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Fate Spinner  作者: 甲斐日向
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第19話 稜雲(いずも)の恋人発覚?

 今日は気持ちのいい小春日和。登校した恩は教室に入ろうとすると、横から幸緒が駆け寄ってきた。

「恩ーっ!!」

「幸緒? おは」

「ちょっとお願いがあるんだけど聞いてくれる!?」

 切羽詰まった形相の幸緒が詰め寄ってきた。

「よう……。な、内容によっては……」

 幸緒の気迫に押され、恩はたじろいだ。入口に立って話していると邪魔になるので、幸緒を落ち着かせて廊下で話す。

「あのさ、明日って暇?」

「えっと、一応空いてるけど」

「よかった! 恩、劇の手伝いをする気ない?」

「……劇?」

 目を点にする恩。幸緒は頷いた。

「そう。あたしの母さんが勤めてる養護施設で、毎月、子供たちが楽しめる催しをするってことは知ってるでしょ?」

「ああ、うん。たまに幸緒がミニライブしてるんだよな」

 幸緒は友人や兄とバンドを組んで活動している。それで時々、その養護施設でもライブをしているらしい。

「それで今回は劇をすることになったんだけど、その劇の役者を任されちゃったのよ!」

「へぇ。すごいじゃん。頑張れよ」

「で、恩にもその役者をやってほしいってわけよ」

「はい?」

 幸緒はがしっと恩の両肩を掴み、にんまりと笑った。

「あたしとお兄ちゃんだけじゃ劇なんてできないでしょ? だから他にも役者が欲しいのよ」

「手伝いをするって、役者をやれってこと!?」

「あったりー」

「むむむ無理! 人前で演技なんてできない!」

 ぶんぶんと勢い良く左右に首を振る恩。だが幸緒も引き下がるつもりはないようだ。

「別にプロ並みに演技しろってわけじゃないのよ。子供たちが楽しめればそれでいいの。多少棒読みでもいいから!」

「セリフだって覚えられるかどうか分からないしっ」

「もしもの時はカンペ用意するから!」

「でも……」

「子供たちのためなの! みんな月一のお楽しみ会を楽しみにしてるのよ。

 中にはもうすぐ施設を出なきゃいけない子もいるし、入ったばかりで周りと打ち解けていない子とかが、他の子と仲良くなるきっかけにもなる。

 お願い。少しでも子供たちの心を癒してあげたいの」

 幸緒の真摯な心が伝わってくる。児童養護施設は、親を亡くして身寄りがいない子供や、親から捨てられた子供、虐待や育児放棄などで親と暮らせなくなった子供などが保護されている施設だ。

 事情を理解している子供もいれば、自身の生い立ちを知らずにいる子供もいるし、心に傷を負って心を閉ざしてしまっている子供もいるのだ。

 そんな子供たちに、少しでも楽しい思いをさせてあげられるのなら。

「……分かった。やれることはやってみる」

「ホント!? ありがと、恩! 井上たちにも声かけてみるから」

 上機嫌で去っていく幸緒の気持ちも分からないでもないので、恩は微苦笑する。

 一息ついて再び教室に入ろうとした時、騒がしい来訪者が現れた。

「めぐ先輩ーっ!!」

 大声で名前を呼びながら廊下を駆けてきたのは、一年生の篠原 啓也だった。

 彼はやたらと恩に懐いていて、かわいくもあるが時々、正直ちょっとうっとうしいと思う後輩だった。

「啓也!? いつも通り騒がしいな」

「めぐせんぱぁぁぁいっ! 今日も素敵にかわいいですー!!」

「だぁぁっ、抱きつくな! 何しに来たんだお前はっ」

 飛びついて来た啓也の頭にげんこつを落とす。啓也は頭をさすりつつ、にへらと笑った。 

「大ニュース持ってきたんですけど~、めぐ先輩の顔見たらなんかムラムラっと抱きつきたい衝動が」

「妙な言い方するなバカ! 大ニュースってなんだよ」

 周りの学生たちも興味が出てきたのか、二人の会話に注目し始めた。

 教室に入り、なおも抱きつこうとする啓也を押し返しながら尋ねると、啓也はなぜか深刻そうな顔になった。

「僕、さっき見ちゃったんです」

「見たって……何を?」

榊原(さかきばる)学生会長です」

 ぴき。恩のこめかみに青筋が浮かぶ。他の学生たちも残念な表情だ。真剣な顔して何を言うかと思えば。

「…………帰れ。」

「違うんです、聞いて下さい! めぐ先輩、僕を見捨てないでぇぇぇっ」

「だから妙な言い回しをするなってば!! 会長を見たからなんだって言うんだよ」

「だってあの榊原会長がですね、女の子と歩いていたんですよ!? それもとても親しげに!」

 その発言に教室中がどよめいた。榊原学生会長こと榊原稜雲(いずも)は入学式の時に、全学生と教師の前で、初対面の恩にいきなり告白したというのは周知の事実。

 あくまでも友達宣言されている今も、何かと恩をかわいがるほど恩にべた惚れだ。

「そんな学生会長が……っ」

「高天くん一筋のあの人が!?」

「女の人と!?」

「親しく!?」

「「「有り得ない!!」」」

「なんでそういう結論になるんだよみんな!」

 満場一致の声に恩は一人異議を唱える。別に、会長が女の子と一緒にいるなんておかしくないじゃないか。親しそうだったからってなんだ。

「えー? だって、ねぇ?」

「学生会長は高天にべた惚れじゃん?」

「そうそう、恩くんには甘いよね~」

「榊原会長って男好きなんでしょ?」

「だからまさかそんなことはないと思ってたけどさぁ、会長、女子にも興味あったんだな」

「逆に意外」

「あんまり高天君が冷たくするから愛想尽かしたのかなぁ?」

 周囲の人間の認識に頭が痛くなる。そこまで自分と会長は仲がよさそうに見えていたのか。ただの先輩後輩の関係なのにっ。

「めぐ先輩。あの雰囲気は絶対、恋人でしたよ。どうします?」

「どうしますって聞かれても困るんだけど! そもそもなんでそんなこと訊くんだよ。

 会長が女の人と付き合うならいいことじゃないか。これで俺はあの人につきまとわれなくて済むんだから!」

 やっと解放されるのだから、啓也の話が事実ならこれほどおめでたいことはない。心からそう思える。

「じゃあめぐ先輩、今フリーってことですよね!? やったぁ、これでめぐ先輩は僕のものですね!」

「どうしてそうなる!! 元々、誰とも付き合ってない! だから抱きつくなってば!」

 啓也を引きはがしたのと同時に、話題の人がひょっこり現れた。教室内がざわめく。

「恩くん、おはようございます」

「げ。榊原会長……おはよう、ございます」

 礼儀としてあいさつは返すが、顔はしかめっ面である。この男に関わるとロクなことがない。

「なんの用ですか。どうせ大した用はないんだろうから帰って下さい」

「おや、つれないですねぇ。君に会いたいという人がいたので案内してきたんですよ。さあどうぞ」

 優雅なしぐさで稜雲に促され、そっと顔を出したのはカーレンだった。

「!? カーレン!?」

「会えてよかったです、恩さん」

 なぜカーレンが学校に? いやそれよりも。

 さっきの啓也の話で、稜雲と一緒にいた女の子というのはカーレンのことだろう。恋人同士に見えるほど親しげだった、ということは。

「カ、カーレン……まさか、そいつと……」

「はい。稜雲さんと一緒に来ました。

 恩さんにお届け物を持って来たのですが、どこにいるか分からなくて困っていた時に、稜雲さんとお会いしたんです。あら、恩さん?」

「どうやら聞こえていないようですね」

 カーレンと稜雲の関係を誤解し、恩はショックで固まっている。稜雲はくすくすと笑い、恩の体を抱き寄せた。

 途端に周囲の学生たちが、小さく黄色い声を上げる。

「恩くん。そんなに無防備でいると、襲っちゃいますよ?」

「はっ!! ぎゃあああっ、放せぇぇぇっ!」

「あーっ、榊原会長ずるいっ」

 我に返り暴れる恩。啓也が取り返そうとぎゃんぎゃんわめく。

 そのやり取りを見ていた学生たちは、やっぱりこうでなくちゃと納得した。

「ふふ、楽しそうですね、恩さん」

「楽しくないっ! ってカーレン、なんで学校に来たの?」

 さっきの話を全く聞いていなかったので改めて尋ねる。カーレンは抱えていた袋を恩に差し出した。

「はい。これをお届けに。ジャージ、というものが今日は必要なんですよね?」

 今日は体育の実技があるので、リビングにジャージを入れた袋を置いておいたのだ。朝、家を出る時に忘れてきたのか。

「へ。あ! 持ってくるの忘れてた! ありがとう、カーレン!」

 恩は稜雲の腕から抜け出し、差し出された袋を受け取った。教室内が別のざわめきに包まれる。

 二人はどういう関係なのか。この少女は何者なのか。会長の恋人ではないのか。あちこちでひそひそと話声がする。

 カーレンと恩を交互に見て、啓也がジト目で訊いてきた。

「めぐ先輩。なーんかやけに親しそうですね。知り合いなんですか? この子、会長の彼女じゃないんですか?」

「そうだカーレン、なんで会長なんかと一緒に……」

「本当に聞いていなかったんですねぇ、恩くん。彼女とは校門のところで会ったんですよ。

 君の居場所が分からないというので私が案内してきたんです。君が想像しているような関係ではありませんよ」

 状況を楽しんでいるかのように稜雲は笑いながら説明してくれた。恩はほっと胸を撫で下ろす。

「そっか。なんだ、よかったぁ」

「おや、心配してくれたんですか? 安心して下さい。私は君一筋ですから」

「会長のことなんか全っ然、心配してないし! むしろ安心できないし!」

「めぐせんぱぁい! その子が会長の彼女じゃないのは分かりましたけど、先輩とその子はどういう関係なんですかぁ!?」

 啓也が涙目でしがみついてくる。周りの学生たちも興味津々なのか注目している。

「え。いや、俺たちはその……ええと……」

「こら~。そんなところでなにさわいでるの~?」

 なんて説明すればいいのやら。言い淀んでいると稜雲とカーレンの後ろからかわいらしい声が聞こえた。

 二人が振り返ると、出席簿を抱えた一メートルほどの背丈の女の子と、白髪を綺麗にまとめた老婦人が立っていた。

「おや、おはようございます。丸井先生、学長」

「さかきばるくん、おはようなの~」

「おはよう、榊原君」

 女の子がにっこぉと笑う。彼女は丸井ちろる。この学校の講師で、その正体はリスに似た恠妖(あやし)、フェウパである。

 幼女のような外見だが百年近く生きているらしい。老婦人も品よく微笑む。学校の学長というより貴婦人のようだ。

「そちらのお嬢さんは外部の方かしら?」

「あ、学長先生、おはようございます! すみません、彼女は俺の知り合いで」

「あら、穂積君……ではなく、今は高天君でしたわね。おはよう。

 ふふ、そうですか。せっかくですから、学内を見学していただいてはいかがかしら?」

「え!?」

 学長の思いがけない提案に恩は目を点にする。

「それはいいですね。カーレンさんは学校に来るのは初めてでしょう?」

「はい。でも、いいんでしょうか?」

「学長からの提案ですし。案内は私がしましょう。いいですよね、学長?」

 あれよあれよと話が進む。当の本人は楽しそうだが、恩はうろたえるばかりだ。

「そうですね。榊原君なら任せても安心でしょう」

「それでは恩くん、カーレンさんはお預かりします」

「えっ? ちょっ」

 戸惑っている間に、カーレンは稜雲に連れて行かれた。稜雲のことだからカーレンに何かするとは思えないが心配だ。

 それからずっとカーレンのことが気になって仕方がなかった。授業中もたびたび上の空。 

(大丈夫かなぁー、カーレン。というか、稜雲会長は授業出なくていいのか? まあ、あのヒトは人外だし、何年もこの学校いるんだから授業受けても受けなくてもいいんだろうけど……ああ、カーレン大丈夫かなぁ)

 ちなみに今は体育の実技中で、体育館にてバスケの試合の最中である。

 周りでは学生たちが動き回っているが、恩は突っ立ったままうんうん唸っている。

(忘れ物届けてくれたのはうれしいけどさー、まさかカーレンが学校に来るなんて思ってなかったわけで……)

 などとぼんやり考えていると、どこからかカーレンの声が聞こえた。

「あ、本当に恩さんがいます。恩さーん」

「カーレン!? ……!!」

 呼ばれて声の方を振り向くと、カーレンが手を振っていた。しかし、驚くべきはその格好。

 カーレンは慶星高学の制服を着ていたのだ。さっきまで私服を着ていたはずなのに。

「えっ、なんでうちの制服……」

「恩、パス! って恩!?」

「へ?」

 今がバスケの試合中だということを忘れていた。振り返った途端、要の投げたボールが顔面に的中。恩は気絶し、バタンとその場に倒れた。



 恩が目を覚ましたのは医務室のベッドの上だった。心配そうに顔を覗き込むカーレンが視界に映り、パッと覚醒する。

「わあっ!」

「恩さん。よかった、気がついたんですね」

「カカ、カーレンっ、ここは……医務室?」 

 慌てて起き上がり、周りを見回す。カーレンはふんわりと微笑んだ。

「はい。稜雲さんがここまで運んで下さったんです。恩さん、ボールが顔に当たって気絶してしまったんですよ。覚えていますか?」

「ああ……うん、そうだった。どうりで顔がヒリヒリするわけだ」

「すみません。わたしが声をかけなければ、恩さんは怪我をせずに済んだのですよね」

 暗い顔で俯くカーレンに、恩はぶんぶんと顔を横に振った。

「そんなの全然気にしてないから! カーレンは悪くない。だからそんな顔しないでよ。カーレンは、笑ってる方がいいな」

 カーレンが顔を上げると、思っていたより顔の距離が近かった。

 どきっとした恩は赤面して顔を逸らす。つられてカーレンの頬もちょっぴり赤くなった。

「あー! えっと、今何時だろ!?」

「あ……もうすぐ十二時になりますよ」

「も、もうそんな時間なんだ。あはははは」

 ということは一時間ほど気絶していたのか。もしかしてその間、カーレンはずっと看ていてくれたのだろうか?

 さっきから胸のどきどきが治まらない。カーレンの顔をまともに見られない。恩は顔を逸らしたまま、もじもじしながら訊いてみる。

「あ、あのさ、カーレン。ずっと……ここに?」

「はい。稜雲さんに看ていてほしいと言われまして。心配でしたし」

「そ、そっか。ありがとう。ところでさ……その制服、どうしたの?」

 ちらっと横目でカーレンを見る。慶星高学の制服は男女共通で、グレーのシャツ、白と黒のモノクロブレザー。女子は同色のスカートと青いリボン、男子は同色のズボンと青いネクタイだ。

 この学校の制服の最大の特徴は、ブレザーの丈が他のブレザーより少し長めだということ。そのためか高学の制服としては、ちょっと有名な制服である。

「これですか? 良い機会ですし、と稜雲さんがおっしゃいまして、貸していただいたんです。変でしょうか?」

「いやっ、全然変じゃないよ! むしろ………」

「? むしろ?」

「むしろ……か、か……」

 真っ赤になって俯いている恩に、カーレンは首を傾げる。

「恩さん?」

「かわっ」

「とても可愛らしいですよ、カーレンさん」

「だぁーっ!!」

 勇気を振り絞ったというのに、突然現れた稜雲に先に言われた。せっかくいい雰囲気だったのに! 今言おうとしてたのに! 

「なんでいるんだよ会長っ。ていうか急に出てくるな!」

「おや、カーレンさんが言っていたでしょう。ここまで運んだのは私ですし、最初からいましたよ? そっちのカーテンの後ろに」

「え!!」

「君たちの熱々空間になかなか入り込めなかったので」

「んなっ」

 ぼひゅっ、と顔から湯気を噴き出す恩。カーレンはよく分かっていないのかきょとんとしている。

 授業終了のチャイムが鳴り、稜雲はくすくすと笑いながら、恩の寝乱れ髪に手を伸ばしてそっと整えてやる。

「午前の授業が終わりましたし、お昼の準備をしないとですね。恩くんは起きられますか?」

「も、もう大丈夫だよっ。ちゃんとご飯食べられる」

 稜雲の手を振り払い、自分で髪を整える。恥ずかしいったらない。恩の様子を見て、カーレンは微笑んで立ち上がった。

「それではわたしは帰りますね。稜雲さん、お洋服お返しします」

「ああ、その制服は差し上げますよ。またこちらに来る時にその方が便利でしょうから」

「え? でも」

「学長先生のご厚意ですからお気になさらず」

 にっこりと笑う稜雲。普通の女の子ならときめいてしまいそうな笑顔だが、カーレンはなんとも思わない。

「まあ、そうですか。では、ご厚意に甘えさせて頂きます。学長先生さんによろしくお伝え下さい」

「失礼します! 高天!」

「え、亜橲? みんなも……」

 医務室に駆け込んできたのは亜橲、幸緒、玲汰、要、まひろといういつものメンバーである。稜雲に気づいて軽く会釈し、ベッドに近寄る。

「円藤から高天が倒れたって聞いて驚いたよ。大丈夫か?」

「うん」

 亜橲は今日の時間割だと、午後からの登校だったはず。

 この時間帯にいるとは思っていなかったので驚いたが、わざわざ様子を見に来てくれたのか。うれしいものだ。

 その後ろから、要が申し訳なさそうな顔で前に出て、座っている恩の横に立った。

「ごめん、恩。ちゃんと確認しないでパス出したりしたから……」

「大丈夫だよ、要。ぼーっとしてた俺も悪いんだし。気にしなくていいよ」

 珍しくしゅんとしている要が年相応の子供らしくて、恩は要の腕を引き寄せて軽く頭を撫でた。

「!」

「もう大丈夫だから。ね」

「…………」

 そういった経験のなかった要は顔を赤くして固まった。まひろが「要ちゃん、いいなぁ。まひろもー!」と恩に抱きつく。

 恩は「もー。はいはい」と苦笑して、まひろの頭も撫でる。まひろはうれしそうに笑った。

「高天も平気そうだし、昼ご飯にするかー」

「そうね。ところで、さっきから気になってたんだけど……その子、恩の知り合い?」

 ベッドのそばに立っているカーレンを目で指して幸緒が尋ねると、全員が無言で恩とカーレンを見る。

 高学は学生が多い。同じ学年や学部でも、名前も顔も知らない学生などざらにいる。

 しかし、これだけ目を惹く外見ならば多少なりとも噂にはなるはずだ。恩の知り合いならばなおさら。

 稜雲と玲汰は知っているが、他の四人はカーレンとは初対面。恩はどう説明したものか悩む。

「あ……えっと、彼女はその……」

「皆さん、詳しい話は場所を変えてからの方がいいんじゃないですか? ここで話していると、昼休みが終わってしまいますよ?」

 稜雲の言う通り、チャイムが鳴ってから結構経っている。このままここで話すより、どこか落ち着ける場所で話をした方がいいかもしれない。

「会長の言うとおりっすね。んじゃ高天、昼ご飯食べながら詳しく話を聞かせてもらうってことで」

「今からじゃあ購買ほとんど売り切れてるかしらねー」

「まひろたちも購買行かなくちゃ~。ねね、あなたも一緒にお昼しよ?」

「え? わたしですか?」

 水を向けられたカーレンは小首を傾げる。カーレンは神族なので食事を摂る必要がないのだが、いつもは恩たちに合わせて軽くだが食事を摂っている。

 なので一緒に食事をするのは問題ないのだが、恩に迷惑ではないだろうか? 

 恩の顔を窺うと、わずかに渋い顔をしている。やはり自分がいると迷惑なのだろうか?

(これ以上恩さんにご迷惑はかけられませんし、わたしはいない方がいいのかもしれません)

「あの、わたしは……」

「カーレンがよければ、一緒にお昼食べよう」

 自分を見上げてくる恩は少し照れくさそうに笑っている。

 迷惑をかけているのかと思った。突然押し掛けて、怪我をさせて。

 けれど恩は気にしていないと言った。笑っている方がいいと言ってくれた。それなら。

(わたしは、恩さんのそばにいてもいいんでしょうか?)

 いてもいいと言うのなら。迷惑でないのなら。とくん、と胸の奥で小さく鼓動が高まる。あたたかい気持ちで満たされていく。

 これはなんだろう。分からないけれど、なんだか心地いい。うれしそうにカーレンは破顔した。

「はい。ぜひご一緒させて下さい」

 カーレンの満面の笑みに恩はまたも真っ赤になって俯き、二人の様子を見ていた亜橲たちはなんとなく事情を察して、熱々空間……と内心、呟いた。


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