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楽しい!おいしい!ベテランガイドと行く大迷宮きのこ狩りツアー(2)

「リアちゃ……リアは、今回、純粋に参加者なのかい?それとも引率側?」

「参加者ですよー。でも、有資格者ってことで割引してもらえましたけど」


 迷宮に入るには資格が必要だ。誰もが気軽に入れるほど、迷宮は安全な場所ではない。

フィルダニアでは、迷宮探索屋に所属しているか個人で探索者の資格をもっている者であれば無条件で迷宮に入ることができる。そして、有資格者は無資格者を三人まで同行することができるのだ。

 国によってルールは多少違うが、『探索者資格』は大陸共通で認められている。これは単に、一定の戦闘能力と迷宮に対する一定の知識があるという保証にすぎない。

 その迷宮独自のルールを知らないで何かあった場合は自己責任であるし、資格を持っているからと言って安心して迷宮を歩けるわけでもない。


「資格とったばっかりですし、ディナンと違って、私はほとんど中に入ったこともないですから……だから、少しづつ馴れようと思ってこのツアーに参加したんです」

「へえ。……ディナンは受かったのかい?」

「ええ。ディナンはもう前回で」


 ディナンはリアの双子の弟だ。迷宮のいろいろに関しての知識ならば自分の方が詳しいとリアは断言できるが、戦闘能力はだいぶディナンに落ちる。その分、リアは魔法が得意だ。特に炎系の魔法と相性が良い。ディナンが得意な水系統よりも攻撃に適した魔法が多いので随分助かっている。

  

「ディナンは今日は来なかったの?」

「キノコ狩りなんかつまんないって。トトヤさんのガルドと配膳のヴィストと地底湖に行きました。グランギアスの一本釣りするんですって」


 グランギアスは地底湖に複数頭いるらしいと噂されている幻の古代魚だ。鈍い黄金色に輝く金属のような鱗に覆われ、全長は15m程度とも20mとも言われる。かつて、地底湖の主であった水竜と互角に闘っている姿が何度か目撃されている。


「……どうやって?」

「三人で『ズーロウの小舟』を買ったんですって」


 ズーロウの小舟というのは、ズーロウという魔具師が作った魔法の舟だ。手に乗るくらいの小さな模型の船が、水に浮かべて呪文を唱えると人が乗れるくらいの舟になる。

 ズーロウの名を持つ魔具師のみが作れる貴重品でトトヤなどではとても便利に使っているし、地底湖の探索には欠かせない魔具の一つだが、それなりに高値で、しかも一度しか使えない使い捨てだ。


「……あいつら、バカだろ?」

「ええ。バカなんですよ」


 具体的に言うのならば、リアやディナンがもらっているお給料の三か月分くらいの値段がする。三人で割るから1ヶ月分と考えればいいのかもしれないが、そもそも出会うかどうかわからないグランギアスの為にそんなに費やすなんてバカげているとリアは思うのだ。

 それに、地底湖の入口あたりはそれほど危険なエリアではないが、水の上や水の中は問答無用で危険地域だ。ディナンは水系統の魔法に適性があってかなり得意なので地底湖での危険を軽視しがちだ。


「あのへんはすごく危ない地域だってすごく言われてるのに……だいたい、グランギアスが釣れるわけないじゃないですか。何を餌にするんです?フランチェスカですか?あの子達じゃあフランチェスカに誘惑されておしまいですよ。だいたい、あんな巨大魚釣る竿はどうするんです?あんなの釣れる竿があるわけないじゃないですか」


 『フランチェスカの誘惑』とは、フランチェスカを狙う探索者が逆にフランチェスカに追い込まれることを言う。


「………リア、ストレスたまってるのかい?」

「だって、きのこ狩りなんて女子供のやるものだなんて言ったんですよ、ディナン。思い出したらまた腹が立ってきた」

「へえー」


 ラルドの笑みに黒いものが入り混じる。


「探索者のくせにツアーなんて恥ずかしいとか言ったんですよ!お師匠様にすぐに怒られましたけどね!」

「いやいやいや、ツアーだってバカにしたもんじゃないよ。特に今日のツアーはきのこ狩りだし!それに慎重になるのはいいことだよ、リア」

「ですよね!お師匠さまもそう言ってました。大迷宮なんだから用心しすぎでもいいって。探索者資格は確かに大事だけど、受かっただけではただの資格にすぎないんだよって」


 探索者資格試験を受験する為には、フィルダニアの国民3人の推薦か有資格者の推薦が必要とされる。

 試験は、戦闘能力と迷宮に関する知識を問われるもので、年に三回ある。戦闘能力試験だけで1週間続くほど受験者が多い。合格率は毎回12~15%の間を行き来するくらい。大概の人間は、戦闘能力試験よりも迷宮知識を問われる試験で落ちると言われている。


 リアは戦闘能力試験の方で落ちた珍しい例で、自分でも得意でないことを自覚しているので今回の申し込みもすごく慎重だった。

 有資格者は引率側での参加ならば無料なのだが、自分一人すら覚束ないかもしれないからということで普通にお金を払ってツアー客として参加しているのだ。リアの同行者枠を利用するということで、通常のツアー代金を半額に値引きしてもらったが。


「うんうん。資格はどう使うかだからね。大事なのは実践だし、実戦だよ」


 ライドがどこか含みのある笑みで笑った。


(こういうところがライドさんは得体がしれないと思う)


 優しいだけの男じゃないと感じる瞬間がある。そして、時々垣間見るそんな一面が妙に気になったりもする。


(探索屋の人ってそういうの多いよね)


 似た様な匂いがするとでもいうのだろうか。


(過去を隠してる人間のにおい)


 探索者同士で自己紹介をする時、基本、名乗るのは名前だけだ。

 これは、姓が意味する家や、身分や、そういったものは関係ない……目の前にいる自分がすべてだ、ということを意味しているのだと最初に教えられた。

 探索者は探索者であるというだけでその身分を証明されるので、訳アリの人間が多いのだとも。


(まあ、訳アリというのなら、私とディナンも同じだし……)





 師に出会うまで、泥水をすするような暮らしをしていた。

 夢も希望もどこにもなかった。


 師に出会ったこと、それが自分たちの幸運のすべてだった。


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