第62話 恋の三つ巴
ここ最近は、平穏な日々が続いている。
高科FWには依頼が何件か入ってきていて、それを少しずつさばいていた。
この時期は特に、雪や氷を操る魔族たちが活性化しているせいか、それに関する依頼が多い。
恠妖では雪女や雪男、アイズアッフェに霜の精などなど。
雪恠妖や氷恠妖は人間に危害を加えるものが多く、中には人語が通じない凶暴なものもいる。
もちろん、恠妖だけではなく魔獣や鬼も警戒すべき対象だ。
そして、人外に関する依頼が多いということは、当然、警吏隊の特殊課が出動する事件も増えているということで、今、恩はある人に依頼を持ちかけられていた。
「というわけで、ぜひ、君たちの手を借りたいんだ」
「……あのですね」
恩は呆れ半分で、目の前の人物を睨みつける。
赤い隊士服。胸ポケットには、総隊長を表す一つ星の描かれた紋章。
デスクチェアに座り、テーブルの上で組んだ手に顎を乗せて、ニコニコと胡散臭い笑いをしているのは、警吏庁総本部の総隊長、榊原陽向。
恩の学校の生徒会長である稜雲の父親であり、神狐である彼は、人外や異能者に関する事件の捜査などを担当する、警吏庁特殊課の責任者だ。
以前、事件の捜査を手伝った縁で、たびたび、人外の事件があるとこちらに話を持ち込んでくるようになった。
高科FWは人外に関する依頼のみを受け付ける便利屋。人外に関わること、ということで共通点はあるが、こちらはもっぱら、迷子になったペット捜しや、害をなす野生の魔獣や恠妖などの駆除など、軽いものだ。
その点、特殊課は怪我人や死者が出るほどの事件を相手にしている。つまり、レベルが違うのだ。
「何度も言ってますけど、高科FWはあくまで、人外に関する悩み事や困ったことを解決する、小さな便利屋なんです。
新聞やテレビで報道されるような、大きい事件を請け負ってはいないんですってば!」
声を荒らげる恩。自分たちは一般市民であって、警吏隊ではない。
本来なら、事件の捜査に関わるなどあってはならないはずだ。
だというのに、彼は事あるごとに、こちらに声をかけてくる。
これで何度目だろう。一、二度くらいならともかく、四度五度と警吏隊の捜査に関わったせいで、特殊課どころか一部の警吏庁の人とまで顔なじみだ。
二度と入ることはないだろうと思っていた総隊長室も、もう見慣れてしまった。
「まあまあ、人助けだと思って力を貸してくれ。ここ数日、人外や異能者による事件が頻発していてね。特殊課はそれらの対応に追われていて、少々、人手不足なんだ」
確かに連日、テレビや新聞で、人外や異能者が関わっているニュースを見かける。
人外や異能者が関わる事件は特殊課の管轄なので、未解決事件の対応も含めると、特殊課は大忙しなのだろう。
「それに、もうすぐ初代国王の生誕祭があるだろう? こういったイベントに乗じた犯行は後を絶たない。もちろん、異能者や人外によるもの。そのため、総本部の特殊課は総出で警戒に当たっている」
「それは……大変だとは思いますけど、それなら他の警吏庁に応援を要請すればいいんじゃないですか? 特殊課って、総本部だけじゃないんですよね?」
「そうしてもいいんだけれどね、要請してもすぐにこちらに来れるわけでもないし、他の庁も手一杯なんだ。だから」
「だから手が空いていて暇そうな俺たち、ってことですか」
「うん、そうなるね」
いけしゃあしゃあと。このヒトはこういうヒトなのだと、最近知った。
滅多なことでは動じない。ほとんど本音を隠さない。
自分の思ったことはすぐ実行する。それがいいことだろうと、悪いことだろうと。
面白いと思ったら、どんな時でも、誰であっても遊ぶ。
正直、迷惑だと思うこともある。そうは思っても、なんとなく嫌いになれないのはなぜだろう。
「もちろん、これは正式な依頼だから、報酬は払うよ」
「それはありがたいんですけれど、やっぱり受けられません。人手が足りないのはお気の毒ですが、俺一人の判断で決めていいものでもありませんし、何より此武が……」
言葉を濁す恩。陽向の依頼を受けると、いつも此武が不機嫌になる。
なぜだか、此武は陽向を毛嫌いしている。此武は他人ならみんな嫌いだが。
高科FWの責任者は此武だ。その此武の意見も聞かず、勝手に依頼を受けていいものか。いいや、いいわけがない。陽向の依頼ならなおさら。
「たぶん、嫌だと言うと思うので、すみません。これで失礼します」
恩が総隊長室を出ようとした時、陽向の声が飛んできた。
「それは残念だなぁ。報酬のおまけとして、紅国街一の人気店、玲瓏月苑の食べ放題無料チケットを譲ろうと思っていたのに」
ぴくっ
ドアに手を伸ばしかけた恩の耳が大きくなる。玲瓏月苑?
「このチケット、創業五十周年の記念チケットだから、数枚しかないんだよねぇ」
紅国街は、ここ藍泉国の隣国、暁篠帝国の町を再現した繁華街で、恩がよく利用している街だ。
紅国というのは暁篠の別名で、暁篠のイメージカラーが赤のため、そう呼ばれている。ちなみに、藍泉は蒼国だ。
その中でも、件の玲瓏月苑は紅国街一の名店で人気ナンバーワン。おいしさはさることながら、メニューは豊富、お手頃価格。
ひらひらとチケットを振りながら、陽向は続ける。
「抽選で当たったんだが、まさか当たるとは思っていなかったからね、誰かに譲ろうかと思っていたんだけれど……そうかぁ、恩君には必要ないみたいだねぇ」
どうしても欲しくて、インターネットの抽選に、七十七回も応募した。でも当たらなかった。そのチケットが、今ここに?
「いやぁ、残念だなぁ。それならこのチケットは他の人にでも」
「やります。」
韋駄天のごとく、恩は陽向の前に後戻りし、チケットごと陽向の手を握りしめる。
「その依頼、全力で承らせて頂きます!!」
その顔にははっきりと、『チケット欲しい』と書いてあった。
(稜雲から聞いたとおり、恩君は紅国が好きなんだな。チケットを用意していて正解だった)
陽向はくすっと笑い、チケットを手渡す。
「それでは頼んだよ。はい、どうぞ」
「ありがとうございます!!」
恩はチケットを両手で広げ、目をキラキラと輝かせる。
(うわぁ~、これが食べ放題無料チケット! やったぁぁあ!)
チケットを感動のまなざしで見つめる恩だったが、陽向の言葉に硬直する。
「では、クロム殿によろしく」
そうだった。依頼のことを此武に言わなくては。チケット欲しさに勢いで受けてしまったが、最大の問題が!
(あぁああ~、どうしよう。いまさらチケット返せないし返したくないし、でも絶対に此武、怒るよな。うわぁぁっ)
しかし、もう後には引けない。恩は覚悟を決めて、高科FWへと足を運んだ。
そして。
「この単細胞屑人形が! 糞狐の依頼など受けるなと何度も言っただろうが!! 言って分からんならこの首へし折ってやるわ!!」
「ふぐううううぅっ!!!」
憤怒に染まる此武にチョークスリーパーをかけられ、恩はバンバンと床を叩く。
コキッ、と音がしたところで、此武はようやく恩を解放した。
ばったりと床に倒れ込み、ピクリとも動かない恩。
「まったく、物覚えの悪い糞下僕だ。目先の欲に眩んで手玉に取られるとは、家畜以下だな」
(うぅ。今回ばかりは反論できない)
誘惑に負けたのは事実。恩がよろよろと顔を上げると、此武はすでにデスクチェアへと移動していた。椅子を回して、背を向ける。
「あれの依頼などろくなものではない、というのは貴様も身に沁みているだろうが。だいたい、そんなものはこちらが引き受けることでもなかろう」
「……それは、そうなんだけど、やっぱり困ってる人がいたら……手助けしてあげたくなっちゃうっていうか」
「貴様の場合は、その無料券とやら欲しさだろうが」
「そうですね。」
どう取り繕っても、結局はそこなのだ。此武が怒っているのも、理由が理由だからだろう。
「この件にオレ様は関わらんぞ。貴様が受けた依頼だ。貴様だけでなんとかしろ」
「……うん」
完全に機嫌を損ねてしまった。顔を見るのさえ拒否されている。
服を整え、恩はとぼとぼとその場を後にした。
帰宅して、遅い夕飯を食べようかとリビングに向かうと、ドアから明かりが漏れていた。
織枝がまだ起きているのだろうか? 今は二十二時を回っている。普段なら寝入っている時間だ。
「えと、ただいまー」
そろりと中に入ると、意外な人物が出迎えた。
「おかえり、恩。こんな時間までご苦労なことだな」
「へっ。リ、リアウィス様?」
中にいたのは生命神リアウィスとカーレン。
リアウィスはかつて、天界メイプルローゼを統べていた天帝セイディオルの斂子で、カーレンとは親戚にあたるらしい。
彼の役目は、現天帝であるフェリオスの補佐だと聞いた。そんな重要な立場のヒトが、なぜここに?
「人間界の見回りついでに、様子を見ていこうと思って立ち寄ったのだ。迷惑だっただろうか?」
柔らかく微笑みながら、優しい声で問いかけられる。恩はぶんぶんと横に大きく首を振った。
「そんなことないですけど……いいんですか? フェリオスのそばにいなくて」
「ふふ。私はフェリオスの補佐ではあるが、常にそばにいるわけではないのだよ。フェリオスの命で、人間界や他の六界に出向くこともあるのだ」
「へえ、そうなんですか」
「二人とも、息災のようで何よりだ。しかし」
言葉を切ると、リアウィスがぐいっと、上から顔を覗き込んできた。
「遠慮せずに、砕けた話し方で構わないのだよ?」
リアウィスの綺麗な微笑みに少しどきりとしながらも、恩は目をぱちくりさせた。
そういえば、以前、天界に行った時にも遠慮はしなくていいと言われたような。
他の斂子や、ましてや天帝であるフェリオスに対してもタメ口なのだし、リアウィスにだけ敬語というのもおかしい話か。
「あー、そうだった。うん、気をつけるよ」
フェリオスは外見年齢が近いせいもあって、天帝とはいえ話しやすかったが、リアウィスは綺麗すぎてなんだか照れくさい。
それでも、彼がうれしそうに微笑むので、恩もつられて笑う。
「良い土産話もできたし、訪れて正解だったな」
「土産話?」
リアウィスの後ろにいたカーレンがどきっとするが、恩の位置からは見えていない。
恩がきょとんとすると、リアウィスはにっこり笑って、カーレンを恩の方へ押しやった。
よろついたカーレンを、恩が慌てて抱き止める。
「わっ、カーレン、大丈夫?」
「は、はい」
「いきなり何するんだよ、リアウィス」
「ふふ。よく見てごらん。カーレンの背中を」
言われて見てみると、異性と触れ合っているというのに、カーレンの背中からは翼が出ていなかった。
そういえば、このことについてリアウィスに聞いてみようと思っていたのだった。
「あ、そうだ。前から聞こうと思ってたんだ。異性に触れても、カーレンの翼が出なくなったのはなんでか知ってるか?」
「おや、翼が出なくなったことは知っていたのか」
「うん。気づいたのは最近なんだけど」
カーレンが小さく身じろぎをしたので、恩はカーレンを放してやった。俯いているが、なんとなく顔が少し赤いような?
「そうか。斂子は異性に触れると翼が出るという特質があるが、成体になれば力を制御することが可能なのだ」
「え? ということは、カーレンは成体になったってこと?」
「いや? カーレンはまだ幼体だよ」
「じゃあ、なんで……」
リアウィスはくすりと笑った。
「もう一つ、翼が出なくなる理由があるのだ。それは、想いを寄せる相手であれば、自然と力が抑えられるのだよ」
「? それってつまり……」
「恩さん……」
呼ばれてカーレンに顔を向けると、彼女は照れるように微笑んだ。
「あの、わたし……恩さんのことを、男性として好きに、なってしまいました」
恩はぽかんと口を開いたが、内心、パニックを起こしていた。
(ウソだろ!? まさかカーレンまでぇっ!?)
暁緋、イオンに続いてカーレンまで自分のことを好きだと言う。なんだこれは。
(モテ期? これが俗に言うモテ期なのか!?)
モテ期とは、そのまま読んで字のごとく、異性からやたらモテる時期のこと。
それが今なのか。恩は嬉しくもあり、複雑だった。
自惚れではないけれど、自分はいろんな人に好かれていると思う。だから、大勢の人から好意を寄せられることには慣れていて、それが普通で。
その愛情は全て恋とは別物だと分かっていたし、自分が誰かに恋をするということもないだろうと思っていたのに、特定の人に恋心を抱かれようとは。
しかも、同時期に三人も!
人生初のモテ期に、恩は大混乱していた。
三人の好意はうれしいが、自分には『恋をする』という感覚がよく分からない。
だから正直、みんなの気持ちを理解できない。
漫画や小説でしか見たことがない、実際には存在しないと思えたモテ期。まさか、自分に訪れる日がこようとは。
(初恋もしたことないのに、なんでこんな……)
ツキン。
(……?)
胸に小さな痛みが走る。何か、忘れている?
いや、どこかに置いてきてしまっているような……奇妙な感覚。
この痛みが示しているものはなんなのか。まだ、彼は知りえない。
カーレンの爆弾発言から一夜明けた今日。恩は陽向の依頼を遂行するべく、街に出てきていた。
陽向の依頼とは、最近、ニュースで騒がれている、ある事件の調査だった。
その事件とは、ある魔物に襲われた人間が、子供や老人になってしまうという事件。
中身は元の年齢のままで、見た目だけが変わってしまうのだ。
命に別状はないが、困ることに変わりない。
今回、此武は本当に手伝ってくれないらしく、仕方なくカーレンと二人で聞き込みを始めたのだが……
「なんでこういうことになるかなぁ?」
行き交う人々の中で、恩はため息をつきながら痛む手をさすっていた。
恩の前では、カーレンと暁緋が火花を散らしている。
偶然、街中で暁緋と出会い、話をしていると、カーレンが手を握ってきた。
『恩さん、早く行きましょう。こうしている間にも、誰かが被害に遭っているかもしれません』
『え。あ、そうだね』
それを見た暁緋の目が据わる。
『ふぅん。ずいぶん仲良くなっているみたいね、二人とも。そんなしっかり手を握り合っちゃって』
『わたしは恩さんを連れて行きたいだけです』
『それだけなら手を握んなくても、言えば済むことでしょーが』
『この方が確実かと思いまして』
『ていうかいつまで握ってんのよ!』
バチンッ。
『いったー!』
暁緋はカーレンに握られている恩の手を叩いた。そして今に至るのである。
微笑むカーレンと、睨みつける暁緋。
暁緋は気づいた。カーレンが恩を意識していることを。
カーレンも自分と同じく、恩に恋をしていることに。
(やっぱり参戦するわけね。でも、まだ付き合ってるわけじゃないみたいだし、譲らないんだから!)
カーレンもまた、暁緋が恩に恋心を抱いていることを知った。そして自分に対して敵意を燃やしていることも。
(とても真っ直ぐな想い。ですが、わたしも同じくらいに恩さんのことが好きです。だから負けません)
両者の間で、恩はもう一度ため息をついた。
(こういう時、俺はどうすればいいんだろう。ああ、こんなところに依織が来たらもっと大変なことに……
でも、依織は時空神だし、そうそう時空神の神殿から出てくることは……)
などと考えていた時だった。
「めーちゃーん!」
自分の名を呼ぶこの声。そしてこの呼び方。まさか!
(ホンットに来た―――!?)
声のした方を振り向き、恩は文字通り、目玉を飛び出させた。
駆け寄ってくるのは確かにイオンだ。しかし、いつもと少し姿が違った。
桃色だった髪は薄い茶色に、藤色の眼はこげ茶色になっている。
「え、イオン? わっ」
イオンが恩に飛びつく。カーレンは目を丸くし、暁緋の顔が引きつった。
「会いたかったです~」
「イオン、その髪どうしたんだ? それに、神殿から出てきちゃって……」
「ああ、これはですね」
カーレンと暁緋には聞こえないように、イオンがこっそり恩に耳打ちする。
「この体はイオの神力で作った形代なのです。イオの本体はちゃんと神殿にいるですよ」
「形代って、自分の身代わりにする人形のことだよね? ということはそれ、写し身の術?」
「よく知ってるですね。さすがは鋒家の人です」
「し、知ってたのか」
「もちろんです。パートナーとして、めーちゃんのことはいろいろ調べたですから」
写し身の術は、神力や霊力、魔力を使って依り代に自分の姿を写す術だ。
本体の意思通りに動き、記憶や能力、感覚などすべてが引き継がれている。
主に神族や退魔師が使う術で、退魔を行う鋒家ではメジャーな術だ。
イオンに隠していたつもりはないが、知られていたことには若干ショックを覚える。
この髪と眼の色だし、予想できなくはないだろうが。
「この髪は一応、人間に変装しているからなのです。写し身とはいえ、時空神が簡単に人前に出るわけにはいかないですし」
高位の神族は人前には姿を現さない。正確には、直接、本来の姿は見せない。
今のイオンのように写し身の術を使うか、クロムのように仮の姿を取る。
だからカーレンのように、本来の姿で、しかも写し身ではなく本体で降臨することはほぼないのだ。
カーレンが写し身ではない理由――人間界を覗いていて落ちた、というのは天界に行った時に聞いた話である。
陽向や稜雲もあれが本来の姿ではなく仮の姿。考えてみれば、人間社会には意外と神族や魔族がたくさん紛れているのかもしれない。
「そ、そうなん」
「いつまでくっついてんのよー!」
どーんっ。
暁緋に思い切り突き飛ばされる恩。暁緋はキッ、とイオンを睨みつけた。
なんだかこの構図は以前にも見たような。
「あんた、高天の知り合い?」
「はいです。初めまして、イオンと言うですよ」
「それはどーもご丁寧に。あたしは桜場暁緋よ。高天とはどういったご関係かしら?」
「イオはめーちゃんのパートナーなのです」
「は? パートナーって何よ」
「そのままの意味なのです。めーちゃんはイオが一生そばで支えていくのですよ」
突き飛ばされた恩の腕に抱きつき、にっこり笑うイオン。暁緋は怒りに顔を染め、負けじと恩の反対の腕に抱きつく。
「な、何よそれ! そんなのあたしがやるわよ! ていうか、いちいちくっつかないでよ!」
「ちょ、ちょっと」
「あきちゃんでは、一生は無理なのです」
「あ、あきちゃん!? ~~~あたしには無理って何よ! 自分なら高天を支えていけるっていうの!?」
「二人とも」
「恩さんをそばで支える覚悟ならわたしもできています」
「カーレン!?」
ここにきて、見守っているだけかと思われたカーレンまでもが口を挟んできた。恩の前まで駆け寄り、じっと見つめる。
「つらいことや悲しいことは、わたしにも分けて下さい。あなたが好きなので、一緒に乗り越えていきたいんです」
「ちょっと! 今まで傍観者だったのに、なんで急にそんなことになってるのよ! どさくさまぎれに告ってるし!」
「イオだってめーちゃんのことが好きなのです。だから支えてあげるのはイオの役目なのです」
「勝手に決めないでよ。高天を好きなのはあたしも同じなんだから! 突然出てきた子にかっ攫われてたまるもんですか!」
三人が互いを牽制しあっている。なぜこんなことに。
(こんなことしてる場合じゃないのに~っ)
事件の調査に来たはずが、三つ巴の戦いに巻き込まれることになろうとは。
もう、これ以上ややこしい事態にはならないでもらいたい。
そんな時。遠くから悲鳴が聞こえた。