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J/53  作者: 池金啓太
三十三話「世界の変転 後編」

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始まる戦い

「あ、そうだ先生、今のうちに先生に渡しておくものが」


「ん?なんだ唐突に・・・」


「とりあえず手を」


静希が城島の手を握ると、その数秒後に城島は唐突にその手を離し静希から距離をとった


自分の手と体を触れながら、静希の方を睨んでいる


「どういうつもりだ五十嵐、ひょっとして私に喧嘩を売っているのか?」


「そう言うつもりはないですよ、万が一の備えです、役に立つときがくるかもしれませんからね」


城島は静希を睨み、僅かに殺意さえ向けている


静希が一体城島のどんな逆鱗に触れたのかは知らないが、今まで見せたことのある怒りの表情の中でもかなり上位に入る殺意を向けているということがわかる


一体何を


今この場にいる中でそれを理解しているのは鏡花だけだった


「使えるものは何でも使う、そうやって生き残ってもらわないと前原さんに顔向けできないんで・・・どうするかは先生にお任せします、でもその方がいろいろ便利ですよ?」


城島の婚約者である前原を引き合いに出されたことで彼女は顔をひきつらせながら静希を殴ろうとしていた手を抑えようと必死になっていた


どうやら迷っているのだろう、実際静希がとった行動は理に適っているのだ、それを行ったほうがいいだろうとほとんどの人間が思えるほどに


だが一部の人間、特に城島の事情を知っている人間なら猛反対するだろう、そう言う手段を静希はとったのだ


「・・・お前は本当にいい性格をしているな・・・これから作戦が開始されるような状態でなければ思い切り殴りたいくらいだ」


褒め言葉として受け取っておきますよと静希は笑っているが、その顔に冷や汗が滲んでいることに鏡花は気づいていた


さすがの静希も城島を怒らせることに関してはリスクが高いのだろう、何より世話になっている城島を怒らせるとどういう目に遭うのか知っているだけにかなり精神的に疲労がたまったことだろう


逆に言えば、静希が狼狽するほどに城島の逆鱗を思い切り触りまくったという事である


陽太と明利は一体何をしたのかわかっていないようだったが、鏡花はその理由を理解しているためにため息をついていた


「あんたね、やっていいことと悪いことがあるって学校で教わらなかった?」


「そりゃ随分前に教わったな、そう言うのは余裕があるときにすればいいんだよ・・・今はその余裕はない・・・まぁ俺たちが無事生き残った後、俺にさらに命の危険が降りかかるってくらいだ・・・」


いくら勝率を上げるためとはいえ、城島に対して失礼なことをしたのは事実だ、教育指導など目じゃないほどの私的制裁があっても不思議はない


というか静希がやったことを考えれば顔の形が変形しても不思議はないほどに殴られてもおかしくないのである


自分を犠牲にしてまで生存率を上げる、いや勝率を上げるという考えをするあたりが静希らしいというべきか、城島を怒らせているという時点で静希の生存率は著しく低下しただろうがそのあたりは必要経費なのかもしれない


「鏡花ちゃん、静希君は先生になにを渡したの?」


「え?・・・えっと・・・それは・・・」


鏡花が城島の方に目を向けると城島は強く鏡花を睨んできた


話したらお前も教育指導してやるからなとその目が伝えてくる


そんな目を向けられてしまっては鏡花としては何か言うことはできるはずもない


静希の巻き添えで自分まで危険にさらされるのはごめんなのである


「ごめん明利、私から話すことはできないわ・・・」


「で、でもすごい怒ってるよ?何か悪いことしたんじゃ・・・」


「そうね・・・まぁその・・・悪いことになるのかしら・・・」


本来ならばよいことなのだろうが、城島にとっては最悪と言っても過言ではないほどに悪いことなのだ


それこそ彼女が今まで拒否してきた、否定し続けてきたことを笑顔で肯定するようなことをして見せたのだ、怒られるのは当然、さらに言えば恨まれても仕方がないようなことをしている


城島自身静希がなぜそのようなことをしたのか理解はしているのだろう、だからこそ殴るだけで済ませるかもしれないがそれだけでは済まない程の憤りを感じているのも事実である


「明利、もし静希がぼっこぼこにされることがあっても黙って見ているのよ?じゃないとあんたまで危ないことになるからね」


「で・・・でもそれじゃ静希君が・・・」


「いいのよ、静希はそれを覚悟したうえで城島先生にアプローチをかけたんだから、自分で選んだ結果そうなることを選んだのよ」


鏡花はすでに静希が城島にタコ殴りにされる光景をイメージできてしまっていた


もしかしたらその行為に加担させられるのではないかと思えるほどである、静希を釣り上げてサンドバッグのように殴り続けている城島の光景がイメージできたが、さすがにこれはやりすぎかもしれないなと思いその想像を消し去っていく


だが間違いなく静希は殴られるだろう、それが一発か、それとも数十発かは城島の機嫌次第だ


せめて肉体的欠損がないレベルで留めてくれればいいのだがと鏡花は静希の未来を案じていた


オロバスに予知でもしてもらうべきだろうかと鏡花は考えながら、ある種覚悟を決めた静希の情けない顔を見ながらため息をついていた


静希に一通りの殺意を向けた後、城島はベッドに腰掛けて目をつぶって何やら瞑想を始めてしまっていた


その行動の意味を理解しているのか、静希と鏡花は城島の方を心配そうに眺めている


そんな中、装備の点検や部隊の指揮が終わったのか町崎が静希達の下へやってきた


部屋に入るなりしかめっ面の状態で目を瞑り瞑想している城島を見て不思議そうな顔をしていたのが印象的である


「・・・あいつは一体何をしているんだ?」


「えと・・・集中力を高めているみたいです」


「・・・そんなことする奴だったかな・・・?」


高校時代城島と同じ班で活動していた町崎だがあんな行動をとっているのは初めて見る


一体どういう心境の変化があったのだろうかと不思議そうにしている中自分に静希達の視線が集中していることに気付いた


「一応こっちの準備は万端だ、あとは君たちのフォローをすることに徹する予定だけど・・・何か希望などがあればそれに従うが・・・」


今回の主力は軍というより静希達悪魔の契約者の方が重要度が高いと理解しているのだろう、できる限り静希達が行動しやすいだけの状況を作ることに徹する予定のようだった


こちらとしても話が通じる人間がいるだけでありがたい、特にこちらの戦力をあらかた理解している分話が通りやすくなる


「じゃあ・・・町崎さんの部隊の中で消火活動できる人はいますか?」


「消火か・・・何人か該当する奴はいるな」


「じゃあその人たちを陽太に付けてください、あいつの戦闘で周囲に被害が出ないようにしてほしいんです」


陽太の戦闘は良くも悪くも周囲へ及ぼす影響が大きい


特にそれが森林地帯となるとその傾向は顕著なものになる、なにせ陽太は炎の塊になるようなものだ、周囲に可燃物があると一気に火災に発展する可能性がある


しかも相手にも炎を使う悪魔がいるのだ、火の手を少しでも抑えるために消火活動ができる人間を陽太に付けておくのは必要事項である


「わかった、指示しておこう・・・他に何かあるかな?」


町崎の言葉に静希は悩み始める


現状を考えると陽太への補助以外に思いつくことはない、なにせ自分たちが配置されるのは中央後方、最も安全と思われる場所だ


そんな場所で奇形種を相手にする露払いを頼んだところではっきり言って仕事は無いように思えるのだ


自分が相手ならどうするだろうか


その思考を重ねた時一つの可能性を思いつく、そしてそれを阻止するためにはどうしたらいいかも


「それじゃあ、先生と一緒に行動していてください、先生に大まかな情報を教えておきますので」


「ん・・・わかった、その内容はあいつから聞き出せってことだな?」


今ここでそれを言わないことに何か意味があるのだと察した町崎は、それ以上何も聞こうとはしなかった


静希がもっとも警戒しているのは目に見える奇形種だけではない


今のところ姿が確認できていない悪魔と、その契約者だ


さらに言えば悪魔よりも契約者の方がはっきり言って警戒の度合いは強い


悪魔というのはその外見から発見が容易だ、その気配から近くにいればわかるが契約者というのは悪魔を連れていなければただの人間でしかない


つまり人ごみに紛れてしまえば判別できなくなってしまうのである


幸か不幸か今回の現場の近くにはキーロフという町がある、その中に契約者が紛れているようなことがあればこちらへも被害が出る可能性がある


恐らくラヴロフもそのあたりは予想しているだろう


だからこちらの手札を一つ切っておく必要があるのだ


背中を預ける人間がほとんど何も知らない他人同然のものというのははっきり言って居心地が悪いのである


それならば手段を一つ失ってでも確実にしておいた方がいいのだ


戦況がひっくり返るような状況があるとすれば、自分たちが予想もしていなかった敵性戦力の存在である


確認できている悪魔と契約者があの陣地内にいるとは限らないのである


万が一をなくすため、確実に勝利するため、できる限りの手は打っておきたいのだ


「・・・で、あいつは何時まで瞑想をしているつもりなんだ?」


「さぁ・・・いろいろと思うところがあるみたいでして・・・」


城島はベッドに腰掛け眉間に寄せたしわを一層強くしながら腕を組んだ状態で目を瞑り瞑想し続けている


傍から見れば異様な光景だ、少なくとも町崎はあの状態で集中力を高めるということができるとは思えなかった


「ああやって眉間にしわを寄せているのを見るのは高校のとき以来か・・・なんだか懐かしいな」


「高校の時はいつもあんな感じだったんですか?」


「あぁ、高校時代あいつはひどく荒れていたからな・・・俺たちの前でもあぁやって眉間にしわを寄せていたよ」


ついでに言えばひどく攻撃的だったなと町崎は思い出すように笑っている


高校時代の城島のことを静希達は話に聞いている程度しか知らない、それ以外に知っているものと言えば一枚の写真くらいのものだ


完全奇形を打倒した時の一枚の写真、帽子に隠れた城島の表情は、今のように眉間にしわを寄せているものだったのだろうか



「そうだ、五十嵐君、君に渡すものがあったんだ」


「俺に?」


静希が疑問符を飛ばしていると、町崎はいくつかの装備を扉の向こうから運んできた


それらは軍の標準装備の数々だった、本来なら一般人などは手に入れることのできないような兵器の数々と言い換えればわかりやすいだろうか


銃火器だけではなく各種兵装が揃えられており、かつての静希であれば喉から手が出るほど欲したものだった


「こんなにたくさん・・・いいんですか?」


「あぁ、君たちへの支援は惜しまない、好きなのを使ってくれて構わないよ」


中には明らかに学生に持たせるべきものではないものまで存在する、そんなものを持たせてくれるあたり今回の作戦にかけているものの重さがうかがえる


いちいち体裁などを保っていられるような状態ではないという事だ


静希はいくつかの装備を選別して手に取っていく


「鏡花、これを俺の外装に取り付けてくれるか?」


「はいはい・・・これとこれ・・・あー・・・どうしよ・・・」


装備を新たに取り付けるのはいいのだが、問題はその装備が重すぎないように、さらに言えば装備同士が干渉しないようにしなければいけないのだ


鏡花からすれば慣れた作業ではあるとはいえそれでも時間がかかりそうだった


自分の体に装備できるものはそれぞれベルトなどに装着していき、一見するとこれから戦争でも起こすのではないかという姿になっていた


戦いに行くという意味では間違っていないだろう、だがこの装備を扱いきれるかと聞かれると静希は自信がなかった


「一応できたけど・・・それなりに重いわよ?大丈夫?」


「ん・・・まぁまぁ許容範囲、訓練で背負ってる荷物よりは軽い」


何度か訓練で重たい荷物を背負ってのランニングも行っているのだ、それに比べればまだましな重さである


無論片腕だけ重くなってしまっているのでその分体が傾くかもしれないが、それもまた仕方のないことだ、トランプの中身を消費しないで戦えるのであればそれに越したことはない


「使い方はそれぞれ近くに引き金やらピンを作っておいたわ、パージもできるようにしておいたから使い切ったらすぐに取り外しなさい」


「了解、さすが鏡花姐さん仕事が早い」


「何度も何度もあんたに厄介な仕事を頼まれてきたからね」


今まで面倒な仕事ばかり押し付けてきたことが経験になってきたのだろうか、装備を外装に取り付ける程度であればまったく問題にすらならないようだった


今まで鏡花に面倒な仕事を頼んできてよかったと、静希は心の底から思っていた、その分面倒をかけていたことは反省すべきかもしれないが


この外装に取り付けられている装備はそれぞれ射撃系、炸裂系、そして投擲系に分かれる


それぞれを使い切ったらパージしていき、どんどん身軽になっていくのだ


もちろんこれは静希の戦闘継続能力を高めるための後付けの装備でしかない

今回は長期戦が想定されるのだ、どこに相手がいるのかもわからず、相手の数も不明な状態ではいくら装備があっても足りはしない


その為静希はいくつもの弾薬などを体に付けていた


その分体が非常に重くなるのだが、泣き言は言っていられない


「鏡花たちもなんか武器を持っておいた方がいいんじゃないか?なんかしら使えるものがあるだろ?」


「そうね・・・まぁいくつか貰っておくわ・・・銃は使えそうにないけど」


鏡花は静希や明利と違って射撃の訓練をほとんど受けていない、その為軍で使うような銃は全くと言っていいほど使えないのだ


無論能力を使えばそのあたりも何とかできるかもしれないが、そこまでして銃火器を使う必要もないと思ったのである


操られているとはいえ相手が奇形種であるならやりようはある、それこそ今までやってこなかったことをしてでも倒せばいいのだ


「陽太は・・・まぁ必要ないか」


「おおよ、俺はこの体が資本だからな」


陽太の能力は武器や道具といったものと相性が悪い、その為に近代兵器などはほとんど使えないに等しいのだ


「明利は?必要なものがあれば使ってもいいみたいだけど・・・?」


「私は・・・いいや、鏡花ちゃんが作ってくれたボウガンがあるし」


明利の遠距離からの狙撃はそれなりに技術はあるだろうがそれはあくまで止まった的などに対しての狙撃だ


相手がいつまでも止まってくれているとは限らない以上当たらない弾を撃っても仕方がない


それなら自分の能力との相性の良いボウガンを選択することにしたのだ


この中で現代兵器の力を借りるのは静希と鏡花だけということになる


能力者として正しいかどうかは知らないが戦力が増強されたのは確かである、もっとも付け焼刃のそれに等しいかもしれないが


「それじゃあ町崎さん、これはありがたく貰っておきます」


「あぁ、役立ててくれればうれしいよ、こっちはこっちでやることはやっておくから」


町崎の心強い言葉を受けながら、静希は最後の装備点検を始めていた


動作の仕方や取り外し方など、確認しておくことは数多い


鏡花から指南を受けながら静希は左腕に装着された装備を確認していた









作戦開始まであと三十分


静希達は駐屯地の一角に集まっていた


それぞれが装備を身に着け、それぞれが自分たちが出撃するゲートの前に立っていた


作られたゲートは全部で三十五、それぞれの部隊の配列通りに配置しており、そのまま直進する形で進行できるように設置されたものである


十五のゲートを使って能力者の主力部隊を投入し、その後方にある二十のゲートから火砲支援用の戦車とその護衛部隊が出撃することになっている


後方支援部隊が奇形種との戦闘を行い、安全を確保した状態で作り出した道だ


彼らは仕事を終えたあとは実際に戦う自分達の仕事である


既に他の能力者部隊も戦闘準備を終えている、さらに言えば援護用の戦車部隊もすでにいつでも発進できるように整備を終えている


準備は万端という事である


「やぁミスターイガラシ、随分重装備じゃないか」


静希の姿を見たエドが薄く笑いながらそう話しかけてくる


言葉の通り、静希は重装備だ


左腕に取り付けられた外部装甲に加え、町崎から与えられた各種装備を身に着けている、一見すれば兵士よりも重装備に見える程である


「仕方がないだろう?今回は少し頑張らないといけないんだ、そうしないと世界が終わりかねないからな、そう言うそっちは随分と軽装だな」


「フフ・・・確かにそうだね・・・まぁ僕は戦わないようにするのが一番ってところさ」


静希に比べるとエドは比較的軽装だ、防弾や防刃ベストなどを身につけているものの、あとはほとんど何も身に着けていないと言ってもいいほどである

唯一持っているのは腰に下げられた拳銃くらいだ、その程度の装備で大丈夫なのかと聞きたくなるほどである


「ったく・・・ミスアイギスはしっかり装備を整えてるっていうのに・・・女性にエスコートされるなんてみっともないと思わないのか?」


「それは・・・まぁ得手不得手があるってことさ」


静希のいうようにカレンは静希に負けず劣らずの重装備だ、元々彼女は軍属だったという事もありこのような装備は非常に似合っている


迷彩服に加え軍支給の銃器を所持し、弾倉に手榴弾などを持った完全なる戦闘態勢と言っていいだろう


隣に軽装のエドがいなければ軍人と見間違うほどである


「君も負けず劣らずの装備じゃないか・・・むしろ私よりもしっかりと装備しているように見えるが?」


「まぁな、いろいろとやることがありそうだから万が一ってことだよ」


その言葉にカレンは少し表情に影を見せた


先程静希に言ったことをまだ気にしているのだろうか、思いつめるあたりカレンらしいというべきだろうが、今はそんなことを気にしているだけの余裕はない


「ところでミスターパークス、あの子供たちは?」


あの子供たちというのはアイナとレイシャのことだ


現状あの二人の能力は有用とはいえはっきり言って危険すぎる


連れていくのかどうかというのはエドの判断次第だろうが、静希としては一ヶ月一緒に暮らしていただけに気になってしまっていた


「彼女たちは今回は後方支援だ、特に戦車部隊への細工を行ってもらう、それが終わったらここに戻ってくるように指示してあるよ」


「リットには二人の護衛を任せてある・・・安心してくれていい」


戦車への細工、それはつまり戦車を透明化してしまうという事だ


後方からの砲撃支援に徹するのであれば戦車の姿は隠しておいた方がいい、そう言う時にアイナの迷彩能力は非常に役に立つのだ


万が一砲撃場所を特定されるようなことがあってもある程度誤魔化すことができるのだから


アイナとレイシャのことだ、自分の役割を終えたらしっかりと自分たちがいるべき場所に戻るだろう


そしてリットが護衛として付いているのであれば安心できる、彼はカレンの使い魔だ、カレンの命令にはしっかりと従ってくれる


ともなればアイナとレイシャがもし暴走するようなことがあっても引き留めてくれるはずである


「ミスアイギス、貴女に頼みがある、うちの鏡花たちと一緒に行動してはもらえないか?」


「・・・それは構わないが・・・」


何故といいかけてカレンは口をつぐむ


鏡花の能力とカレンと一緒にいるオロバスの能力は非常に相性がいい


膨大な規模の変換能力と予知能力というのは合わせれば非常に強力だ


その上鏡花と行動を共にする明利は索敵手でもあるのだ、それぞれの現状を把握したうえで予知を行えば支援活動はより高度なものになる


「・・・わかった、君の連れは私が守ろう、安心してくれていい」


「・・・あぁ、任せたよミスアイギス」


静希の本音を言ってしまえば、悪魔の契約者であるカレンを近くに置くことで鏡花と明利を少しでも危険から遠ざけようとしたのだ


予知能力を持つ悪魔、明利の索敵に加えてオロバスの近くにいれば不意打ちの可能性は限りなく低くなる


鏡花たちがやられる可能性があるとしたら不意打ちだ、正面切っての戦いであれば悪魔が相手でもある程度は耐えることができるだろう、不意打ちさえ気を付けていれば鏡花と明利の安全は確保できたようなものなのである


作戦開始まであと少しとなった時、全員がゲートの前に集合し作戦開始を待っていた


それぞれの戦闘準備はすでに終了、いつでも出撃できるという頃にラヴロフが全員に向けて声明を出していた


最後の演説といったほうがいいだろうか


この戦いがいかに重要であるかを説き、この戦いに世界の命運がかかっていることを知らしめ、なおかつ我々に正義があるのだと力強く述べている


「正義か・・・随分と重苦しいものを背負わされたものだね」


「まったくだ、正義の味方なんて冗談じゃない」


相手はテロリストのようなものだ、いや思想など目的がないという意味ではテロリストと同一視することすらおこがましい


そう言う輩を倒すという意味では、今の静希達は悪役を成敗する正義の味方のようなものなのだろうか


だが静希からすれば正義の味方などなるつもりもなければなりたいとも思えなかった


正義とは、書いて字のごとく読んで言葉のごとく、正しい義を行うものだ、常に正しくあるからこそ、正しさを守るための尖兵となるものだ


静希はそんなものを守るつもりはない、正しさよりもなしえなければならないものがあることくらいは知っている


無論、正しいに越したことはないだろう、だが正しさとはそれつまり民衆の支持を得られるかどうかで決まる


かつて能力者を処刑する魔女狩りが正義であった時代があったように、その時々の人々の考えによって正義とは変わるものだ


時代と場所によって変わる、それが正しさであり正義であり、所謂常識とも呼ばれるようなものである


結局のところ、正しさとは見ず知らずのどこかの誰かによって決められるものなのだ


そんなものを守るつもりなど、静希はなかった


「君からしたら、小悪党の方が性に合ってるかな?」


「あぁ・・・自分の好きなように勝手気ままに動いてるほうが性に合ってる・・・もっとも向こうもそう言う考えの奴だろうけどな」


静希と同じ、あるいはそれ以上に頭のネジが外れた人間が存在する、静希はそれこそリチャード・ロゥの本質だと思っていた


自分さえよければそれでいい、自分の理論を証明できればそれでいい、自分が見たいものを見たい、自分の行きたいところに行く、その為には他のものがどうなろうとどうでもいい


そう言う独善の塊のようなものがリチャード・ロゥなのだ


静希と似ている


静希は自分と、その身内が無事でいればそれでいい、その身内が幸せであればそれでいい、身内に被害が及ばないようにしていてくれるのであれば、静希だって他がどうなろうと知ったことではない


独善的、周りの人間は静希をそう評価するだろう


だがそれでいいのだ、別に誰かに褒められたくてそうしているわけではない、自分がそうしたいからそうしているだけなのだ


他人よりも自分とその身内を優先する、少なくとも正義を振りかざすような人間とは程遠い、それが静希という人間だ


だからこそ、リチャードがどのような手段を講じてくるのかが、ほんの少しだけ理解できてしまう


同族嫌悪とでもいえばいいのか、同じようなことを考えている人間の行動は大体読めてしまうのだ


それこそテオドールと同じような感覚である


認めたくないがあの男も静希とどこか似ている、そしてリチャードとも


故にわかる、何をしてくるのかが、どのような手を打ってくるのかが


そしてそれに対する策もすでに打った


戦いにおいて重要なのは数と装備と作戦、そして事前準備である


前もってその事態を想定して行動することができるかどうかが作戦の成功率に関わってくるのである


ラヴロフのカウントダウンが聞こえてくる中、静希達は集中を高めていた


「んじゃ行くか・・・あの野郎今度こそ思い切りぶん殴ってやる」


「ハハ、穏やかじゃないね、何とも君らしい」


静希とエドが笑う中、鏡花と明利、そしてカレンは静かに集中を深めていっている


陽太は自分達よりもひとつ前のゲートから出発する、すでに配置を変えられているのだ


そして陽太の周りには町崎の部隊の人間が何人か配置されている、すでに準備は万端だ


静希達の周りには町崎の部隊の本体が、そして静希とエドの近くには転移能力者がそれぞれ配置されている


何時敵と遭遇してもいいようにそれぞれ準備を進める中、静希はトランプの中にいる人外たちに注意を呼び掛けていた


これが最後かもしれない


リチャードの起こした召喚事件を発端に巻き込まれた数々の面倒事、それが今日終わるかもしれない


「それでは、諸君らの武運を祈る・・・作戦開始!」


カウントがゼロになると同時に静希達は全員ゲートに向けて走り出す

相手は悪魔の契約者とその取り巻き


目的はリチャード・ロゥと召喚陣の排除及び停止


世界の命運などという背負いたくもないものを背負わされた戦いが始まろうとしていた


本気投稿中で2.5回分投稿


ようやく千話ですよ、ここまで長かった


これからもお楽しみいただければ幸いです

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