イルベリードラゴンのテールステーキ ディアドラス風(2)
「とりあえず味見しなきゃならないんですが。鱗があって、でも中が肉っぽい……これ爬虫類系の尻尾ですかね?」
先がないせいでわかりにくいが、骨を中心にした円筒状っぽい肉の付き方をみると何となくそんな感じだ。
「あたり。先っぽは殿下のとこ。討伐証明に必要だからさ」
「本体はどうしたんです?」
ふと疑問に思う。
これだけの尻尾なら、本体部分はもっと多くの肉がとれるだろう。
「あー、本体は氷漬けな部分と炭になった部分があってさ」
「食材にはならないんですね。だったら、いいです」
すぐに栞は興味を失った。食材でない以上、栞には関係がない。
「こっちには、こんなに大きな尻尾のある爬虫類がいるんですね」
「まあ、結構いるね。迷宮のエリアボスとかはだいたいサイズ大きいしね」
「殿下、大丈夫なんですか?」
「あー、あの人、あれで強いんだよ。剣も魔法も」
「へえ」
「毎食、君のプリンが食べたいって大騒ぎだったけど」
「……殿下がいないとあのハンマーの出番が少なくてすみます」
目線で、壁にかけられている玉子割り専用特製ハンマーをさししめす。
「それ、言外にいないほうが楽でいいって言ってる?」
「言ってませんよ、そんなこと。酷いこと言わないで下さい、メロリー卿」
思ってはいても言葉にはしない。それが社会人の必須スキルというものだ。
「シリィちゃんが冷たい。でも、そこがいいんだよね」
栞はこちらに来てからも日夜鍛え続けているスキルで、きれいさっぱりメロリーのセリフをスルーした。
「リア、大鍋と小鍋にお湯沸かして」
「はい」
(皮はまあ食材にはならないとして、骨は髄はとれるでしょ、スープになるかしら?)
栞はこちらに来て初めて爬虫類を食材として扱った。
日本でも、修行先のフランスでも爬虫類を扱ったことはなかったのだ。
(カエルは両生類だしな……エスカルゴもたぶん爬虫類じゃないし……あれは虫になるの?)
こちらの世界では、爬虫類……という分類が正しいのかはよくわからないが、栞がトカゲ属として一括りにしている食材がとても一般的に食べられている。
一番多いのは鳥類で、牛や豚はあまり一般的ではない
牛はどんな種類でもかなりの高級食材になるし、豚にいたってはかなりの珍味になる。こちらでは養豚という職業が確立されておらず、純粋に栞が知る豚肉はお隣のハイデッカー公国でしか手に入らない。あとはよく似てはいても猪肉だ。
(まあ、おいしければ豚でも猪でもいいんだけど)
食材はできるだけ安く安定して供給されるものがいい。
その関係で、当初はえーっと思っていた爬虫類も普通に調理できるようになった。
一番最初に調理した爬虫類が、足が申し訳程度にしかついていない……見た目、大きな蛇みたいなロンゴロンゴ大トカゲだったせいでそれほど抵抗感がなかったこともある。
蛇も調理したことはなかったが、鰻は普通に調理するしアナゴも似たようなものなので、栞的にはたいした差ではなかったのだ。
(好き嫌いがあんまりなくてよかった。……虫は無理だけど)
たぶん向こうの友人達に話したら、そういう問題じゃないと突っ込まれるだろうが、大雑把な栞はそれで済ませておく。その方が心穏やかで居られるのだ。
「殿下が夜にはこれで何か食べられると嬉しいって」
「お帰りになるんですか?」
「うん。夜には戻るよ」
「殿下のお夕食だけでいいんですか?」
「いや、全部で6名分で」
「わかりました」
食材の仕入れは殿下側がしている。使えるか使えないかの選別はするし、リクエストもするが、仕入れまでは手が回らないのが現状だ。
珍しい食材や、かなりの高級食材もあるらしいが、栞はいくらで仕入れているのかよく知らなかったりもする。
(肉類とかは半分以上、狩りの獲物だし……)
殿下たちは月に一度は大迷宮に潜る。今回のように一週間も潜ることは珍しいが、日帰りだったらしょっちゅうだ。仕入れのコストを下げる為に自分たちで食材を狩って来るのだ。
「そうですね。何とかしてみます。で、これ、何の肉ですか?」
「んー、内緒!教えて欲しいかい?」
意味ありげな流し目を見せるが、栞はまったく心惹かれなかった。
「いえ、いいです」
「そのクールなところがいいよね、シリィちゃんは!ゾクゾクするよ!」
嬉しそうに笑う表情に、栞は眉を顰める。
(いつものことだけど、この人、ちょっと変だよね?)
顔がいいせいであまり周囲は気付いていないようだが、栞にはそこはかとなく変態っぽい空気が感じられてならないのだ。
「ところで、これ、屠殺して何日目ですか?冷凍魔法はかけてないですよね?」
「あー、討伐したのは2日前かな。うん。魔法はかけてない」
「わかりました」
これまでのいろいろな経験と知識から、爬虫類の肉は殺してから概ね三日くらいで熟成がちょうど良いくらいになる。
熟成しきる直前くらいにとめておくのが保管のタイミングとしてはベストだ。
(ブロックに解体して、ちょっと残したら、あとは全部氷室に突っ込もう)
しばらくはこの肉がメインの材料になりそうだった。あとはどんな風に調理をするのが一番おいしく食べられるのか試行錯誤の毎日が続くだろう。
(今日は、一番簡単にステーキかな)