表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/88

イルベリードラゴンのテールステーキ ディアドラス風(4)

「下がっててください」


 栞は、正面に位置するメロリー卿に注意を促す。

 ディナンとリアは何も言わずとも栞の背後にいる。一番安全に見物できるポジションがそこなのだ。


「あ、ああ」


 メロリー卿の視線は、栞の手にする包丁に釘付けだ。


(まったく)


 ディナンもそうだが、男はどうも刃物というか武器の類に魅了されるらしい。


(包丁だけど……)


 まあ、一応、包丁も武器のうちか、と栞は思う。

 それから呼吸を整え、赤身が多い肉に注意深く刃をいれてゆく。


(結構、硬いな……魔生物なのかな?) 


 肉が硬いというわけではない。すでに死した肉身でありながら、魔法抵抗があるのだ。


(つまり、食べると魔力回復する素材かー)


 これは高く売ってもらわないと!と栞は思う。

 元が無料なんだから安く売ればいいと思うのは間違いだ。モノには適性価格というものがある。

 それをあまりにも逸脱するのは好ましくないし、栞にもプロとしての自負がある。

 とはいえ、こちらの適正価格を知らない栞なので値付けは全部、プリン殿下がしている。

 新しくメニューに加える料理はすべて殿下が一度食べ、その上で値段をつけることになっているのだ。


 骨や軟骨部分から肉を切りわける。

 三枚におろす要領で肉のついた骨の部分を切り離した。尻尾なので骨が細かく節が分かれていて軟骨が多い。


(ゼラチン成分いっぱいとれるかな)


 お肌にいいゼラチン質のたっぷり入ったスープは女性客に人気だ。

 どんな生物でも骨髄はほとんどが無味に近く、どのようにも調理可能なので重宝する。


「リア、一回、煮こぼしておいて」

「はい」

「ディナンはこっちの皮を剥いで。道具はちゃんと選んでね」

「了解」


 ディナンとリアは、魔法回路を持つ子供たちだ。素質がどのくらいあるかわからないが、きちんと修行を積めば魔法使いになれるらしい。

 だが本人たちの希望は、栞のような料理人になることだという。

 それが面映く、照れくさい。お師匠さまとか、ししょーと呼ばれるたびにくすぐったい気持ちになっているのは実は内緒だ。


「随分とキレイに切れるんだね」

「切れ味いいんですよ、この包丁。この間、甲冑魚もまっぷたつにしましたし」

「……甲冑魚って?クレドリアス?」

「そうですよ。あれは硬かったですね、ほんとに」


 さすが腕の良い鍛治師の作ですね、刃こぼれ一つしませんでしたよと笑う栞をメロリーはマジマジと見つめる。

 栞が異世界人であることはよく承知している。

 その常識や認識が自分と隔たりがあることももちろん知っている。

 だが、それは『知っている』だけで、『理解した』わけではないのだとあらためて気付かされた。


 甲冑魚クレドリアスを真っ二つにできるような剣士の存在を、メロリーは知らない。

 栞が真っ二つにしたのは、死んだクレドリアスだろう。

 だが、それだとしても、これまで聞いたことがない話だった。


「その甲冑魚はどうしたんですか?」

「ディナン、あれ、どうしたっけ?」


 栞はディナンを振り返る。


「鱗は、ここでつかってるよ。欲しければ分けてやるけど?きれいだったから全部とってあるんだ」


 ディナンは皮を剥ぐのにつかっているきらきらとした半透明の薄い円盤状のようなものを見せる。片方が刃のようになっていて、手で持っている部分は布でまかれていた。


「この鱗ってすっげえよく切れるんだぜ。うまく加工しないと自分の手を切るけど」

「……そうか」


 甲冑魚の鱗は、その美しさから美術工芸品の素材としても重宝される。

 魔生物の常として、魔法刻印を刻めること、そして、そのあまりの硬さからほとんど素材として流通しないこともあっておそろしい高値で取引されているのだが、ディナンは知らないらしい。


「骨と角は殿下が持っていったよ。ゴミ捨ての時に骨が飛び出てるの見て、これなんだ?って聞かれたから、甲冑魚の骨ですっていったら欲しいって」


 リアが付け加える。


「……そうか。ところで、その甲冑魚を持ち込んできたのは誰だ?」

「そんなの殿下しかいないじゃん」


 ディナンが当たり前だろ、という表情で言う。

 彼らの間では、プリン殿下ことマクシミリアンは、変な食材をよく持ち込むと認識されている。


「身は?」

「いろいろ試作したんですけどパサパサしていてイマイチなので、結局、すりみにしてかまぼこに。メロリー卿も召し上がったじゃないですか」

「え?いつ?」

「えーと、確か、先週のロアの日のお夜食ですよ。カマボコにして、それを焼いて三種類のディップと一緒にだしました」

「ああ、あの白っぽいくにゃっとした?」

「そうです。あれです。わりと皆さんには好評でしたけど、手間にあわないんです……もう持ち込まないでくださいね。殿下にも約束させましたからね」

「そ、そうか」


 極めて貴重な魔素材だったが、それを素材にできる人間が拒否する以上、とりあえず保留しておくしかないだろう。

 両親である国王夫妻は元より、王太子、第二王子ともに一目置く……もとい、恐れている……マクシミリアンにこんな約束をさせることができるのは栞だけだ。


 最愛のプリンの作り手である栞に、王子は頭があがらないのだ。


橘玲音様ご提供


名称:甲冑魚

種類:魚類

特徴:大人を丸呑み出来るくらいの大きさ。

手足のように発達した鰭を持ったシーラカンスっぽい魚。

ウロコはダイヤ並みの硬さで、工芸素材としても重宝される。

備考:草食でたまに陸に上がって水辺の草を食べたりする。


とりあえずカマボコ。

書きたいネタがあるので、ステーキ以降にまた使わせていただきます。

食材提供ごちそうさまでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ