋の中で

静希とユーリアが数時間かけてたどり着いたそこは森の中にあった。


まるで木こり小屋のような場所に建てられている建物だがその構造はそれなり以上のものになっていた。


木こり小屋というにはあまりにも良くできている。イメージなどでよくあげられる丸太で作られたコテージなどとは一線を画す見た目だ。


普通の一軒家と言っても遜色ないレベルの外見を確認した後、静希は何やら内部を探っているようだった。中に万が一にも誰かがいないかどうか確認しているのだろう。


森の奥の奥にあるとはいえこの場所が誰かの目に留まっていないとも限らないのだ。そう言う意味では地下に造るべきだったのではないかと思えてしまうが、恐らくそれでは見つけることが困難という難点があるのだろう。


静希を先頭に小屋の中に入ると、その中は机とベッド、そして照明代わりの蝋燭がいくつか配置されていた。


静希はその蝋燭をつけていくと部屋の中が僅かに明るくなる。小さな小屋という事もあってこの程度の明かりでも十分中の状況を確認することができた。


よくよく見ると何やら資材箱のようなものが置いてある。その中には即席系の食糧、さらにはタンクに入った水などが存在した。恐らく最低限の道具がこの場所に配置されているのだろう。


あらかじめ準備してあるというのはあながち間違いではないらしい。


「この場所で夜明けまで待機するから体を休めておけ。軽く飯も食っておこう。」


静希はそう言いながら資材箱の中を漁っていろいろ準備を始めていた。


彼が料理ができるというのは少し意外だったが、これでも所帯持ちなのだ。その程度の家事技能があっても不思議はない。


もっともこういう状況であるためにそのほとんどが即席でできるインスタントであることは否めないだろうが。


そう言えば昼から何も食べていなかったなと今さらながら空腹感が襲い掛かってくる。


今まで緊張や恐怖で全く気にしなかったことが、ようやく安心できる状態に近くなったことで気が抜けたのだろうか、急に腹の虫が騒ぎ出していた。


思えば家に帰ってすぐに外出してそのままこの騒動に巻き込まれてしまったのだった。今の状況を昨日までの自分が見たら一体どう思うだろうか。


そんなことを考えながらユーリアは近くの椅子に腰かけた。


「用意できるもんが適当だからな・・・あんまりたいしたものはできないけど・・・お前らも食べるか?」


お前ら


この状況においてその言葉は正しくないのではないかと思っていると部屋の隅から誰かが歩く足音が聞こえてくる。


その足音は一つ、一体誰がこの場にいるのかと周囲を見渡してもその場には誰もいないように見えてしまう。


そう、その場には誰もいないのだ。複数の蝋燭が揺らめき弱弱しい光を放つ中、今この場で目に見える人間は静希とユーリアのみ。


だが静希はある一点を見て話しかけている。一体彼の視線の先に誰がいるのか。もしや幽霊などの類ではないだろうなとユーリアが訝しみながら警戒の色を強めながら静希の視線の先になにかいるのだろうかと目を凝らしてみる。


そしてその数秒後、ゆっくりとその姿を現すそれらをユーリアは目にした。


「さすがですねミスターイガラシ・・・いつごろからお気づきに?」


「小屋に入って少ししてからかな・・・なかなか隠れるのが上手くなったじゃないか。」


それは女性のようだった。身長は百六十後半、もしかしたら百七十台にも届くかもしれないほどの高さを持っている。


全身を覆うようなライダースーツのようなものを身に着け、顔どころか頭部全体まで仮面で隠れてしまっている。体のラインがはっきりとわかるその姿は彼女の体形をはっきりと見せつけるようだった。


細い肢体に引き締まった体。そして自己主張の激しい胸部。彼女が女性としてうらやむほどの体を持っていることは一見して理解できた。


だがそんな事よりも肌の露出がゼロの状態の彼女が唐突に現れたことで警戒したユーリアは即座に静希の近くに駆け寄った。


「安心しろリア、こいつは俺の仲間の一人だ。もう一人屋根の上にいるだろ?あっちはレイシャか?」


「まさかそこまで見抜かれているとは・・・彼女は今追跡がないかどうかのチェックをしています。もうしばらくしたら降りてくるでしょう。」


静希の対応から少なくとも彼女たちが静希の知り合いであり、かなり長い付き合いをしているということが予測される。先程から静希の声が少し優しくなっている。


恐らく昔から彼女のことを知っているのだ。どれほどの付き合いなのかはわからないが年単位であることは容易に想像できた。


「リア、紹介しておく。こいつは今回俺たちのサポートをしてくれるチームの一員でアイナ・バーンズだ、上にいるのはレイシャ・ウェールズ。えっと・・・今お前らいくつだっけ?」


「今年で十九になります。もう立派なキャリアウーマンです。」


そう言って彼女がフルフェイスの仮面を外すと、そこには浅黒い肌に黒い髪、そして美しい瞳と整った顔立ちが目に入ってくる。薄く微笑むその表情にユーリアは少し見とれてしまっていた。


「初めまして、アイナ・バーンズです。今回はミスターイガラシと共にあなたの保護を命じられました。どうぞよろしくお願いします。」


「あ・・・は・・・はい・・・ユーリア・コリントです・・・よろしくお願いします・・・」


微笑みながら差し出された手をユーリアは恐る恐る握ってしっかりと握手してみせる。


二人の自己紹介が済んでから数分経過すると、屋根の上から足音がする。そしてその数秒後に何者かが自分たちのいる場所に着地するような音が聞こえた。


いや正確にはその誰かを見ることはできなかった。足音だけが小屋の中に響き、天井にはいつの間にか抜け穴のようなものができている。まるで怪奇現象のそれである。先程のアイナの登場を目にしていなければ再び静希に縋り付いていたかもしれない。


「おやアイナ、もう気づかれてしまったのですか?」


「えぇ、やはりミスターイガラシをだますにはまだまだ実力が足りないようです。」


既に姿を現しているアイナの姿を見て彼女も隠れるという事をしなくてもよいと思ったのか、自分の着ている服を脱ごうとしていた。


それと同時にその姿がゆっくりと露わになる。そこにいたのはアイナと同じ服を着こんでいる女性だった。


身長はアイナよりも少し低いだろうか、全体的に細身であるのにもかかわらずアイナよりも筋肉質であるという印象を受けた。


そしてアイナと違いスレンダーな外見をしている。すらりとした肢体とその脚線が美しい。


「さすがですねミスターイガラシ。もう少し騙せると思っていたのですが・・・」


「お前達に隠れ方を教えたのは誰だと思ってるんだ?そのくらいわからないとな。」


アイナと同じようにフルフェイスのヘルメットを外した彼女は、アイナと同じく浅黒い肌に黒い髪をした女性だった。


アイナと同じくその瞳が美しく、整った顔立ちに加え少し長い髪を括っているのが印象的だった。


「リア、こっちがさっき言ってたレイシャ・ウェールズだ。今回俺たちのサポートをしてくれる。」


「初めまして、レイシャ・ウェールズです。今回はミスターイガラシと共にあなたの保護を命じられました。どうぞよろしくお願いします。」


名前以外一言一句変化のない挨拶にユーリアは少し動揺しながら差し出された手を取っていた。


「ユーリア・コリントです・・・初めまして・・・」


アイナとレイシャ、まったく同じ服を着て全く同じことを言っているこの二人が一体どういう人物なのか、ユーリアは図りかねていた。


ファミリーネームを聞く限り姉妹ということはないだろう。顔立ちも別人のものだ。だがここまで考えや言葉がシンクロするようなことがあるだろうか。


「さて、自己紹介も済んだところで飯にしよう。これからの事も話しておきたいしな。」


静希は携帯食料やインスタント食品を多少調理したものを机の上に並べ始めた。


食器などもほとんどないため調理した鍋やフライパンのままおいてあるものが多いがそれでもこの状況にしてはまともな食事と言えるだろう。


「ではいただきます・・・ミスターイガラシ、今後の予定ですが・・・」


「その前に確認したいことがいくつかある。核兵器の回収作戦、確か今日の夕方決行のはずだったな?そっちはどうだった?」


「・・・三つのうち二つは回収に成功しました・・・ですが残り一つは未だ不明です。」


食事をしながら静希は小さくため息をつく。前に聞いていた盗まれた兵器の中に含まれている小型の核兵器の事だろう。


三つのうち二つは取り戻すことができたという事は喜ぶべきことだろうが、逆に言えばまだ一つ敵の手の内にあるという事である。


「残り一つか・・・相手も必死ってことか・・・ますますリアの優先度が上がるな。」


「はい・・・確認できているだけで海路と空路はすでに手のものが回っているとのことです。」


「陸路での移動以外に方法はありません。ボスも一定空域から侵入するのは危険との判断をしていました。」


「・・・予定を変更したほうがいいかもな・・・」


話を聞く限りあまりいい状況ではないことがうかがえる。少なくともすぐにこの状況を打開できるようなことはなさそうだった。


相手がもっている核兵器はいわば最後の切り札。それを最後では失くすことができるのがユーリアの能力だ。


だからこそ相手も躍起になってユーリアを確保しようとして来ているのである。ユーリア自身からすれば迷惑極まる話ではあるが。


「今いる位置から一番近い軍の駐屯地は?」


「ここです。南西に約七百三十キロ。ですがこの辺りにはかなりの規模の街があります。確実に敵の手もまわっているかと・・・」


「安全とは言えないってわけだな・・・」


一番近い場所に味方がいるのであればそれを頼りにしてもいいのではないかと思えてしまうが、どうやらそう言う話でもないらしい。


静希達が目的としているのはあくまでユーリアの保護と身の安全だ。いくら軍がいたところで少数精鋭を集めてのゲリラ戦を行われてしまっては安全も何もないのである。


確実に安全を確保するには相手の行動範囲から抜け出す以外に手はない。


空路を利用してすぐにこの場を離れることができれば話も早かったのだろうが、空へ逃げさせないために空港を徹底的にマークしているとなると厄介だ。


もしユーリアがいるとばれたらそれこそ他の航空機への被害も予想される。人一人を守るための必要経費としては大きすぎる。


「空路と海路が使えないなら・・・歩いてヨーロッパ圏に移動するしかないか・・・そこまでいけばさすがに包囲もないだろうし・・・」


「はい・・・彼らの行動範囲はアジアとロシア及び中東であると予想されます。西ヨーロッパまで行けば・・・」


その前にいろいろやりたいことはあるけどなと告げて静希は小さくため息をつく。


面倒なことになってきたよと言いながら料理を口にし再度ため息をついていた。


「あの・・・何で軍がいる場所に行かないの?そこに行けば味方がたくさんいるんでしょ?」


食事をしながら話を聞いていたユーリアが唐突にそう聞いてきたことで静希達はどう答えたものかと迷ってしまっていた。


確かに味方が大勢いるところに行けばその分静希の負担は軽減される可能性は高い。


だがその味方が相手の行動をとりやすくしてしまう事だってあるのだ。


「相手が正々堂々戦ってお前を奪おうとしてくれるならそれもよかったんだけどな。人が多ければ多い程、向こうは行動がしやすくなる。」


「なんで?逆じゃないの?人が多ければ下手なことはできなくなるんじゃ・・・?」


ユーリアの意見は間違っていない。確かに普通の犯罪者などであれば人が多く存在する場所では妙なことはできなくなるだろう。


人気のないところにはいくなと彼女は祖父母から言い聞かされていた。それは子供ならだれもがきいたことがある注意勧告だ。


今の世の中何があるかわからない。誰かに助けてもらえるように誰かの目に留まるところにいるのが子供の護身術としては正しい選択なのだ。


だがそれは相手が普通の犯罪者に限られる。


「それが通り魔とかそう言うのならその考えで正しい。でも今回の相手はテロリストだ。あいつらは人に紛れて行動する。木を隠すなら森・・・それだけならいいけど時には民衆を盾にすることだって平気でやるような連中だ。」


「軍が駐留しているという事は近くにそれなりの補給経路が必要です。現に先に述べた駐留所も近くに町があります。」


「民衆に紛れて接近されても気づけない可能性があるのです。なにせ彼らは一度某国の軍事施設から兵器を持ちだしている・・・軍に紛れるという手段を有しているかもしれないのですから。」


静希の言葉の後にアイナとレイシャがそれぞれ軍の駐留場所に向かう事が危険であることを可能な限りわかりやすくユーリアに伝えようとしてくれた。


相手が軍隊であるのなら、駐屯地に向かうのも十分選択肢に加えることができた。力と力がぶつかるのであれば数が多い方が勝つのが当然なのである。


だが相手はテロリスト。彼らにとって数とは自らの主張を通しやすくするための人質と同義なのだ。


「お前を攫うっていうそれだけの目的のために街一つを犠牲にするような選択を迫ることだってあり得る。それを考えたら人が集まる場所は避けたほうがいい。」


「・・・何でそんなことするの?周りの人は関係ないのに・・・」


そう、関係ない。周りの人は本来何の関係もない一般人だ。


いや、ユーリアだって本来はテロリストなどとは無関係のはずなのだ。相手の計画の一端に勝手に巻き込まれたというだけであって、彼女はただの能力を有した少女でしかない。


だがそれがテロリストというものだ。


こちらの都合など考えていない。自らの主張を通すことだけを第一に考えている。周りの被害がどれだけ大きなものになろうと、周囲にどれだけの血と悲鳴をまき散らそうと、彼らは目的を達成するためなら嬉々として行うだろう。


では、なぜそのようなことをしなければいけないのか。それは単純にして明快な理由がある。


「それはあいつらが少数だからだよ。物事を変えたい、あるいは自分の主張を通したい。けど周囲に比べて圧倒的に少数だからこういう手に出るしかないんだ。」


思い通りにならなくて駄々をこねる子供と同じだと静希はため息をつきながら視線を落とす。


自分の主張が通らないのは自分たちが少数であるが故、あるいは力を持たないから。


もし体制を変えたいのなら、あるいは何か成し遂げたいものがあるのなら、それ相応の手段があるのだ。


物事には必ず正攻法というものが存在する。然るべき手続きを行うことでそれを成すことができる。そしてそう言う正攻法というのはたいていが大衆の味方であり、力あるものの味方だ。


言い方は悪いが正攻法を取ることができない弱者だからこそ、彼らはテロリズムという一方的な暴力によって主張をかなえようとしているのである。


だが、得てしてそう言う一方的な主張によってかなえられるものは数が限られる。


さらに言えば国際社会という面倒極まる相互関係によってそれらが叶えられる可能性というのも低く、叶えられたとしてもほんの一瞬に過ぎない。


得られるものは本当に僅かな自己満足とその国際社会に与えるひずみ程度のものだ。


「ただ今回の場合・・・その方法がちょっと特殊だ。人類史上最悪とも言っていい兵器を利用してるからな。もし成功したらそれこそテロどころの話じゃない。」


だが今回の場合は少し毛色が違う、ただのテロとは意味合いが違う。


たった一人と、たった一つの兵器だけで、無限に世界を攻撃できてしまう。しかも核兵器という史上最悪の形で。


ただの爆破や人質などとは格が違う。それこそ街一つ、国一つを人質に取ろうとしているようなものだ。


それほどの脅威を持って一体何を叶えようとしているのか。何を主張しようとしているのかは知らない。だがそれは絶対にかなえさせてはいけないものだ。


「いいかリア、覚えておけ。世の中には自分さえよければ周りがどうなっても構わないっていう、そう言う屑の極みみたいなやつがいるんだよ。」


良くも悪くもなと言って静希は自嘲気味に笑う。


その笑みになにが含まれているのかユーリアは理解できなかった。だが近くにいるアイナとレイシャはその笑みの意味を理解したのか薄く笑みを浮かべていた。


一体何を言っているんだかという呆れを含んだ笑みだ。この二人は静希のことを良く知っている。だからこそ笑い返したのだ。


「・・・そんな人たちを相手に・・・何でシズキ達は私を守ろうって思ったの?依頼されたって言ってたけど・・・」


ユーリアの言葉に静希とアイナ、レイシャはそれぞれ顔を見合わせてしまった。


どう答えたものかと思う中アイナとレイシャは静希の方を向き続けている。


「私達の理由は単純です、私達のボスがミスターイガラシに協力を要請されたのです。」


「そのため私たちはボスの命によりミスターイガラシに協力しています。」


アイナとレイシャの理由は至ってシンプルだ。つまりは彼らの上司が静希に協力を打診されたからこそ協力している。


だから逆に言えば静希が協力を要請しなければこの場にはいなかった可能性があるのである。


「じゃあシズキは何で?何で私を守るって仕事を引き受けようと思ったの?」


「・・・あー・・・それはまぁその・・・ちょっといろいろとあってな・・・なんて言えばいいんだこの場合・・・?」


静希は自分がどのようにしてこの件に関わることになったのかをどのように説明すればいいのか困ってしまっているようだった。


恐らくそれなりの理由があるのだろう、それをどう伝えればいいのか、どう伝えれば理解してくれるか悩んでいるようだ。


「正直に言うとな、最初は断るつもりだったんだよ。すでに軍も動いてるってわかってたし、何よりわざわざ俺が出るような必要はないと思ってたんだ。」


俺が出る、その言葉の意味をユーリアは正しく理解できていなかった。


だがその言葉の意味を、その場にいるアイナとレイシャは理解していた。静希が作戦行動に介入するという事が一体どういう意味を持ち、どういう行為であるのか。そしてどういう結果を生むのかも。


「そのあたりは私達も詳しく聞いていなかったのですが・・・連合軍からの依頼があったのでは?」


「ボスからはそのように伺っています。私たちの依頼料もしっかり出させるように交渉したのだとか?」


「あぁ・・・経費やら協力員の給料って形でかなりがっぽりもらうつもりで交渉した・・・まぁそのあたりはまたあとであいつに話すけど・・・」


アイナとレイシャもなぜ静希が今回の件に介入する気になったのか、詳しい理由については聞いていないようだった。


恐らくは二人の上司と静希は個人的なかかわりがあり、それ経由で協力を打診していたのだろう。


彼女たちは詳しいことを聞かされずに協力している可能性がある。もちろん事情は聞いているだろうがそれ以上の事は知らないのだろう。


「最初は委員会を経由して依頼があったんだ。とりあえず現地の軍に協力するようにって。いろいろと小競り合いだとかが起きてるってことは知ってたしな。でもそれだけなら俺の出る幕はないと思って断ったんだ。なにせ相手テロリストだし」


「あー・・・確かにテロではミスターイガラシの出る幕は少ないかもしれませんね。」


「ミスターイガラシの本領はそう言うところでは発揮されませんものね。」


ユーリアは三人の会話を聞いていてもほとんど理解ができなかった。


そもそも彼女は静希のことを良く知らない上に、無能力者として生活してきたために能力者として必要な知識が圧倒的に欠如しているのである。


自分以外の訓練された能力者なら大抵のことはできるのではないかという先入観を持ってしまっているのだ。


現に静希は自分を守りながら大勢の人間相手に何度も戦闘して勝利している。十分本領を発揮しているのではないかとさえ思えてしまうのだ。


「じゃあ何でシズキはこの仕事を引き受けたの?自分にあってない仕事だってわかってたんでしょ?」


「あー・・・うん、最初の方であった依頼は確かに俺にはあってなかったと思う。直接テロリストとの対応が求められたからな・・・でも次にあったのがちょっと特殊な事情になってだな・・・」


特殊な事情、それが一体どういうものなのかユーリアはなんとなく理解できた。


この前言っていた計画書


ユーリアの名前があったその計画書が確保されてから静希へ頼む条件が少し変わったのだろう。


だからこそ静希はそれを引き受けた。恐らくはそう言う事だ。


「それは条件が変わったという事でしょうか?」


「達成条件・・・?それとも金額的な話ですか?」


アイナとレイシャの言葉に静希は眉を顰めながらどちらも当たらずとも遠からずと言って首をかしげる。


これを言うべきか否か迷っているようだった。


「まぁ確かに内容がユーリアの保護と護衛っていう風には変わったのは間違いないし金額も変わったのは確かにそうなんだけど・・・問題はそっちじゃないんだよ・・・」


依頼を受ける段階で最も重要とも思える内容が問題ではないという静希に、アイナとレイシャ、そして話をあまり理解できていないユーリアでさえ首をかしげてしまう。


普通依頼を受けるか否かで重要なのはその二つくらいしかないはずである。あとは依頼主が変わる程度のものだが現に静希は連合軍の方から依頼を受けている。依頼主が変わったという事でもないのだろう。


なら何が変わったのだろうか。


三人が首をかしげていると、静希はいいにくそうにしながら項垂れた後小さくつぶやいた。


「いやまぁその・・・ちょっと頼まれてな・・・」


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