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6、そうだ、学校へ行こう

 私は屋敷に帰ってから父と母に何が起こったのか説明した。

 カイラが財布を盗まれるところを見てしまって、つい犯人を追いかけてしまったこと。魔法を使ってみたけどうまくいかなかったこと。魔法師に怒られてしまったことも報告した。

 その上で、自分の考え方が足りなかったと反省して謝罪した。


「本当にごめんなさい。心配と迷惑をかけてしまって」

 

 すると、両親は困惑しながらも怒らず冷静に聞いてくれた。


「今度からまわりに相談するんだよ」

「そうよ。私たちはあなたの親であり、一番の味方なんだから」


 その言葉に胸の奥がじんと熱くなった。

 私は思わず父と母に抱きついて、何度も「ごめんなさい」と「ありがとう」を繰り返した。



 今回のことで唯一よかったと思えたのは、カイラが足に怪我を負うことがなくなったこと。つまり未来が変わったということだ。

 カイラを救いたい。昔の私にふたたび悲惨な人生を歩ませたくない。

 今の私が幸せになれても、カイラが幸せになれないのでは意味がないと思うのだ。

 とはいえ、カイラと接点はないし、もう両親に心配かけたくないから勝手に出かけることなんてできない。

 いったい、どうしたらいいのだろう。


 私は一晩考えた翌日、朝食のときにさりげなく両親に話してみることにした。

 カイラの生家であるアンデル侯爵家に遊びにいってみたいと。


「なるほど。昨日ミレアの言っていた財布を盗まれた人はアンデル家の長女だったね。彼女にまた会いたいということかい?」


 父の言葉に私は素直にうなずいた。


「話してみて、とても感じのいい人だったの。不思議な魅力を持った人でもっと話してみたいなって思って」


 まさか前世の自分だから会いたい、なんて言えるわけないから適当に理由を作っておいた。

 すると、それを聞いた両親は少し困惑した表情になった。


「私たちはいいが、アンデル侯爵が迎えてくれるだろうか」

「そうね。あの方たちは格上の貴族としか付き合わないと有名だし」


 確かにそうだ。アンデル家の人たちは王室か、あるいは侯爵以上の貴族としか関わらない。茶会へ招待する者も選別しているし、夜会へ出席すれば自分たちより格の下がる貴族をかなり見下している。

 そのため社交界では結構嫌われているのだ。


「学校へ行けば会えるんじゃないかな?」


 父が明るくそう言ってくれたけど、私は唇をきゅっと結んでうつむいた。

 カイラは基本的にひきこもりで学校へ行くこともほとんどない。自宅へ訪問するしか接点を作ることができないのだ。

 どうしようかな、と思っていたところだった。


「たしか、妹さんがいらしたような……」


 母の言葉に私はハッとして顔を上げた。


 そうだ。どうして忘れていたの?

 私にはリベラという妹がいたはずよ。

 辺境伯に嫁いでから死ぬまで会うことはなかったけれど、出発の日に唯一私を見送ってくれた妹。

 リベラはたしか貴族学院の魔法科に所属していたはずだ。彼女と友だちになれたらカイラの情報を得ることができる。


「私、魔法科に行く」


 そう言うと、父と母が「ええっ⁉」と声をそろえた。


「魔法科は大変だよ。普通科でいいじゃないか。のんびり勉強して友だちと遊んで過ごせばいいんだよ」

「そうよ。魔法は危険なこともあるって聞くじゃない。大事なミレアが怪我をするようなことがあったらと心配だわ」


 父も母も手放しで賛成してくれるとは思っていなかった。

 だけど、今までみたいに甘やかされてばかりではいけない。

 ()()()()()()()心配だ。

 私は姿勢を正し、両親をまっすぐ見据える。


「私には魔力があるの。だけどそれを制御する方法を知らない。きちんと専門の学校で学ばないと、また危険なことが起こるかもしれない」


 思いだすのは魔法師の少年の言葉。


『魔力制御もできないくせに、魔法を使うな!』


 魔法を使わないのが最善なのかもしれない。

 だけど、もしまた誰かを助けたいと思ったとき、自分の力で守れるようになりたい。そのときに、ちゃんと自分で魔力を制御する術は身につけておかなければならない。


「基本的なことが学べればいいの。無理はしないから。お願い。お父様、お母様」


 困惑したふたりが顔を見合わせたあと、私は深く頭を下げた。

 やがて父が静かに言った。


「顔を上げなさい」


 おずおずと顔を上げると、母は戸惑いながらも優しく微笑み、父は穏やかに笑っていた。


「ミレアが自分から勉強したいと言ったのは初めてだ。それなら応援してあげたい」

「そうね。でも、約束して。絶対に無理をしないこと。向いていないとわかったらすぐに普通科へ戻るのよ」


 思わず笑みがこぼれる。


「ありがとう、お父様、お母様! 私、頑張るよ!」


 両親は、嬉しそうにうなずいてくれた。


 こうして私は魔法科へ行くことになった。

 とはいえ、これから転籍のための試験があるので、そのために数日間魔法学の本を読みこんだ。幸い暗記物は得意なので学科は大丈夫だろうと思ったが、問題は実技試験だった。


 実技試験の方法は「魔力値測定」だ。

 魔法の基礎は、風、水、火、土の四属性。

 光や闇などの特殊属性は例外で、まずはこの基本が習得の土台となる。


 でも私は魔力制御ができないので、あのときみたいな強大な魔法が放出されたら困ると思い、イメージトレーニングのみで本番を迎えることになった。

 ところが、意外なことが起こった。


 私は、まったく魔法が使えなくなっていたのだ。



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