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J/53  作者: 池金啓太
三十三話「世界の変転 後編」

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転々と変化する戦況

鏡花がエドに対して放たれる電撃を防ぎ続けている中、明利はその影に気付いていた


それは最初ただの奇形種だと思ったのだ、それこそ偵察できた奇形種だと思っていた、その姿を確認しようと意識を集中して今まで敷いた索敵網を活用していくと自分たちの後方にかなりの数の奇形種の群れが確認できたのである


「こ、後方から奇形種!数不明!」


明利の声に大野と小岩、そして数人の護衛に緊張が走る


集中状態に入っている鏡花も顔をしかめていた


後方という事は自分たちが通ってきた道だ、まだエドたちの向こう側から奇形種たちが湧いてくるならわかるが、自分たちの後方から現れるということに鏡花は疑問を感じていた


なにせ今まで遭遇した奇形種たちのほとんどは殲滅してきたのだ、それこそ一匹残らず倒してきたのだ


なのにいつの間にか回り込まれて後方にやってくる、そんなことをわざわざするだろうか


自分たちの隠れていない向こう側からやってくるのが自然だ、相手の陣は北側にある、それに対して奇形種たちが向かってきたのは南側からだ


つまり自分たちがやってきた方から奇形種がやってきていることになる


奇形種の動きが明らかに不自然だ、これだけの動きをしていながら他の部隊と接触していないのもそうだがそれまで誰も気づかずにあらわれたという事自体がおかしい


先程戦車隊の方に奇形種の大群が押し寄せたというのもそうだったが、まるで湧いて出てくるかのような行動の仕方なのだ


そこまで考えて鏡花はその可能性に気付く、静希や城島も気づいたその可能性に


そしてなぜ今まで気付かなかったのかと舌打ちをする


恐らく相手の中に奇形種を大量に転移あるいは収納できる能力者がいたのだろう、自分たちが北上している間はキーロフの街などに潜伏し北上し終わったら戦車部隊の近くまで移動して奇形種を解き放つ


そして解き放ったあと部隊の背後を突くために一人で北上、戦闘を行っているエド達を確認して自分たちの近くに奇形種を放ったのだ


全く厄介なことをしてくれる、相手の奇形種の動きをもう少し考えておくべきだった、エドの防御に集中している状態ではまともなフォローなどできそうもない


「大野さん小岩さん!お願いですから足止めと明利を頼みますよ!もし明利に怪我一つでもしたら静希に殺されますよ!」


「うっわぁ・・・それはおっかないな・・・!さすがに頑張らないとまずいかもね・・・!」


「でも相当な数よ?いつまで持つか・・・」


周囲は木々に囲まれているとはいえほぼ平地だ、木を隠れ蓑にしようと相手の攻撃が襲い掛かってきたら数秒も持たないだろう


それを理解している鏡花はエドの防御に集中しながら自分たちのいる場所に塹壕を作り始める


塹壕と言っても自分たちがいる場所の地面を使って南側の土を盛り上げただけだ、いつも鏡花が作るような強固な盾や壁とは比べ物にならない


それほどまでに鏡花の処理能力は落ちているのだ


「これで少しでもいいから時間を稼いでください!あと砲撃支援要請!」


鏡花の言葉を小岩が翻訳して近くの部隊に伝えるとすぐに砲撃支援をしてもらえるように通信を開始していた


城島達が戦車隊の方の護衛についているのであれば、まず間違いなく戦車隊は無事なはずだ、それならこちらに少しでも砲撃をして籠城の構えをとったほうがいい


砲撃支援が受けられるのであれば確実に奇形種の数は減らせる、持久戦でも何でもいいからとにかくエドモンドの戦いの邪魔をしないようにしなくてはならない


だがこの土でできた塹壕だけでどれだけ持つかは正直保証できなかった


せめて数秒でいいから工作につぎ込めればいいのだろうが、一秒たりとも気を抜けないような状態が続いている


相手を追い詰めるのに比例して相手からの攻撃も激しくなっているのだ


奇襲するなら絶好のタイミングという事である


もっとも鏡花たちにとっては最悪のタイミングなのだが


「奇形種接近してきています・・・距離・・・およそ二百メートル!」


二百メートル、少し精度の良い能力であればすでに射程内に入っているだろう、いや鏡花の耳にはエドたちの戦闘以外の炸裂音のようなものが聞こえていた


恐らく背後に存在する木々を破壊しながらこちらに接近してきているのだろう


森林地帯などではゲリラ戦などで不意打ちが可能だが、相手にとってそれは不利につながる、平地においては数が多い方が有利なのだ


その為この辺り一帯に存在する木々を排除して平地に変えてから攻略するつもりなのだ


こちらが悪魔の戦闘を行っているという事を理解しているからなのか、それともそのことを把握していないのか


「やっばいなぁ・・・これ俺ら死ぬんじゃないか・・・?」


「冗談でもそういうこと言わないで・・・できることはするわよ」


最低でも盾になるくらいはしなきゃと小岩は明利を自分の後ろに下がらせると、塹壕の近くまで歩み寄り銃を構える


それぞれが所有している火器でどれくらい持ちこたえられるか、それぞれの能力があったとしても大群相手にどれくらい持ちこたえられるか、正直小岩もあまり持たせるだけの自信はなかった


木々をなぎ倒す衝撃音が徐々に近づいてきている、少しずつ自分たちの下へと能力が届きつつあるのだ


視界内にその能力を確認し、攻撃が飛んでくると確信した瞬間、塹壕の向こう側に三枚の障壁が顕現し能力から鏡花たちを守っていた


その障壁は今までも何度も見た、静希の守り神である邪薙のものだった


邪薙の障壁が発動する中、鏡花は己が目を疑っていた


てっきり邪薙は静希と共に行動していると思ったのだ、これだけ危険な状況なのだから邪薙を自分の守りに付けているだろうと思っていたのだ


だが障壁が発動した瞬間、鏡花は明利の方を見る、そして今さらながら気づけた、彼女の背中に静希のトランプが一枚貼り付けられていることに


あの時、静希が前衛に飛び出す瞬間、確かに静希は明利の背に軽く触れていた


あれは激励のような行動だと思っていたのだ、だが違った、あの時静希はすでに明利に邪薙を付けていたのだ


万が一にも明利達が傷つくことがないように、自分の持つ最高の守りを彼女たちに付けたのだ


エドと共にいるという事から防御面に不安があるというのは確かに十分に理解できることだ、だがそれで自分の防御を預けるなど正気の沙汰ではない


「・・・あのバカ・・・!」


今この場に静希がいたのなら思い切りその顔をぶん殴ってやりたい気持ちに駆られるが、この状況においては静希の対応は非常に助かるものになっていた


無数の奇形種が放つ攻撃を邪薙が作り出した障壁がすべて受け止めているのだ


次々と障壁に止められている能力の数々、恐らく鏡花が作った塹壕だけでは一分も持たなかったかもしれない


さすがは神格の能力というべきだろうか、数が多いとはいえ奇形種の能力くらいは軽く受け止めて見せていた


「鏡花ちゃん・・・これ・・・!」


「そうよあのバカ、自分の守りをこっちに預けたんだわ・・・!あとで説教してやる!」


明利もこの障壁が邪薙のものであると気づいているのだろう、そして明利と鏡花の反応から大野と小岩は大まかな状況を掴んでいた


少しでも相手の奇形種を減らすことができるようにとにかく砲撃支援に加え障壁の端から射撃をし続けている


奇形種の攻撃を防いでいる中、障壁の向こう側から轟音が鳴り響く、恐らく戦車隊の砲撃支援が始まったのだろう


これで少しは楽になるかもしれないと思ったのだが相変わらず奇形種からの攻撃は激しい


やはり砲撃支援だけでは奇形種をすべて倒すことはできそうになかった


ある程度相手を崩すことはできるかもしれないが数が多すぎる、こちら側からもしっかりとした制圧射撃を行わなければ相手を完全に無力化するにはかなり時間がかかる


だがこちらにある戦力は限られている、攻撃できる人間は数人だけ、防御に関しては邪薙の障壁が頼りなのだ


だがいくら奇形種の攻撃とはいえその攻撃を受け止め続ければいつまでこの障壁がもつかもわかったものではない


その証拠に邪薙の障壁の一部に亀裂が入りつつある


既に数分間奇形種の攻撃を受け止め続けているのだ、完全に壊れることはないとはいえガタがきている、少しずつその耐久力が削られつつある


明利はボウガンの曲射で、大野と小岩、そして他の部隊員は障壁の外側から銃や能力での射撃で応戦しているものの、圧倒的に数が違いすぎる


砲撃支援が届いて奇形種の群れに直撃してきてはいるが、一撃で壊滅的な被害を与えることはできていない


こちらの方が支援もある、そして技術もある、だが圧倒的に数が違いすぎる


せめてエドとヴァラファールが一瞬でもいいからこちらに援護射撃をしてくれればいいのだが、そんなことをしていられるほどあちらも悠長な状況ではない


「これ・・・さすがにやばくないかい?だんだんヒビ入ってるよ?」


「長くは持ちそうにないわね・・・少しでも数を減らすわよ!」


エド達にも被害を出さないために三枚の障壁を横に並べて顕現したことが仇になったか、一枚一枚に徐々にではあるがひびが入りその耐久力が限界に近付いていることが目に見えてわかる


もしこれで守る対象が鏡花たちだけなら三枚の障壁を重ねて顕現させたのだろうが、鏡花たちの向こうには悪魔と戦っているエドとヴァラファールがいる


守り神として鏡花たちは守らなければならない、だが状況を好転させるにはエドがあの悪魔を倒さなければならない


どちらもこなすためにはこうするほかなかったのである


もう少し自分に力があればと邪薙はトランプの中で歯噛みしていた


「・・・仕方ないか・・・明利、あんただけでも守るわ」


「え?で、でもどうするの?」


「あんたを埋める」


埋めるという言葉を聞くと生首状態をイメージしてしまうのだが、相手の奇形種が地面の下への攻撃手段を有していないのであれば地下が最も安全だ


エドを守らなければいけない以上鏡花はこの場からは離れられない、そしてそれはカレンも同様だ


この場で離れることができるのは明利だけ、そして明利を守ることができるのは自分だけだ


「ダメだよ!それじゃ鏡花ちゃんたちはどうするの!?」


「どっちにしろ私はこの場から離れられないしね・・・それならあんただけでも無事にいられるようにしなきゃ・・・背中のトランプは預かっておくわよ」


邪薙の入ったトランプを手に取ると鏡花は意識を集中し始める


エドの防御と並行して明利を埋めるというのは容易ではない、だがやらなければ明利がこの中で一番危険なのだ


鏡花がある種の覚悟を決めている中、唐突にその周りで強烈な風が巻き起こりつつあった


鏡花がそれに気づくと同時に、奇形種の方を索敵していた明利も、そして攻撃を続けていた大野や小岩、部隊の人間もそれに気づいた


自分達から見て南方、奇形種の大群がいる地点に竜巻が生じているのだ


ところどころ残った木々をなぎ倒し、地上にいる奇形種たちを巻き上げながらその場所をうろうろと動き続けている


明らかにただの竜巻ではない、通常竜巻が一つの場所に留まり続けるなど、さらに言えば奇形種のいる場所にピンポイントで発生するなど偶然ではありえない


ならば一体何が起こっているのか


その場所の中で鏡花だけがその可能性に気付いていた


そしてその姿を目にしたことで鏡花はそれを確信した


あの時自分たちに牙をむいたあの悪魔、自分と契約しろなどと言ってきたあの悪魔


なぎ倒された木々の上、竜巻のすぐ横にそれはいた


風を操る悪魔ウェパル


自分達が乗っていた輸送機を墜落させた張本人であり、静希によってその心臓への細工を解かれた悪魔


本来敵の戦力の一角である彼女がどうして自分たちの味方をしているのか、鏡花はその真意を図りかねていた


なにせ彼女の協力は自分たちをキーロフに運ぶまでだったはず、その後は好きにしろと静希から言われていたはずだ、事実自分たちがゲートから飛び出した後その姿を確認することはできなかった


なぜあのような場所にいるのか、何故自分たちを助けるような真似をしたのか


だがこの状況、鏡花にとっては大声を上げて喜びたいほどにありがたい状況だった


「・・・あいつ・・・何であんなところにいるんだか・・・!」


鏡花の視線に気づくとウェパルは薄く笑みを浮かべて見せる、その笑みは遠すぎて鏡花には認識できなかったがきっと今あの悪魔は笑っているのだろうと理解できた


自分に借りを作った、少しでも好印象を与えるつもりだろうか、それともただ単に鏡花に力を貸してやりたかっただけか


どちらにしてもありがたいことに変わりはない、竜巻が発生したおかげであの場にいた奇形種のほとんどが巻き上げられ攻撃が一旦途切れていた


「邪薙、障壁を張り替えなさい、今のうちにしっかり防御態勢を整えるのよ」


トランプの中にいるであろう邪薙に話しかけようとトランプに向けてそう告げると、邪薙もそれを理解したのか一度障壁を消滅させ、再び新しい障壁を作り出した


これで万一攻撃がこちらに届くことがあっても自分たちの身は守られる


奇形種のほとんどが上空に巻き上げられているがそのうちの何体かは能力を使って助かる可能性が高い、だがほとんどがやられてくれるのであればこちらとしては大助かりである


「鏡花ちゃん・・・あれって・・・」


「今は気にしなくていいわ、気まぐれなんだか恩着せがましいんだか知らないけど助かってることに変わりはないもの、このまま防御を続けるわ、警戒怠らないで」


いくらウェパルが思わぬ形で援護してくれているとはいえそれがいつまで続くかはわからないのだ


ただの気まぐれで加勢してくれているかもしれないし、心臓への細工を外してくれた静希への少しばかりの恩返しかもしれないし、鏡花と契約するために少しでも印象を良くしておきたいというだけなのかもしれない


いついなくなってもおかしくない戦力に頼るわけにはいかない、限りなく早く、なおかつ限りなく効率よく次の段階に進まなくてはならないだろう


その為には早くエドとヴァラファールにフルフルを打倒してもらわなければならない


エドたちの方に注意を向けると相手の攻撃が徐々にではあるが少なくなりつつある、どうやらかなり相手を消耗させることができているらしい、ここまで延々と攻撃を当て続けたのだから無理もない話である


「カレンさん、どうですか?相手の耐久力」


「だいぶ落ちているようだな・・・恐らくあと数分もかからずに倒せるだろう・・・ここまで随分と長かったが・・・」


カレンは後方を気にしながらもエドが攻撃を受けないようにポイントを指示し続けている、一度もミスせずに場所を的確に指示できるのはカレンだからこそと言えるだろう


未来予知を確認してからその場所を指示するその的確さはさすがエルフ、いやさすがは悪魔の契約者というべきだろうか


竜巻がやむと竜巻があった場所にいた奇形種たちが数分かけて落下してきている


周囲の木々をなぎ倒しながら進攻してきたためかクッション代わりになる木々もなく、無残にも地面に叩き付けられるものがほとんどだが、中には能力を使って一命をとりとめるものもいた


だがその数限られた奇形種たちを大野や小岩たちが銃撃によって絶命させていく


すでに相手の数による有利は無くなった、防御面においてこちらが有利に立っている今奇形種が瓦解するのも時間の問題だった


そしてエドの戦いももうすぐ終わろうとしている、鏡花が徹底した防御態勢を敷いている今、目の前にいる悪魔は敵ではないのだ


「キョウカ、この後どう動くのか決めておいてくれ、この場の指揮は君に任せる」


「わかりました・・・とりあえずあの悪魔を倒してから移動を開始します・・・たぶんもう静希が次の手を打ってるでしょうから」


先程上空を見上げた時に気付いた、自分たちの上空に何かが飛んでいるのだ

竜巻を避ける形で急速旋回したそれを鏡花の目は捉えていたのである


それは本来とんでいるはずのない飛行機のようなものだった


一瞬鳥か何かと思えるほど遠くに見えたそれが無人機の偵察機であると気づくのに時間はかからなかった


自分達が戦闘開始すると同時に静希が指示を出したのだろう、状況は一気に変わり始めているという事である












「なに?竜巻?」


「はい、ミスターパークスたちが戦闘している場所からやや南方に小規模な竜巻が発生したとの報告が・・・ミスターパークスたちは無事のようですが・・・その場所には奇形種がいたらしく明らかに不自然だろうと・・・」


静希は部隊の人間からの報告を受けながら上空に意識を向けていた


鏡花たちのいる場所から南方に奇形種が発生したという報告は聞いていた、最悪自分が飛んでいこうと思っていたのだが、どうやらその必要は無くなったらしい


奇形種のいた場所に竜巻が発生するなどというピンポイントな偶然があるはずもない、何者かが作為的に起こしたと考えるのが自然だ


となれば一体誰が


そこまで考えた時自分が出会った一人の悪魔を思い出す


鏡花のことをいたく気に入っていたあの悪魔ウェパル、もしかしたらあの悪魔が何らかの気まぐれを起こしたのかもしれない


どちらにしろ彼女たちが無事であるなら問題はない


「無人機は?この場所までたどり着いてるか?」


「はい、すでに竜巻は消滅しているようです、一応大きく迂回してこちらに向かっているとのことです・・・どうやら今なら航空機による支援を受けられそうですね・・・」


鏡花たちが相手にしている悪魔が航空支援を行おうとした無人機を撃ち落したもので間違いはないらしい


今こうして無人機が索敵代わりとして飛行しているのに攻撃がやってこないという事はつまりそう言う事だ


これならうまくいけば空からの支援も受けられるようになるだろう


「空爆はどうだ?まだロシア側としては渋ってるのか?」


「さすがにこの一帯に空爆というのは・・・ですがピンポイントの射撃であれば問題はないかと・・・一応申請を出しておきます」


ピンポイントの射撃とはつまり航空機などに搭載した機関銃などを一斉掃射して行う航空支援だ


爆撃のような周囲への効果は見込めないが固まっている敵などには十分すぎるほど効果を発揮する


それに一発一発の威力が高いために掠るだけでもその体が吹き飛ぶだろう、地面が荒れ放題になるかもしれないがその程度の被害は必要経費だ


「他の部隊の状況はわかるか?戦車部隊とミスターパークスの状況が知りたい」


「戦車部隊に関しては日本の部隊の協力のおかげでほぼ損傷なし、現在も砲撃支援を続行しています、ミスターパークスの付近にいた奇形種もすでに壊滅、悪魔との戦闘に集中しているようです、報告によると優勢であるとのこと」


エドに加えてカレンと鏡花も加わっているのだ、悪魔が単騎でその場にいるのであれば優勢になってもらわなければ困る


その為に鏡花をエドと行動を共にさせたのだ


陽太に関しても聞いておきたいところだが、陽太の近くにいるのは町崎の部隊の人間だ、ロシアの部隊の人間はいないために状況を確認することはまずできないと考えていいだろう


陽太がどのような戦いをしているのかはわからない、だが負けるようなことはないと信じたい


少なくとも現状でもアモンが動いていないという事は足止め自体はうまくいっているという事でもある


「うちのチームメイトは・・・炎を操る悪魔がどうなっているかわかるか?」


「詳細は不明ですが・・・無人機からの報告によると確認された場所に強い熱反応があるという事がわかっています・・・それ以外は・・・」


さすがに直上に無人機を飛ばすことは避けたのだろう、まだ交戦が続いているということがわかっただけでも重畳というものである


状況はおおよそ静希が望んだとおりになりつつある


もっとも南部から奇形種の部隊が進行してきたのは正直予想外だった、恐らくは契約者の一人が状況を掻きまわすために動き回っているのだろう


万が一のために明利に邪薙を付けたのは間違いではなかったという事だ


正直無視しておきたいところだが放っておくわけにもいかない、これからも奇形種の部隊を放り出されるわけにはいかないのだ


とはいえ余計な戦力がないことも確かだ、現在確認できている悪魔の契約者のうちの一人に大部隊を割くわけにはいかない


現状動かすことができる兵力はいないのだ、欠片も無駄にできていない以上余計に戦力を割いて返り討ちにあうなんてことは避けたい


状況が動くとしたらあと少し後だ、静希はそれを見越して無線を開く


伝えるべきことは全部伝えておかなければならない、万が一にも負けないような存在はこの状況では一つしかないのだ


「ミスターイガラシ、無人機が召喚陣と思われる場所を観測・・・光源が確認できるとのことです」


まだ夜明け前のこの時間に地面に光源があるという事はそこに人がいるか、あるいは召喚陣が設置されているかの二択だ


静希は眉をひそめた後地図を広げる


「どこだ?」


「ここです・・・現在位置から北北西約十キロほどの場所です」


「この場所には本来何がある?」


「なにも・・・この近くには森か平原しかありません・・・低空飛行して確認したそうなのでまず間違いないかと」


本来人がいないところに光が確認される、これは間違いないかもしれない


ようやく見つけた


静希はそう思いながら目を細めた


「そのポイントまで移動を開始する、激しい戦闘が予想されるため各員装備の確認を怠らないように伝えろ」


了解ですと近くにいた隊員たちはすぐに準備を始めていた


光源が確認できたからと言ってそれが本当に召喚陣なのかは怪しいところだ


光源が確認できるレベルまで低空飛行して確認したという事だがこれが罠とも限らない


いや、罠だとしても本命だとしても、無人機が低空で飛行したのを確認したという事は待ち構えているだろう


激しい戦闘になるのはまず間違いなさそうだった


静希達の部隊が目標地点まで移動を開始する中、作戦行動を行っているほぼすべての人間にそのポイントが知らせられていた


その場所に敵の陣地が存在する、全員がその場所に意識を向ける中、静希はとにかく前進を進めていた


相手の戦力を考えれば恐らくまだ隠しだねがあるのだろう、それが一体どのようなものなのか把握できない以上、こちらとしても気を抜くわけにはいかない


無人機はとにかく周囲の索敵をしているが木々が多い中で奇形種などの存在を確認できないことだって十分にあり得る


こちらもできる限りのことはしなければならないだろう


所謂相手の本拠地だ、静希が相手の立場だったのなら本当に重要な拠点を守るためにはそれなりの戦力を残しておくはず


悪魔二人を先行させたのはこちらの主戦力を少しでも削ぐためだ、それが十分以上に行えている状況なら奇形種を用いての抵抗も可能だと考えているのだろう


無論静希の策によってそれらはほとんど封じられているに等しい


相手の主力である悪魔二人を封じ込めてなお、こちらには悪魔が一人、契約者が一人、そして軍の部隊が多数残っている


仮に奇形種での反撃を行ったところでこちらには後方からの砲撃支援に加え、今は航空支援も受けられるようになっているのだ


既に戦況はこちらに傾いている、あとは召喚陣を止める事さえできればこちらの勝利だ


無論それが一番難しいことくらいは重々承知しているが


「ミスターイガラシ、前方に奇形種の群れを確認しました!」


「了解、一気に畳みかける!」


メフィを外にだし、静希達が一気に攻勢をかけようとする中、静希は寒気がするのを感じた


一体ただの奇形種になにを恐れるというのか、今まで自分たちは奇形種を何体も葬ってきているのだ、今さら何を恐れるというのか


そう思ってもなぜかその寒気は拭えない


何かがある


「メフィ!前方の地面を持ち上げろ!」


そう感じた静希はメフィにそう命じると、メフィもその危険に勘づいたのか、自分たちがいるより前方の地面を持ち上げ盾代わりにして見せた


瞬間、その地面が次々と爆発していく


一体何が起こったのかを理解するよりも早く、部隊の索敵手がその姿を確認していた


「ぜ、前方に完全奇形を確認!数は二・・・いや三!こちらに向かってきています!」


完全奇形


生き物を操ることができるという時点でその可能性にも気づくべきだった、相手が完全奇形も主力に入れているという可能性に


完全奇形の恐ろしさはその能力の強さもそうだが全身に行き渡った奇形にも言える


中には巨大化している個体もいるために体を動かすだけで十分以上の脅威になりえるのだ


「それぞれの個体の特徴を教えろ!詳細にだ!」


「い・・・一体は小型な個体です、類人猿のそれに近い形をしています!残り二体は巨大!片方は昆虫のような外見!片方はネズミのような形をしています!」


完全奇形、それぞれの個体の特徴を聞いたうえで静希は瞬時に判断する


それぞれがどの相手をするべきか


先程の攻撃がどの個体から放たれたものなのかは知らないが、確実に一体ずつ片付けるよりも一気に片づけなければこちらの被害が大きくなるばかりだ

それなら多少の無理は許容してしかるべきだろう


こんな所で使いたくはないが相手が完全奇形では仕方がない


「それぞれの位置は!?」


「小型のが右、正面に昆虫、左にネズミです、それぞれ約数十メートル程離れた位置にいます!」


位置を聞いてから静希はトランプを一枚取り出して準備に入る、さっさと仕留めなければこちらが不利になって行ってしまう


完全奇形がいるとは完全に予想外だった、予想してしかるべき内容だったのにこんなところでミスが出るとは


「俺とこいつででかいのは片づける!部隊の人間は小型の奇形種を徹底的に攻撃しろ!砲撃支援も小型に集中させろ!」


静希はトランプの中からフィアを取り出しまたがる、一気に距離をつめて一気に終わらせるつもりだった


「メフィ!奇形種の群れを一気に突破する!虫っぽいのは任せたぞ!」


「了解、そっちは一人で大丈夫?」


「切り札使うから問題ない!一撃で仕留める!」


フィアにまたがり高速移動を始める静希の後にメフィも従いながら目の前に広がる奇形種の群れを一掃していく


後ろに控える部隊の人間をほぼ無傷で連れていくにはこれが一番手っ取り早いのだ


静希とメフィの射撃によりほぼ一方的に壊滅させられている奇形種の群れ、その先に大きくそびえたつような二つの影がいる事に気付いた


部隊の人間からの報告を受けた通り、片方は虫のような外見をし、片方はネズミに近い外見をしている


どちらも体に土のようなものがこびりついている、恐らくは土の下にもぐって索敵をやり過ごしていたのだろう、厄介な個体を連れてきたものだと静希は歯噛みする


「メフィ!虫は頼んだ!ネズミは俺がやる!」


「はいはい、どっちが先に倒すか勝負ね?」


「さすがに今回は俺に軍配が上がるぞ?なにせ一撃だからな!」


目視できるだけの距離、そして自らのトランプの操作範囲内に入ったことを確認すると静希はトランプを飛翔させてネズミの体の前に配置する


メフィが能力を発動し、光弾を虫の完全奇形に向けて放つと同時に静希はそのトランプの中身を取り出した


ネズミに向けて放たれたのはメフィとともに作り上げた切り札、高速弾


もはやどれほどの速さになっているかもわからないほどの速度で打ち出されたそれはネズミの体に触れる瞬間、その体を爆散させるかのように吹き飛ばして見せた


弾丸が音速を超えたことを証明するかのように周囲に衝撃波が広がっていく、木々をなぎ倒し土埃をあげながらその被害をまき散らしていた


先程までそこにいたはずの完全奇形はすでにただの肉塊に変貌してしまっていた


圧倒的なまでの速度によってもたらされた物理エネルギーは、巨大な完全奇形を一瞬で死に追いやり、その体が維持できなくなるほどの衝撃を与え一撃で葬ってしまう


そしてメフィが相対した虫の完全奇形もすぐに同じ末路をたどることになった


メフィの放った光弾は簡単にその甲殻を突き破り、その体を一気に分解していった


光弾が直撃するごとに体の一部が粉砕され、十秒と掛からずにその原型を完全になくしていた


残ったのはそれぞれ完全奇形だったものばかり、肉の破片や甲殻の欠片などがあたりに散乱する中、静希とメフィはすぐに合流してもう片方の完全奇形の方に注視していた


後方支援の砲撃に加え部隊の人間の一斉掃射を受け、完全奇形はすでに息絶えてしまっていた


元々小型の完全奇形だったとはいえあれほどの密度の攻撃を加えられれば無理もない話である


安全に対処するためとはいえ切り札の一角を使ってしまった、後悔はしていないがそれなりの代償を支払わされたというべきだろう


相手を甘く見ていたという事が否めない、生き物を操るという事がここまで厄介だとは思っていなかった


今まで相手にしてきた奇形種や完全奇形、それらをすべて相手にしなければいけないくらいの意気込みを持って臨むべきだったのだ


「タッチの差で負けちゃったわね・・・さすが私が用意した切り札」


「まったくだ、とりあえず部隊に戻るぞ、完全奇形がまだ出てこないとも限らないから警戒していかなきゃな」


メフィは自分が作り出した切り札の威力に満足しているようだったが、静希としては戦々恐々していた


この切り札はもう二度と人間には使えないだろう、完全奇形の体を吹き飛ばすだけの威力を秘めたものなのだ


良くこれを受けて石動が無事だったものだと感動すら覚える


彼女の場合、強固な鎧でその体を覆っていたことと、今ほど威力、というより速度を高めていなかったことが幸いしたというべきだろうか


どちらにせよもう切り札の一角は使ってしまった、これ以上の消費は避けなければならないだろう


とはいえ左腕の外装に付属した火器の残弾もかなり少なくなってきている、あと数回奇形種との戦闘があれば弾切れになるのは間違いないだろう


そろそろ切り離しをするべきかもしれないなと思いながら静希とメフィは部隊の中心へと戻っていった


部隊が完全奇形たちの亡骸の横を通過する際、静希に向けられる畏怖の念が強くなったように感じた


あの時完全奇形を単騎で仕留めたのは間違いなく静希だ、それだけの威力を持った一撃を静希は使えるという事である


それを部隊の人間が認識した途端に静希の危険度がかなり跳ね上がったように思えた


完全奇形の打倒などは軍などでもある程度チームを組んで行うものである


特に巨大化している個体は銃火器などでも仕留めるのに時間がかかるために安全に倒すにはそれなりに数をそろえなくてはならない


仮に能力を使ったとしても数人から十数人規模で戦うのが基本だ、そうでなければ危険だし何より倒しきれない可能性がある


だが静希はそれを一人でやってのけた


彼の持つ切り札の一角を使ったとはいえ、そんなことは部隊の人間は知らない


静希は完全奇形も一人で容易に倒せるレベルの能力者なのだとその場にいた部隊の全員が認識してしまったのだ


自分の知らないところで自分の評価がうなぎのぼりしていることは知らずに、静希はフィアをトランプの中にしまい込みながら集中を続けている


なにせ相手に奇形種がいるだけではなく完全奇形まで出てきたのだ


先程の完全奇形で打ち止めならばいいのだが、生憎そうはいかないだろう


何とも面倒な状況になってきたなと思いながら静希はため息をついていた












静希達が完全奇形と交戦している中、鏡花たちはようやく一息つくことができていた


エドとヴァラファールが対峙していた悪魔、フルフルがやっと動かなくなったのである


延々と能力を発動し続けたエドやヴァラファール、そしてそのフォローをし続けた鏡花もかなり疲労困憊という状態だった


そんな中エドとヴァラファールはフルフルへと近づいていく


「ようやく動かなくなったね・・・」


「さすがのこいつも限界だったのだろう・・・攻撃に集中できていなければ逆にこちらがやられていたかもしれんな」


鏡花たちのフォローがあってこその勝利であるとヴァラファールは背後にいる鏡花たちに惜しみない賛辞を贈っていた


実際防御を全て鏡花たちが行っていてくれたからこそほぼ一方的に攻撃することができたのだ、それがなければ拮抗した戦いが今も続いていたかもしれない


「エド、終わったか?」


「あぁ、どうやらそうみたいだ・・・そっちは随分疲れているね」


状況が終わったことを確信したのか、茂みの奥に隠れていたカレンたちがその姿を現していた


カレンに鏡花、明利に大野と小岩、そして護衛役の部隊員数名が姿を現すとエドはほんの少し安堵した表情を見せていた


カレンに肩を借りている鏡花はかなり疲労困憊という様子だった、なにせ集中し続けなおかつ周囲に展開していた奇形種の対応までしたのだ、はっきり言って今までの中で最大の疲労度と言っても過言ではないだろう


明利が何とか水や補給食などを口にいれさせ、少しでも回復するように努めているが疲労というのはそう簡単に抜けるようなものではない


「それでこの悪魔はどうする?さすがに放置しておくわけにもいかんだろう?」


「それに関してはヴァルに考えがあるらしいよ、頼むよヴァル」


エドに言われるとヴァラファールは自らの能力を発動する


フルフルの体を覆うように呪いが顕現していき、固定される、拘束具のようなものだろうか、ヴァラファールの能力の応用に近いものだろう


「これで今目を覚ましても、この呪いが消えるまでの数時間は動けなくなるだろう・・・作戦行動中に支障はない」


その体に呪いを当てるのではなく空間そのものに呪いを固定化する、ヴァラファール曰く防御としての役割はほぼないに等しいが相手が瀕死であることを考えれば呪いを避けて動くことはしないだろうという事だった


「それでこの後はどうするんだい?悪魔は解決した・・・さっき通信があったみたいだけど?」


「あぁ、召喚陣の位置が特定できたらしい・・・それと同時にこちらに支援要請が来た、周囲をうろついている契約者の打倒を頼むと」


その要請が来たのはエドたちが戦っている最中だった、明利の下に届いたその指示を出したのはほかならぬ静希だ


作戦範囲内を掻きまわすかのように動き続けている契約者を倒すためにエドたちに協力を求めたのだ


「ただの契約者相手に悪魔を出撃させるっていうのはどうにも効率が悪いような気がするけどね・・・それはひょっとしてシズキの頼みかい?」


「は・・・はい・・・相手は奇形種を転移あるいは収納できる能力者みたいで・・・しかも話によると完全奇形もその戦力の中に含まれるみたいで・・・」


明利の言葉にエドは悩んでしまう


確かに部隊を分散させて探すと奇形種の群れを取り出されてカウンターを受けるかもしれない、しかも奇形種だけではなく完全奇形までいるとなるとなおさら危険だ


カレンの予知と明利の索敵を使えば効率よくその敵を探すこともできるかもしれない、なおかつ安全に倒すにはエドとヴァラファールの力は必須だろう


確かに静希の指示は間違ってはいない


相手の主力をただの能力者がひきつける、自分たちがやっていることを当然のように相手もやってきているという事だ


「静希達の・・・状況は・・・どうなっているかわかる?」


「鏡花ちゃん、無理しない方が・・・」


肩で息をしながらも鏡花は頭を動かすのを止めようとはしなかった


この場をまとめるのが自分の役目、そしてこの場の指揮を任されたのだ、その仕事はきちんとこなさなければ静希達に会わせる顔がない


「現在召喚陣と思われる方向に向かっているようだな・・・途中奇形種たちとも戦闘したようだが問題なく撃退して進攻を続けているらしい・・・」


「向こうにはメフィもいる・・・たぶん大丈夫でしょう・・・完全奇形が出たとしても静希とメフィが本気になったら相手になりません・・・なら私たちはうろちょろしてる奴を排除しましょう」


完全奇形が相手にならない


それほどの戦闘能力を静希は本来有しているのだ、状況によって使ったり使えなかったりする手札があるだけで、そう言う事をすべて無視して戦えと言われた場合完全奇形程度では静希の敵にはなりえない


恐らく相手の戦力の中で完全奇形はかなりの隠し玉だったはず


その完全奇形をあっさり打倒したことは相手にとっても誤算だっただろう、それならその混乱をさらに強めたほうがいい


相手が自分たちを掻きまわそうと奇形種の群れを出しているのであれば元を締めたほうが確実な勝利が手にできる、鏡花はそう考えていた


「なるほど、あちらにはまだ悪魔の力がある、部隊の大半もいるんだから問題はない・・・そう言う事だね」


「はい・・・カレンさんと明利の力を併用してとにかく相手の行動を読んでいきましょう、そうやって発見し次第、攻撃開始が一番早いです」


息を切らしながら鏡花がそう言い終えると、その場にいた全員が頷いて了承する


悪魔との戦闘で最も活躍したのは鏡花だ、そしてこの状況において一番状況を理解し、なおかつそれに対して最高の指示が出せるのもまた鏡花である


エドもカレンもそのことを理解しているのだ、だからこそ鏡花の指示に従うのである


「ただキョーカ、少し休んだ方がいいんじゃないかな?だいぶ消耗しているだろう?」


「そりゃ・・・そうですけど、うろちょろしてる奴をさっさと始末しないと危ないことに変わりはないですよ?」


エドのいう事も正しい、鏡花はかなり疲労している、今まで延々とエドを守るために能力を発動し続けていたのだ


それも一度でもミスすればエドが最悪死ぬという状況だったためにその疲労度は計り知れないものがある


だが鏡花のいう事も正しいのだ、なにせ部隊が展開している中でどの場所から奇形種が襲ってくるかわからないような状態を何時までも続けるわけにはいかない


「なら少しの間休んでてよ、その間に私とカレンさんで索敵してるから」


「でも、少しでも動いていたほうが・・・」


「ダメ!ドクターストップだよ、疲れすぎると頭もまわらなくなるでしょ!」


明利は体調のことになると妙に強気になることがある、なんというかこういうところは前々から変わらない


医師免許を取得したことでそう言う方面への自信は高められたのか、こういう状況でも鏡花の体調第一で考えることができるあたり明利らしいというべきだろうか


「・・・わかったわよ・・・主治医には逆らえないわ・・・」


鏡花が折れたことで明利は安堵の表情を浮かべていた


いくら鏡花でも疲労状態では能力も思考も効率がかなり落ちる、可能な限り万全に近い状態を維持していないと何が起こるかわからないのだ


特に鏡花の能力は汎用性が高い、いざという時に頼りになる能力であるために少しでも良いコンディションを保っていてもらいたいところである


「それならこっちから後方に指示を出すわ、後方の戦車部隊を前に押し上げて索敵を容易にしてもらいましょう」


「戦車隊を?でもそれって大丈夫かな?」


「向こうには城島先生に町崎さんの部隊もついています、戦線を押し上げることくらいは簡単にできるでしょう」


それができれば索敵しなきゃいけない範囲も狭められますしと続けると鏡花はその場に座り込む


能力で椅子を作り出して何とか休めるだけの環境を作り出すと体の中にある疲労感を何とかしようとゆっくり深呼吸していた


「そうだ明利・・・今のうちにこれ・・・さっき矢を使い切っちゃったでしょ?作っておいたから」


鏡花は足もとに明利のボウガン用の矢を作り出すと明利に渡していく


明利の種が仕込めるように細工をしてある矢だ、これで明利の索敵網を広げることができるというものである


「ありがと鏡花ちゃん、しっかり休んでてね」


明利がカレンと共に索敵を開始する中、鏡花は椅子に座りながらため息をつく


ようやく一息つける、明利の休憩の提案は鏡花にとってはかなりありがたかった


このまま行動するのもありだったが、今こうして腰を下ろすことができているというのは非常にありがたい


休息というには少々雑かもしれないが、腰を下ろすことができているだけでも随分違うものである


「ところでキョーカ・・・一ついいかな?」


「なんです?何か気になることでも?」


エドは鏡花の方を見た後で上空を見上げる、ぽっかりと空いた空間の少し上空からある存在の気配がしたのだ


エドはその存在に気付いていた、覆い隠すだけの木々がほとんどないからというのもあるが何より視線がこびりつくのだ


そしてその視線が鏡花に向けられているということに気付き、彼女に伺いを立てたのである


「あそこにいる悪魔みたいなのは何なんだい?君を見ているようだが・・・」


「・・・あぁ・・・あれは気にしなくていいです・・・私たちがこっちに来る時に関わった悪魔なんですけど・・・妙に気に入られたみたいで」


上空で待機しているウェパルを視界にいれながら鏡花はため息をついていた

契約者になどなりたいと考えたことは一度もない、今だってなりたいとは思っていない


だがあの悪魔が契約してほしそうにこちらを見ている、一体どうしろというのだと鏡花は眉間にしわを寄せてしまっている


もちろん先ほどの援護は助かった、奇形種に後方をとられ手も足も出ないような状況で快心の一撃を叩き込んでくれたのだ、命を救われたというのはまさにあのような状況のことを言うのだろう


だがそれはそれこれはこれだ、命を救われたからと言って契約するかどうかは別の話である、身近に契約者がいてどれだけ大変な目に遭っているか知っているのだ、鏡花は簡単に首を縦に振るつもりはなかった


本気投稿+誤字報告十件分+ブックマーク登録件数3600件突破で四回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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