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礼金無双のマンションオーナー ~相場よりも安い賃料でカモを釣り、住人の秘密を暴いて即追い出す~全室隠しカメラ完備ですが、覗きが趣味ではありません  作者: 団田図
第3章 女子アナ 東園寺マリ子(26)

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第12話 崩れ落ちた栄光

 ある夜、私は祈るような気持ちでテレビ画面を見つめていた。

 レジデンス・アルゴスの二〇五号室。防音完備の静寂なリビングに、実況アナウンサーの絶叫が響き渡る。


『打った! ライトオーバー! 走者一掃のタイムリーツーベース!』


 歓声に包まれるスタジアム。マウンド上の春気が、膝に手をついてうなだれる姿がアップになる。

 初回からまさかの三失点。


「春気……嘘でしょ……」


 グラスを握りしめたまま凍りついた。

 私は胸が締め付けられる思いだった。

 もしこのまま彼が不調に陥り、二軍に落ちるようなことがあれば、私たちの「華やかな結婚」の計画も狂ってしまう。

 霧嶋冴子を見返すためのセレブ婚。そのためには、彼は絶対的なスターでなければならないのに。


「頑張って、春気。あなたなら立て直せる」


 私は画面の彼に向かって、必死にエールを送った。


+++


 翌朝。

 不穏な目覚めだった。枕元のスマートフォンが、壊れたように震え続けている。

 通知画面を埋め尽くすニュースアプリの速報。

 そこに躍る見出しを見た瞬間、私は呼吸を忘れた。


『国民的エース・轟春気、野球賭博と八百長疑惑!』

『衝撃の内部告発! 「邪魔な捕手を罠にハメた」決定的証拠音声』


 ……え?

 頭が真っ白になる。

 八百長? 賭博? 春気が?

 震える指で記事をタップする。そこには、昨夜の試合での不自然な失点シーンの分析に加え、暴力団関係者との黒い交際疑惑が事細かに記されていた。

 そして、記事の最後に添付された音声データ。


 再生ボタンを押す。

 ノイズ混じりの音声が流れる。


『……先輩、目が悪くなったんじゃないですか?』

『これでうるさいハエがいなくなった』


 心臓が早鐘を打つ。

 この声は間違いなく春気だ。そして、この会話の内容――。

 私は記憶を急速に巻き戻す。

 先日の夜。春気の部屋。

 彼は監督に電話をかけ、権田さんの視力の衰えを心配するふりをして報告していた。

 あの時の会話だ。

 混乱する思考を、激しいチャイムの音が断ち切った。

 モニターを見る余裕もなかった。

 ドンドン! とドアが殴られるような音が続く。


「マリ子! いるんだろ! 開けろッ!」


 春気の声だ。

 私は弾かれたように玄関へ走り、ロックを解除した。

 ドアを開けた瞬間、春気が雪崩れ込んでくる。

 彼の目は血走り、髪は乱れ、昨夜のユニフォーム姿のままだった。いつもの爽やかな笑顔は微塵もない。そこにいたのは、追い詰められた野獣だった。


「春気! 記事を見たわ、あれ一体どういう……」

「ふざけるなッ!」


 怒号と共に、私は肩を突き飛ばされた。

 背中が壁に激突し、痛みに顔を歪める。


「は、春気……?」

「お前だろ! お前が売ったんだろ!」


 彼はスマホの画面を私の顔に突きつけた。そこには、あの音声データの再生画面が表示されている。


「この会話をした時、部屋には誰がいた? 俺とお前だけだ!」

「ち、違う! 私は何もしてない!」

「嘘をつくな! このマンションのセキュリティは完璧なんだぞ!」


 春気は唾を飛ばしながら叫ぶ。

 その瞳には、私への愛情など欠片も残っておらず、どす黒い疑念だけが渦巻いていた。


「入居する時に説明されたはずだ。『アルゴス・アイ』は最強だってな。外部からの侵入も、盗聴も不可能だ。壁には特殊な遮音材、窓は防弾ガラス。俺はそれを信じて、ここを選んだんだ」

「だ、だから何よ!?」

「外部からの盗聴が不可能なら、内部にいる人間が録るしかないだろうが!」


 春気の論理は、完璧に整合性が取れていた。

 この「要塞」の安全神話を盲信している彼にとって、情報漏洩の犯人は、その場にいた唯一の他人である私しかあり得ないのだ。


「お前、金に困ってたよな? ハイブランドのバッグ欲しがってたもんな」

「そんな……私があなたを売るわけないじゃない! 愛してるのよ!?」

「愛? 笑わせるな。お前が愛してるのは俺の『肩書き』と『金』だろ! だから週刊誌にネタを売って、小銭を稼いだんだ!」


「違う! 信じてよ春気! 私は本当に何も知らないの!」


 私は泣き叫び、彼の腕にすがりついた。

 けれど、彼は汚いものを払いのけるように私を振り払った。


「触るな! ……俺は終わりだ。球界追放、いや逮捕かもしれない。全部お前のせいだ。お前が俺の人生を壊したんだ!」


 その時、部屋の外からサイレンの音が近づいてくるのが聞こえた。

 一台ではない。何台ものパトカーが、このマンションを取り囲んでいるのだ。

 春気の顔色が灰色に変わる。


「くそっ、もう警察が……!」


 ドォン!


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