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J/53  作者: 池金啓太
番外編「現に残る願いの欠片」

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彼女の家

静希とユーリアは一時間ほどかけてユーリアの家にやってきていた。

と言ってもまだ中には入っていない。少し離れた場所から双眼鏡を使って周囲を観察している段階だ。


そしてその段階でも十分に家の周囲にうろついている不審な人物を確認することができていた。


「確認できるだけでも五人くらいか・・・たぶん家の中にもいるな。」


「何であんなに・・・これじゃ家に近づけない・・・」


「大方お前が帰ってくることを予想して見張ってるんだろうな。まぁ五人程度であればすぐに片が付くけど・・・どうする?」


家に帰りたいと言い出したのはユーリアだ。この状況を見てもなお帰りたいというのであれば静希は力を貸すつもりでいるのだろう。


だがこの状況を見てユーリアは僅かにではあるが家に帰らなくてもよいのではないかという気がしてきてしまっていた。


着替え程度であれば適当な店で買えばいいし、何より家にあるもので絶対必要なものというのは基本ないのだ。


あの場に祖父母がいないのであればわざわざ危険な場所に行く必要はない。


「・・・ねぇシズキ・・・本当におばあちゃんたちは保護してあるの?」


「当たり前だ。お前が狙われてるって時点でその身内関係はほとんど保護してある。お前の両親は別として祖父母はお前が出かけた少し後に保護したって報告を受けてる。」


自分が出かけた少し後。という事は本当にギリギリのタイミングだったのだろうか。自分がもしあの場で家にいたままであればそのまま一緒に保護されていたかもしれない。


そう言う意味では自分は運が悪いのかもしれない。


「・・・シズキ、私を守りながら何人までなら相手できる?」


「家を壊してもいいっていうなら軍隊とだって渡り合えるぞ。でもそれは嫌なんだろ?」


どこまでこの男が本気で言っているのかわからないが、恐らくただの人間程度は相手にならないという事だろう。


自信過剰なのかそれとも本気でそう思っているのか。どちらにしろ頼りになると信じたい。


現に今までユーリアを守ってきたのはこの男だ。今は頼るしかない。


「じゃあ・・・さっき言ったとおり五分だけ・・・五分だけでいいから家に帰りたい。お願いできる?」


「オーライだ。じゃあとりあえず表にいる連中を片付けなきゃな。」


静希はそう言って薄く笑う。仮面の向こう側の顔が笑っているのが近くにいるユーリアでもわかった。戦う事が好きなのだろうか、それとも誰かを傷つけることが好きなのだろうか。


この男しか頼りになる人物がいないというのは少し不安ではあったが、自分の願いを聞き入れてくれるあたり、まだ有難い。


本当なら有無を言わさずに連行して強制的に保護されてもおかしくない状況だというのは理解できている。今こうして家に帰りたいと言っているのは自分の我儘なのだ。


その我儘を静希は叶えてくれている。ふと気になった、だからつい口に出してしまっていた。


「どうして、言う事聞いてくれるの・・・?」


別に意図して口に出したわけではなかったために、本当に小さな声だった。もしかしたら静希にも聞こえていないかもしれない、それほど小さな声だった。


だがどうやら隣にいた静希には聞こえていたらしい。


「どうしてって言われてもな・・・まぁあれだ、お前の名前がうちの娘に似てたからってのもあるかもな・・・あとは気まぐれだ。」


「気まぐれって・・・でもシズキの仕事は大事な仕事なんでしょ?私のいう事なんて無視したほうが・・・」


「まぁ効率的に進めるならお前を完全に拘束して荷物同様にして運ぶ方がいいだろうな。説明の手間も省けるし何より楽だ。目的だけならお前を殺すのが一番手っ取り早いかもな。」


自分を殺す


そんな言葉を簡単に言ってのける静希にユーリアは僅かに戦慄するが彼にその気がないというのはすぐに理解できた。


静希のいう事は何も間違っていない。ただテロリストの思惑を阻止するためなら自分をどこか遠く、それこそ誰にも見つからないところに運ぶだけで済む。もっと言えば自分の能力を使わせられなければいいのだから自分を殺してしまえばいいだけだ。


だが静希はなぜか自分の意見を聞き入れ、自分を保護すると、守ると言っている。


合理的ではない非効率な方法。何故そんなものをこの男がとっているのか不思議でならなかった。


「でもお前だってそんなの嫌だろ?どうせ守られるなら言う事聞いてくれる方がいいだろうし、なにより死にたくないだろ?」


「それは・・・そうだけど・・・」


「ならそれでいいだろ?それに俺はお前を殺すつもりはないぞ。お前にそれほどの価値はない。」


殺すほどの価値はない。


静希の言葉がどういう意味なのかユーリアは図りかねていた。殺すまでもないという事だろうか、それとも殺す必要すら感じないという事だろうか。


それほど自分は、自分には価値がないのだろうか。


ユーリアはそれほど自分が特別な人間だと思ったことはない。だが何か自分にもできることはあると思っている。それが何かはまだわからないが。


殺す価値もない。それは一体どういう意味なのか、ユーリアの頭の中でその疑問だけがぐるぐるとまわっていた。


家に侵入すると決めた後の静希の行動は早かった。家の周りを見張っていた五人の男たちをあっという間に戦闘不能にしていく。暗闇のせいもあってか一体何をしているのかユーリアには全く理解できなかった。


近くまで来て家の中を確認しようとするがカーテンが閉められておりその中を確認することはできなかった。


だが中から光が漏れているのがわかる。誰かがいるのは確かなようだった。


「リア、鍵は持ってるか?」


「うん・・・これ・・・でもどうするの?」


「ここはお前の家だろう?なら玄関から堂々と入るぞ。」


玄関から堂々と。ユーリアは明らかに無謀ではないかと思えてしまう。家の中に誰かがいるということがわかっているのであれば普通は奇襲をかけるのではないかと思えてしまうのだ。


普段の静希ならばそうしたのだろう。ユーリアは知る由もないが静希が得意としているのは奇襲だ。だが静希は今ユーリアという護衛対象を抱えている。そんな状態で奇襲という激しい動きをするわけにはいかないのだ。


だからこそ堂々と侵入する。幸いにしてこの家の見取り図は頭の中に入っている。玄関から行けばリビングまではほぼ一本道だ。別の入り口から入って多方向から囲まれるよりは何倍もやりやすいのである。


「確認しておくけど、何か取ってくるものがあるのか?」


「・・・うん・・・私の部屋に・・・」


「わかった。時間は限られてると思えよ?」


静希の言葉にユーリアは小さくうなずく。もしかしたらもう二度とこの家に戻ってくることはできないかもしれないのだ。ユーリアは少し涙ぐみながら静希の後ろをついていく。


静希がゆっくりと鍵を開けて扉を開けると、奥の方から物音がする。こちらに近づいてこないという事は待ち伏せして捕えるつもりなのだろう。


「リア、離れるなよ?」


「・・・うん!」


小声で返事をしながらユーリアは静希の服の裾を掴む。離れないように極力身を近づけていた。


その為静希は若干動きにくそうにしていたがそれも問題ないというように進んでいく。


そしてリビングへの道を歩いていると階段から唐突に誰かが現れ思い切り静希めがけて殴りかかってきた。


その手に持っているのが何かの凶器であるというのはすぐにわかる。鈍器か刃物かはわからないが静希に向けて殺意を向けながら攻撃を仕掛けているのは明らかだった。


だが静希は全く動じていなかった。待ち伏せをしていて当然だと感じているほどに軽々とその武器を左腕で止めて見せた。


そして武器を軽く取り上げると襲い掛かってきた男の肩を掴み、思い切り握りつぶした。


鈍い音が家の中に響くと同時に、男の悲鳴がユーリアの耳を支配した。


静希が何をしたのか、ユーリアはほとんど確認できなかった。だが静希は今男を攻撃したのだ。手で掴んでその肩を砕いた。


そしていつの間にか男の両足からも血が流れていることに気付ける。いつの間に肩だけではなく足まで攻撃したのか。ほとんど何が起きているのかわからないような状況だがほぼ一瞬で一人を無力化して見せたのだ。


一体どんな風に能力を使ったのかは知らないが階段から転げ落ちるようにその場にうずくまってしまう男を無視して静希はどんどんリビングへと向かっていた。


男の悲鳴によりこちらが進攻を開始したというのはわかっているだろう。わざわざ目的であるユーリアを連れて来てくれたのだから数で押しつぶせばいいだけ。リビングに現れた瞬間に畳みかければいい。


近くにユーリアがいるために銃を乱射することはできないが、多対一であれば十分に勝ち目はある。


リビングで待機している男はそのように考えるだろう。何人いるかは知らないが一人でできる事には必ず限界がある。


だからこそ静希は迷わずに進んでいた。


リビングへと続く扉を開いてその中に入ると、静希の眉間に拳銃がつきつけられる。そしてリビングの奥にも二人こちらに銃を向けている男がいるのが確認できた。


「手をあげろ・・・その娘を渡してもらおうか?」


「・・・さっきの奴含め全部で四人か・・・外にいるのを含めて九人・・・まぁまぁの数ってところか。」


「聞こえないのか?手をあげろって言ってんだ!死にてえのか!」


眉間に銃を突き付けて自分は今圧倒的優位に立っているはずなのに、その場にいる男たちは全く自分たちが有利である気がしなかった。


むしろこの状況で自分たちの方が追いつめられている。そう言う風に思えてしまうのだ。


「リア、お前の部屋って二階か?」


「そ・・・そうだけど・・・こ・・・これ・・・!」


ユーリアはこの状況におびえていた。自分たちに向けられる銃口、自分の命を奪おうとするその圧倒的な存在感。まともに立っていられる静希が異常とさえ思えるほどにユーリアは恐怖していた。


「そう怯えるなよ、すぐ片付けるから。」


静希の声が届くと同時に、自分の周囲から男たちの悲鳴が響いていた。


先程まで静希に銃口を突き付けていた男も、少し離れた場所から狙いをつけていた男も、皆一様に両肩と両足から血を流しその場に倒れてしまっていた。


一体何が起こったのか。それを理解するよりも早く静希はユーリアを連れて二階へと進み始めた。



ユーリアが自分の部屋に入ろうとする直前に、静希がユーリアの肩を掴んだ。


一体何がどうしたのか、そう思っていると扉がいきなり開き中から何者かが襲い掛かってくる。


静希はすぐにその男の首を掴んで床に組み伏せてみせた


そして両の手足を丁寧に一つずつ砕いていく。その度に男は悲鳴を上げるがそんなことは静希は全くお構いなしのようだった。


「誰もいないな・・・よしリア、今から五分だ。持ってくものは早めに決めておけ。」


静希は周囲の警戒をしながらユーリアを部屋の中へと誘導する。見慣れているはずの自分の部屋は少し荒らされてしまっていた。


これだけで今いる自分の部屋が自分のものではないような錯覚を受けてしまう。


自分が持っていくべきもの。そんなことを言われても衣服の類が少量程度しか思いつかない。あとは祖父母がプレゼントしてくれたアクセサリーくらいだろうか。


もう二度と戻ってくることができないかもしれないのなら他にも持っていきたいものはあるが、あまり荷物が多くなりすぎると静希に迷惑をかけてしまうだろう。


そうしていると自分の部屋の外で呻いている男の姿が目に入る。


「・・・ねぇシズキ・・・その人達・・・どうするの?」


「ん・・・他のチームに連絡して拘束してもらう。こいつらも一応犯人の一部だからな。」


「・・・殺しはしないのね?」


「こいつらにその価値はない。わざわざ殺す必要もないだろ。」


殺す価値はない。先程も聞いた言葉だ。


つまり自分はこの男たちと同程度の価値しか持ち合わせていないということになる。


いつでも殺せる、殺す必要を感じない存在。


そう考えた時、ユーリアは小さく歯噛みする。自分をその程度だという静希に対してわずかな怒りを覚えていた。


助けてくれることにはもちろん感謝している。守ってくれることにも、今こうして我儘を聞き入れてくれていることにも感謝している。


だが自分の価値をそこまでないと言われて気に障らないはずはない。


「・・・私は・・・そこの男たちと同列ってこと?」


「・・・は?」


「だってそうでしょ?さっきシズキは私も殺す価値はないって言った!私はその程度の存在だってことでしょ!」


ユーリアは持っているものを握りしめながら叫んでいた。自分がおかしいことを言っているのはわかっている。助けてくれた人にこんなことを言うなんて馬鹿だと思っている。


それでも自分を馬鹿にされて黙っていられるほどユーリアは寛容な人間ではなかった。


そんな自分を静希は何を言っているんだという表情で見つめている。自分の言っている言葉は伝わっているだろうが、自分が何を言いたいのかが伝わっていないという感じだった。


「こんなわけわかんないことに巻き込まれて・・・何でそんな事言われなきゃいけないのよ・・・!なんでこんな・・・!私は・・・!」


自分でも途中から何が言いたいのかわからなくなってきてしまっているのか、ユーリアは泣きながら何かを口にしようと声を出していた。


だが言葉にすればするほど何が言いたかったのか、何を静希に言いたかったのかが分からなくなり、そんな自分が情けなくて涙が出てきた。


ユーリアがそんな風になっているのを静希は黙って見つめていた。その静希の視線を向けられるのがつらくなってユーリアは少しでも静希から離れようとしてしまった。


次の瞬間、いきなり窓が割れユーリアの体を抱きしめるように羽交い絞めにするとその眉間に拳銃が添えられる。


外にいた人間がまだいたのか、それとも応援が来たのか、どちらにしろ静希から離れた一瞬を狙って行動してきた。


静希から離れるなと言われていたのにこの様だ。ユーリアは自分の行動がさらに情けなくなり、さらに自分に銃を突きつけられているという恐怖で涙が止まらなかった。


「ようやく捕まえた・・・動くなよ、こいつが殺されたくなかった」


口上をすべて言うよりも早く、その男がユーリアに突きつけていた拳銃を持つ腕が明後日の方向へとひしゃげていく。


まるで絞り切った雑巾のように皮膚が皺を作り、骨が折れ曲がりその腕をあっさりと潰してみせた


「だから言っただろ離れるなって・・・まったく・・・仕事が増えた。」


男の悲鳴が部屋の中に響く中、静希はユーリアを易々と救出した後で先程と同じように男の四肢を丁寧に一つずつ潰していく。男を部屋の外に投げ捨てるとため息を吐いた後で静希はユーリアと視線を合わせた。


「お前が何を勘違いしてるか知らないけど、俺が誰かを殺すっていうのはそうそうないことだ。自分の身の危険を感じた時、殺しておかないと自分の身が危ないってときだけだ。そう言う時だけ『殺す価値』がある。お前は俺の敵じゃないしお前を殺さないと自分の身が危ないってこともない。ただそれだけの事だ。」


「・・・じゃあ・・・私が・・・私を殺すことで・・・シズキが助かるなら・・・シズキは私を殺すの・・・?」


「・・・将来お前が俺の敵になったらそうするかもな。でもそれは今じゃない。少なくともお前を殺すつもりはない。俺は別に人殺しが好きってわけでもないからな。」


静希はそう言って立ち上がると時計を見て小さくため息をつく。


「あと三分だ。それまでに荷物をまとめておけ。あとちゃんと泣き止んでおけよ?」


「・・・わかった・・・」


静希からハンカチを渡されたユーリアはそれで自分の顔を拭きながら荷物の選定を再開していた。この人は自分に嘘を言っていない。それは自分に信用されるためなのか、それともそれ以外の言い方を知らないからなのか、不器用な言い方しかしない。


なんというかひねくれているなと思いながらユーリアは荷物をカバンの中にいれながら静希の方に視線を向けていた。


静希とユーリアは荷物をまとめ終わると早々に彼女の家を脱出しようとしていた。だが当然というべきか、家の周囲にはすでに何人か敵の応援が到着しつつある。この中を脱出するのはかなり難しいのではないか、ユーリにはそう思えてならなかった。


「やっぱりこうなったか・・・十・・・いや二十くらいはいそうだな・・・」


「どうするの?この状態じゃ・・・」


「さっさと逃げたほうがよさそうだな・・・仕方ない、一気に突破するぞ。」


窓から外の様子を見ている限り人数はかなり多い。当たり前だ彼らの目的であるユーリアがこの場にいるということがわかっているのだ。


しかも周囲には車などもある。この場から逃げるには先程と同じように車を奪取しなければ難しいかもしれない。


「突破って・・・どうやって?」


「文字通り正面突破だ。連中を全員潰してから離脱する。」


一体どうやって


その言葉を口にするよりも早くユーリアの体は静希に抱きかかえられる。


自分の疑問など解消するようなつもりは無しかと思っていると、静希は数秒動きを止めていた。


「もう長いこと戻ってこられないかもしれないから、目に焼き付けとけよ?」


「・・・うん・・・ありがと・・・」


静希にこの家に戻ってくるようなメリットはない。完全に自分の我儘で面倒なことをさせてしまったのだ。


なのに今この時でも自分に気を使ってくれている。その小さな気遣いがユーリアにはありがたかった。


「それじゃ行くぞ、舌かむなよ?」


「ん!」


ユーリアを口をつぐんで静希の体につかまると、静希は勢いよく窓から跳躍して見せた。


当然人間の跳躍力でそこまで遠くに逃げられるはずもない。静希は家の前に待機していた男たちのほぼ中心に着地していた。


正面突破と入ったがまさか中央から行くとは思っていなかっただけにユーリアはこの時点で涙目になってしまっていた。


やっぱりこの人についていくのは間違いなんじゃないか、そう思い始めていたのだ。


だが次の瞬間、それは杞憂であることに気付く。


静希が腕を振るい、彼の周囲に妙な紙のようなものが展開すると周囲にいた男たちが血を流して次々倒れていくのだ。


一体何が起きているのかはユーリアにもわからない。だがその場にいたほとんどの人員がほぼ一瞬で行動不能にさせられていた。


そして静希は近くの男がもっていた銃を手にすると、その場にあった車のタイヤをすべてパンクさせていった。


これで追跡することはできないだろうと静希は笑っているが、同時に自分たちの足になるようなものも全て失くしてしまったことになる。


これでいったいどうやって逃げるというのか。


走ってとりあえずその場から離れるのだが追手はすぐにやってくるだろう。現にこちらを見失わないように負傷していない数人が何やら連絡をしながらこちらを追ってきている。


静希はそんな人物の足を銃で軽く撃ち抜くと再び走り逃げていく。このままでは逃げられない、確実に追いつかれてしまう。周囲が暗く逃げやすい状況は整っているとはいえどうやってこの場から逃げるのか。


その答えは次の瞬間に現れた。


静希の懐の中から現れた銀色の毛を持つリス。最初どこかから迷い込んだのかと思っていたのだが、自分の頭の上に乗って何やら動作をすると静希の目の前の地面に跳躍する。


そしてユーリアは自分の目を疑った。先程までいた銀色のリスが巨大な獣に変化しているのだから。


「よし、それじゃあ行くか。」


「ま、待ってシズキ!これ何!?」


「なにって、うちのペットだ。名前はフィア、仲良くしてやってくれ。」


静希が特に気にした様子もなくフィアと紹介された巨大な獣の上にまたがると、ユーリアもその獣の上に乗せた。


まるで乗馬している気分だと思いながらその毛並みを軽く触ると、気持ちがいいのかその獣は喉を鳴らしていた。


「よし行くぞ!とりあえずこの場から離れる!」


静希の言葉に呼応するかのようにフィアは高速で移動を始めた。車にも劣らない速度で移動を始めるフィアに必死に掴まる中、ユーリアはそれを肌で感じていた。


最初に感じたのは風だ。自分の顔を、体を、まるで撫でるように吹き抜けていく風。


だがその風は徐々に強くなっていく。撫でるような優しさからまるで叩き付けるような強さへと変化していく。


それだけ自分が乗っているフィアが速度を上げているのだという事を理解することができた。


「し、シズキ!これからどうするの!?」


「とりあえず休める場所に行く。お前もそろそろ眠いだろうからな。俺の仲間がいくつかチェックポイントを作ってくれてるはずだ。まずはそこに行く。」


チェックポイント、そして静希の仲間。


一体どんな人たちなのだろうかと疑問を浮かべながらもユーリアは小さく家の方角を振り返っていた。


もう戻ることはできないのかもしれないと僅かに思いながら。


そして自分はこれからどうなるのだろうと一抹の不安を秘めながら。


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