試合の前に
翌日朝十時三十分
「逃げずに来たのね、あれだけ自信満々だったんだから少しは抵抗してよね」
「おはよう、静希君、陽太君」
「おはよう明利、こいつに根掘り葉掘り俺達のこときかれたか?」
「うん、いろいろ教えてあげたよ、静希君はクマすごいよ?」
「あぁ、準備もろもろでほぼ徹夜だ、さすがに眠いよ」
「無視してんじゃないわよこら」
あいさつもほどほどに明利は鏡花の横に立ち、静希は陽太の隣に立つ
「これで遺恨もいいわけもなし、結果がすべてだ、いいな?」
「もちろんよ、叩きのめして後悔させてあげる」
「こっちの台詞だ、腰抜かすなよエリートさん」
「怪我だけはしないようにね」
すっかりテンションが上がっている三人に対して明利だけは異様に冷静だ、もはや諦めていると言ってもいいだろう
「対戦相手が決まったら報告に来い、その順番でとっとと演習はじめっからな、監査員の先生方待たせんなよ」
「はいはーい!せんせーきまってまーす」
陽太が元気よく手をあげると、審査員と監査員が四人の近くにやってくる
「能力名と氏名を教えてください」
「藍炎鬼炎、響陽太」
「歪む切札、五十嵐静希」
「万華鏡、清水鏡花」
「慈愛の種、幹原明利」
それぞれ能力名と氏名を述べると審査員が名簿に記入していく
「組み合わせは?」
「俺と静希、明利と清水のチームです」
「おぉ、清水、仲間外れにされてないみたいだな、よかったよかった」
手続きをしていると城島が半笑いでこちらにやってくる、さすがに担任というだけあって気にはしているようだが、相変わらず目が見えないから本当に笑っているのかどうかも定かではない
「仲間外れではないかもですけど、今は敵です」
「手加減してやれよ?こいつらはお前よりずっと成績悪いんだから」
「いいえ、こういうのは全力でやらなければ意味がありません、今回は特に」
どうやら鏡花は敵意を全て静希に集約しているようだ、当の静希は涼しい顔をしながら鼻で笑っている、その動作がさらに鏡花の怒りを加速させた
「さっさとやりましょう!準備はOKです」
「では清水、幹原両名は北門から、五十嵐、響両名は南門から入ってください、門の時計が動き始めたらスタートとします」
先も説明したがこの学園の演習場はかなり広い、区画で分かれているこの森林地帯の演習場自体も広さは普通のグラウンドと同じくらいの広さがある
それを金網でくくり、東西南北のゲートが設置されている、その門にはタイマーがあり、その記録が始まると同時に演習開始だ、ほとんどの場合この演習場を使う際は一日消費されてしまうのが難点である
「じゃあね、正々堂々といきましょう」
「あぁ、いい試合をしよう」
二人で握手をしたのちにそれぞれ開始地点に向かって歩き出す
「ねえ幹原さん、あいつらどんな策でくると思う?」
「んん・・・私の能力は後半になると有利になるから直線的に来るんじゃないかな、できる限り早く勝負を決めるか・・・または」
「または?」
「・・・本気でくるか・・・」
「本気?」
北門に向かう鏡花、明利の二人は話しながらこれからの考えをまとめているが、明利の方はあまり気が進まないようだった
「あの二人が、静希君が本気になるとろくなことにならないの」
「ふーん、でも五十嵐って収納系統でしょ?そんな何とかなるイメージないけど」
「怪我だけはしないようにね」
「そうね、注意しましょ」
明るく歩きだす二人とは対照的に、そのろくなことにならないと称された静希たちはというと
「で?どうするんだよ静希、作戦」
南門に移動中の静希陽太両名は作戦についての確認をしていた
「徹夜のかいあって何とか間に合ったからな、最初に予定していた作戦で行くんだけど・・・」
トランプを操りながら得意げにしているのだが、その顔に陰りが見える
「問題は相手なんだよなぁ」
「あぁ、相手は明利だからなぁ、即行で接近しておきたい」
すぐさま静希の顔は邪笑に変わり、陽太を不安にさせる
「とはいったものの、明利には怪我をさせないようにしないとな、上手く工夫しないと」
そういうが顔は邪笑のままである、本気でまずいかもしれないと陽太も思い始めている中、二人は南門に到着した




