総力戦
静希達はゲートをくぐると同時に広がりながら陣形を形成していた
前方には陽太のいる部隊がすでに前進を続けている、その前方には最前衛の部隊がすでに森の方へと侵入していた
あらかじめ確保してある安全地域まで一気に前進する
はるか前方ではすでに奇形種との戦闘が始まっているようだった、発砲音や能力により引き起こされる轟音のようなものが響いてくるのがわかる
今回静希達の部隊は大きな五角形に近い陣形をとっている、その五角形のほぼ中心から後方に少しずれた位置に静希達は配置されている
五角形を作るもっとも外側に前衛、あるいは耐久力のある能力者が配置され、周囲の奇形種から内部の部隊を守っている
そして前衛の次に外側に配置されているのが中間距離においての支援攻撃を行える能力者である、前衛の人間のフォローをすると同時に、ある程度距離のある敵を一掃する役割を担っている
そして中心部に行けばいくほど索敵系の能力者や転移系の能力者が多く配置されている
無論外層にも何人か索敵系の能力者は配置されている、だがそう言う人間は非常にまれだ
前衛の戦闘にもついていける上にしっかりと索敵の役目を担える存在でしかその場所には立てない、所謂索敵兼前衛というエリートと呼ばれる部類だろう
「全部隊通信網を開け、状況を報告しつつ進攻を継続する」
静希達と同じく中心よりやや後方に配置された現場指揮官ともいうべき軍人が全部隊に向けて通信を行う中、静希も所有している無線の向こう側から各部隊の返事や報告が聞こえてくる
戦闘を行いながらもしっかりと無線で報告をするあたりはさすが軍人というべきだろうか
静希達が前進を続けている間、そのはるか後方に配置されていた戦車部隊もすでに掩護できるだけの状態を整えつつあった
変換系統の能力者たちの協力の下、超長距離射撃が行えるだけの足場を用意し、なおかつ防壁を作り出したうえで既に砲撃支援のための報告を待っていた
実際にまだ危険な敵と遭遇していないために部隊の現在位置を確認し、その先に砲撃の照準を合わせているところである
そしてその戦車部隊の近くにやってきているアイナとレイシャも行動を開始していた
あらかじめ戦車にかぶせてあった布を徹底的に迷彩化していく
一見すれば戦車を発見することは難しくなるだろう、二十を超える戦車を一つ一つ迷彩化していくのはなかなかに骨のいる作業だが戦車部隊を攻撃されることを防ぐためには重要なことだと言えるだろう
現在前衛部隊と接触しているのは所謂斥候部隊だ、奇形種の中でも機動力に秀でている個体ばかり、つまりは主力とは言えない偵察役
こちらが砲撃支援を要求するのは主力部隊に遭遇してからだ、そうでなければ無駄に弾を消費するばかりな上に木々への被害が大きくなるだけである
「明利、今部隊はどういう風に展開してる?」
「現在正五角形に近い形で展開中・・・やや左翼が伸びていますが問題はありません」
「奇形種の数はどれくらいだ?」
「まばらです、ですが徐々に集まってきている印象です」
集まってきている、つまりはこちらをすでに捕捉しているという事だ
悪魔に睡眠は必要ない、人間の活動外である明け方を狙ったとはいえ奇形種の動きまでは止めることはできなかったという事だろう
だがその程度であれば十分許容範囲だ、このまま突っ切ることができれば御の字、欲を言えばこのまま召喚陣のある場所まで直進したいところである
「明利、種はまいてきてるな?」
「うん、種をまくのと並行して近くの木に同調してあるよ・・・でも一人でやってるからそこまで範囲は・・・」
「いやそれでいい、そのまま続けてくれ」
自分達が通った道というのをしっかり記録しておくという意味でも、そして後方を確認するという意味でもこの動作は必要だ
静希達が使ったゲートからここまで明利はずっと種をまいてきた、この索敵は細く短いかもしれないが重要なことである
「陽太聞こえるか?前方の様子はどうだ?」
『あぁ?前は結構忙しそうだぞ、前衛の人が奇形種ぶん殴ったりして止めたりした後にフォローの人が止め刺してる感じだ』
「奇形種の数はどうなってる?増えてるか?」
『あー・・・よく見えねえけどなんか戦う数は増えてる印象だな、こっちまでは届いてないけど』
どうやら前方に関してはそれなりに激しく戦闘が行われているようだ、明利の申告通り奇形種がこちらに徐々にではあるが集まってきているのだろう
このまま易々と通してくれるほど向こうも甘くはないという事だ
そろそろ動き出すかもなと静希は準備を進めていた
「陽太、このあと少ししたらアクションがあると思う、警戒を怠るなよ?」
『マジでか、俺の出番あるか?』
「あぁ、たぶんそう遠くない・・・いつでも戦闘行えるようにしておけ」
『あいよ、テンション上がってきた!』
陽太は意気揚々と無線を切る、その反応を確認した後静希は鏡花の方を一瞬見る
鏡花からして今の陽太の様子はどうなのだろうかと確認したのだ
彼女は不安そうな表情を浮かべるとすぐに首をかしげてしまっていた
彼女もさすがに声だけでは調子の如何は把握しかねるのだろう、今の陽太の調子が絶好調であることを望むばかりである
主力前衛と奇形種の斥候部隊が接触し戦闘しながら前進を続ける中、前衛の索敵部隊が全部隊に向けて無線連絡を送った
最前列、進行方向約五百メートルほど前方に敵主力と思われる奇形種群を確認
ようやく敵主力ともいえる奇形種部隊が確認できたことで最後方に位置している戦車部隊は指定された地点に照準を合わせていた
そしてその報告を近くにいた隊員から聞いた静希達もすでに行動をとろうとしていた
「陽太、最前衛から前方約五百メートルに敵奇形種多数だ、気を引き締めろよ!」
『あいよ、でも俺の相手って奇形種か?』
「いいや、お前の相手は別だ、だからそれまで怪我すんなよ!?」
了解と陽太は返事をすると無線を切った
前方に奇形種の大群、恐らくは能力の打ち合いになるだろう、一度進攻を停止することも考えるべきである
すでに敵の位置は前衛の索敵部隊が確認しその座標を戦車部隊に報告してある、十分狙える距離だ、すでに戦車隊が行動できるだけの状況はそろいつつある
「先生、先生たちはここよりさらに後方に移動してください、万が一の備えをしておきます」
「後方・・・後詰でもさせるつもりか?」
「もっと重要なポジションです、お願いします」
静希の考えが正しければ城島達の力は必ず必要になる、まだ備えのレベルではあるが確実に勝利をものにするためには必要不可欠なことだ
「間もなく前衛部隊が敵奇形種との射程距離に入ります、一旦前進を止め射撃戦に備えてください!」
近くにいた能力者が静希達に注意喚起する中、静希は嫌な予感を感じていた
これが杞憂であればいいのだが、そう思いながら静希達は身を屈める
瞬間、前方から轟音が響き始める
前衛部隊が奇形種の主力団体と接触したのだろう
接触と言っても能力の射程距離の中に入っただけだ、数多くの能力が静希達の部隊を瓦解させようと徹底的に放たれていく
物理系だろうと現象系だろうとお構いなしの徹底攻撃だ、中衛の能力者たちが壁などを作っているために攻撃は防げているがそれでも進攻を止めざるを得ない状況になっているのは否めなかった
「進攻が止まったな・・・さすがに主力と戦うんだと時間がかかるか」
「どうするの?このまま現状維持?」
「いや、たぶんだけどこの状態は長くは続かないわ」
鏡花の予想はおおよそ静希も理解していることだった
なにせ今回は現場の部隊だけではないのだ
能力の発する衝撃音に混じって、唐突に大きな炸裂音が鳴り響く
それは後方にいるはずの静希達の耳にも届いていた
そう、戦車による超長距離火砲支援である
敵奇形種が一塊になっているのであればその座標のどこを撃ったとしても被害を与えられる、特に今回支援砲撃で使っているのは榴弾だ、炸裂するタイプの弾薬ならば至近弾でも十分に奇形種を葬るだけの威力が得られる
無論その分近くにある木々にも被害が多少は出てしまうが、その程度は必要経費だろう
戦車部隊の攻撃により奇形種の数は徐々にではあるが数を減らし始めている
砲撃によって相手への被害が確認されるとこちらの陣営も銃火器なども併用して奇形種に向けて攻撃を仕掛ける
後方からの砲撃支援というのはこういう時にはかなり有利になる、相手の数が圧倒していようとこちらは組織力と技術力で勝るのだ
正確な砲撃はできずとも敵勢力に被害を与えることは十分に可能である
砲撃と能力、そして射撃による同時攻撃により敵の戦力が一気に減ったのを見計らって前衛部隊は再び進攻を開始した
前衛の部隊が動くと同時に静希達も移動の構えをとり、敵奇形種を殲滅しながらとにかく前進し続ける
「明利、現在の状況報告」
「前方部隊が奇形種の主力と近接戦を開始、残っているのは数少ないようで問題なく排除できています、このまま前進するようです」
前方に配置されていた奇形種の部隊はあくまで足止め程度の部隊だったという事だろうか、どれほどの数の奇形種が集められたのかはわからないがあっさり突破できたことにわずかではあるが違和感を覚える
「ねぇ静希、これうまいように誘われてない?」
「やっぱそう思うか?だとしたら・・・」
自分が相手の立場だったらどうするか
相手の戦力と現状を鑑みる限り先程の奇形種の群れが相手の主力であるとは考えにくい、となれば何か別の手段があるという事だ
「明利、今陣形はどうなってる?」
「奇形種を突破する関係で少し縦長になっています、ですが徐々にそれも元の正五角形に戻りつつあります」
その言葉になるほどなと静希は頷く
一体何を考えているのかは鏡花はわからなかったが、静希が冷や汗をかいている関係からあまりいい状況ではないのは確かだった
これから荒れることになるだろう、そう思いながら鏡花は前だけをみていた
静希達が森へと進攻を開始してどれほど経過しただろうか、第一陣と思われる敵の奇形種群を完全に退け、静希達を擁する部隊はとにかく前進を続けていた
一度足止めを食らったものの、奇形種の群れをほぼ一方的になぎ倒しそのまま前進することに成功している
奇形種の群れを倒した後は再び索敵役と思われる奇形種との小競り合いが続いている状態だ
戦車砲による砲撃の跡が痛々しく地面や木々を破壊しているのを尻目に、各能力者が消火活動などを行いながら前進する中静希は状況を常に頭の中に入れていた
現在の状況、相手の戦力、そして相手が何をしたいのか
とはいえ森に進行を始めてどれくらいの距離を進んだかもあいまいだ、周囲の目印になるようなものが木々しかないために進行方向が正しいのかも不明瞭になってくる
明利であればおおよその距離はわかるだろうが明利はとにかく現状の周囲の索敵に集中している、邪魔はしない方がいいだろう
「奇形種の動きは散漫みたいね・・・相手も準備してるってところかな・・・」
「いいや、たぶんもう仕込み自体は終えてると思うぞ、あとは俺たちがかかるのを待つばかりってところだろ」
すでに相手は自分たちの存在を把握している、そして自分たちを一網打尽にするにはどの手を使うのが一番手っ取り早いか
全滅させることができなくても被害を与えるのに確実な方法は存在する
そして相手がそれをとってきたときの手段はすでに講じ始めている
「もしその仕込みが発動したら、私達はどうすればいいわけ?」
「鏡花たちに仕事は無い、やるのは俺と陽太、後城島先生たちだ」
お前達の出る幕はない、そう言われているのだ
だが静希がそう言うのであれば恐らく間違いではないのだろう、次の局面において鏡花たちにできることはない、ならば前に進むことだけを考えるのが先決だ
「陽太に任せるっていうのは前衛の仕事?それとももっと危ないの?」
「危ないかどうかはあいつの仕事次第だな、場合によっては最高に危なくて場合によっては無傷で帰還できる」
陽太の負傷率というのは今までの実習を含めた戦闘の中でもかなり低い、元より機動力に秀でているのに加えて耐久力も高いのだ、陽太のことを負傷させられるものはもはや数限られた存在だけである
能力の相性によっては無傷での勝利も可能だろう、もっともそれができるような容易い相手であればよいのだが
現状静希達にできることは布陣を動かして状況に対応できるようにするくらいだ
全体を動かす権利はないが静希達の所属する日本の部隊に関してはあらかじめ対応することができるだろう
「その仕込みの事、他の部隊に伝達しなくていいの?」
「しない方がいい、もし伝達して陣形を変えられると相手が思い通りに動かない可能性がある、相手の戦力を確実に消費するにはこの方法が一番手っ取り早い」
こちらの戦力もそうだが相手の戦力もかなり限られている、そうなると相手の戦力を確実に削って追い詰めるためにはある程度こちらも戦力を削らなければいけないのだ
問題はその方法である
相手が強い駒を前に出してきたとき、こちらも同じように強い駒を前に出せばその分消費が大きくなる
だからこそこちらは最低限の駒の消費を心掛ける必要があるのだ
だがそれは相手も同じことを考えているだろう
となればどうするのがいいか、すでに静希の頭の中では結論は出ていた
「ミスターイガラシ、前衛部隊が再び奇形種の群れを捉えました、先程よりも大きいようです、砲撃支援を要請していますが突破には少し時間がかかるかと」
「了解、このタイミングで来るか・・・それとも・・・」
通信が入ったという事はすでに前衛は戦闘態勢に移行しているだろう、先程よりも大規模な奇形種の群れ、砲撃支援を要請しても突破するのは困難な量がいるとなると間違いないかもしれない
だがまだ確定ではない
「明利、陣形は今どうなってる?」
「現在少し両翼が広がっています、相手の奇形種に周囲を囲まれないようにするためだと思われます」
今衝突しかけている奇形種の数が多いためか、囲まれないように正面衝突できるようにしっかりと両翼を広げて対応しようとしているようだ
だがそれでは足りない、静希の考えが正しければこの後すぐにアクションがあるはずだ
奇形種たちとの戦闘により進攻速度が落ちると、静希は城島達に対して無線で連絡を取っていた
事前に打ち合わせをしていた通りに行動を開始するためにそのタイミングなどを確認しておく必要があるのである
支援砲撃と能力と銃撃による射撃戦が始まったのか、静希の耳にも轟音が響き始める、これだけの大規模な砲撃支援が始まれば大抵の部隊は瓦解するだろうが相手は操られている奇形種だ、簡単に崩せる相手ではない
そしてそのタイミングは静希が思っていたよりも少し早く訪れた
「ミスターイガラシ、部隊の左右から奇形種の群れが同時に接近してきています、こちらを覆い込む作戦のようです」
来た
静希は確信しながら眉を顰め陽太へ無線を入れる、ここからが勝負だ、相手も本気になってこちらを崩しに来ている
最初の奇形種の群れは恐らくこちらの大まかな戦力を確認するためのものだ、ある程度の部隊を差し向けてその部隊を突破するのにどれくらい時間がかかるのかを測っていたのだろう
だがそれもあくまで様子見レベル、ここからは本気で相手もこちらを潰しに来るだろう
「前方の奇形種を徹底的に攻撃して突破します、左右の奇形種に囲まれる前に突破してその後に残った奇形種を一掃します、ミスターイガラシとミスターパークスたちは念のため前へ移動してください」
静希達に消費させないためには確かにその方法が一番手っ取り早く確実だろう
前方の奇形種を切り崩し強引にでもいいから突破、そして左右から襲い掛かってくる奇形種を後方から追ってくる形に変えて一掃する
その為には静希達をやや前方に行かせて安全を確保しなければならない
だがその前に静希にはやることがあった
「城島先生、手筈通りにお願いします」
『了解した、こちらは任せろ』
「鏡花、少しの間待っててくれ、道切り開いてくる」
「はいはい行ってらっしゃい」
静希は視線だけでエドの方を見ると、エドもその視線の意味を理解しているのか小さくうなずいて見せる
そして明利の背中に軽く触れた後、静希は自分の近くにいた転移能力者の肩を掴む
「俺を前方に転移させろ、奇形種との最前線にだ」
「え?で、ですがまだミスターイガラシの力を借りるような場面では・・・」
「いいから急げ、手遅れになるぞ」
静希の言葉に転移能力者は困惑しているが、静希がその気になれば別に転移能力に頼らなくても問題なく前方に行くことができるだろう
転移能力者は現場指揮官の軍人に視線を送る、自分では判断を下せないという事をわかっているのだろう
現場指揮官も静希がわがままを言っているとしか思えていないようだったが、仕方がないと首を縦に振る
それを確認して転移能力者は静希の手を取って能力を発動する
現在絶賛戦闘中の最前線、いくつかの壁が作られている場所に静希と転移能力者が現れると、静希は即座にメフィをトランプから出して見せる
「メフィ、頼んだぞ!」
「はい!お任せあれ!」
唐突に静希と悪魔が現れたことに前衛の部隊は驚いていたが、それよりも驚く光景が眼前に広がることになる
前方約数十、いや数百メートル先の地面が唐突に宙に浮かび上がり始めたのだ
奇形種がいたであろう場所も、自分たちがこれから向かうであろう場所も、メフィの能力によって地面ごと一気に持ち上げられていた
そして視認できたのはそれだけではない、地面が盛り上がって数秒経った後に唐突にその地面に強力な炎が直撃したのだ
地面がめくれて炎が噴き出した、軍人たちにはそう見えたことだろう
「やっぱりいたか・・・会いたかったぞ・・・!」
静希が軍人たちよりも前に出ると、メフィは地面を盾のように置いて軍人たちを襲い掛かる炎から守って見せた
静希とメフィがその地面の上に立つとその先にいたのは以前会ったことのある悪魔だった
アモン、炎を操る上級悪魔
静希がリチャードを逃がすきっかけにもなった悪魔だ、静希にとっては思い入れの深い悪魔と言えるだろう
敵の悪魔が前方に存在するという報告を受けたことで静希の後ろにいる部隊はどう対応していいのか少々迷っているようだった
静希が前に出たというのにはこういう意味があったのだと理解しているものは一体何人いるだろうか
「こちらの動きを読んでいたのか・・・よもや本隊に一撃も与えられないとは」
「お前みたいなでかい火種を守るべき場所に置いておくわけないだろ、敵味方構わず被害を出すような輩は尖兵として出すに限る」
そう、アモンの能力は良くも悪くも強力過ぎるのだ
周囲にまき散らされる炎、相手にとってもその力はもてあますものになっているのである
これが攻略戦ならまだいい、だが相手にとっては防衛戦となっている今回の戦いにおいてそれだけの被害を起こす力を持っているものを使える手段は限られている
例えば自らの陣地から最も遠いところで相手の戦力を削るための尖兵として出すことである
今回相手が奇形種を使い部隊を挟み込もうとしたのは恐らく二つの意味があったのだろう
本当に静希達を囲みたいのであれば前方と左右の奇形種を同時に接近させるべきだったのだ、それをしなかったという事はつまり別の目的があったという事である
前方を攻略しやすいように展開し、わざと穴をあけることで突破しやすくする、そして前に動いたところで左右から来た奇形種が後方から囲うような形で逃げられないようにしたうえで、この悪魔、アモンが大火力で主力を壊滅させる
恐らくはそう言う手はずだったのだろう、もっともその手段はすでに通じない、前方の悪魔は静希が押さえた、後方に回り込まれないためにも手はすでに打ってある
後は静希が時間を稼げばいいだけの話だ、それで静希が行うべき仕事は終了となる
メフィと共にアモンの眼前に躍り出ると、静希は薄く笑って見せた
「なるほど、こういう事だったわけね」
静希が前方に移動した後、エドと明利から状況を聞いて鏡花は大まかに事情を察していた
静希がやろうとしていることをある程度察したのである
そうなると確かに自分たちができることはほとんどないに等しい、できるとしたら陽太に対してのアプローチくらいだ
「鏡花ちゃん、私達はどうすれば・・・」
「今脅威なのは左右の奇形種ね、前方はもう静希が壊滅させたでしょうから・・・たぶん後方にはすでに城島先生たちが対応してるはず、どちらかを突破して前に進まない限りここで足止めを食らうことになるわね」
前方に悪魔、そして左右と後方を奇形種に囲まれるという状況はお世辞にもいい状況とは言えない、恐らく静希はこれを見越して城島達を後方に移動させたのだ
左右どちらか、欲を言えば両方の奇形種を同時に対処したいところである、とはいえ挟み撃ちされている状態でどれだけ攻勢に転じられるかは疑問だが
「キョーカ、僕たちが左方向を対処する、ついてきて」
「え?でも右は?」
「右は戦車部隊の援護砲撃と右翼のチームで対処する、それが一番早く突破できる」
エドとカレンの唐突な申し出に鏡花は目を丸くしていた
恐らくはオロバスの予知を見たのだろう、前方へと向けていた砲撃支援を右翼側に集中、右翼の能力者部隊と合同で一気に突破、そして左翼はエドとヴァラファールが悪魔の力を使って半ば強引に突破する
悪魔のいる前方を避けるように移動して再び合流すればいい
片方だけで突破してそのまま移動を続けるというのもありだろうが、固まっているとそれだけ狙われかねない、それなら部隊を分断したほうがいいと考えたのだろう
どうやら現場指揮官もその意見には納得しているようだった
「わかったわ、私達はエドモンドさんたちについていく、何かできることがあったら言って」
「オッケー、それじゃちょっと突破口を開いてくるよ」
エドはそう言い残し、転移能力者の力を借りて左翼側へと向かっていった
自分にできることをしなければならない、遠くから砲撃や能力の攻撃による衝撃音が響く中で鏡花は陽太と無線で話をしようと回線を開こうとするのだが、陽太からの返事は一向にない
恐らく能力を発動している状態なのだろう、これでは会話もできやしない
この状況で静希が陽太になにをさせようとしているのか、そして前方にいる悪魔が一体なんなのか
先程までの会話からある程度予想はすでにできている
静希は陽太に無茶をさせるなと思いながら渋々静希との回線を開く
これから陽太に何かを伝えるためには静希を中継しなければならないだろう、それもここから離れるまでの間だ
それなら言いたいことを言うほかない、それが自分が陽太にしてやれる唯一の事だ
「静希?聞こえてる?」
『あぁ!?なんだ鏡花か!?今忙しいんだけど!?』
無線の向こうからは轟音が響き渡っている、恐らく悪魔との戦闘が一層激しくなっているのだろう、そんな状態でこんなことを伝えるのは場違いだというのはわかっている
悪魔を抑えるというだけでも重労働なのはわかっているが陽太に絶対に伝えてほしい言葉があるのだ
「静希、あんたが陽太になにをさせたいのかはわかってる、だから陽太に伝えてほしいの」
『・・・手短に頼むぞ』
十分よ、七文字で済むからと告げた後で鏡花はその言葉を静希に伝える
静希はそれを聞いた後笑っていた
何が面白かったのかはわからないが、恐らく静希は鏡花の言葉に対して笑ったのではないのだろう
鏡花と陽太の信頼関係に笑ったのだ、ここまで信頼できているとは、そう言う笑いだ
『了解した、しっかり伝えておいてやるよ、そっちはエドたちに任せた、しっかりついて行けよ』
「わかってるわ・・・なんかあんたの手のひらの上で踊らされるってのはあんまりいい気はしないけどね」
この状況を作り出したのは静希だ、もっとも相手の思惑を逆手にとった状況の変化なのだろうが、鏡花たちをエドと一緒に行動させ、城島達を後方へと分断、隊を左右に分けたのも恐らく意味があってのことだ
その意味が何なのかは鏡花はまだわかっていない、分かってはいないが静希がやろうとしている事ならば問題はないのだろう
多少やることは無茶苦茶かもしれないが静希がやろうとしていることはこの事件の早期解決に他ならない
それがどんな犠牲を払うものなのかまではわからないが必要なことなのだ
「静希、あんたもちゃんと報告しなさいよ!?わかってるわね!?」
『はいはい分かってるよ!鏡花姐さんのお望みのままに!』
静希の軽口を聞き流して鏡花は左翼へと移動していく、部隊を分断するとはいえ現在位置にいれば危険になることは否めない、できる限り進行方向に向けて移動しなくてはフォローも回避もできやしないのである
「明利、行くわよ、部隊の状況も逐一報告して」
「りょ、了解!」
明利を引き連れた状態で鏡花は頭をフル回転させていた、静希ならどう動くか、静希ならどう考えるか、その考えを先読みして自分たちも行動しなければいけないだろう
何度もやったことだ、やってきたことだ、できないことはないはずなのだ、情報量は同じ、なら静希の思考の先読みも今回だってできるはずなのだ
「なんだ、もう会話はいいのか?」
「あぁ、うちのボスからいろいろと言われてな・・・まぁたいしたことじゃなかったけど」
静希達とアモンがいる場所は周囲一帯が完全な焼け野原となってしまっていた
メフィの能力で地面はひっくり返され黒い土がむき出しになり、木々に至ってはほとんど炭化してしまっている
森の中にぽっかりとできたその空間は悪魔の戦闘の凄惨さを知らしめていた
「お前はこうしてここで足止めを続けるつもりか?悪魔に対して悪魔をぶつける・・・随分単調だ、それではあの男までは届かんぞ」
「ハハハ、安心しろよ犬、俺が足止めするのはあと少しの間だ、そうしたらバトンタッチする」
犬と呼ばれたことに腹を立てたのか、それとも静希のいうバトンタッチする相手のことが気になったのか、アモンは目を細める
アモンはそこまで自信過剰なタイプではなかったが、悪魔である自分を止めることができるものなど同じように悪魔の契約者くらいしかいないと思っていたのだ
実際その考えは間違っていない、悪魔程の能力に対してただの人間では明らかに出力が足りずに押しつぶされることになるだろう
アモンの能力に対してまともに逃げられる可能性があるとしたら転移系統、収納系統、変換系統の三種類だ
転移や収納で今自分たちのいる場所そのものから離脱するか、変換系統を用いて炎の届かない土の下まで逃げるかということくらいである
だがそれでは退避にしかならない、決して足止めにはならないのである
アモンが今こうして移動する部隊を追わないのはメフィという同格の悪魔が目の前にいるからだ
以前と同じ轍は踏まないとメフィは警戒を続け常に静希を守りながらアモンへと攻撃を仕掛けている、少しでも他に意識を向ければやられるのは自分だろうという事を理解しているのだ
「たかが能力者にそんな大層なことができるとは思えんな・・・それとも他の契約者と交代でもするのか?」
炎をまき散らしながら会話を続けるアモンに、静希とメフィも対応する
炎を土の壁などで防ぎながら移動し続けなおかつ反撃もし続ける
「こっちも契約者の数は限られてるんでな、お前の相手をするのは俺のチームメイトだ」
「・・・正気とは思えんな、それともそいつはエルフか何かか?」
「いいや?ちょっと前まで落ちこぼれって言われてたような奴だよ」
静希の言葉にアモンは呆れて物も言えなくなってしまったのか、大きくため息をついていた
自分がこのような場所にいる事も、そしてこんな子供相手にこんな話をしていることも、何もかもばからしくなってきたのである
「お前心臓に細工されてるんだろ?俺ならそれを外してやれるけど、どうする?」
「・・・無理だな、仮にそれができたとしても以前戦ったときにそうしなかったという事は何か条件があるのだろう?」
さすがに長いこと生きてる悪魔はすぐにそう言う点にも気づくかと静希は苦笑してしまう
アモンの指摘は正解だ、静希の能力は初めて入れるものに関してはトランプに触れながら収納しなくてはならない
静希はまだアモンを収納したことはない、よって彼我の距離を限りなくゼロにしなければならないのだ
だがあの炎の能力を前にそれをすることが自殺行為であることくらいは静希でも容易に想像できる
例え左腕の修復能力があっても無事で済むとは思えないのだ
「さすが悪魔だ・・・でも細工を外せるってのは本当だ、お前らに協力してたウェパルはもう解放した」
「それが本当なら是非そうしてもらいたいところだが・・・残念ながらそれはできそうにないらしいな」
「あぁ、お前相手に無茶をしたら後々が厳しくなるからな」
無茶をするという事がどういう事であるのか、アモンはおおよその予想ができていた
恐らくは自分に触れなければならないのだろうと考えていた、だが悪魔であるアモンの能力の中心ともいうべきその体に近づくことがどれだけ危険なことであるか静希も理解している
だからこそ心臓への細工を外すよりもここで足止めしておいた方がいいと判断している
決してバカではない、だが考えが足りないようにも思えてしまうのだ
自分を止められるような人間がいるはずもない、しかも落ちこぼれなどと言われていた人間にそれができるはずもないと、そう確信していた
エルフならばまだあり得る、その力は相性と場合によっては悪魔にも届くかもしれない力だ、だがただの人間にそんなことは無理だとアモンは思っていた
「お・・・ようやく来たみたいだな・・・アモン、お前の相手をする奴がようやく来たみたいだぞ」
後も見ずにそう言うと、静希の後方から大きく跳躍してやってくる一つの影がある
いや、それは影などではなかった、まるで炎の塊のようなものがこちらに跳んでくるのだ、それが能力ではないと気づくのに時間はかからなかった
静希の目の前に着地したそれは、炎をたぎらせて咆哮する鬼の姿をしていた
「俺のチームメイトで幼馴染の、響陽太君だ、今日一日お前はこいつの相手をしてもらうぞ」
静希の言葉にアモンは目を細めていた、一体目の前にいるあの鬼は何だろうか、その疑問は陽太がこちらを睨んでくると同時に解けていた
「静希、あいつが俺の相手か?」
「あぁそうだ、しっかり足止めしておけよ、上級悪魔相手に一対一だ」
悪魔に対して自分が一対一で対峙するという状況に意気消沈するようなことなく、むしろやる気がみなぎっているのか陽太は炎を巻き上げている
悪魔相手に一対一で対峙するなどという事は本来自殺行為だろう、だが陽太はそんなことは気にも留めていないようだった
「正気とは思えんな・・・同じような炎を操る能力者のようだが・・・そんなものが俺を止めるだと?」
「あぁ、お前の相手ならこいつ一人で十分だ、悪魔の契約者の出番はないな」
静希の言葉にさすがに悪魔としてのプライドが刺激されたのか、アモンは陽太とその後ろにいる静希めがけて巨大な炎を飛ばしてくる
メフィもすぐに対応しようとするが、静希はあえてそれを制止した
「陽太、壁役任せたぞ」
「おうよ、後衛を守るのが前衛の役目だからな」
陽太は笑いながら自らの腕を前に突き出した
炎が陽太に直撃するなか、アモンはため息をついていた
子供相手になにをむきになったのかと、自分の滑稽さに呆れていたのである
心臓に細工をされ、人間に良いように操られ、そして今もこうして子供相手に能力を振っている
情けない限りだ
だがその考えは次の瞬間に払拭されることになる
「ぬるいな、悪魔のくせにこんなぬるい炎しか出せないのか!?あぁ!?」
完全に焼き尽くしたと思われた陽太はその場に立っていた、その両腕には炎の盾、背後にいる静希を守るために作り出された巨大な盾が存在していた
静希の考えが的中した、その瞬間だった
あの時、会議室でラヴロフやエド達の前で静希が話した内容は単純なものだった、そしてその思惑に限りなく近い形で進んでいると言っていい
「まず奇形種を操っている悪魔、これ自体はたぶんそこまで戦闘能力は無いだろうから奇形種を徹底的に排除すれば問題ない、そして炎を使う悪魔、これは正直倒すのはほぼ無理だと思っていい」
「倒すのが無理となると、どうするんだ?」
「足止めする、それこそ最初に遭遇した場所から一歩も動かさないくらいに」
足止め、言うのは簡単だろう、だが悪魔を押さえこむというのは容易な話ではないのはその場にいた全員が理解していた
なにせ悪魔という存在は能力だけではなくその膂力もすさまじいのだ、下手に近づけば人間の体など一撃で葬れるほどの力を有している
「その足止めの役割は一体誰が?悪魔の契約者のお二人のどちらかか?」
「いや、うちのチームメイトの響陽太だ」
静希の言葉に全員が動揺していた、静希と一緒にいた響陽太という男子生徒、そのことをその場にいた全員が見ているのである
ただの学生としか思えない、少し身長が高くガタイがいいくらいにしか思えないようなそんな印象を受けた、逆に言えばそれ以外には特に感じるところがなかったのだ
「一つ聞いておくが、その彼は悪魔の契約者か何かなのか?もしやエルフとか?」
「いいや?ただの能力者だ、精霊もつれてない正真正銘ただの能力者だ」
静希の言葉を聞いたほぼ全員が非難の目を向け始めていた、つまりは同級生でありチームメイトを足止めのためにいけにえ代わりにしようというのである
だがその中でエドと町崎だけがその言葉の真意を確認しようとしていた
「ミスターイガラシ、一応確認しておくけど、どれくらいの時間足止めしていてもらうつもりなのかな?」
「ずっとだ、それこそ一日中そいつの足止めをしてもらう」
ただの能力者にそんなことができるはずがないだろうという言葉が周囲から飛んでくる、当然だ、普通に考えればそんなことができるとは思えないのである
相手は悪魔、そして対するのは能力者の子供、戦車に対してエアガンで挑むような暴挙だ、そんな戦力差で足止めなどできるはずがない
「君はチームメイトを見殺しにするつもりか?さすがにそれは承認できない、悪魔に対峙するのならそれ相応の戦力を」
「その戦力はあいつで十分だって言ってるんだ・・・俺のチームの前衛がただの能力者なわけがないだろう?」
静希が笑って見せるとその場にいた全員がもしやと思ってしまう
悪魔の契約者五十嵐静希、その強大な存在についていけるだけの強力な能力を有した存在が響陽太なのではないか、そう思えてしまうのだ
静希は悪魔の能力者だ、だが実習でその力ばかりに頼ったことはない
だが周囲の人間からすればそんなことは知らない、悪魔の力についていけるだけの実力を有した存在が静希の班にいるのではないかという錯覚を起こしているのである
「少将、貴方方の部隊に迷惑はかけない、もし炎を操る悪魔が出てきた場合は、俺に一任してほしい」
最終決定をするのは指揮官であるラヴロフにある、その場にいる全員の視線がラヴロフに集中する中、ため息を吐いた後で彼は決断を下した
「わかった・・・君がそこまで言うのであれば了承しよう、だが確実にその悪魔を釘づけにすることだ」
「わかっている、あいつならできるさ」
静希には確信があった、陽太ならアモンの能力にも対抗できると
そして今、その確信は確証に変わった、陽太の能力ならアモンに拮抗すらできると
「俺の炎を・・・防いだのか・・・?」
アモンは自らが放った炎が陽太に完全に防がれたように見え僅かに狼狽していた
感情をむき出しにしたせいかその炎に加減というものができていたかは怪しいものだ、その炎を完全に防がれた
自らの悪魔としてのプライドさえ崩されかねない事実に、アモンはほんのわずかにではあるが動揺していた
自分の炎を防げるようなものは同格の悪魔でさえそういない、なのに目の前の人間は、ただの能力者のはずのその人間はそれをあっさりやってのけたのだ
「どうだ陽太、やれそうか?」
「やれるも何も楽勝だな、こんなのが続くならいつまでだってやってられるぜ」
陽太のその言葉に静希は苦笑してしまう、心配するようなことはなかったかなと思いながら静希は周囲を確認する
「町崎さんの部下の人達は?」
「周りで消火活動に勤しむってさ、俺はとにかく暴れてりゃいいんだろ?」
「あぁ、この場にあいつを押さえこんでいりゃそれでいい」
消火のできる能力者はこれ以上周囲の森に被害が及ばないようにしているのだろう、それはそれで有難い支援活動だ
これ以上火事が広がるのはまずい、こちらも行動がしにくくなってしまう
「それじゃあ陽太、この場は任せたぞ、俺はさっさと前に行く」
「オッケー、この場は任された、とっとと行ってこい」
まるでいつもの調子でそんな会話をした後、静希は悠々と前進を始める
この場はすでに陽太に任せた、自分の出る幕はない、ならば自分は前に進むだけだ
アモンの少し横を通り過ぎようとしたところで、静希は一瞬止まる
「このまま通すと思うか?」
「あぁ通すさ・・・っていうかお前じゃ俺は止められない」
あの時とは逆になったなと告げて静希は再び歩みを始める
アモンが能力を発動しようとするが、その瞬間陽太の拳がアモンを捉え、殴り飛ばした
「おい犬っころ、俺が静希にとっとと行けっていったの聞こえなかったか?邪魔はさせねえぞ?」
静希の進路を邪魔するわけにはいかない、静希に襲い掛かる攻撃はすべて自分が止めて見せる
陽太は今まさに前衛としての仕事をこなしているのだ
静希がここを通ると言った、ならばそれを実現させるのが自分の務めである
「そうだ陽太、一つ言い忘れてた・・・俺からのオーダーはそいつをここに足止めすることなんだけどな、鏡花姐さんからお前への言伝が一つあるんだわ」
「マジでか・・・一体どんな?」
「『蹴散らしなさい』だとさ」
たったそれだけの言葉に陽太は目を丸くした後笑い始めていた
鏡花はできないことはやらせない、できないことはやれと言わない
陽太は一年以上の鏡花との訓練でそれを理解していた、鏡花が蹴散らせと言ったのであればそれはできる事なのだ
悪魔相手に、時間稼ぎではなく勝利しろと言ってのけたのだ
「ハハハハハハッ!いいね鏡花姐さん!相変わらず俺のツボをいい感じに刺激してくれるじゃねえの!」
鏡花からの言葉を受けて陽太はさらに意気高揚していた
先程までのやる気をさらに上げる程の炎がその体から巻き起こっているのがわかる
体の奥から力が湧き上がるような感覚、今までの訓練でも何度かあった感覚だ
力が溢れすぎて制御できないのではないかと思えるほどに、今の陽太は心の底から湧き上がっていた
「良いぜやってやろうじゃねえか!テンション上がってきた!」
その様子に静希はあんまりテンション上げ過ぎるなよと忠告しようと思ったのだが、せっかく絶好調に近い状態の陽太に水を差すこともないなと思い、そのまま陽太に背を向けて歩き出す
それを見届けると陽太は目の前にいる悪魔に近づいていく
「さぁやろうぜ?なんて言ったっけお前の名前?」
「・・・アモンだ・・・」
「そうかアモン、んじゃとっとと始めようぜ、悪魔か鬼か、どっちが強いかここで決めようぜ」
陽太は両腕にあった盾を拳に戻し、拳同士をぶつけて自らを鼓舞している
目の前にいる存在が上級悪魔だという事は理解している
先程から自分に放たれる殺気はメフィのものと相違ない、いやもしかしたらそれ以上かもしれないほどの圧力を陽太に向けている
だがそれでも陽太は負ける気がしなかった
どうしてだろうか、根拠はない、普通に考えれば能力者が悪魔に勝てる道理などないはずだ、それは陽太自身わかっている
だが鏡花の言葉が陽太を後押ししていた
蹴散らしなさい
たったそれだけの言葉だ、たったの七文字が陽太に確信に近いものを与えていた
自分はこの悪魔に勝てると
「人間風情が・・・舐めるなよ・・・!」
「悪魔如きが・・・調子に乗んなよ・・・!」
同じく炎をつかさどる悪魔と鬼が今このとき衝突しようとしていた
周囲に熱と殺意を振りまきながら一つの戦いが始まった
本気投稿、誤字報告十件、評価者人数385突破で四回分投稿
この部分かなり長かった記憶があるんだけど案外早かった・・・
これからもお楽しみいただければ幸いです




