第9話 妖しい学生会長
男は吹きつけてくる風にその気配を感じ取り、腕組みをして曇天を見上げた。
「父上、風が強くなってきました。体に障ります、中に入って下さい」
さほど真剣みのない青年の声が背中に投げかけられる。男は微苦笑して振り返る。
「おやおや、もう年寄り扱いかい? 私はまだ、お前に心配されるほど年は取っていないよ?」
「年齢のことなんて危惧していませんよ。私が気がかりなのはこの“風”です」
「ああ、そうだな」
この“風”にはよくないものが紛れ込んでいる。悪しき“気”を感じるのだ。息子が指しているのもそのことだろう。
「けれど、これしきの邪気なら私にはたいしたことないよ。まあ、あまり気分の良いものではないことも確かだしね」
組んでいた腕を解いて、男は屋内に戻るため身を翻した。そろそろ時が来たようだ。私もぼちぼち動くとしようか。
――嵐がやってくる。宿命を乱す者とともに。
* * *
ばしばしと強風が窓を叩く。雨は降っていないのが不幸中の幸いだが、この分だと強風は朝方まで続きそうだ。
とっぷりと日も暮れた今、外に出る用事は何もないが、バイト先から帰る時は苦労した。
夕方から風が強くなり始め、バイトを終えて帰る頃には嵐になっていた。
「すごい風……明日は大変そうだなぁ」
部屋でくつろいでいた恩は、ガタガタと軋む窓を一瞥し、一人ごちた。ちょうどその時、空が光る。雷のようだ。少し遅れてゴロゴロと音が鳴る。
「うあ、雷まで鳴り始めた。雨は降ってないけど……」
カーテンを閉めようと窓に歩み寄る。空がいっそうまばゆく光った。途端に轟音が鳴り響く。結構近い。
「……どこかに落ちそうだな」
外を見やるがよく分からない。窓に手をついて黒雲に覆われた空を見上げた恩は、わずかに眉を曇らせた。
(雷……か)
雷は嫌いではない。むしろ大好きだ。けれど、恐ろしいものだということも知っている。空を駆ける電光はまるで龍のようで。
小さい頃は、雷が鳴るたび、稲光を見るたびにはしゃいだものだ。怖くなどなかった。あれはとても自分に近しいものだから。
昔、実家の縁側に座って空を見ながらよく雷電を見ていた。その傍らには、いつも寄り添ってくれる存在があって。
きれいだね、と疾る稲妻を指差して笑顔を向ければ、その存在は無言で微笑みを落としてくれた。
最も自分に近い、大切な――
突如、轟音とともに視界が暗くなった。どうやら停電したらしい。
「わっ、本当に落ちたんだ」
しばらくすれば復旧するだろう。でも、この停電で織枝さんたちが不安になっているかもしれない。この家に男は自分一人。しっかりしなくては。
雷で思い出した過去に少し気持ちを引きずられながらも、恩は過去を振り払うようにかぶりを振り、カーテンを閉めた。
学校に行くと、昨夜の雷や停電の話で持ちきりだった。
停電は一時間ほど続いたので困った人も多いのだろう。あの後、恩が織枝のところに行くと、案の定おろおろしていたし。
今日は体育の実技があるので、恩は更衣室でジャージに着替えていた。
体を動かすのは好きなので恩は上機嫌だが、隣で同じくジャージに着替えている要が「実技は面倒くさいなぁ」とため息をつく。
恩は苦笑してロッカーを閉めた。
「毎回言ってるよな、それ。面倒なら体育は選択しなければよかったのに。一年の時は必修だったけど、二年からは自由だろ?」
高学校は、様々な分野の専門知識を学んだり、研究をして、学位や資格を得るのが目的の教育機関である。
基本的な高学校の仕組みとして、一年はクラス別の授業だが、二年時に進路ごとに学部を選び、自分で時間割を作成して講義を受け、指定単位を取得する。
修業年限は四年となっているが、指定単位さえ取得すれば、いつでも卒業可能であるし、逆に単位が足らなければ留年である。
学生の年齢がバラバラなこともあり、大半の高学校に制服はないが、中には制服のある高学校もある。
恩が通う慶星高学は、珍しい制服ありの学校だが、式典以外では私服での登校も可だ。
ちなみに恩は制服のデザインが気に入ってるので、いつでも制服を着ている。
「そうだけど……一緒じゃないと、面白くないじゃないか」
「?」
ちらっと恩を見て、要は頬を膨らませる。
その仕草は年齢相応で、普段は大人びている要にしては可愛らしい行動だが、言葉の意図するところが分からず、恩は目をぱちくりさせた。
「恩くん、要くん、着替え終わったんだな?」
「ああ、うん。お待たせ」
ひょこっとロッカーの陰から玲汰が顔を出す。恩が返すと、要は小さくため息をついて先に出て行く。
更衣室の外では亜橲が待っていた。揃って外のグラウンドに向かう。
「雷鳴ってる時にヘソ出してると、雷神にヘソ取られるんだぜ」
「畔上君、それは古い迷信だよ」
「鳴神様はそんなことしないんだな」
「むむ、みんなして否定するとは……そりゃあ近所のじいちゃんから聞いた話だけどさ。でも、穂積だったらヘソ出して寝てそうだよなー。ちっちゃい子供みたいに」
「ちっちゃい言うなー!」
手を振り上げて怒鳴った恩は、曲がり角から人が歩いてきていたことに気づかず、ぶつかってしまった。
「わわっ」
「おっと」
「ごめんなさ……ぅげ!」
よろめいた恩は相手の顔を見て顔を引きつらせた。一方、恩の腕をつかんで支えた男子学生は、恩を見て顔を綻ばせた。
「大丈夫ですか? ……と、恩くんじゃないですか」
「さ、榊原会長!」
さらりとしたペールブラウンのセミショートの髪と眼。すらりとしていて恩より頭二つ分も背が高い。ノンフレームの眼鏡を掛けていて、知性的な雰囲気を醸し出している。
彼は榊原稜雲。この慶星高学の学生会長だ。そして……
「朝からいとしい君に会えるなんて幸先いいですね!」
「ぎゃあああっ、抱きつくなぁぁぁっ!」
恩にホの字だったりする。バタバタと暴れる恩を後ろからがっちり抱きしめ、稜雲は恩の頬を撫でる。
「皆さん、これから外で体育の授業ですか?」
「え、は、はい」
問われて、亜橲が遠慮気味に答える。稜雲はにっこりと笑った。
「今朝、ある程度グラウンドの整理はしましたが、まだ少し風が強いですからね。怪我をしないよう気をつけて下さい」
「は、はい」
「恩くんの体に傷でもついたら大変ですからね」
(そっちか――――っ!!)
気をつけろ、というのは亜橲たち自身に対してではなく、恩に対してらしい。恩が怪我をしないように気をつけろということか。亜橲たちはげんなりとした。
「会長! 分かってるんなら早く放せよ! 授業に遅刻しちゃうだろ!?」
「おや、それは大変。でも、遅刻したら私が担当教師に取りなしてあげますよ。それとも、このまま二人でサボっちゃいます?」
「学生会長がそんなこと言ってどうするんだ!!」
グイッと稜雲の顔を押しのけ、恩はなんとか稜雲の拘束から逃れた。
「この不真面目会長~!」
それだけ言い残し、恩は亜橲たちの背中を押して走っていった。
「ふふふ、照れている顔も愛らしい」
くすくす笑いながら、稜雲はその場を後にした。
「相変わらず榊原会長は恩に懐いているね」
準備運動をしながら言った要に、恩は目を半眼にした。あの彼が啓也に並ぶスキンシップの激しい奴だ。
いちいち抱きつかなければ話せないのか、と思うくらい、常に抱きついてくる。その上、あちこち触ってくるし。
(セクハラで訴えるぞ!)
本気でそう思ったことが何度あったか。恩が答えない代わりに、玲汰が困ったように笑いながら言葉を返す。
「うーん、でもあれは懐いてるって言うよりは……」
「メロメロだよな! 実際のところ、どうなんだよ、穂積」
「どうって?」
からかいモードで笑みを浮かべる亜橲に、恩は怪訝な顔を向ける。
「会長と付き合ってんの?」
ずべしゃああっ。恩は思い切り地面に突っ伏した。何事かと周りの学生たちが注目してくる。体を起こした恩は叫んだ。
「そんなわけあるか!! というか、ただの先輩だって知ってるだろ!? 知ってて言ってるよな、バカ亜橲!?」
「いやぁ、もしかしたら心変わりでもしてるんじゃないかと」
「するか!!!」
くわっと目を剥いて否定する恩。亜橲も分かっていてそう言っているのだ。要と玲汰はやや呆れ気味にため息をついた。
「俺は迷惑してるんだ! あのヒトのせいで、俺がどれだけ恥ずかしい思いをさせられていることかぁぁぁっ!」
固く拳を握りしめて熱弁しかける恩の背後で、体育教諭が「授業妨害だぞ、お前ら……」と怒りに震えていた。
今思い出しても腹が立つ。あの男と会ったのは入学式の日。祝辞で出てきたあの男と目が合った。
硬直したようにきょとんとした顔でずっと見つめてくるから、なんだろうと思った。
《そこの赤髪の新入生男子君》
壇上のマイクで稜雲が言うと、一斉に学生たちが恩を見た。赤い髪の男なんて恩しかいなかったので、すぐに見つかった。
(ただでさえ、この髪と眼の色のおかげで目立ってたのに悪化したじゃないか! 俺になんの用だ、あの男!)
なるべく平静を装ったが、次に出てきた稜雲の言葉で頭が真っ白になった。
《気に入りました。私の恋人になりませんか?》
満面の笑みで、彼はそう言った。途端に会場中がざわついた。
稜雲が教員たちに怒られながら壇上から消えて、式が終わるまで恩の思考は停止したままだった。
……………………………………。…………。!!!?
式が終わって思考が回復した途端、混乱と羞恥心と怒りに染まった恩は、教員に問題の人物の所在を尋ね、教えられた学生会室に駆け込んだ。
『おや、君は。ちょうどよかったです。今から迎えに……』
『ふざっけるなぁぁぁぁ!!』
うれしそうに破顔して出迎えた稜雲に、とりあえず恩は渾身の平手を食らわせてやった。
『さっきのはなんなんだーっ!! あんたのせいで余計に目立っちゃったじゃないか!』
顔を真っ赤にして怒鳴ると、稜雲は全然堪えてない笑顔で近づいてきた。
『仕方ないでしょう。君と目が合った瞬間にビビッときたんです。つまりは一目惚れですね』
『バカ言うな! だいたいっ、俺は男だぞ!』
『私も男ですよ』
『分かってるよ! なのになんで男同士で、こ、恋人なんて……』
今まで女の子とさえ付き合ったことないのに。
『性別なんて関係ありません。好きになってしまったものは仕方がないのですから。私は気にしませんよ』
『俺が気にするの! というか嫌だ!』
『はっきり言いますねぇ。そこがまたいいです』
いくら言っても稜雲は食えない笑顔でさらりとかわす。それがまた癇に障った。
『分かりました。ではこうしましょう。お互い初対面で知らないことばかりですから、互いのことを知るために、まずは友人になりましょう。それとも、友人でも許してもらえませんか?』
諭すように言われて、まだ納得はいかなかったけど、友達くらいならいいかな、とこの時は思ってしまった。
『う……まあ……友達、だったら』
『よかった。これからよろしくお願いしますね』
それが、間違いだったのだ。
「あの時から俺の高学生活は晒し者状態になったんだぁーっ!!」
ごすうっ。頭を抱えて絶叫した恩の腹に、容赦ない蹴りが入れられた。カーレンが慌てて恩に駆け寄る。
「大丈夫ですか? 恩さんっ」
床を転がった恩は、今度は腹を押さえて蹴った張本人に涙目で怒鳴った。
「腹蹴るなよ、此武! 内臓出るかと思った!」
「ふん、むしろ臓腑をすべて抉り出してやりたいぐらいだ。喧しいぞ、虫ケラめ」
侮蔑の目で恩を見下ろす此武。いつにも増してその色が濃い。何やら不機嫌のようだ。
いつもならここでもっと文句を言うが、触らぬ神に祟りなし、の言葉通り、これ以上反抗しない方がいいだろうと判断し、恩はおとなしく引き下がることにする。
「恩さん」
「ものすごく痛いけど大丈夫……」
学校を終えた恩はいつも通りバイトに来ていた。
久し振りに稜雲に会い、稜雲との関係をからかわれたことで、出会った頃を思い出してしまった。
公衆の面前で同性に、しかも学生会長から告白されたとあって、誰もが恩に興味を持った。
よからぬ噂を立てられたり、髪と眼のことで注目されたり、いつでも噂と注目の的。
しかし、稜雲とは友人関係だとはっきりさせてからは、なぜかやたらと人気者になった。
(まったく、会長が人目もはばからずベタベタしてくるから。だいたい、男に対して好きだとか……)
声には出さず、心中でぶつぶつと呟きながら、タブレットで依頼のチェックをする。メールボックスには三通のメールが届いていた。
「あ、依頼来てるよ、此武。えーと、一件目は……子守の依頼みたいだな。差し出し人は『ヒムカ』さん」
ぴくん、と此武の片眉が跳ね上がる。恩が気づかず、内容を読み上げようとした時、瞬時に移動した此武がタブレットをひったくる。
「わっ、なんだよ此武」
無言で依頼内容を読んだ此武は眉間に深くしわを刻み込んだ。小さく舌打ちをし、タブレットを操作して電源を落とす。
「今日はこれ以外受けん。他の依頼はすべてパスする」
「え? それってさっきの子守のやつ? 相手は人外……だよな? 人外でも子守を頼んだりするんだ」
「ただの人外ではないぞ。相手は神狐――神族だ」
「へ?」
目を点にする恩。神狐は字のごとく、狐の神様のこと。火炎を操る炎神の属であり、東洋ではポピュラーな神様だ。特にこの藍泉国で神狐は特別な存在である。
古くは蒼泉美国という名だったこの国を建国した初代王に力を貸したのが、神狐オミリアだという。
今は、元々この地を守護していた水神サヲギラとともに、藍泉の守護神として祀られている。
これまで数々の依頼を受けてきたが、神族からの依頼は初めてだ。それにつけても、神狐というと恩は嫌な予感がした。
(神狐って……確か会長も神狐だったよな)
ぽわん、と稜雲の笑顔が浮かび上がる。外見の年齢はさほど変わらないというのに、あれで数十年生きているのだ。初めて知った時は驚いたものだ。
慶星高学は人外の入学を許可している数少ない学校だ。入学試験の際、人外は身分を証明すれば入学していいことになっている。
そのため慶星高学には、稜雲以外にも何人か人外の学生や教員がいる。実は玲汰も狸の恠妖、妖狸族なのだ。
(でもまさか、同じ神狐だからって会長がいたりするわけないか)
「神狐かぁ。狐だから子供多いのかな。じゃあ、依頼承諾の返事するからタブレット貸して。あっ、なんで電源落としてるんだよ、もー」
神様の子供ならそんなに手はかからないだろう、とこの時の恩は軽い気持ちでいた。
依頼日当日、恩は此武、千咲、カーレンとともに依頼主のもと――北方の天嶮州を訪れた。
天嶮州には藍泉一の山脈・天嶮山脈があり、依頼主はそこに住んでいるという。
名の通り、天嶮山脈は険しい山が天高くそびえ立ち連なっている。そのうちの一つ、佐原岳の中腹。時空廻廊を渡り、あっという間に辿り着いた。
「うわぁ~、やっぱり北国は寒いなぁ! 山の上だし……カーレンは大丈夫?」
「そうですね、少し肌寒いです」
念のため厚着はして来たが、風が吹くたびに冷気が足元から這い上がってくる。
十月に入ったし、秋の盛りだ。北部であればかなり冷え込む。
腕をこすりながら恩が問うと、カーレンは笑顔で答えた。
「夜になったらもっと冷えるんだろうなぁ。あ、あそこ雪が積もってる」
「雪? 雪とはあの、人間界で寒い季節になると空から落ちる白いものですよね?」
目をキラキラさせて、カーレンが詰め寄ってくる。恩はわずかに頬を紅潮させた。
「う、うん。場所によっては季節関係なく、気温が一定まで下がると降るけど」
「まあ。一度本物を見てみたいと思っていたんです。天界に雪はありませんから」
「天界は雪降らないんだ。そう言えば、天界ってどんなところ?」
依頼主の住処へ向かう道すがら、恩は前々からなんとなく気になっていたことを尋ねた。カーレンは頬に人差し指を当てて「そうですね……」と小首を傾げる。
「清浄な空気に包まれたあたたかい世界です。昼間は光があふれ、心地よい風が吹きます。
夜は光の帯が空を駆け、時にはその光の下で歌や舞を楽しむことがあります」
「へえ、なんだか素敵なところだね。カーレンの他にも、神様とか天使がいるんだよね?」
「はい。わたしの父や兄、姉、それから前天帝の斂子たちと……お父様がお創りになった天使たちがいます」
「ふぅん。ねえ、神様……というか、斂子だっけ。斂子とか天使っていつも何をしてるの?」
「斂子は仲のいい方とお茶会をしたり、音楽を奏でたり、服を作る方もいます。
花を育てたり、天使たちに指導をしたりもしていますね。たまに人間界を覗くこともありますよ」
天界に住む者は、人間界を見守るのが仕事。時には人間界に降り立って、そっと人間たちの手助けをする。
「天使はこれから産まれてくる人間の魂を運ぶのが役目なので、指定された日時に人間界と冥界を行き来しています。
それ以外は斂子とほとんど同じだと思いますよ」
話を聞く限り、天界というのは人間界とはだいぶ違うようだ。暮らしている存在からして違うのだから当然と言えば当然かもしれないが。
これまで異界と呼ばれる世界の話は、神話やおとぎ話の中でしか知らなかった。
世界中には神や悪魔、恠妖などの様々な人外がいるが、一般の人々が知るそれらが、どこに存在し、どんな生活をしたり、思想を持っているのかなどはあくまでも空想であり、事実ではない。
実際、恩が幼い頃に語り聞かされた神話や古い文献などで得た知識と、カーレンが話してくれた天界や他の異界の話は異なっている。
魔法界や冥界といった、知らない異界もあったし。
そういえば、カーレンはなぜ人間界に来たのだろう。
何か特別な理由があるのではないかと以前にも思ったのだが、訊く機会がなかった。
今なら訊いても問題ないだろうか。
「あ、あのさ、カーレン……」
「見えたぞ。あれが依頼主の住処だ」
淡々とした此武の言葉に、恩はがくっと脱力した。
せっかく訊けるチャンスだったのに……っ。
此武の声でそちらに意識を向けたカーレンは笑顔で、ぽん、と手を合わせた。
「まあ、素敵なおうち。あら、恩さん、何か言いました?」
「……いや、なんでもない……」
恩はやるせない気持ちでぱたぱたと手を振るしかなかった。