第10話 神狐の子守はツライよ
気を取り直して恩は進行方向に顔を向ける。おうち、とカーレンは言ったが、家らしきものはない。
ただ、茂った木々の間に見える土の壁に、大きな穴がいくつかぽっかりと開いている。
一番大きな穴の前には、五匹ほどの子狐たちがじゃれて遊んでいた。
どの子も体毛が白色で、毛先だけが紅色。これは神狐の特徴だ。まぎれもなく神狐の住処なのだ、ここは。
遊んでいた子狐のうちの一匹が彼らに気づいた。「人間だ。人間が来るよ」とわずかに警戒しながら子狐たちは囁き合う。
「すみません、高科FWの者です。依頼を受けてこちらに伺いました」
此武が客向けの声音とスマイルで言うと、子狐たちは目を瞬かせた。
「「高科」」
「「フリーワーク?」」
揃って小首を傾げる様がなんとも愛らしい。恩がにへら~と笑み崩れ、頬を朱く染める。
「あ、そーだ。かあさまがいってたおてつだいさんだ」
「父様と母様が出かけてる間お世話してくれるんだって」
「でも人間がいるぜ」
「ニンゲンでもわるいやつじゃないのよ」
「いっぱい遊んでもらいなさいってお母様が言ってたね」
こそこそと話し合った子狐たちは、くるっとこちらを振り向くと、嬉々として駆け寄ってきた。
「遊んで遊んで~っ!」
「うわあああ!」
駆け寄ってきた子狐たちは全員、恩に飛びついた。獣の勘かはたまた子供の勘か、最も遊びやすいのは彼だと判断したのだろう。
受け止めきれずに恩は仰向けに倒れた。子狐たちの声を聞きつけ、洞窟の奥から人影が姿を現した。
「みんな、何を騒いでいるんですか?」
よーく聞き知った声に、恩はぎくりと硬直する。まさか、本当に!?
「……おや」
初めて見る私服姿で出てきた稜雲は、子狐たちにまとわりつかれている恩を見ると口元を綻ばせた。
「いい匂いがすると思ったら恩くんではありませんか。君のアルバイト先は高科FWだったんですね」
「なんで会長がここに……はっ、もしかして依頼主の『ヒムカ』って会長のこと!?」
「ヒムカ? ああ、いいえ、陽向は私の父です」
稜雲は「みんな、離れて下さい」と恩から子狐たちを器用に剥がしていき、恩に手を差し出した。その手を取って恩は立ち上がる。
「ここは父の妹……私の叔母の家なんですが、叔母夫婦が旅行に出かけている間、この子たちの面倒を見てほしい、とそちらに依頼をしたのでしょう?」
「ええ、そうです。僕が総責任者の此武=高科。こっちが助手の千咲です。今日一日、よろしくお願いします。恩君とは面識がおありのようですね」
此武が握手を求めると、稜雲は一瞬意外そうな顔をしたが、すぐさま笑顔を作り、「こちらこそ」と軽くその手を握り返した。
「恩くんとは友人ですので。まあ、私自身はそれ以上の関係になることを求めていますが」
「会長! 余計なこと言ってないで依頼主に会わせてくれよ」
半眼で尋ねると、稜雲は困ったように微笑した。
「残念ですが、父は急な仕事でこちらに来られなくなったんです。なので私はその旨を伝えるためと、依頼主である父の代理として来たんですよ」
「そうですか、分かりました。では報酬などの交渉はのちほど。お子様方も恩君と遊びたいようですし」
遊びたくてうずうずしながら恩をじーっと見上げている子狐たちに、稜雲は微苦笑して頷いた。
「そのようですね。もう遊んできていいですよ。けれどほどほどにね」
「わーい!」
「みんなも出てこいよー!」
一匹の子狐が呼びかけると、穴の奥からわらわらと十数匹の子狐たちが出てきた。多過ぎっ。
「この兄ちゃんが遊んでくれるんだって~」
「つれてけつれてけー!」
「運べ運べー!」
集まってきた子狐たちは一斉に恩に飛びつき、横倒しにしてどこかへと運んでいく。
「わああっ、ちょっ、どこ連れてくつもりー!?」
恩を担ぎ上げたまま、子狐たちはぴゅーっと走り去る。といってもさほど遠くはなく、目の届く範囲内だ。
「此武様、わたしも行ってきます」
カーレンがのほほんと子狐たちの後を追う。千咲が目でどうしますかと問いかけるので、お前も行ってこい、とひらひら手を振る。
千咲は無言で軽く一礼し、ゆっくりと歩き出した。二人きりになると、稜雲はくすりと笑みを零した。
「そのお姿もなかなか様になっていらっしゃいますね。見事な外面の良さです」
「ふん。曲がりなりにも初対面の客だからな、貴様は。それなりの対応はしてやったぞ」
腕組みをし、素に戻った此武に稜雲は微苦笑する。
「お気遣いありがとうございます。ですが、天下の戦神クロム様が人間界でこのようなことをなさっているとは」
「あの方々の命令だからな。不本意だが、従わざるを得なかっただけだ。
それより、あの糞狐め。わざわざオレ様をこんなところに呼び出しておきながら顔も見せんとは。あんな腑抜け顔を見てもなんの感慨も湧かんが」
「一応、警吏隊総本部の総隊長ですから、何かと忙しいのですよ」
神族でありながら、まるで庶民の人間のように国仕えをするなど、陽向も相当おかしな生き方をしている。自分は上の命令だから仕方なしだが、奴は自らの意思だ。
神は基本的に人間たちと関わりを持とうとしない。ただ人間というものに興味を持ち、生きているその様を眺めて楽しむだけだ。
此武も陽向も天津神。神界にいる神もしくは人間界から降りてきた神を指す。天降り、国土の守護のため住みついたものは国津神と呼ぶ。
陽向は此武と違い、数百年前からこの国に住みついているので現在は国津神といった方が正しいか。
彼が人間と同じように生活するのは国津神だからではなく、人間を――この世界を好きになったからだという。
人間を下等生物としか捉えていない此武には理解しがたい感情だ。眉根を寄せて、不快そうに吐き捨てる。
「だいたい、なぜ自分のところに呼び出さん。用があるならこんな山奥でなくてもいいだろうに」
「あの子たちの面倒を見てほしいと叔母上から連絡があったのは事実でしたし、一昨日の嵐に混じった邪気のことも気になっていたようなので、ちょうどよい機会だと言っていましたよ」
「ちょうどよい機会? なんのだ」
「噂の宿命を紡ぐ者に会う、よい機会だと」
此武はすうっと目を細めた。稜雲はクス、と薄く笑う。
「宿命を紡ぐ者のことは限られた者しか知らんはずだが」
「ええ。でも父上が話してくれました。それはもう楽しそうに」
「ちっ、あの腐れ頭め。いくら息子とはいえ、無関係の者にべらべらと話しおって」
陽向自身は“関係者”であるため、宿命を紡ぐ者と会おうとするのは分かるが、息子はそうではないだろう。
「別段隠しておくほどのことではないでしょう?」
「軽々しく話すことでもない」
「ふふ、ご安心を。私は他の人には話していませんから。それに、完全に無関係というわけではないかもしれませんよ?」
怪訝な顔を向けると、稜雲は遠くで子狐たちに押しつぶされている恩を見る。
「彼と初めて会った時、とても心惹かれました。それは予感のようにも感じられたのです。
彼とは出会うべくして出会った。この先、私は彼と深く関わることになる、そんな素敵な予感を」
「人間と深く関わる予感など、不快なことこの上ないな」
きっぱりと言う此武に、稜雲は苦笑しながら小さくため息をついた。
(父上の言っていた通り、激しく人間嫌いな方ですね)
そんなヒトがなぜ、宿命を紡ぐ者の補佐役に選ばれたのだろう。
だが、それを追求することなく、稜雲は「そろそろお昼にしましょう」と穴の方へと足を向けた。
かぐわしい香りに誘われ、子狐たちは洞窟に飛び込んできた。その後からぐったりとした恩と、疲れた様子のないカーレン、千咲が続く。
「お帰りなさい、恩くん。お疲れ様でした。この子たちの相手は大変だったでしょう」
「……ほとんどの気力を使い果たした……」
木で作られた椅子に腰かけ、テーブルに突っ伏す。声にも覇気がない。
「ご飯でも食べて気力を養って下さい。今日はまだ長いんですからね」
「って、午後もまた相手しろってことかそれ!?」
「いいじゃないですか。この子たちも君を気に入ったようですし」
皿にスープをよそいながら稜雲はにっこり笑う。シンプルなエプロンが意外と似合っていて、なんだか腹が立つ。
子狐たちは「いただきまーす」とスープにかぶりつく。
遊んでいて分かったが、ここの子供たちは大きい子から小さい子まで総勢二十一匹。オスが十三匹、メスが八匹だ。神狐が子だくさんの種族なのか、大家族なだけなのか。
「会長もちょっとは手伝えよ~」
「この子たちの面倒をみるのが今日のお仕事でしょう? 頑張って下さい」
「うえ~」
自分もきょうだいは多いが、遊んでもらう側だったし、弟も妹もべったりではあったが、そこそこに聞きわけがよかった。
こんなふうに始終まとわりつかれるのは慣れていないのでかなり疲れる。
「会長はいつもこの子たちの相手してるのか?」
「そんなことはありませんよ。叔母上の家に来るのも久し振りですし」
「え、じゃあここに住んでるわけじゃないのか」
「恩くん、ここと狩城市がどれだけ離れていると思っているんですか」
ここから毎日学校に通うのはいくら神狐でもやや疲れる。
「私は宝生市の自宅から通っているんです。
ああ、そう言えば君を家に招待したことはありませんでしたね。どうです、今度遊びに来ませんか? 父にも紹介したいですし」
「別に興味ない。紹介もされなくたっていい。」
すぱっと切り捨てると、稜雲は「つれないですね」といつもと変わらぬ笑みを浮かべる。
そう返されることが当たり前で、もう慣れているのだ。
昼食を終えた後は、やはり子狐たちの遊びに付き合わされた。
カーレンと千咲はメスの子狐たちと人形遊びをしたり花摘みをしたりしているが、恩はオスの子狐たちとボール遊びをしたり、木登りをしたり、追いかけっこをしたりと、運動量が激しい。
午前と合わせてこれだけ運動をしてもけろっとしている子狐たちに、人間と神狐では体力が違うと思い知らされた。
へたり込む恩のそばで子狐たちは次の遊びの相談をする。
「次はなにして遊ぼっかー」
「かくれんぼする?」
「えー? それ、さっきやったじゃんかぁ」
「ねーねー、格闘ごっこやろうよ!」
「あ、いいねー。じゃあ人間に変化しなきゃ」
そう言って子狐たちはぽぽん、と人間に変化した。けれど不完全で、耳と尻尾が出たままだ。
さすがに人間に変化すると顔つきや体格などが違うので見分けがつく。だが、恩は格闘ごっこと聞いて渋い顔をする。
「兄ちゃん、相手してよ!」
「……他の遊びにしない? 格闘ごっこなんて危ないし。ね?」
「だいじょーぶだよ、本気出さないもん!」
「いや、そうじゃなく……」
「兄ちゃん、弱いの~?」
何気ない子狐の言葉に、恩の胸がチクリと痛む。
不意に頭をかすめる光景があった。それは己の未熟さが招いた事故。そして、己の弱さで離れざるを得なかった誰かの面影。
一昨日の雷といい、なんだってここ最近、昔のことを思い出すのか。ふと沸き起こった嫌な予感に胸が締めつけられた。
「お兄ちゃん? どうしたの?」
きょとんとして問いかけてくる子狐の声に、恩は我に返った。
「……あ、ごめん、なんでもないんだ」
「そっか。じゃあいっくぞー」
ぐるぐる腕を回してから、五歳ほどの人間に変化した子狐の一匹――いや、一人が突進してくる。
繰り出してきた拳を、恩は反射的に右手で受け止めた。そのままくいっと腕を引っ張り、体を反転させて地面に転がした。
こてん、と地面に尻もちをついた子狐は、耳をぴくぴくっと動かした。
「やるねー、兄ちゃん。少しはできるみたいだね」
人間の五歳児にしては速い拳を難なく受け止めた恩に、子狐はうれしそうに笑う。立ち上がるとすぐさま、たんっ、と地面を蹴る。
「わわっ、ちょっと待って……っ」
普通の人間では出せないだろうスピードで恩に肉薄し、回し蹴りをする。
しかしそれも恩は戸惑い顔ながら軽くよける。子狐は続けて拳や蹴りを繰り出すが、受け止められたりよけられたりして、一つも当たらない。
ギャラリーとしてその様子を見ていた稜雲は感心する。
「おや、すごいですねぇ、恩くん。手加減しているとはいえ、素晴らしい反射神経とキレのいい動きです。何か武術でもやっていたんでしょうか」
切り株に座ってつまらなそうに、同じく恩を見ていた此武はどうでもよさそうに呟いた。
「奴が武に秀でているのは当然だ。そういう家系だからな」
「クロム様――いえ、此武様は恩くんの出自を御存じなのですか?」
恩についてあらゆることを調べた。誕生日、趣味、家の住所、休日の過ごし方、他にもいろいろと。
さっきはバイト先を知らないような言い方をしたが、実は知っていた。
恩がパンダ好きで、パンダの着ぐるみパジャマを着ていたり、毎日お気に入りのパンダのぬいぐるみと一緒に寝ていることももちろん知っている。
惚れた相手のことを知ろうと努力するのは当然のことだろう。
たとえそれがストーカーまがいな行動だとしても、そうするのが普通だと稜雲は思っている。
あらゆることを調べた稜雲だが、恩の本当の経歴は分からなかった。恩の過去は一切調べられなかったのだ。
滋生家に居候する前はどこに住んでいたのか。本当の家族は?
彼が滋生家に住むようになった四年前より以前のことは、すっぱり経歴が途切れている。まるで過去を断ち切るかのように。
ただ、ある程度の予想はついている。絳髪緋眼は白凰の証。白凰は東洋を中心に万国に点在している異能一族。
藍泉にもいることにはいるが、藍泉の白凰は王家を毛嫌いしているから、王都に近い狩城市にはよほどのことがない限り来ることはないだろう。
白凰の七割は藍泉の隣国・暁篠大帝国出身だ。顔立ちからして恩が暁篠の白凰であることは大いに考えられる。
その上、武に秀でた家系となると思い当たるのはたった一つ。
(本当にあの一族の人間ならば……一筋縄ではいかなさそうですね)
黙考する稜雲。此武は瞑目し、どこか投げやりな口調で答えた。
「さあな。知りたければ本人に訊けばいいだろう」
「……まあ、それもそうですけれどね」
訊いてもあの恩が正直に答えてくれるかどうか。微苦笑し、稜雲は風で目にかかった前髪を掻き上げた。
バテて地面に大の字に転がっている恩を、此武があきれ顔で見下ろす。
「ハッ、情けない。この程度で参るとはな。根性無しの体力無しが」
「……う、うるさい……」
とっぷりと日が暮れた頃、子狐たちの両親が帰ってきたので、ようやく子狐たちから解放された。
あれからほとんどぶっ通しで、子狐たちと格闘ごっこを強いられたのだ。一般人よりは体力のある方だと思うが、これ以上はさすがに体がもたない。
此武が両親と報酬の交渉をしている間、恩は地べたで体を休めていた。
「ふふ、お疲れ様でした、恩くん」
「会長」
ひょこっと稜雲が恩の顔を覗き込んだ。恩はのろのろと上半身を起こそうとする。稜雲は恩の肩を支えてやりながらくすくすと笑う。
「嫌ですねぇ、学校内ならともかく、プライベートでも会長なんて呼ばないで下さいよ。稜雲、と呼んで下さい」
「えー……?」
疲れもあって、ぼんやりした顔で稜雲を見上げる恩。しばし考え、ためらいがちに呼んでみる。
「んー……稜雲??」
かなり疑問口調だったが、稜雲はうれしそうに破顔した。
「はい。それでは今日のお礼です」
そう言うと、稜雲は恩の顔を引き寄せ、ちう、とキスをした。あまりに一瞬の出来事に、恩は事態を理解できなかった。
「恩くんの唇は柔らかいですねぇ」
にっこり笑った稜雲の言葉でようやく理解する。かぁーっと赤面し、どかんと怒りを爆発させた。
「なんってことするんだあー!! 俺のっ、俺のぉーっ」
「おいしく頂きました」
語尾にハートマークをつけて心底うれしそうに笑う稜雲。がくぅっと地面に両手をつき、恩は涙した。
「うええ、俺の……俺のファーストキスがぁぁぁ。男に、しかも会長にぃぃぃ……」
「今日は最高の日ですね」
「最悪だぁぁぁぁ」
涙の海に浸かっている恩のもとに、たたたっとカーレンが駆け寄ってくる。
「恩さーん。これ、子狐さんたちから頂いた薬草で作った、滋養強壮のスープなんですけど……あら? どうかしましたか?」
「うう、カーレン……」
「恩くんは感激に打ち震えているんですよ。私との口づ……」
「わーっ! 言うなバカ!! なんでもないから!」
慌てて恩は立ち上がり、カーレンに詰め寄った。
「えっとスープだっけ? ありがとう」
ひったくるようにしてスープを受け取り、ごくっと一口飲んでみる。
「うっ。苦……」
「おいしくなかったですか?」
「ぃや。良薬口に苦しって言うし、このくらいの苦さなら平気だよ。昔、もっと苦い薬飲んだことあるし」
ごくごくと飲み干す。じんわりと口の中に広がるあたたかい苦味。けれど、神狐の薬草だけあって、もう体のだるさが薄れてきた。
「よく効くなぁ。もしかして、子狐たちはこういうのよく飲んでるから、あんなに体力あるのかな」
「そうかもしれませんね。恩さんも毎日飲んでいれば、ずっと元気でいられるようになるかもしれませんよ」
「そうかなぁ」
無邪気に言うカーレンに笑顔を見せる恩だったが、内心では、これを毎日は少しつらいな……と思っていた。
しかし、にこにこと笑っているカーレンの笑顔につられて、うっかり口を滑らせた。
「じゃあ、これ少しもらって帰ろうかな」
「はい。わたしもそう思ってたくさん頂いてきました」
「え。」
恩の笑顔が凍りつく。カーレンは両手を合わせてにっこり微笑む。
「千咲さんに運んでもらうことになっていますので、帰ったら飲んで下さいね。今日から毎日、朝晩しっかり飲めば丈夫な体になると思います!」
「…………」
今さら前言撤回などできない。純粋な厚意だと解っているから余計に。
この、正直メチャクチャ苦いスープを毎日! しかも朝晩飲めと。なんの罰だ。
「おい、天帝の娘と魂抜けかかってる赤木偶。依頼は完了した。とっとと帰るぞ」
此武の冷ややかな声にも、恩はしばらく反応できなかった。