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歩き続ける僕の世界、僕の願い

作者: 蒼空


 僕はさまよい、徘徊する。

 この広い世界を独りで歩き続ける。



 僕は、探し続ける。





 誰も居ない。世界はただ広いだけで誰も居やしない。


 みんな嘘つきだ。世界にはみんなが居るなんて、美しい言葉にすぎない。この世界はそんなに甘くないのだから。









……僕は独り。僕は笑う。


「笑う門には福きたる」

なんて、よく言ったものだ。

 笑ったって、何も起きない。独りで笑っても、"福"どころか"哀しさ"しかやって来ない。



 この世界は嘘だらけ。

 真実を語ったら、簡単に壊れてしまう。そんな脆い世界に僕は住んでいる。



 でもね、僕は思うんだよ。


 壊れてしまうかもしれないし、直すことはとても難しいかもしれない。けれど、真実を告げてほしい。

 知らんぷりされて、嘘を言われるよりずっと楽なんだ。

 知っているのに知らないふりするなんて、哀しいんだ。

 笑い続けるなんて、虚しいだけなんだ。







 今日も僕は歩き続ける。


 僕は、どこに行けばいいの? どこに辿り着けばいいの? 誰に会えばいいの?


 そんなの、僕には分からないよ。僕は"独り"なんだから。




 君の世界には"人"が居ていいね。笑い合ったり、泣き合ったり、一緒に喜んだり。

 羨ましがってばかりの僕の世界には、誰も居ないんだ。










 ある日、僕は歩くのを止めようとした。

 笑うのも止めようとした。


 世界から離れたかった。愛想を尽かしたんだよ。嘘以外に何もない、誰も居ない、そんな世界なんてつまらないだけだから。

 嘘の世界なんて僕はいらない。









 歩くのを止めた。



 相変わらず、笑うことは止められなかったけれど、見回した景色は意外にも綺麗だった。歩き続けていた僕はそんなことにも気付いていなかったのだ。変わりゆく景色に目もいかず、探していたから。


 ぼーっと、何も考えずに座った。

いや、"何も考えず"というより、今まで見ていなかった景色に清々しさをも感じ、心奪われたのだ。

 息が切れていた。ずっと歩いていたのを突然止めたから、身体は疲れている。

 空気が美味しい。深呼吸をすると、なんだか肺の辺りがスッキリするみたいだ。



 さて、この世界ともおさらば。どこへ行こう? この何もない世界を離れてしまったら、僕は消えてしまうのだろうか? あの童話の人魚姫のように泡となって、王子やお城の人々からいつか忘れ去られてしまうのだろうか?



 人魚姫は海の中に住んでいた。王子に会うために、声と引き換えに足を貰った。嬉しかっただろう、その足で会いに行けるのだから。願いが叶ったんだ。

 でも、結局王子は他の人と結婚してしまう。そして人魚姫は泡となる決まり。

 王子を殺せば泡にならずに済んだのに、人魚姫は王子の死よりも自分が泡となるほうを選んだ。


 泡となった人魚姫の最後の願いはなんだろう?










 僕の隣には、気付いたら誰かが立っていた。ちょうど太陽が眩しくて、その誰かの顔は見えない。

 歩くのを止めて、考え事をしていた僕は話し掛けてみた。



「僕はこの世界に居たくありません。綺麗な景色や空気はあるけれど、ここには何もないのです。歩くことに、探すことに、僕は疲れてしまいました。笑わないことを忘れてしまいました。嘘が嫌いなのに、僕は心に嘘をついているみたいです。笑いたくなくても怖くて笑っています。でも、何が怖いのかも忘れてしまいました。」


 その人は、黙って聞いていた。だから続ける。


「………もう自分のものにはならないと分かった好きな人を生かして、泡になった人魚姫の最後の願いは何だと思いますか?生きて、海に帰れば良かったのに。」



その人はまだ黙って聞いている。僕は少し悲しくなった。


「………僕は人魚姫と違って、ここに居たくないのに帰る場所がないのです。 僕の"居場所"はありますか? 僕は、ずっとそれを探していたんです。」



 その人は突然僕の隣に座ったかと思えば口を開いた。


「大丈夫、あるよ。私が居るよ。」



僕は、ハッとする………あぁ、君だったのか。

 その人は、大好きな僕の"親友"だった。



「私の"居場所"が無いとき、作ってくれたのはあなたでしょ? だから、私も。あなたの帰るところは"ここ"なのよ?」



 うん。そうだった、そうだった。僕は君が大切だから、居場所はあるって教えたくて、パズルに例えたんだ。

 何百という数のパズルのピース。一枚の世界を作るのに、一つでも欠けたら完成しない。

 そこに入るのは君だけで、他のピースは入らないんだ。そこに必要なのは"君"なんだ。




 僕は忘れていたみたいだ。世界には誰も"居ない"のではなくて、僕が拒否していたから"見えなかった"のだ。 怖いのは、人から必要とされなくなること。軽蔑されて、居なくなってしまうこと。

 嫌な自分を見せたくなかった。拒否されて、嫌いになってほしくなかった。

 僕は、僕から離れていかないでほしくて、笑うんだ。

 笑ってればいいことあるんでしょ?神様。

 だったら、僕は笑うよ。










 あれから少し経ったけれど、相変わらず嘘の世界なのは変わらなくて、僕は拒否されるのが嫌だ。


 でも、自分から拒否するのは止めた。独りで歩き続けると、僕は周りが見えなくなる。"居場所"を求めて、すぐ側にあるのに気付かない。

 誰も僕を拒否していないのに、自分で世界を拒否するなんて馬鹿みたいだ。




 神様。僕は今、嬉しくて笑っています。 笑っているのに、目からは涙が溢れているんだ。

 "居場所"をくれた君に感謝しなくちゃね。









 僕は「人魚姫」にはなれない。

 愛する人を殺さず、人魚姫は朝日を浴びて泡になるけれど、きっと僕はこの世界を捨てたとしても泡にはなれない。

 この"小さな"僕の世界は、もっと広くて僕を大切に思ってくれる人が居る"大きな"世界の一部だ。

 僕に居場所をくれる人が居る限り、僕は何度朝日を浴びようとも今日も"人"として生きていけるから。










 ねぇ、一緒に歩こうよ。僕は"独り"で歩くのはもう疲れたんだ。

 君と僕と、それからいろんな人も連れていこう。みんなと、嘘の無い言葉で話したい。

 世界に居るのが僕だけじゃないのなら、僕はきっとまた嬉しくて泣いちゃうよ。


 それからね、人魚姫の願いも少しは分かった気がするんだ。



 神様? もしも、もしもね? 僕が泡になってしまうのだったら、人魚姫と僕の願いは同じ。










僕は願うんだ。




『大切な人が、幸せでありますように。』






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