ドガドガ鳥の新鮮卵とホロウ牛のミルクを使って作ったプリン(5)
「お師匠様、おまたせ」
「三個もありゃ、いいよな?」
背負い籠から出された卵は、淡い蛍光グリーンとイエロー、それから、赤と白のまだら模様だった。同じ生き物の卵とは思えないが、ドガドガ鳥の場合、卵の殻は食べた餌によって色が異なるだけなので問題はない。
「ええ、ありがとう。二人とも、怪我はない?」
このホテルの裏庭では五羽のドガドガ鳥が飼育されている。
ドガドガ鳥は別名を朝告げ鳥という。迷宮の門は、迷宮詰所で飼われているドガドガ鳥が鳴くと開けることになっているからだ。
このホテルでも、ドガドガ鳥が鳴いたら朝の時間のはじまりだ。そこからきっかり一刻でレストランや食堂が開店する。
簡単に言えば、目覚まし時計がわりとして飼われているようなものだ。新鮮な卵も取れて一石二鳥だ。
「おう」
「大丈夫!」
「そう。じゃあ、割るわよ」
栞は大きくハンマーをふりかざした。
一応、このハンマーは魔道具の一種だ。人間の平均的な筋力しかない栞であっても、この魔道具を利用すれば卵が割れる。
「せーのっ」
ディナンとリアは飛んでくる卵の殻の破片に注意しながら身構えた。
「よいしょっと」
魔力をこめて、振り下ろす。
うまく魔力をこめられないと、手にダメージがあるから要注意だ。
何度か振り下ろすと、天辺のところが綺麗に割れる。
栞は卵を両手で掴み、中身を大きなボールにあけた。
使うのは黄身だけだ。白身はまた別のものに利用する予定だ。
「ホロウ牛のミルクはまだ残ってるから、リア、アイスボックスから出して」
「はい」
「ディナンは、蒸し器の用意」
「おう」
材料がちょっと変わっているだけで、後の手順は日本でプリンを作る時とほとんどかわりがない。
(たまにはバリエーションも工夫してみようかとも思うんだけどね)
こちらには、チョコレートや抹茶というものがないので、バリエーションといってもなかなか難しいものがある。フルーツをいれたものも作ったことはあるのだが、おいしいにはおいしいけれど、やはりプレーンな味が一番のような気がして、自分で満足いくものになったことがない。
ほろ苦いカラメルとあわせて、卵とミルクの濃厚なおいしさを最大限味わえるようなバランスで甘みを整える。
卵もミルクも味は一定しないので、甘味は味をみながら調えるようにしている。
(ふむ……)
砂糖ではなくクインビーの蜂蜜を手に取った。
「ハチミツ味にするの?」
「ええ。たまにはね」
少しクセのあるハチミツだったが、この濃厚なハーモニーの中でも負けていない。
(私の好みだともうちょっと控えめなんだけど、こっちの人は甘いの好きだから心持ち甘めで)
「……リア、これ、濾して」
「はい」
その間に栞はカラメルを作ってしまうことにした。
今日のカラメルはいつもよりほんの少し焦がし気味に。
そのほうがハチミツの甘みとのバランスもいいだろう。
「一個ずつおやつにしていいからね」
「やっりー!」
「ありがとう、お師匠様」
「どういたしまして」
二人の笑顔に、栞は嬉しくなった。
好意に対し好意を返されるという当たり前のことが嬉しく、そして、心がぬくもりを覚える。
異世界であっても、別にそれは変わるわけではない。
(モンスターはいるけどさ)
ここに来て、栞は自分が案外いい加減だということに気づいた。よく言えば「柔軟」であるとも言える。異世界なんておとぎ話か何かのように思っていたが、結構そうでもなかった。
(住めば都ともいうし)
外国のちょっとした田舎だと思えばいいかもしれない。
半分騙されていたような感じもあるが、この世界に来ることは自分で選んだ。
とりあえず、当初の約束の3年のうちの最初の1年がすぎただけだが、今のところ仕事は順調だ。
……日本とは違う材料に常に苦労させられるけれども。
(まあ、ぼちぼちと……だよね)
プリンの甘い匂いの中で、栞は何となく幸せな気分になっていた。
ドガドガ鳥の新鮮卵とホロウ牛のミルクを使って作ったプリン END