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四神村殺人事件

おもな登場人物


朱雀邸


 朱野松右衛門(享年七八)――『朱雀の館』の前・当主。


 朱野源一郎(五二)――『朱雀の館』の現・当主。松右衛門の長男。


 朱野かすみ(享年二四)――その妻。二十四年前、透と穢を産んですぐ他界。


 朱野透(二四)――源一郎とかすみの長男。一卵性双生児。


 朱野穢(二四)――源一郎とかすみの次男。一卵性双生児。


 朱野百合子(享年三五)――源一郎の後妻。十年前に他界。


 朱野静(十九)――源一郎と百合子の長女。


 藤川絹代(四三)――源一郎の現・愛人。


 水谷(五〇)――朱雀の館の執事。勤続三十二年。




玄武邸


 武藤霧子(四二)――『玄武の館』の当主。




白虎邸


 白峰秀一(四三)――『白虎の館』の当主。


 白峰琴乃(三七)――その妻。深見陽介の姉。


白峰瑞樹(十八)――その長男。県外の大学一年生。


 深見陽介(二三)――中学の理科教師。琴乃の弟。朱野透と大学の同期。


 冷泉誠人(十八)――瑞樹と同じ大学の友人。大学一年生。




青龍邸


 龍川清三(六三)――『青龍の館』の当主。村の眼医者。


 龍川夫人(享年四五)――その妻。三年前に他界。


 龍川小夜(十八)――その一人娘。地元の大学一年生。


















プロローグ




 朱野松右衛門翁逝去の報が村を揺らしたのは、その年の七月も末のことだった。


 じりじり肌を蒸し焼きにする、湿った暑さの前触れに照らされた朝、家の敷地内にある堀井戸の底から、その変わり果てた躯は引き上げられた。


 よく冷えた井戸水を全身にずっしりと吸ったその躯は重く、成人した男二人掛かりでもなお引き上げるのにはたいそうな骨折りを強いられた。そうしてようやく白日のもとに晒された老体は、釣瓶と綱とに雁字搦めに逆吊りされて、それはもう、見たものの毛穴を氷漬けにするほどにひどく無残な有様だったという。






第一章 八月十八日




 一




 前略


 ずいぶんとご無沙汰しています。お変わりなくお過ごしでしょうか?


 本年七月、祖父・朱野松右衛門が永眠いたしました。


 そして問題はそれからです。


祖父の怪死が、村に降りかかる呪いのほんの序章であるという差出人不明の怪文書が届きまして、こうして稀有な縁のある深見君に相談差し上げた次第であります。


 同じ村に住む者として、君の姉君も危険に晒されている以上は、黙っておくこともできますまい。


 ただの悪戯ならば良いのですが……。


君の都合の良い日――夏休みにでも一度村に様子を見に来てはくれないでしょうか。


 久しぶりに会って話がしてみたいものです。


草々




 一九**年 八月二日


 朱野透


 深見陽介様




 深見陽介はその奇妙な手紙を三つ折りに畳み、ため息とともに上着の内ポケットへしまい込んだ。


 ローカル線の車窓から見える景色は至極長閑である。


緩徐に車体を揺らす鈍行電車の開け放たれた窓から、盛夏の日差しに温められたぬるい風が吹き込んでは、短い前髪を擽って過ぎていく。


車内に目を転ずれば、家族連れやら若者のグループやらの姿がまばらに車内を温めていた。始発からしばらくこそ、夏休み特有の大混雑に見舞われていたものだったが、列車は駅に着くたびに客を吐き出し続け、終点に近づいた今では、首を伸ばせば隣の車両が透けてみえる。辺りは心地よい静けさを取り戻していた。


風にはためいた上着を撫で正せば、そこには封書の分だけ厚みが感じられる。


 この手紙を受け取ってすぐ、深見はまず差出人である朱野透の自宅へと電話を入れた。ワンコール目で出た執事らしき男性の声に取り次がれたのち、どこか懐かしい、耳触りの良い落ち着いた声が電話口に出た。軽い挨拶を交わして、深見は早速本題を切り出した。しかし、返って来たのは予想だにしない反応だった。


 彼は、手紙など送っていないというのである。


 驚いた深見が手紙の内容を要約して話しても、一向に心当たりがないと首を傾げるばかりで埒が明かない様子であった。


 では、松右衛門翁が亡くなったのも嘘なのかと尋ねれば、そちらは事実であるようで、ますます不気味さが増すばかりである。


 その日はそれで受話器を置いた深見であったが、書状の内容からしてどこか不穏なものを感じずにはいられない。まるで背筋に百足、奥歯に銀紙の気分である。そこで、今度は姉の白峰琴乃へと電話をかけてみることにした。


書状に出てきた姉君とは、まさにこの白峰琴乃を指していた。彼女は、今年二十四歳になる陽介の、十三歳の離れた姉にあたる。もうかれこれ二十年前に、朱野透の住む四神村の旧家の一つ、白峰家へ嫁いでいって、翌年息子を一人授かった。そして、その息子も今年で十九になる。なお、深見が四神村へ赴いたことはこれまで一度もないため、顔を合わせることといえば、琴乃が深見家の本家である実家に帰省した折に限られていたが、それでも盆と正月には本家で顔を合わせる程度の間柄は保たれていた。


その姉の住む白峰家の電話番号を深見は諳んじ、要約して事を話した。すると、やはりこちらも内容に心当たりはないとのことである。しかし、誰かが明確な意図をもって深見に書状を寄越したという事実が消えるわけではない。それも、四神村の事情――朱野松右衛門翁の怪死や透と深見との関係性、白峰家と深見との関係性――に精通した人物の仕業である。そこに何かしらの作為があることには間違いがないのだ。


そう思うと、とても見てみぬふりをする気にはなれなかった。そういうわけで、深見陽介はちょうどお盆時期に差し掛かることもあり、勤め先の中学校からもらった短い夏休みを利用して、挨拶がてら四神村を尋ねることにしたのであった。


 その旨を朱野透にも連絡したところ、きっかけが不穏であるだけに不安げではあるものの、およそ一年半ぶりの再会をたいそう喜んでくれた。それから、交通の便の悪い村だからと、最寄りのバス停留所まで出迎えにきてくれることになったのである。


 ローカル線の普通電車を終点で下車し、一日二本のバスに乗り継いで揺られること二時間。七ツ森町の由緒ある教会と隣接する福祉施設を通り、それから深見の本家のある六山市の市街地を素通りして、そのはずれで下車する。そうしたところで、不意によく通る声が背中を叩いた。


「深見」


 朱野透の声だ。振り返れば太陽の下、一年半前とさして変わらない懐かしい顔が、数尺向こうで輝いていた。まっすぐした清潔そうな黒髪が、東北の夏の湿った風に揺れている。少し日に焼けただろうか。色白の印象の濃かった肌は、ほんの少しばかり色味を増して実に健康そうに見えた。大学卒業後は家業を手伝うときいていたが、具体的なことについて深見は何も知らされていない。よく日に当たるようなことをしているのだろうか。しかして、凛とした目元が印象的な、なかなかの美丈夫であることに変わりはなかった。


「うわぁ久しぶりだなあ、朱野。迎えにきてくれてありがとうな」


 深見が白い歯を見せて、隣の肩を二度叩くと、朱野透もつられたように白い歯を零した。


「深見こそ、遠いところを来てくれてありがとう。まさか卒業一発目の再会場所が四神村になるなんて、思ってもみなかったよ」


言って朱野透は半身を翻し、一歩踏み出した。言外についてくるように促された深見もその影を追う。からっとした日差しは中天に向かい、やや東の空から垂直に大地を照らしていた。


「久しぶりだな。朱野の運転は」


「あ、深見、運転してみる? 東京じゃ運転する機会もそうそうないだろ。だいぶ鈍っているんじゃないか?」


 悪戯そうに顔の横で鍵を掲げた透に、深見は破顔一笑して目の前の青いシャツをはたいた。


「無茶言うな、遭難する気か」


 視界に入る山という山はどれも、どこに道があるのかもわからないほど青葉で丸々と生い茂っていた。


「……なんだか、B級サバイバル映画の導入みたいだな」


「やだよ、俺主人公だろ? それで、朱野が山の中で突然いなくなる流れじゃん」


「主人公と一緒に山に迷い込んですぐに消える友人役か。それで、中盤あたりに敵に洗脳されて出てくるのな」


「そうそう、それで俺、泣きながら朱野を倒すの」


「え、俺倒されちゃうの? 正気に戻してくれるんじゃないんだ」


「あ、そっち? そっちね。『目を覚ませよ、俺ら友達だろ』って肩掴んで揺さぶるのか」


 洋画の吹き替えよろしく大袈裟な抑揚をつける深見に、透は白い歯を零す。


その反応に機嫌よく頬を持ち上げると、深見は続けた。「そっちルートなら、正気に戻った朱野と二人でボスを倒す流れだな。……一気に熱血王道っぽくなったぞ」


「B級サバイバル映画が、B級少年漫画になっちゃったなぁ」


透がくだらなさそうに笑うのを受け、深見も喉の奥で笑った。


「でも学生の頃はレンタカーを借りて、行ったことないような場所にもよく遊びに行っていたな」


「懐かしいな……」透はしみじみと、胸の奥底にあるものを一気に吐き出したような密度の高い声を落とした。


その声に深見は、視線で友の横顔をなぞった。目の前の彼は、ずっと遠くにある綺麗なものに思いを馳せるような澄んだ目で稜線を眺めていた。


「荷物はトランクでいい?」


 やがて歩き出した透が指すところを見れば、そこには一台の軽自動車が停車していた。田舎の山奥の未舗装の道を通るのに普通車は大きすぎるため、この辺りで見かける自動車と言えば軽自動車がほとんどである。


深見は言われるがままに、差し出された彼の手に荷物を預け、それからこんがりとよく照らされた助手席へ乗り込んだ。


「疲れただろう。ゆっくりくつろいでくれと言うには狭いけれど、村に着くまで楽にしてくれたらいいよ。もうしばらくは車の中だから」そう茶目っ気混じりに言って、朱野透は手際よく車を滑らせた。


彼の纏う空気独特の心地さに身体を浸らせ、懐かしさに深見は口元をほっと緩める。車がスピードに乗るに従って、窓から飛び込む風が柔らかく頬を撫でていった。


 深見陽介と朱野透は大学の同期生にあたる。


 教育学部生である深見に対し、透は理工学部生と、学部こそ違ったが、様々な学部の生徒が入り混じる教養科目の第二外国語の授業で、偶々席が隣になったのが始まりだった。


 話をしてみれば、気が合うどころか、驚くことに互いの故郷が目と鼻の先だというのだから、数奇な縁である。……


 車窓から移り変わる田舎景色に引きずられるように、深見の記憶は自然と隣に座る男との出会いの場面へと巻き戻されていた。


 小川を跨いだ小さな石橋を渡ると、こんもりと茂ったブロッコリーの大群のような深い緑の山々と、その隙間を彩る果樹園に囲まれた風景に出迎えられる。先ほど通ったバスの通る市街地から、長閑なここら田園地帯までを含んだ六山市というのが、深見陽介の故郷だった。


そして、深見家というのは元々ここら一帯の領主であり、祖父の代からはこの市の市会議員を務めているといった家系である。例に漏れず、深見陽介もまた父の地盤を継ぐ者として、当然の如く、溢れんばかりの両親からの期待を受けて育てられてきたのだが、残念なことに陽介自身はそういった権力やら何やらには全く興味が持てなかった。更に輪をかけて不運なことに、陽介は深見の本家の長男であるばかりでなく、きょうだいは十三も年の離れた姉が一人きり。唯一のいとこもまた女である。そのため、深見家の跡継ぎの期待は、幼少より陽介ただ一人に注がれて育ってきた。陽介が政治に興味のある人間であればさぞかし恵まれた環境だっただろう。しかし幼少から政治の表側はもちろん、その裏側まで見て育った陽介はだいぶ食傷気味で、俺にはできない、あれは親父だからできることだと背を向けるばかりであった。


そうした圧力から逃れるように、東京の大学へと進学した先で出会ったのが、朱野透という男なのである。それも、聞けばその故郷は、深見の故郷六山市から車で数時間、五藤村を挟んで隣に位置する四神村という小集落らしいではないか。


 故郷から逃れるために上京したとはいえ、深見だって別段己のルーツそのものへの嫌悪があるわけではない。寧ろ人の溢れかえる東京において同郷の者と出くわしたことに、純粋な親近感を覚えるほどであった。


ところが、接点はそれだけにとどまらなかった。


同郷というだけで、親近感を覚えるには充分だったが、偶然とは重なるもので、その四神村とは深見の姉の琴乃の嫁ぎ先でもあったのだ。


 そこから二人の距離が縮まるのは早かった。話が弾み、そして卒業して離れた今でも、多忙な合間を縫ってぽつぽつと連絡を取り合っていた。


「しばらく白峰さんの家で過ごすんだってな。うちに泊まってくれてもよかったのに」


深見が白峰家に滞在する旨を透に電話したところ、水臭いじゃないか、ならば車で迎えに行くよと、透は出迎えを買って出てくれた。バスも通らぬ奥まった村ゆえ、その申し出がいかに有難かったかは言うまでもない。


「手紙が気になったのもそうだけどさ。朱野のお爺さんに、その、お線香もあげたいし、それにたまには姉さんの顔も見たいなって思っていたところだったしさ。四神村にも行ってみたかったし……そういう切欠にはなったんだよ。甥っ子もちょうど里帰りしているみたいだし」


「瑞樹くんか。昨日帰ってきたみたいだよ。友達も一緒に泊まりにきているみたい」


「え、彼女?」


「ふふ、男の子だよ」


なんだと落胆する深見を見て、朱野透はおかしそうに肩を揺らした。


 白峰瑞樹は、深見にとって姉の息子にあたる。この春から東北M県の国立大学に通っていた。深見が彼と最後に会ったのは今年の正月だ。深見は両親から、県外への就職を認める代わりに、盆と正月には必ず帰省するように口酸っぱく言われているため、自由の代償として帰省を欠かしたことがなかった。これは姉一家も同様らしく、年に二回の本家への挨拶を欠かさない。


車窓からゆるりと流れる景色の中に学生服の少年をみとめ、深見の頭の内に、或るひとつの影が姿を現す。今年の正月に見た白峰瑞樹だ。半年ぶりに会った甥は、まだ華奢さが抜け切れていなかったそれまでに比べ、背も伸びて少し逞しくなっているようだった。それでも姉に似て、黒目がちの涼やかな目元をした中性的な印象は変わらなかったが。


車が滑るような屈曲を三度繰り返すと、景色は一転して深緑に包まれた。駅から見て六山市より郊外は、深見にとって足を踏み入れたことのない領域だった。


田園地帯は、左右に青々とした雑木林の間をくぐる未舗装の山道へと景色を変えている。


山を幾つか越えた先に五藤村、そのまた先に四神村という村があるのだと話には聞いていたが、なにぶん言ってしまえばどん詰まりの辺鄙な村ゆえ行く用事も目的もない。あるのは子供特有の幽かな冒険心だけだったが、それを満たすためだけに赴くには遠く、またどこか不気味だった。生い茂った細い道のずっと向こうにあるのだという村を想像すれば、未知への恐怖からだろうか、行ったら二度と戻れないような気さえしていたものだ。


そんな感慨などよそに、車は未知なる道へと轍を延ばしていく。


山道を車で走ること一時間。昼食を挟んで、五藤村という錆びた標識を横目に更に走ること更に一時間。渓谷に架かった長い橋で渡ってすぐのところに、軽自動車がようやく離合できるくらいの古いトンネルが現れた。日の光が数十年は届いていないのではないかと思しき湿っぽく黒ずんだ壁面は苔蒸し、枯れた蔦が幾重にも垂れ下がっている。


「このトンネルを超えた先が、四神村だよ」と、透は右手で窓を閉め、慎重にトンネルの中へと車体を滑らせた。


 しかしてそこは、まるでトンネルとは名ばかりの、真っ暗な洞穴だった。


 車のヘッドライトだけが行く手の数歩先を照らす。その向こうは完全な闇だった。


 深見は思わず窓のクローズボタンを連打した。


 窓が完全に閉まりきると車外の音が遮断され、一気に無音が押し寄せる。鼓膜が圧迫され、外界から隔絶されたような気分になった。


 車窓から見える景色は、ただただ闇一色である。


 ヘッドライトが照らす二つの黄色い円と、それ以外の闇と。その二色だけが世界の全てだった。ともすれば前進しているのか、はたまた後退しているのかさえわからなくなってくる。


 窓は閉めきっていて暑いはずなのに、車内はひんやりと冷たく背筋を這うような寒気がした。まるで鍾乳洞の中のようである。


 時間感覚さえわからなくなりそうだ。


 ぞっとした恐怖を覚え、深見は車内のデジタル時計へと目を転じた。黒い画面に浮かび上がった薄緑色のそれは十三時四十四分を指している。ごくりと唾液を飲み込む音が車全体に響いた気がした。


「酔った? 大丈夫?」


 急に口数の減った深見を不審に思ったのだろう、透が不安そうな表情を浮かべたのが気配でわかった。


「いや……」深見は小さく咳をした。安心させようと、努めて明るい声を出そうとしたものの声が掠れてしまったのだ。慌てて水筒の水を口に含む。ほんの少し体温が戻るような気がした。「ずいぶん暗いトンネルだなと思って」


「ああ、だいぶ古いトンネルだからね。改修しなきゃいけないんだろうけどさ。けれど、村へ繫がる唯一の道だから、ここを封鎖して改修すると行き来できなくなっちゃうんだ。だから補強してやり過ごしているみたい」


「え、他に道はないの?」深見はギョッと透を見遣った。暗闇にぼうっと浮かんだ横顔は、見慣れた透のものというよりも、全くの別人のそれに見えた。朧げに揺れるそれは、まるで血の通わぬ蝋人形のようで、ますます背筋が寒くなる。


 そんな深見の心境など知る由もない透は、真っ白な横顔のまま、一つ瞬きを落として仄白い唇を開いた。「ああ。山林を抜けてきても、最終的には村をぐるりと囲んだ深い谷に突き当たるみたい」


「トンネルの前に渡った渓谷か」


「うん、それ。あれが難所で、橋がないと渡れない。だから、例えばトンネルが崩れるようなことがあると完全に閉じ込められるんだ」


「閉じ……」


 思わず言葉を失う深見を宥めるように透は付け加えた。


「でも大丈夫だよ。古くても頑丈だから、崩れるなんてことないさ。それこそ、人為的に壊しでもしない限りはね」




 二




 トンネルを抜けると、そこは雑木林だった。


 脇に木の生えていないスペースがあり、中ごろに一台の軽自動車が泊めてある。その隣に並んたところで、車は止まった。


 外に出て深見は思い切り伸びをした。


 しばらくぶりの外気はひんやりと冷たい。幾重にも生い茂った木枝に遮られ、年中日光が届かないのだろう。辺りは苔蒸し、湿った落ち葉が重なっていた。その底には、更に前に落ちたと思しき木の葉が積み重なって腐葉土化している。


 ぐるりと周囲を見渡す深見に倣うように、透もまた視線を巡らせてから言った。


「これは龍川先生の車、その向こう側にはいつも白峰さんの車が止まっているのだけれど、今はご主人が使っているみたいだね」


 白峰家の主人とは、深見の義理の兄にあたる白峰秀一を指している。


「ああ、そういえば秀一さんは昨日から出張だって姉さんが言っていたな。二十一日には帰るって言っていたから……三日後か」


「そっか。深見は二泊できるんだっけ?」


「そう」


「なら、ちょうど会えないのか」


 透がトランクから取ってくれた荷物を受け取り、深見はああ、と肯いた。「と言っても、今年の正月にも会えてはいるし、割とよく会ってはいるんだよね」


 例年だと盆にも会っているのだが、今夏は深見がお盆休みを後ろにずらしたせいでまだ帰省が済んでおらず、従って白峰一家とも会えていなかった。


「実家にはこの後で寄るの?」


「ああ。四神村に二泊して、実家に一泊してから東京に帰る予定」


「そっか」透は曖昧に笑い、それ以上深く話を広げることをしなかった。


気を遣わせたのなら申し訳ないと思う一方で、そういうところが深見が朱野透という男を心地よく感じる理由だった。


 喋りながら登る山道は、運動不足の身には鈍くこたえる。息が上がっているのがばれたら恰好がつかぬと懸命に堪えながら登った先は、見晴らしの良い小高い丘になっていた。高台に生えた木々の隙間から村全体が見下ろせる。


 降り注ぐ蝉の声に全身を包まれる。烏が一羽、低く哭いて飛び立った。


 眼下に広がるそれは異様な光景に映った。


 よく見る寂れた山村のイメージとは違う、ある種人工的な美しささえ感じられた。


 視認できる家屋は四軒だった。まず村全体に描かれた正三角形の頂点に一軒ずつ。それから、そのうち一軒の奥にもう一軒あり、それで計四軒である。その周りは果てしなく続く深い森、連なる山々が見渡す限りどこまでも続いていた。


 足を止め食い入るように見つめる深見の様子に、透も隣で足を止めて言った。


「一番奥に見える一軒が、龍川先生の『青龍の館』。先生は自宅で眼医者をやっているんだ。その手前が深見のお姉さんが住む『白虎の館』、右手前が俺の家『朱雀の館』、左手前が武藤さんという女性が住む『玄武の館』」


 深見の視線が、耳なじみの良い透の説明に従って動く。


「四神村の名の通り、それぞれの館は中国神話の四神がモチーフにされているんだ。四神は方角を司る霊獣だから、本来なら東西南北に一軒ずつ配置されるのだろうけれど、現実はご覧の通り。歪な配置をしているだろう?」


「言われてみれば」深見は言葉を濁した。透の言う通り、屋敷の配置はお世辞にも四方を模しているとは言い難かった。


「江戸末期頃までは白峰家、武藤家、朱野家の三軒を交えた十数軒が暮らしている集落で、村の名前も館の名前も特にはついてなかったんだってさ。それが徐々に家が途絶えたり、他所へ流れていったりしてしまって、ついに三軒だけになってしまった。そこに外部からやってきた医師の龍川家が加わった偶然から、住人たちがまるで四神のようだ、四神の導きだと言い出して、東西南北と真ん中に石碑を建てて拝み始め、それぞれの家を四神にまつわるよう改築して四神の館と呼び始めた。それで四神村と住民たちが呼んでいただけだったんだけど、いつからか通称になり、気づけば正式名称になっていたって話だよ。つまるところ、『四神』なんてのは、無理やりの後付けなんだ。こじつけで歪な信仰に浸っている村なんだよ」


 その言いぐさに、にじみ出る透の苛立ちのようなものを感じ取り、深見は思わず隣の透の顔を窺った。が、そこにあるのはいつもと変わらない朱野透の涼やかな顔だった。


「それじゃあ、村へ降りようか」






一度登った斜面を、村を淵取るように時計回りに緩く下っていく。木々に遮られて翳った淵とは違い、村の中心部は盛夏の日差しに照らされて白くまばゆく浮かび上がって見えた。


そうしてしばらく降りたところで、右前方に一つ目の館が近づいてきた。


「そうそう。四神を祭った石碑があるって話したの、覚えている?」


「ああ覚えているよ」


「あれが、その石碑のうちの一つ」透は向かって左を指し示した。


なるほど生い茂った木々の隙間に青緑色をした人工物が見える。近寄ってみれば、成人男性の胸ほどの高さをした石像だった。


「これが東方を司る『青龍像』」


 透の説明を背に、深見は目を細めて日陰に座したその像を覗き込む。よく知る龍と比べると、どこか歪な印象を受けた。


「あれ、龍ってこんな風だっけ。角とか、思っていたより派手なんだな」


 龍の頭には、トナカイのような角が左右に三本ずつ生えていた。そして風化を差し引いても、身体もまだら模様でごつごつしている。


「ああ、よくいわれる龍とは違うよね。それは鹿の角だよ。これ以外にも青龍は、馬の首、魚の鱗、蛇の尾をもつと言われているらしい」


「へえ、じゃあこれは蛇の模様だったのか」深見は青龍像のまだら模様をまじまじと眺めた。指で触れようと伸ばしかけたが、寸でのところで引っ込めた。


そうしたところで、頭の後ろから透の声が降ってきた。


「五行説では木に対応するとされているから、こんな木々の麓に建てたんだろうね」


心地よい言葉を背に、深見は縮こまった首を解すようにぐるりと辺りを見まわす。透の言うように、寸分先は足場も見えないような深い藪だ。そのまま村の中央へ身体を反転させると、深緑の庇を抜けたすぐに一つ目の館が静かに聳え立っていた。


 黒っぽい外観の三階建ての洋館だった。


 村の中心に向かって玄関があるようで、二人が歩いている山道からでは裏側を見ることしかできない。洋館の周りは小麦色の土になっており、それを囲むように三方向に花壇が拵えてあった。


「これは『玄武の館』。今は武藤霧子さんっていう女性が一人で住んでいる。かつては武藤婦人のご両親も一緒に住んでいたらしいけど、もう三十年も前に亡くなったんだって。俺が生まれた頃にはもう霧子さんが一人で住んでいたよ」


「一人でかあ。立派なお屋敷だなあ」深見は息を漏らして屋敷を見上げた。ところどころに蔦の這った、年代を感じる洋館だった。


 広い屋敷に一人で住むのはどのような気持ちなのだろうか。


 普段六畳一間のワンルームに住んでいると、もっと広い家に住みたい気持ちがわいてくるものだが、人里離れた村の屋敷に一人で住むのと一体どちらがましだろう。


 とても口に出しては言えないことなので、それらを胸に仕舞込んで深見は建物を見上げた。三階の窓越しに人影が動くのがちょうど目に入る。長い黒髪を後ろで纏め、色付きの眼鏡に黒の衣服を纏った色白の女性だった。あれが武藤婦人なのだろう。顔はこちらを向いているようだが反応がない。


「霧子さん、こんにちは」


 透が声を張ると、ようやく影はこちらに気づいたようで窓を開けてにこりと笑った。


「こんにちは。その声は、透さんかしら」


「武藤さんはね、小さい頃に病気に罹ってから目が不自由なんだ」透は、視線はそのまま小声で深見にそう囁くと、再び窓に向かって声を投げかけた。「はい、透です。隣にいるのが深見陽介くん。僕の大学の友人で、白峰琴乃さんの弟さんです」


「まあ、はじめまして深見さん。わたくしは武藤霧子と申します。琴乃さんにも透さんにもいつもよくしてもらっているのよ」


 明るい屋外からだと暗い室内は見え難い。三十年前まで親子三人で住んでいたということは、三十歳は過ぎているはずだが、年齢の読めない女性だった。どこか浮世離れした上品な物腰が印象的である。


「はじめまして、深見陽介です。こちらこそ姉がお世話になっています。この昨年の春から、東京で中学の数学教師をしています」


「まあ、先生なのですね。立派だわ。そういえば瑞樹ちゃん……いえ、もう瑞樹くんと呼ばなきゃね。彼もお友達を連れてきていたわね。村が明るくなるようで嬉しいわ」


「そうですね。普段閉じた村の中で過ごしていると、ちょっとした変化やお客さんが嬉しくてさ」前半は武藤霧子に、後半は深見に宛てて透は言った。そして再び霧子に向かって声を張る。「では霧子さん、また夜にお会いしましょう。お迎えにあがりますので」


「透さん、いつもありがとうね。楽しみにしているわ」と、右手を上げると、武藤霧子は慣れた手つきで窓を閉め、部屋の奥へと消えていった。


 それら一部始終を見送ってようやく透は深見へと向き直った。「夜の会食は武藤さんも来るよ」


 今晩、深見は朱野家で夕飯をご馳走になることになっていた。


「村の人全員来るんだって? すごいな」


「村の外からお客人が来ることなんて、滅多にないからさ。みんな嬉しいんだよ。村人全員といっても四軒しかないしね。いっそみんなに声を掛けてみようって話になってさ」


 『玄武の館』を離れるとすぐに『白虎の館』の影が大きくなってきた。歩いて一、二分といったところだろう。右手に視線を転ずれば、菜園を挟んだ向こうにもう一つ館の屋根部分が見える。丘の上で受けた説明を思い出す限り、あれが透の住む『朱雀の館』だろう。残る一軒『青龍の館』だけは、『白虎の館』の影になって、今いる場所からでは見えそうになかった。


「そろそろ石像の二つ目が見えてくるよ」


「四方と中央で、五つあるんだっけ」


「うん。あれが中央に建てたっていう石像」


 透が右手を指し示した先、三角形を形作る玄武、白虎、朱雀の館のちょうど中心辺りに白いトーテムポールのような石像が見えた。


「へえ、あれが」


「ああ。その向こうが菜園だよ。往年よりはだいぶ縮小されたけれど、かつての自給自足の名残だね。明治初期頃まではもっと多くの家屋があって、畑だらけだったみたい。今でも、ある程度の野菜だったら自給自足できるよ」


 ふと黄色い菜の花を背景に、モンシロチョウがふわふわと飛ぶさまが見えたようだった。


 瞬きをすれば、そこには天に両手を伸ばしたひまわりが戻っていた。それから何度瞬きしても変わらず、太陽の化身が心地よさそうに揺れている。大きな飛蝗がちちちと羽根を鳴らして飛んでいった。


 パノラマに広がる異国のような景色を前に、姉はこんな村に嫁いだのかと、深見の心内に突如として感慨深い思いがよぎる。


 この隔絶された村で、姉や透は日常を送っているのだ。


 深見が授業をし、部活動の指導を行い、時にネオンに囲まれた街で居酒屋をはしごしたり、ぴかぴかに磨かれたガラスと無数の商品が所狭しと立ち並ぶ陳列棚に囲まれて買い物をしたり、満員電車に揺られて帰宅しているときに、彼らはこの時の止まったような村で日々を送っているのだ。……


 透はそのまま東京に就職しようとか、理工学系の知識を活かせる仕事に就きたいとかは思わなかったのだろうか。都会至上主義を謳うつもりなどなかったが、ふと、そんな思いが深見の胸にこみ上げてきた。


 大学時代よりも日に焼けた顔、若干筋肉のついた精悍な身体を見れば、彼にとってこの村での生活が充実したものだということは想像がつく。田舎に帰り、両親の望んだ職に就くことは、深見にとって耐え難い苦痛であったわけだが、同じように透にとっても苦痛であるとは限らないのだ。ひょっとしたら彼にとっては、それこそが幸せなのかもしれない。


透の現状を目の当たりにしたことで、深見の心の中でひしめき合う親の言いなりを覆したという解放感と、親の期待に背いているという小さな罪悪感がむくむくとその存在を主張し始めた。田舎に戻り、六山市議会議員である父親の秘書として経験を積み、ゆくゆくは地盤を継ぐことが求められている。しかし、深見はその意に反して我を通し、東京で就職してしまった。そんな自らの葛藤が首を擡げているのに無理やり蓋をするように、深見は視線を石像から引きはがす。


数歩先で、横向きに待つ透の柔和な視線がこちらを温かく照らしていた。




 三




 『白虎の館』は、二階建ての母屋と平屋造りの離れの二棟から成り立つ屋敷だった。


呼び鈴を鳴らせば、スピーカー越しにどうぞと姉の声が返ってくる。傍にある石造りの柱と柱に渡された金属の門を開ければ、ぎぎぎという古めかしい音が鳴った。続く飛び石を渡ったあたりで玄関の扉が開き、見慣れた女性が顔を出す。


「いらっしゃい。遠いところをよく来てくれたわね」


 深見の姉の白峰琴乃だった。


 黒目がちで、普通にしていてもほんのりと笑っているような目をしている。肩まであるゆるくウェーブのかかった髪を、上品な髪飾りで一つに纏めていた。特別美人だとは言わないが、我が姉ながら上品で綺麗だと思う。深見は小さなころから、この十三も年の離れた姉に淡い憧れを抱いていた。物心ついたときにはもう姉は高校生だったし、卒業と同時にお嫁に行ってしまったため、一緒に暮らした記憶は五歳で止まっていたが、そのことが寧ろ姉の神秘性を高めているのかもしれない。


 深見にとっての『家』とは息苦しい場所だったため、好きな相手と結ばれて円満に家を出て行った姉は、ある種のヒーローのようなものだった。また、深見に対する親からのプレッシャーが強まったのも深見が小学校に進学する時分からのことだったため、姉のいた五歳までの記憶は、今はなき幸せだった頃の家庭の記憶として、無性に慕情を掻き立ててくるものだという側面もあった。


 そしてまさに今、深見は憧れの姉の幸せの象徴を目の当たりにしているのだ。


 玄関に足を踏み入れれば、軽く目がちかちかした。明るい屋外から室内へと入ったためであろう。一歩後ろから透がついてきて後ろ手に扉をしめた。


「透さん、お迎えありがとうね。主人がちょうど出払っているものだから助かったわ」


「いえ、とんでもない。僕にとっても大事なお客さんですから」


 透の余所行きの声を背に、深見はぐるりと視線で弧を描く。玄関だけで、深見の東京のワンルームがすっぽり収まるような広さがあった。上がり框から右手に進めば、離れに繫がる渡り廊下がある。正面には二階へ繫がる木造りの階段が伸び、左手には居住空間が広がっているようだった。


「陽介の泊まる部屋は離れに用意しているわ。三部屋あるから後で好きなところを選んでね」


「ありがとう。瑞樹と友達はどこを使うの?」


「瑞樹は母屋の二階のあの子が使っていた部屋をそのまま、お友達の冷泉くんはその隣に」


「そうか。なら、俺は離れでちょうど良かったな。男同士、積もる話もあるだろうし」


深見がにやりと頬を持ち上げると、琴乃は片頬に手を当てうふふと笑った。


「そんなやんちゃな感じじゃなかったわ。上品ないい子よ」


「まあ、あの瑞樹の友達だもんな。そんな感じはする」


 白峰瑞樹に、粗野な子とつるむイメージはなかった。口数が少なそうな瑞樹の友達と言えば、おのずと似た類の人間が予想されるものだ。


「お外は暑かったでしょう。透さんもお茶でもどうかしら」


「姉弟水入らずの時間に水を差すのも申し訳ないですが……そうですね、お言葉に甘えまして、少しお邪魔します」


 琴乃に従い、二人は白峰家の中に案内される。よく冷えた麦茶が火照った身体に染み渡った。お茶菓子には、深見の東京土産の果物ゼリーがあがった。


「瑞樹は?」


 邸内から人の気配がしないことを受けて、深見はきょろきょろと首を動かす。


「今は龍川先生のお宅にお邪魔しているの。そろそろ帰ってくる頃じゃないかしら」


「龍川さんって……ええっと、眼医者だっけ? ものもらいか何かできたの?」


深見が目を丸くして問えば、「ああ、違う違う」と、琴乃は笑った。「小夜ちゃんっていう同級生がいるから、遊びに行ってるのよ。彼女も今年から市内の看護学校に通っているのだけれどね。夏の間はこっちに帰ってきているの」


 琴乃の説明に相槌を打ちながら、透も言葉を加える。


「この村には学校がないんだ。中学までは隣の五藤村にある分校に通うんだけれど、高校以降はどうしても村から離れることになるんだよ」


「透さんは高校から東京よね」


「ええ。どうしても学びたい分野が東京の大学にしかなかったんです。それで、その大学に入るために、どうしてもこの高校に通いたいって思う学校があって、父に無理を言って進学させてもらったんですよね」


「小さい頃から優秀だったものね。学びを追求しての進学だもの。素晴らしいことだわ」


「やりたいことをやらせてもらえる環境に感謝ですね」


 透が高校から上京していたことは聞いていたが、その理由までは聞いたことがなかったため、深見は興味深く耳を傾けた。


 言葉通り、学びを追求するために親元を遠く離れて東京まで出たのだとしたら、それは生半可な思いではないだろう。そして透は、実際にその思いのとおり、希望の大学への入学を成就させている。はたして、彼はそれで満足できたのだろうか。本当は理工学関係に就職したかったのではなかろうかという思いが、再び深見の頭を去来する。


 そうしたところで透の澄んだ目とかち合った。柔和そうに微笑みかけられる。


「じっと見つめてどうしたの?」


 そう清純な目で首を傾げられたら、どうも気がそれてしまう。深見も口元を緩めると、前のめりに椅子を引いて姿勢を崩した。


「いやあ、今まで別々に知っていた人たち同士が実は知り合いだったってだけでびっくりなのに、目の前で会話しているものだからさ。なんだか不思議だなと思って。俺の知っている姉さんと、俺の知っている朱野のはずなのに、揃うとなんだかいつもと違う人同士を見ている気分」


「そうよね。陽介は、私と透さんが会話しているところは初めてだものね」


「そうそう」


「言われてみれば、確かに新鮮かもしれない」と、透も思考を巡らすように宙に視線を投げる。


「でも、私にとってもそうよ。透さんと陽介のことはそれぞれよく知っているけれど、二人が揃っているのは初めてだわ。透さんもそうよね」


「そうなりますね」


「そっか。確かに、俺だけじゃないか」


 説明されて、深見は照れ臭そうに笑った。そんな深見を慈しむように、透も柔らかく笑う。この、小学校の先生や養護教諭、修道女を彷彿とさせる慈母のような笑みは、透の懐の深い人となりがよく表れていると深見は思っていた。


「いやでも、言いたいことはわかるよ。深見から聞いて知ってはいたけれど、こうして揃っていると琴乃さんと深見って姉弟なんだなあって納得するっていうか。どこか似ているよね。それぞれの世界が繋がった感じがするのが面白いなあって」


「私にとっては、透さんの砕けた口調も新鮮よ。いつも丁寧な振る舞いばかり目にしているものだから。同年代の男の子相手だとこうなるのね」


「俺は?」


「陽介は実家でいつも砕けているでしょう」


「あ、そっか……え、じゃあ、朱野って実家でも行儀よくしてんの?」


 深見が尋ねた瞬間、少し場の空気が凍ったようだった。


 一瞬の沈黙を経て、透が引き継ぐように口を開く。


「まあ……そうだな。うちは少し、特殊だから」


 そう口籠る透と、曖昧に笑って誤魔化す琴乃を前に、深見はどこか不穏なものを感じ取らずにはいられなかった。


 そんな折、ぎぎぎと門の開く古めかしい音に続いて、玄関の扉がからからと滑る軽やかな音が聞こえてきた。続いてひとつの足音が近づき、ほどなくして影が現れる。


「ただいま……やっぱり来てた。いらっしゃい、陽介くん、透さん」


 白峰瑞樹だ。琴乃に似た黒目がちの眼と、父の秀一に似た涼やかな面立ちは健在だった。


「こんにちは瑞樹くん。お邪魔しています」透は柔和に首を傾げた。


深見は椅子の背に腕を載せて背後を振り返った。「瑞樹、久しぶり。びっくりしたか?」あまりに嬉しそうに名前を呼ばれたもので、深見からも自然と笑みが零れ落ちる。


「靴があったからわかったよ。会うの楽しみにしてたんだから」


「なんだ、そうか。しかし身長伸びたな。立ったらもう変わらないぞ」深見は立ってみせた。隣に立った甥っ子の頭は、百七十五センチ近くはあるだろう深見のものとあまり変わらない位置にあった。「剣道はまだ続けてんの?」


「うん。大学の剣道部で週に三回。今日泊まりにきている冷泉ともそこで知り合ったんだよ」


「部活の友達か。いいな。ところで、その冷泉くんは?」


「もうすぐ来ると思う。靴の泥を落としてから来るって、あ、来た」と、瑞樹は背後を振り返った。


鴨居をくぐって瑞樹の背後から長身が姿を現した。


「こんにちは、お邪魔しています。冷泉誠人と申します」


 冷泉と名乗るその男は、怜悧そうな声でそう言って、綺麗に畳んだハンドタオルをジーンズの尻ポケットに差し込み会釈をした。清潔そうな黒髪は、ミディアムショートに切りそろえられている。切れ長の目と理知的な面立ちのせいか、どことなく年齢以上に落ち着いた印象を与える青年だった。


「冷泉くん、はじめまして。瑞樹の伯父にあたる深見陽介です。都内で中学の数学教師をしています」


 彼の持つ雰囲気に呑まれてか、深見もつい、語尾が敬語になってしまう。


 二人が歩み寄り握手をする横で、透がおもむろに立ち上がった。


「じゃあ、僕はこの辺りでお暇しようかな。琴乃さん、お茶ご馳走様でした。深見もお土産美味しかったよ、ありがとう。では、また夜に」


 家へと戻る透を見送った足で、深見はそのまま離れへと案内された。


 本家の廊下の、東側のつきあたりに簡素な鍵がかかった引き戸があり、そこをからからと開けた先には飛び石が続いていた。スリッパから下駄に履き替え、飛び石へと降りる。飛び石に屋根はなく、数歩進んだところでもう離れの玄関部分に行き当たった。


 琴乃は鍵を開けると、そのまま深見に手渡した。「この離れの鍵は陽介に渡しておくけど、一本しかないから出かけるときは母屋の玄関の鍵置きに戻しておいてね。中は好きに使っていいわよ」


 からからからと引き戸の滑る涼しい音が、しんと静まり返った木造建築に響き渡る。


 人の気配の全くない建物だ。


 足を踏み入れると、体温が幾分か下がったような気がした。


 上がり框を昇ると、まっすぐ廊下が伸びていた。廊下の途中で手前に開き戸が一つ、その奥にふすまが二つ見える。これが先ほど言っていた三部屋の入口だろうことは見て取れた。


「手前が板張りの洋間、奥の二部屋が和室になっているけれど、どこを使う?」


「じゃあ、洋間にしようかな」


 深見が答えると、手前の洋間のドアを開けた琴乃から、中へと促される。


 中は六畳ほどの明るい洋室だった。向かって右側にベッドがあり、正面にクリーム色のカーテンのかかった腰高窓が一つ。その手前にテーブルと一人掛けのソファが一脚並んでいる。


 人の気配がないとはいえ、まったく黴や埃の匂いは感じられない。日頃からこまめに掃除されていることが窺えた。


「つきあたりの扉が洗面所とトイレ。お風呂は母屋のものを使ってちょうだいね。靴は不便だったら、離れに置いておいて、母屋からは下駄を使ってくれても構わないから」


「何からなにまでありがとう」


 深見が説明の一つ一つを咀嚼するように頷きを落とし、最後に礼を言うと、琴乃は「では、ごゆっくり」と笑顔を零して去っていった。


 パタパタパタとスリッパの音が次第に遠ざかる。やがて届いた、引き戸の奏でる軽やかな音色を耳に、深見はようやく一息ついた。荷物を床に下ろし、上着をハンガーにかけて吊る。それからベッドにごろりと横になった。掌からちゃりんと離れの鍵が零れ落ちる。


 ずいぶんと遠いところへ来た気分だった。


 住み慣れた実家がここから車で一時間半の場所にあるというのに、まるで遠い異国の秘境にいるようだ。


腹の底からわくわくとした熱が突き上げてくるのを感じ、深見はがばりと勢いよく身体を起こす。遠い昔に抱いた冒険心と恐ろしさにようやく決着をつけた気分だった。自分は今、あのときなし得なかった冒険を十五年越しに成就させているのだ。


それと同時にあるひとつの思考が浮かんできた。


もし、あのとき――小学生の時分に、恐怖感に冒険心が打ち勝ち、この四神村へと足を運んでいたとすれば、ひょっとしたらその時点で朱野透少年との出会いを果たしていたかもしれない。


目と鼻の先で、それぞれがそれぞれの年表に足跡を刻んでいたのだと思うと、不思議な感覚に見舞われた。


けれども、深見はまだその一部を垣間見たにすぎない。


 向かうのはこれからだ。あの朱野透が十五年の時を過ごした家へと。




 四




 夕刻に向かうにつれて、空には雲が目立ちはじめた。


 そして、どこからともなく涼しい風が肌をさらっていく。


 盛夏のひまわりをぼんやりと見つめながら、深見は大きく息を吸いこんだ。


 田舎の澄んだ空気と、日の光に炙られた土が蒸発する風が混ざり合う、懐かしい匂いがした。


 排気ガスでくすんだ肺が徐々に浄化されていくようだ。


 白峰邸を出て、右手に視線を向ければ、そこには盲目の武藤霧子の住む『玄武の館』が見える。先ほど裏手から見たのとは逆に、向日葵越しの玄関が綺麗に見えた。


 家を建てた時、霧子はまだ生まれてはいなかったのだろう。


 目の不自由な婦人の住む家ではあるが、玄関は庭よりも高くなっており、扉の前には二段の石段があった。その玄関を中心に、左右対称に窓が三つずつついている。二階、三階も同じような作りだった。


 瓦屋根に和式住宅の『白虎の館』とは違い、『玄武の館』は小樽や横浜にありそうなモダンな洋館だった。社会科の教科書の文明開化の項の挿絵に出てきそうな外観をしている。


 そこから視線を左上に滑らせれば、少し見上げたところに丘が見える。


 先ほど、透と共にこの村を一望したあの小高い丘だ。


 そこから再び視線を下げて左へ転ずれば、そこには『朱雀の館』が鎮座していた。


 『白虎の館』からだと、丘に阻まれるため辛うじて屋根部分が見える程度だった全景が、近づくごとに露わになる。


 『朱雀の館』は全体的に赤みがかった外観をしており、これまで見た三軒の中で一番大きかった。レンガを積み上げたような外壁をした三階建ての洋館である。家の周囲は女性の背丈ほどの石壁でぐるりと囲まれていた。その石壁が一部途切れた箇所にビニールハウスが隣接しており、その横には農具倉庫がある。時折吹き始めた突風で開いてしまったのか、扉がゆらゆらと揺れており、その隙間から中の様子が垣間見えた。


近づいてみれば、農業用一輪車や、業務用サーキュレーター、手巻きウインチなど様々な器具が陳列されている。その奥には工具箱や端材など、大工道具一式も見える。鍵がかかっていないのは一見して不用心にも思えるが、この長閑な村においてわざわざ農具や工具を盗むような人もいないためだろう。


 ついでとばかりに、深見はその開き戸をしっかりと閉めて道へと戻る。


 道の向こう側、村をぐるりと囲む山の一角へ視線を転じたところで、不意に一体の石像と目が合った。白黒の虎の形をしている。『青龍像』とは違って今度はよく知る虎の外見しており、一見して『白虎像』だろうことがわかった。台座は古い金属でできているようで、錆びてくすんだ色をしている。また『青龍像』の対角線上に位置することから、素直に考えればこの『白虎像』は西方を司っているだろうことが窺えた。


 それから一分もしないうちに『朱雀の館』の門へと辿り着いた。


 門の前で呼び鈴を鳴らせば、品の良い老齢の声が歓迎してくれる。その声に言われるままに鉄の門をくぐれば、左手の突き当たりには四畳ほどの納屋が、右手の突き当たりには年代を感じる焼却炉があった。その手前、庭の花壇には白いアーチが掛かっていて、周りを彩る桃色の薔薇も相まって欧風の屋敷によく映える。降り注ぐ蝉しぐれがなければ、ここが現代日本だということを忘れてしまいそうだった。


それらを目で楽しみながらふらふらと通り過ぎ、建物の方へ足を進める。改めて見上げれば、実に立派な屋敷である。生い茂る木々を背にした、聳え立つ要塞のようだった。


初めての場所を訪れたとき特有の好奇心から、ついきょろきょろとしてしまう深見だったが、数段高い場所から玄関扉を背にぐるりと一周見渡したところで、こげ茶色の木製扉が観音開きに放たれた。


「いらっしゃい」


長い腕を支え棒にした透の笑顔が深見を出迎える。


 どうやらシャワーを浴びたらしく、微かに黒髪が湿って落ち着いた様はどこか幼く見えた。


 中は土足とのことで、泥落としで靴の土を払ったらそのまま足を踏み入れて良いらしい。


 どうぞと促された深見がどぎまぎしながら中へ入ると、老齢の執事がたわやかに頭を下げて迎え入れた。先ほどの呼び鈴の声の主は彼だろう。


「こちら、うちに住み込みでお世話をしてくれている執事の水谷さん。彼は僕の大学時代の友人で深見陽介くんです」


 透の紹介に合わせて、深見は軽く頭を下げた。


「深見陽介と申します。二日間、この村でお世話になります」


深見の顔を見るや否や、水谷は花が咲いたように明るい笑みを零し、恭しく頭を下げる。


「そうですか、あなたが……お会いしとうございました。お話は透さんからよく伺っております」


 人生初めてお目にかかる執事という人種からの礼遇に、深見はすっかり舞い上がってしまい、あたふたしながらぎこちなく笑みを返した。そんな年齢にそぐわぬ無邪気さを拭いきれない深見にも、歓待の相好を崩すことなく、水谷は目じりに皺を寄せて言った。


「遠いところからよくお越しくださいました、深見様。水谷と申します。御用の際にはなんなりとお申し付けください」


「水谷さんはね、俺が生まれるうんと前からうちで働いてくれているんだ。家のことならなんでも知っているから、わからないことがあったら訊くといいよ」


透に紹介された水谷は、「もったいないお言葉です、透さん」と謙遜して笑う。


「しかし……すごいお屋敷だな。外国の城に迷い込んだようだ」


 感嘆の息を漏らしながら、深見は改めてぐるりと辺りを見渡した。


 高い天井に、小洒落た硝子細工の照明、木の階段、赤い絨毯、壁にかかった剥製、レイピアのレプリカ、壺……視界に入るどれもが、映画やドラマで見る金持ちのイメージそのものだった。


 素直な感想だったつもりのその言葉に、透は困ったような笑いを零す。豊かであることに、あまり良い思いを持っていないような反応だった。


「こんな田舎だし土地だけはあるからなあ。一人で整備してくれている水谷さんには頭が上がらないんだよ」


 どうぞ、と居間へ促された深見だったが、どうしても気になっていたことが一つあった。


「おじいさんにお線香、上げてもいい?」


 深見の申し出に、「あー」と透は視線を逸らしながら、眉を八の字にした。「ごめん、うちは仏教じゃないから線香はないんだ。心遣いありがとう」


 気遣いを折るようで心苦しかったのだろう、すまなそうにする透だったが、深見は友人の知らなかった一面に感興を覚えることこそあれど、気を悪くするなどあるはずないと胸の前で手を振って返す。


 仏教でないとなると、朱野家はキリスト教なのだろうか。キリスト教においては、礼拝対象は神だけであり、死者へ手を合わせることはしないのだと聞いたことがある。


 そうしたところで透に案内された居間は、二十畳はありそうな大きな部屋だった。本物などほぼお目にかかったことがないため真贋こそわからなかったが、居間の床は白い大理石風の石で一面覆われていた。


「まあ」


 聞こえてきた声に深見は顔を上げる。奥から顔を出した着物姿の女性と目が合った。年の頃は四十を越えたあたりだろうか。艶やかな黒髪をきっちりと結い上げ、蛇のような三白眼をしている。全体的に、どこか能面のような無感情さを覚えた。


「こちら、藤川絹代さん」


 透の紹介を受けると、藤川絹代は温度のない目でじろりと深見を一瞥した。その視線から排他的な印象を受け、深見はじわりと芽生えた居心地の悪さを奥歯で噛み潰す。


「こちら、先日話しました僕の友人の深見陽介くんです」


 例のごとく透が紹介するのに合わせて、深見も一礼を返す。藤川絹代は、なおもじろりと値踏みするような冷たい視線を貼り付けたまま、形だけの目礼を寄越してきた。


 そうしたところで、扉の開く音と共に背後からもう一つ足音が近づいてきた。


「やあ。君が深見くんかね。よくきてくれた。話は聞いているよ。透が世話になって。東京で教師をしているそうじゃないか。現役で教員採用試験に受かるだなんて素晴らしい」


 居間の入口から姿を現したのは、茶色の着流しに身を包んだ、がっしりとした体躯の中年男性だった。黒い髪を後ろになでつけ、黒縁眼鏡に口髭をたくわえた様は、どこか厳格そうな印象を受ける。


「こちらが僕の父」


「深見陽介と申します。わたくしのほうこそ透くんにはよくしてもらっております。今晩は夕食会にお招きいただきありがとうございます。こちら、心ばかりのものですが」


 そう言って深見が紙袋から取り出した東京土産の菓子を渡すと、「いやあ、気を遣ってくれてすまないね。おい、絹代。お茶と一緒にお出ししてくれ」至極ご満悦といったふうに源一郎は、藤川絹代を呼びつけて包みを手渡した。


絹代はしおらしくそれらを受け取ると、台所へと消えていった。


 その様子を受けて、深見の中で一つの下世話な考えが生まれる。


かつて透から、母親が他界しているという話は聞いていたが、この藤川絹代はひょっとしたら内縁の妻のような位置づけなのかもしれない。


そう考えると、透から絹代についての明確な紹介がなかったのも頷けた。後妻であれば、苗字は朱野になるだろうし、透も養母と紹介するだろう。また、身なりや絹代の透に対する振る舞いから、使用人でないことも明らかだった。


ここまで閃いてしまったところで、他人の家のことをむやみに詮索するものではないと、深見は慌てて首を振る。台所では、藤川絹代が表情一つ変えずにお茶を淹れていた。


 このとき深見は、透が自身の家庭を特殊だと言っていた、その片鱗を垣間見た気がしていたが、これがそのほんの一角にすぎないことをまだ知る由もなかった。






 源一郎と絹代とを交えたお茶は、どこか息苦しいものがあって、正直なところ深見にとって居心地のよいものではなかった。時代錯誤な男尊女卑と、典型的なレッテル主義の固まりである源一郎と、その源一郎の一歩後ろで追従を繰り返す藤川絹代の相手は、職業柄多彩な保護者たちを相手にする深見でさえも、感歎するほどである。明治時代にでもタイムスリップしたかのようだ。失礼ながら、透は毎日このような相手と寝食を共にしているのかと思うと、同情の念さえ沸いてくるものがあった。


 その空気を察したのか、透が、「そろそろ部屋にいこうか」と、提案したのだが、それが深見にとって鶴の一声だったのは言うまでもない。


 二人は連れたって席を立った。


 先ほど入った玄関側とは反対の扉から居間を出ると、渋い焦げ茶色の板張りの廊下に出た。まず右手にトイレがあり、その奥に階段がある。先ほどの玄関ホールから続く広い階段とは違い、人ひとりが通れるくらいの狭い階段だった。それが二階と、それから地下に続いている。


 突きあたりは勝手口になっており、窓の外を見遣れば二、三メートル向こう側に先ほど庭から見かけた納屋が見えた。


 透が二階へ続く階段に一段足を掛けたところで、深見は地下へ続く階段を見下ろして言った。「地下もあるんだ」


「ああ」透は振り返って、段に乗せていた足を引っ込めた。「地下はね、普段はあまり行き来しないんだけどね」


「そんなもんなんだな。シェルターとかありそう」


「さすがにないよ」透は楽しそうに肩を揺らした。


 透の部屋は、二階に上ってすぐの角部屋だった。狭い階段は二階までで行き止まりになっている。


「三階へ昇るには中央階段を使うんだよ。三階は使用人の部屋だから、行くことはないだろうけど」


廊下の窓にはロールアップカーテンが下りていた。


「西日が眩しくてね」透が困ったように笑った。山裾に沈む夕日の絶景も、毎日となると流石に飽きるものらしい。


 細い廊下を二つ折れて透の私室に案内される。南向きの窓の外は小さなバルコニーが部屋ごとにあり、見下ろすと真下に納屋が、その奥にビニールハウスと農具倉庫が見える。そこから更に向こう側へと視線をのばすと、ひまわりや木々の先に白峰邸の瓦屋根の一部が覗いていた。


 大学時代、透の下宿先を訪れた際にも物の少ない部屋だと思ったものだが、案内された透の部屋も似たような簡素な部屋だった。


「どうぞ、座って」


 深見をソファに促すと、透は書き物机の備え付け椅子を向かい合うように置きなおして自らも腰を下ろした。


「お邪魔します。お、ソファふかふか。なんかすごいな、日本じゃないみたい」


「ふふ。深見が楽しそうでよかった。唯一雨が心配だけど」


 透の言葉を受けて、深見も窓の外へ視線を向ける。厚い雲が垂れ下がり、先程に増して風が強くなっているようで、木々がゆさゆさと重そうな枝葉を揺らしていた。


「雨降るのかな」


「台風が来ているようだからな。大陸の方にそれるみたいだけど、この様子だと夜は大雨になるかもね。夕食会が終わるまでは本降りにならなければいいけども」


「まずいな、俺傘持ってきてないや」


「それは貸すから心配いらないよ」笑ってくるりと深見に向き直ると、透は悪戯そうな笑みのまま続けて言った。「びっくりしたでしょ」


 何がと言われずとも主語に察しはついたものの、深見は反応に困ってしまった。曖昧に口を開閉させる。


そんな深見を助けるように透は続けた。


「うちの父親、ああいう人だからさ。周囲に気を遣わせるんだ。夕食会のときももしかしたら大変かもしれないけど、俺も割って入るようにするからさ。それから……なんとなく察しはついているとは思うけど、絹代さんとは内縁関係のようなものだと思ってもらえれば。これは、さすがに居間では言いにくくて黙っていたけれど」


「そっか」深見はあまり重くならないように口角をあげた。「下に弟と妹がいるって言っていたっけ」


「ああ、うん」透は曖昧に零して、視線を泳がせた。「双子の弟と、五つ下に妹がいる。母は、俺と弟を産んですぐに亡くなったから、俺らと妹とは母親が違うんだよね。妹の母――百合子さんっていうんだけど、その人も十年前に病気で亡くなって。しばらくは父も独りだったんだけど、二年くらい前から絹代さんと……」


「そっか」これは想像以上に複雑そうだと、深見は透の言葉を丁寧に脳内で整理する。「弟さんと妹さんもこの家に?」


 深見が問うと、透は一度唇を閉じ、改めて口を開いた。


「ああ。妹の静は、高校を卒業して今は家にいるよ。来年の春には結婚して出て行っちゃうけど」


「へえ、それはおめでたいな」


「これが妹」と透が本棚から取り出したアルバムには、雅やかな透とは少し毛色の違う、派手な顔つきの女性が笑っている写真があった。


「へえ!」深見は思わず感嘆の声をあげる。


「それから、これが俺の母」


 アルバムのページをひとつ前に戻すと、品のある和装の女性が椅子に座って微笑んでいた。隣には紋付き袴姿の、若かりし源一郎が仁王立ちしている。


「綺麗な人だな」


 深見がそう言うと、透は面映ゆそうに顔を綻ばせた。


「実際に会った記憶はないんだけどね」


「朱野と似ている」柔和そうな目元がそっくりだった。「朱野はお母さん似なんだな」と深見が言うと、透は至極嬉しそうに頷いて、ぽつりぽつりと話し始めた。


「母は大学を卒業してすぐにここに嫁いだらしいから、この写真は二十二歳くらいなのかな。今の俺より若いんだよ。二十四で亡くなっているからさ。この年で、親の年齢を追い越してしまったんだ」と寂しそうに笑う透にかける言葉が、深見には見つからなかった。


 そうして透はパタンとアルバムを閉じ、丁寧に元の棚へと仕舞いこむ。


「弟さんも家にいるのか?」


 そう問われて一瞬、透の表情が能面のように固まるのを深見は見た。透がこの能面になるのを、この村に来て深見は何度か見ていた。知る限り、東京では見ることのなかった表情だ。


透はすぐにいつもの表情を取り戻してこっくりと肯いた。


 窓硝子を雨粒が叩く軽妙な音が一つ、二つ響いたかと思うと、次第に束となって押し寄せる。


 雨が降り始めたようだった。


「あ、家にいるんだ。会って話がしてみたいな。同い年だし」


 はしゃぐ深見を前に、透は何度か唇を噛んで、視線を逸らした。


「それはできない」


「え」


「弟は――」


 そのとき一閃の稲光が、部屋を白く呑み込んだ。




 五




「これも和室に仕舞う分?」冷泉誠人は、物干し竿から敷布団を引きずり降ろして振り向いた。


縁側の上から白峰瑞樹が両手を広げて肯くのに、布団を抱えて歩み寄りバトンパスをした。渇いた土に、木製の下駄の音が涼やかに響く。


 冷泉誠人と白峰瑞樹は、午前中に『白虎の館』の離れの庭に干していた布団を、連携して取り込んでいた。だんだんと西の空が暗くなってきたので、慌てて庭に出てきたのだ。


 中途半端に作られた生垣の割れた向こうに、『青龍の館』がよく見える。青銅色を基調にした、横に長い家だ。ぼんやり見上げていたそのとき、二階の窓硝子が開き、中から龍川小夜が顔を出した。


 互いに目が合い、びっくりしたように目を丸くする。冷泉は小夜を見つめたままだったが、小夜は動揺したように目をあちらこちらに向けて俯いた。そして、そろそろと窺うように視線を冷泉の方に戻す。その一連の挙動が初々しくて、冷泉は柄になく緩みそうになる口元を右手で押さえた。


そんなところに、「何してんの」突然背後から瑞樹の声が降ってきたものだから、冷泉は、それはもう柄になく泡を食って振り返った。いつの間にか、縁側から降りて近くに来ていたらしい。


「いや……」と、何がいやなのかよくわからないまま冷泉が呟きながらそろそろと小夜を振り返れば、視線の先で小夜が口元に揃えた両手をあてて小さく肩を揺らしていた。


「小夜ちゃんに見とれていたんだろ」


 隣から瑞樹のじっとりとした目線が刺さる。


「違うから」と、反射的に勢いよく否定してしまったものの、このままだと小夜に失礼にあたると思い直した冷泉は、慌てて小声で付け加えた。「いや、小夜さんは確かに、魅力的だと思うけど」


「小夜ちゃんは駄目だからね」


「だぁから、違う」


「ふふ、わかってるって」瑞樹は少女のように肩を揺らして笑った。彼の癖だ。白峰瑞樹は人見知りだから大抵の人には見せないが、親しくなれば悪戯っ子のような一面を見せてくれる。多分に茶目っ気のある性格だが、引き時はわきまえている男だ。


「駄目って……付き合っている人がいるのか?」


同じく少女のような小夜を見上げながら、少し意外だと冷泉は小さく尋ねた。この自然に囲まれた村で過ごすと、みんな少女のような天真爛漫な性格に育つのかもしれない。


「いや、まあ、好きな人がいるんだよ、小夜ちゃんには」


 瑞樹がらしくなく濁すのに、冷泉はこれ以上の追及も野暮そうだと「そうか」と返すにとどめた。


 龍川小夜は、おかっぱ頭の小柄な体躯をしている。瑞樹に輪をかけたような人見知り気質のようで、昨日始めて会った時には「はい」か「いいえ」くらいしか声を聴いていないのではないかというほどだった。同じ空間に、互いの共通の友人である瑞樹がいなければ、とても会話が成り立つとは思えない。そのくらい初心な印象を冷泉は抱いた。


「小夜ちゃん、今ひまー? また少し遊びに行ってもいいー?」瑞樹が間延びした声を投げた。これも絶対に大学の構内では聞けない声量だ。小夜のおかっぱ頭がこくりと揺れるのを確認するやいなや、瑞樹は冷泉を振り返って目を輝かせた。「行こうよ。夕食会までまだ時間あるし。俺持って行きたいものがあるんだ」


 そう言って、瑞樹は物干し竿に二枚残ったシーツを乱暴に引っ張り込むと、下駄を脱ぎ捨てて足早に縁側から和室へとのぼっていった。すぐさま、手ぶらで戻って来て縁を降り、母屋の方へ駆けていく。鍵はかけなくていいのだろうか。思わず、鍵の開いたままの硝子戸を二度見して、冷泉も後に続く。都会育ちの冷泉からすれば、窓や玄関の施錠をしないだなんて無防備に思えたが、この村ではそれが当たり前なのだろう。昨日、今日と二度龍川家を訪れたときにも、閉じた玄関の鍵の外れる音はしなかった。


 先に自宅へと戻った瑞樹に続いて、冷泉は『白虎の館』の玄関の戸をからからと開けて中へ入る。扉を閉めたことで蝉の合唱が遠のき、かわって二階で足音が動くとたとたという音が耳に届いてきた。それに続いて『ちょっと瑞樹、何ばたばたしてんのー』と、台所から笑いを含んだ琴乃の声がする。琴乃は、今晩の夕食会の差し入れの準備があるらしい。


 冷泉が木の下駄からスニーカーへと靴を履き替え、上がり框へと腰を下ろしたところで、麦茶の入ったグラスを盆にのせた琴乃が廊下へと出てきた。


「お布団ありがとうね冷泉くん。助かったわ」


 渡された冷たいグラスに、「いただきます」と礼を述べて冷泉は口をつける。香ばしい麦の香りが慕情を掻き立てた。「せっかくの男手ですので、何かあれば使ってください」


「頼もしいわね。お客様をこき使ってしまって悪いけど、それじゃあ遠慮なく」


 琴乃が悪戯そうに笑うのにつられて、冷泉も白い歯を零す。


「少しでも泊めていただくお礼ができたら幸いです」


 そうしたところで、足音を立てて瑞樹が下りてくる。


「ちょっと小夜ちゃんのところに行ってくるね」


「あら、また行くの? 五時半にはここを出るから、それまでには戻ってきてね」


 その言葉に腕時計を見遣ると、針は午後三時半を回ろうとしていた。




 六




 村の最南端に位置する龍川家の敷地の向こう側、森の中にそれは静かに鎮座していた。


『朱雀像』である。


 両翼を広げた鳥の形をした赤い石像だった。周囲の雑草は綺麗に刈り取られ、ぽっかりと、そこだけスポットライトのように日の光が当たっている。上空を見れば、生い茂った木々の枝がその上空だけは丸く切り抜いたように剪定され、常に翳らないような工夫が施されているようだった。それらを横目に見遣りつつ、冷泉と瑞樹は『青龍の館』の玄関へと向かった。


 龍川家はこの村の四つの『館』の中で、最も庶民的な造りをしている家屋だった。


 細長い直方体型の一階の東側半分に、立方体型の二階がちょこんと乗っている。そのちょこんと乗った二階の一角に、龍川小夜の部屋があった。


 学習机がそのまま残った部屋の中央に、丸い絨毯と木のちゃぶ台がある。その上で、汗をかいた三つのグラスのうちの一つがからんと音を立てた。


改めて冷泉はぐるりと部屋を見回す。女子の部屋に入るなど、もう何年振りだろうか。そう意識した途端に、カッと体の芯が熱くなるようだった。


この部屋には時計がない。聞けば、小夜は秒針の音が苦手で、小さいころから私室に時計を置いたことがないらしかった。


勉強机の脇では、一つの包みを挟んで瑞樹と小夜が額を突き合わせている。


「透さんからもらった時計、壊れたって言っていたからさ」瑞樹の手元には、置時計の空箱があった。


すぐ隣では、小夜の華奢な指がデジタル時計を物珍しそうに撫でまわしている。「ありがとう」小夜は不器用にはにかんだ。


そんな小夜の笑顔に、瑞樹はごく幸せそうな表情を返した。


 その時計は、先日仙台の量販店で購入したものだった。買い物に付き合ったときには、自室の時計でも買い替えるのだろうと冷泉も深くは考えなかったが、どうやら彼女への土産だったようだ。


 会話に出てきた透というのは、先ほど白峰邸を訪れた朱野透のことだろう。先ほどから交わされている話から推測するに、秒針の苦手な小夜のためにと、透は彼女が小学生だった時分に時計を贈ったらしい。そして、その時計がどうやらずいぶん前に壊れてしまっていたようだった。


 欲しければ自分で買いに行けばいいのに、なぜ放っといたのだろう? そう考えた瞬間、冷泉の頭の中に一つの考えが浮かび上がった。


――好きな人がいるんだよ、小夜ちゃんには。


 瑞樹の声が蘇る。ああ、そういうことねと緩んだ口元を右手の甲で押さえて、冷泉は勉強机に視線を向けた。


とすれば、どうやら瑞樹は気づいていないらしい。先ほどの口ぶりから、小夜の想い人の正体は知っているはずなのに、時計を買い替えない小夜の行動の裏には気がついていないようだ。それとも、瑞樹は気づいたうえで、敢えて透に宣戦布告を叩きつけているのだろうか? それはそれで面白いと、再び緩みそうになる口元を咳払いで誤魔化して、冷泉はもぞもぞと胡坐を組みなおした。


「このボタンで時刻を合わせられるんだ。えっと……」と顔を上げた瑞樹は何かを探すように視線を彷徨わせる。見れば二人とも腕時計をしていないようだ。


「三時五十五分」


 冷泉が左手首を持ち上げて時刻を読み上げると、笑顔とともに「さすが冷泉」と瑞樹の囃し立てる声があがる。「でも、電源が入らないねえ……あ、まだ電池が入ってないのか。あはは、うっかりしてた」そう言って瑞樹は暢気に笑った。どうやら電池は付属していなかったらしい。


「一階に行けばあるよ、きっと。夕食会の後でお父さんに聞いてみる」ありがとうね、瑞樹くんと、小夜ははにかんだ。


 そのまま冷泉は窓の外へ視線を移す。だいぶ空が近くなり、辺りは湿っぽく暗くなり始めていた。


「降り出す前に帰ろうか」


 どちらともなく腰を浮かして、部屋を出る。瑞樹の目的は果たせたようだし、これ以上長居する理由もないだろう。


「また後でね」


 玄関先でいいと言ったにも関わらず、健気にも小夜は外に出て二人を見送ってくれた。二人が白峰邸の影に隠れて見えなくなるまで、小夜はずっと小さな白い手を振り続けていた。




 七




「すごい稲光だったね。しばらく降るのかな」


顔を上げた透は、一転、普段通りの柔和な表情を取り戻していた。それから窓に視線を移し、腕時計と見比べる。


正直、深見にとっては天気よりも透の話の続きが気になって仕方がなかったが、「そろそろ時間かな。風が出ないうちに、霧子さんを迎えにいかなきゃ」しきりに時間を気にする様子の透を前に、続きを乞うタイミングを完全に見失ってしまった。


 そこで深見は、先ほどの『玄武の館』での会話を思い出す。そういえば透は窓越しの武藤霧子に対し、夜の食事会の前に迎えに行くようなことを言っていたようだ。


合点がいったと透の後を追って部屋を出たところで、不規則な足音が耳に入った。


「あ」


 足音の主は中央の階段をまさに今降りようとしているところだった。すぐに、声に気づいて振り返る。そして深見の姿を視界に入れるや否や、そのままUターンしてこちら側へと歩いてきた。


「わあ、お兄ちゃんのお友達の! 深見さんですよね。はじめまして、透の妹の静です」


 朱野静は、さも嬉しそうに破願一笑してみせた。初めて話の通じそうな家人と会ったとあって、深見は心が軽くなるのを自覚して歩み寄る。


「ああ、妹さん。はじめまして、深見陽介です。よろしく」


静の派手な顔立ちと茶色い巻き髪は写真で見たままだったが、動くとそこに天真爛漫さが加わり、少しだけ幼い印象が上乗せされた。怪我でもしているのか、片足を少し引きずって歩いているようだ。深見が一瞬視線を下げたのに気付いたのか、静は軽い口調で笑って言った。


「あ、この足ですか? 何年か前に、二階のベランダで洗濯物を干していたら、板が腐っていてですね。そこを踏んで落ちちゃって、少し怪我が残っちゃったんですよ。でも、もう痛くはないから、気にしないでくださいね」


「そっか、それは大変だったね……お大事に」


 深見が眉尻を下げると、静は至って明るく「ありがとう」と礼を述べた。


「静も居間に降りるの?」


「うん。夜の支度を手伝わないと。ふりだけでもね」


「ふりね」と透は笑う。二人だけで通じ合う何かは、兄妹の仲の良さを感じさせるものがある。


「うそうそ、真面目に手伝うよ。大事なお客様に喜んでもらわなきゃ」ね、と静は深見に満面の笑みを向けた。そして、すぐに透に向き直って首を傾げる。「お兄ちゃんたちは?」くるくるとよく表情の変わる子だ。


透はそんな妹の頭を視線で撫でるようにして答えた。「今から武藤さんを迎えに出るところだったんだ。深見はどうする?」


 透という触媒の欠けた深見では、見ず知らずの人達が溢れるこの家に残ったところで時間を持て余すこと必至である。


深見がうーんと迷っていると、「ついてきてくれてもいいし、俺の部屋でゆっくりしていてもいいよ。父のコレクションルームにはいくつか本もあるけれど」と、透は自室の隣に位置する目の前の扉を押し開けて明かりをつけた。


 身を引いた透と入れ替わる形で深見は中を覗いてみる。玄関の延長よろしく、物珍しい調度品が所狭しと並んでいた。絵画に始まり、剥製、硝子細工、分厚い書籍、メイス、ボウガン、レイピア、サーベル、甲冑……一見、種々雑多な印象を受けるが、よくよく見ればやや中世の武器類が目立つようにも感じられる。


 深見がそれらを物珍しそうに一望したところで、静の声がその背を叩いた。


「深見さん、お兄ちゃんを待っている間よかったら居間で私とお話ししませんか? お兄ちゃんの普段の様子とか教えてください」


「それもいいね。俺も家での朱野の話聞きたいな」


 深見が笑顔で食いつくと、透もつられたように笑みを浮かべて言った。


「おいおい二人とも、あまり余計なこと言うんじゃないよ」白い歯を見せたまま、透は腕時計に視線を落とした。「じゃあ、ちょっと行ってくるね。深見はゆっくりしていて」


「わーい」と子供っぽく喜びを表す静に、透は「あまりお客様を困らせちゃあ駄目だよ」と悪戯そうに釘を刺し、「じゃあ行ってくる」と階下へと急いだ。


その背を見送りに玄関まで出た二人を、振り返ってもう一度手を振った後、透は傘を一本余分に手にして風雨の中を駆けだした。やがてその背中も、すぐに白い雨筋に隠れて見えなくなった。


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