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J/53  作者: 池金啓太
番外編「現に残る願いの欠片」

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日常から非日常へ

「おばあちゃん、行ってきます!」


「はいいってらっしゃい。車に気を付けてね。」


祖母と挨拶を済ませ、彼女は家を小走りで出発する。カバンを持ち硬い地面をかける中で何人かの少女を追い抜きその中の一人の横にたどり着く。


「あ、ユーリおはよう」


「おはよう、宿題やってきた?」


「うん、一応ね」


場所はロシア、都市部から少し離れたこの場所に彼女はいた。


名前はユーリア・コリント、歳は十二歳。同級生と話しながら学校に通う。


もうすぐ夏休み、自分たちが遊ぶためにいろいろな計画をしながら彼女は同級生と共に学校へと向かっていた。


「夏休み何する?」


「とりあえずプール!少しの間しか入れないもん、楽しまなきゃ」


ロシアの気候的問題からプールなどの水で遊ぶような場所は本当に少しの間しか利用できない。特に子供たちにとってそのわずかな時間は特別なものだった。


ロシアはこの世界の中でもかなり北にあり、一年を通して気温が低い。その為夏に行える遊びというのは本当に僅かな時期に限られるのだ。


それ故に彼女たちは夏の到来を楽しみにしていた。


「あとキャンプとかも行きたいよね。あとは・・・なんだろ」


「なんだっていいよ、いろいろ遊べるでしょ。時間なんていくらでもあるんだし。」


彼女は教室に入りながら残り僅かになった学校の日程を指折り数えるように夏休みの日程を立てていく。


最優先はプールで遊ぶこと、次点としてキャンプなどなど、できることもできないこともとりあえず計画を立てるだけなら自由であると言わんばかりに携帯のカレンダーに予定を書き込んでいた。


そして授業が始まる中、彼女はあることに気付く。


使っていた消しゴムがあとわずかになっているのだ。


昨日買おうと思って買ってくるのをすっかりと忘れていたのである。


「ごめん、消しゴム貸してくれない?」


「いいぞ、返せよ?」


「わかってるって」


しまったと思いながら彼女は隣の席の男子に消しゴムを一つ借りるとノートの文字を消し始める。


そして消しゴムを持つ手とは反対の手に、意識を集中し始める。


そこには先程までは何もなかった。何も握られていないはずだった。


だが彼女が手を開くとそこには男子生徒から借りた消しゴムが存在した。


男子生徒から借りた消しゴムは両手に一つずつ存在する。まるで複製されたかのような現象に彼女は全く驚くことはなく借りた消しゴムを男子生徒に返して見せた。


そう、彼女は能力者である。


だがこの学校はただの学校だ、能力者が通うべき学校ではない。


彼女は自身が能力者であることを隠して学校に通っていた。


彼女の能力は言ってしまえば『複製』


自分が触れているものを作り出すことができる能力だった。


だが作り出したものはユーリアの手から離れれば時間が経過すると消えてしまう。


別に身体能力が高くなるわけでも炎が出せるわけでもなく、特に利用法などないような能力だと彼女は考えていた。


能力を隠しているのは彼女の家庭の事情が大きかった。


彼女の両親は能力者を嫌っているのだ。


彼女が初めて能力を発現し、自分は他人にはできないことができるとわかった時、彼女はまず両親にそのことを自慢しに行った。


だがその時両親は喜ばなかった。何度も何度も見せてそれが能力であるとはっきりとわかると、両親は悲しんでいたのを覚えている。


何故悲しいと感じていたのかその時はわからなかった。だがその日以来彼女は能力を人前で使う事を避けていた。


両親が能力者を嫌っていると知ったのは自分が七歳の頃、祖父母から聞いたのが初めてだった。


理由は祖父母も知らないようだが、ユーリアの両親は能力者が嫌いなのだという。


嫌いなものには必ず理由があるが、祖父母もその理由については知らないようだった。


一緒に住んでいる祖父母でさえ彼女の能力の事は知らない。


両親が海外で仕事をしているため、一緒に暮している祖父母は自分のことをとても可愛がってくれる。


だから文句はない、いやむしろ感謝している。自分も祖父母が大好きだと心の底から言える。


だがたまには、たまにでいいから両親の顔を見たいなと思ってしまう。


祖父母の家にある家族の写真、最期に撮ったのは自分が五歳の時のものだった。


もう七年近く両親に会っていない。時折電話で連絡は来るがまったく顔を合わせていないのだ。


そんな両親を祖父母は咎めていたが、仕事が忙しいのではしょうがないとも思っていたし、別に両親を恨むという感情はなかった。


大人の事情というものに子供が関わる必要はない。何か事情があるのだ。それなら自分はもう少し大人になったら自分から会いに行けばいいだけの話である。


そう思いながら彼女は今日もただの無能力者として過ごしていく。









「じゃーねユーリ、また明日!」


「うん、じゃーね!」


学校が終わるとユーリアは走って自分の家へと戻っていた。結局今日一日複製した消しゴムで粘ってしまった。今日こそ買いに行かなければいけない。


夏になったとはいえもう日が傾きつつある。急がないと祖父母から外出の許可が出ないかもしれないのだ


「ただいま!おばあちゃん!消しゴム買いに行ってくる!」


「あらあら・・・そんなに急がなくてもいいんじゃないの?」


「もう夕方だから早く行かないと暗くなっちゃうよ!行ってきます!」


まるで突風のように帰ってはまた外出するユーリアを見て彼女の祖母はまったくもうと微笑みながら彼女が放り投げたカバンを彼女の部屋へと運んでいく。


そんな中家の電話が鳴り響いた。


家に電話がかかっている頃、ユーリアは自転車に乗って走っていた。近くにある文房具の売っている店までは自転車で十五分ほど、急ぐほどではないが早く行ったほうが暗くならずに済む。


そして何よりついでに本屋に行っていろいろと見たいものがあるのだ。


今度発売する小説の発売日をチェックするのに加え、同級生が話していた小説を見てみたかったのだ。


時間が足りない。ユーリアはそう思いながら自転車を全力で走らせていた。

文房具を売っている店にたどり着くとユーリアはすぐに消しゴムを購入しそのまま本屋へと走っていく。


物語にうるさい同級生が勧めてきた本だ、きっと面白いに違いない。


そう思いながら本屋へと駆けこむと、ユーリアは駆け足でその本を捜索し始めた。


作者の名前は何だったか、物語の名前は何だったか。


記憶を頼りに本を探しているといつの間にか時間は過ぎてしまい、あたりは徐々に暗くなり始めていた。


ようやく本を見つけ購入する頃には、あたりはオレンジ色に染まりすっかり日も暮れはじめていた。


急がなければ祖父母に怒られてしまう。そう思って自転車の置いた場所にやってくるのだがそこに自分の自転車は置いていなかった。


鍵もかけたのに一体どこに。


まさか盗まれたのだろうかと周囲を確認する。自分が乗れるような小さな自転車を盗むような人間が一体どこにいるだろうか。


だが現にこうして自分の自転車は無くなってしまっている。盗まれたと考えるのが自然である。


祖父母に買ってもらえた自転車だったというのに盗まれたとあっては顔向けができない。何とか犯人を捜さなくてはと彼女は近くを捜索し始める。


もしかしたら自分が置き場所を間違えたのではないか、どこかに倒れているのではないかと思いあたりを探し続けているとユーリアはそれを見つけた。


自分の自転車に乗って走り去ろうとしている何者かの姿。


明らかにサイズの違う自転車にまたがってふらふらしながら逃げようとしているその姿を見てユーリアは怒りを覚えながら走って追いかけた。


「待てぇぇ!それは私の自転車だ!泥棒!」


ユーリアが追ってきていることに気付いたのか、自転車に乗っている人物は人気のない方へと移動し続けていた。


周囲に人はいない、ここで見失えば自転車を奪われてしまう。


ユーリアは必死に追い縋ろうと全力で走っていた。


相手も自分の自転車のサイズがあっていないのかそこまで速度を出せずにいた。


捕まえられる


ユーリアはそう確信し、何とかその人物を掴もうと手を伸ばす。


もう少しで手が届く、あともう少し。


そしてその服を掴んだと思ったその瞬間、目の前にいたはずの人物と自分の自転車は消えてしまった。


比喩や何らかの表現ではなく、本当に唐突に目の前から消えてしまったのだ。


具体的に言えば、触れた瞬間、まるで実体がないかのように霧散して消えてしまったのだ。


自分が追っていた人物も、そしてその人物が乗っていた自分の自転車も。


一体何がどうなっているのか、ユーリアは理解できなかった。


普通ではありえないこの現状が能力によって引き寄せられているのだと理解するのに、彼女は少し時間がかかった。


全力疾走して息が整わない中でなぜこのようなことをしたのか考え始める。

だが思いつかない、何でこんなことをしたのか。


今のは囮だったのだろうか、だとしたら自分の自転車は今どこに。


もしかしたらもうすでに遠くに逃げられているのかもしれない。


そう思った瞬間、ユーリアの目に涙が浮かんでいた。


盗まれてしまったのだろうか、自分の自転車を。


祖父母にどんな顔をすればいいのか、どういえばいいのかと困ってしまい、同時に悲しくなってしまっていた。


怒られるだろうか、それともがっかりされるだろうか。


祖父母に迷惑はかけたくない、だがどうすればいいのかユーリアはわからなくなってしまっていた。


今にも泣きそうになっていると、誰かがこちらに近づいてくるのがその足音でわかった。


自分が叫びながら追っていたから誰か大人が来たのだろうかと思っていると、そこには作業服のようなものを着た男性が数人立っていた


自分を見ながらこちらに歩いてきている男性たちは、まるで自分を囲うかのように広がって近づいてきていた。


ユーリアは混乱する頭をすぐに整えながら今の状況を説明しなければと思っていた。


説明すればもしかしたら協力してくれるかもしれない、そう思って涙を拭って口を開こうとした瞬間、ユーリアは寒気がした。


何か理由があったわけではない。別に何か危ないものが見えたわけではない。だがユーリアの中の何かが告げていた。


この場から離れろと、今すぐ走って逃げろと。


先程までこの場に駆けつけてくれた男性が頼もしく見えていたのに、今は非常に恐ろしく感じてしまっていた。


その男性の一人が懐に手に入れ、何やら紙のようなものと自分を見比べているのがわかる。


一体何を見ているのかわからないが、その男性はその次にこういった。


「間違いない、この子だ。」


一体何が間違いないのか、一体何がこの子なのか。


ユーリアはその言葉の意味の半分も理解できなかったがすぐにこの場から離れなければならないという事だけは理解した。


男性たちがこちらに一歩踏み出すと同時にユーリアは走って逃げ出していた。


自転車を取り返すためなら大人を頼ったほうがいい、そんなことはわかっている。


だがあの大人は怖い、そう思ったのだ。


もしかしたらただ単に自分を心配してきてくれた人かもしれないが、ユーリアの中の何かは警鐘を鳴らし続けている。


危険だ、逃げろ、離れろ


頭の中で響く警鐘が正しいと知らしめるかのように、先程の男性たちがこちらを追ってきているのがわかった。


自分を狙っている。


何が理由かは知らない、どういう理由があって自分を狙うのかは知らない。だが今自分は今狙われている。自分は今追われている。


どうにかしなければ、逃げなければ。


そう頭の中で理解していても今自分がどこにいるのかさえ曖昧になってしまっていた。


全力疾走を続けていたせいか脳に酸素が行き届いていないのがわかる。頭を動かそうとしているのにボーっとしてまともに思考ができない。


周りの景色は見えているはずなのに、それが一体どこなのかを認識することができなかった。


いつも見慣れている風景のはずなのに、今自分のいる場所が全く知らない異世界のような印象を受けてしまう。


恐怖と酸欠が彼女から正常な思考を奪い始めている中、彼女はそれを見た。


自分が乗るには少し大きい、自分の進行方向に並走するような形で走っている自転車だ。


あれを使うしかない。


彼女はどうしようもなくなりその自転車の横につくと片手でその自転車に触れ、もう片方の手で自転車を複製していく。


数秒で作り上げられた自転車は完成すると同時に重さを持ち地面に落ちる。


自転車に乗っていた女性は驚いていたがユーリアはそんなことを気にも留めずに自転車にまたがって逃げ始める。


後はどれくらいだろうか、まだ自分を追ってきているのだろうか。


自転車に乗って全力で走っているというのに未だ強迫観念が収まらない。自分の体の奥にある警鐘がなり続けている。


後ろを振り返ると自分の後ろから黒い車が追ってきていた。


ただの車なら特に気にするまでもなく避けるのだが、その車の中には先程自分の前に現れた作業着の男たちが乗っていた。


自分を追っている、まだ追っている。


どうすれば逃げられるか、どこに逃げればいいのか。


自転車と車なら車の方が早い。そんなのは子供である自分でも理解できることだ。


ならどこに逃げればいいのか、そう考えた時に思いついたのは建物の隙間だった。


あそこなら人や自転車は通れるが車は通ることはできない。


ユーリアはすぐにその路地へと逃げ込み自転車を走らせるが、これも時間稼ぎでしかない。本当の意味で逃げるにはどこか建物に逃げ込まなければ。


一番いいのはどこかの店だ。店員に警察を呼んでもらうのが一番手っ取り早い。だが逃げている間に自分がどこにいるのかさえ定かではなくなっている。


今自分がいる場所の一番近い店はどこだろうかと少しでも落ち着こうと深呼吸しながら自転車を走らせるが、焦れば焦るほど自分が今どこにいてどこに行こうとしているのかわからなくなってくる。


路地を抜けて大通りに出るのだが、今自分がどこにいるのか更にわからなくなってしまっていた。


もしかしたら走りすぎて本当に見たこともないような場所にやってきてしまったのかもしれないと思いながらもユーリアは自転車を走らせる。


とにかくどこかの店に入らなくては、どこかに逃げなくては。


夕暮れとなり徐々に暗くなっていく中でユーリアはある店を見つけた。


それは雑貨屋のようだった。文房具だけではなく他にもいくつもの物を取り扱っているようだ。


幸いにして店は開いている。店員がすぐに気づいてくれるかどうかはわからないが今すぐに逃げなければ自分の身が危ないのだ。


だが今店は何でもいい、すぐに助けを呼ばなくてはならない。ユーリアは乗ってきた自転車を乗り捨てて店の中に駆けこんだ。


いきなり駈け込んで来たユーリアに店の中にいた人間は驚いた様子でユーリアの方を眺めていた。


だがそれも一瞬ですぐに興味なさそうに自分の買い物を続けるものがほとんどだ。


そんな中でユーリアはとにかく急いで店員の下に駆け寄った。


とにかく警察を呼んでもらわなければならない。自分が変質者に追われているという事を説明すれば保護くらいはしてくれるはずだ。


「あ・・・あの・・・たす・・・たすけ・・・!」


近くの店員に縋り付いて何とか言葉を出そうとするのだが、今まで全力で動き続けたせいか息が上がってしまってまともに言葉を話すこともできなくなってしまっていた。


だが店員もユーリアの表情から何やらただ事ではないという事を感じ取ったのか、屈んでユーリアと視線の高さを合わせる。


「どうしたのかな?お母さんとはぐれたのかな?」


「ち・・・ちが・・・へ・・・変な・・・男の人が・・・!」


そこまで言おうとした瞬間、後方から何かが割れるような、いや砕けるような音と共に強い衝撃が店内に響き渡る。


一体なんだと店の中にいた全員が音の方角を振り返るとそこには車が一台突っ込んできていた。


先程ユーリアを追っていた黒い車だった。店の中に入ってくるためなら車を下りればいい、わざわざ来るまで突撃してくるような必要はない。


あのように車を突撃させたのは、入り口をふさぐため、そして自分を追い込むためだとユーリアは即座に理解していた。


周囲の客が悲鳴を上げる中、ユーリアは逃げなければという強迫観念に憑りつかれていた。なにせ車から銃を持った男たちが降りて来たからである。


このままでは自分は標的にされる。表の入り口はすでに塞がれてしまった。ならどこから逃げればいいのか。


ユーリアの視界には一つの扉が見えていた。それは業務用の搬送口でもあり、店員専用の出入り口だ。


ユーリアはすぐに店員から離れその扉へと全力で走る。


荷物などの搬送口という事もあって鍵はかけられていなかった。子供のユーリアでも容易に開けることができ、その奥へ、何とか店外へ出ようと走る。


途中店員とすれ違うがそんなことを気にしているような余裕はもはや彼女にはなかった。


店の裏口から店外へと飛び出すと、それを待ち構えていたかのように複数の男性がこちらに向けて走ってくる。


恐らくは表と裏から同時に扉を塞ぐつもりだったのだろう、ユーリアの反応が思ったより早く間に合わなかったようだが、それでも十分すぎた。


子供と大人が競争してどちらが早いかなんて簡単な問題だ。しかもユーリアは全力疾走を何度も続けている、そう遠くへはもう逃げられない。


店の裏側、恐らく駐車場だろうか、そこにあった壁に追い込まれたユーリアは息も絶え絶えになって座り込んでしまう


この壁は越えられるような高さではない。もう逃げることができない。

近くには複製できるような車もない、これでは逃げようがない。


自分に近づいてきている男たちもそのことを理解しているのだ、銃も持たずに僅かに笑みを浮かべながらこちらに少しずつ近づいてきている。


逃げ場をなくすように、囲みながらこちらにやってきている。


もうだめだ、逃げられない。


酸欠気味の頭で何とかならないかと考えているが、いい考えが浮かばない。

悲鳴をあげようにも恐怖のせいで声を出すことすら難しい状況だった。


自分はどうなってしまうのだろうか、誘拐されるのだろうか、それともこの場で殺されてしまうのだろうか。


ユーリアの目に涙が浮かび、少しでも男たちから逃げようと後ずさるが後ろにある壁がそれを許してくれなかった。


誰か助けて


ユーリアは心の底からそう願った。周囲には誰もいない、一体誰が自分を助けてくれるだろうか。


相手は銃も持っているのだ、こんな状況で誰かが助けてくれるとは思えなかった。


目を瞑り一種の覚悟を固めようとしていると自分の前から何か風のようなものが感じられた。


それと同時に、数人の男の悲鳴のようなものが上がる。


何が起きた?


それを確かめようとユーリアが目を開けると、そこには一人の人物が立っていた。


自分に背を向けるようにして立っているためにその詳細ははっきりとは分からない。だが男たちの悲鳴は確かにユーリアの耳には届いていた。


その証拠に目の前にいる人物の向こう側には、倒れて血を流している男たちの姿がある。一体何をしたのか、何がどうなっているのか、ユーリアは酸欠になりかけている頭を必死に動かしていた。


周囲の安全を確認したのか、目の前の人物は片膝をつき、自分に手を差し伸べて来た。


その人物は仮面を身に着けていて顔を見ることができない。ただ鋭く黒い髪が印象的だった。


助けてくれたのだろうか。この人は一体誰だろうか。


そんな疑問を置いて、ユーリアは恐る恐るその人物の手を取った。


「・・・あ・・・あの・・・」


「話は後だ、今はこの場を離れるぞ。」


声は男性のものだ。そしてその言葉は少なくともユーリアの知らない言語に聞こえた。だがユーリアは彼が言っている言葉が理解できた。


一体どういう事だろうかと疑問を浮かべるよりも早く、自分が走ってきた方角から数人の銃を持った男たちがやってくるのが見えた。


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