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3、今世最高すぎるんですが

 どうやら二度目の人生は現実だった。


 私は鏡の前に立って、自分の姿を再確認する。黄色味がかった銀髪に黄金の瞳、色白の肌にほんのりピンクの頬とつやのある唇。

 すごい、まるで人形みたいに綺麗な容姿。


 カイラだった頃は漆黒の髪に紅い瞳、青白く痩せこけた顔にはしわがいくつも刻まれていた。それに比べたら、今は少し痩せぎみだけど若々しい肌をしている。


「か、可愛い!」


 思わず口に出してしまった。

 すると私の声に反応して、そばにいた侍女がにっこりと微笑んだ。


「はい、お嬢様は今日も可愛いですよ」

「あ、えへへ……」


 自分で自分のことを可愛いと言うなんて恥ずかしい発言をしてしまったわ。

 だけど今のはミレアという“今の私”を、カイラだった“昔の私”が純粋にそう思っただけ。などと言っても首を傾げられるだけだよね。


 髪を梳いてもらいながら、私は今世についておさらいをしてみることにした。

 まず、私はエヴァン伯爵家のひとり娘ミレア。

 父の名はレオナール、母の名はセシリア。

 ふたりとも温厚で娘を溺愛しており、執事も使用人たちもみんな優しくて、私は何不自由なく育てられてきた。

 ただし、唯一の難点は生まれつき体が弱いこと。

 こればかりは前世と変わっていないらしい。


 そして、もう一つ。

 私の左腕には金のブレスレットがついているということ。

 どうやらこれは生まれたときからあったらしく、母は「ブレスレットなんて飲み込んでいないのに」などと不思議がっていた。私もずっと不思議だったけど、特に気にすることもなく日常を過ごしてきた。


 だけど、このたび前世の記憶がよみがえり、ようやくわかった。

 これは私が死ぬ前に魔法師からもらったものだ。まさか、生まれ変わってもくっついているなんて思いもしなかった。

 いったいどういうことなのか、意味不明すぎる。

 しかもブレスレットは外れない。何か強力な魔力で私の腕と一体化しているようなのだ。別に生活の上で邪魔になることはないのでかまわないけれど。


「さあ、できましたよ。旦那様と奥様がダイニングルームでお待ちです。行きましょう」


 侍女に手を引かれ、私は立ちあがって鏡を見た。

 ドレスは淡いピンクでリボンがついている。ますます人形のように可愛らしくて自分の姿に思わずきゅんとなった。

 こんなドレスが似合うなんてまだ信じられないよ。


 ダイニングルームにはすでに両親が着席していて、私は彼らのそばに椅子を引かれ、そこへ腰を下ろした。

 目の前に広がるご馳走を見て、思わず喉が鳴る。


 赤ワインとベリーのソースがかかった鴨肉のロースト、海鮮炒めのレモンバターソース、じゃがいものクリームチーズ焼き、えびとアスパラのテリーヌ、肉と野菜の煮込みスープバジル風味、食用花とハーブの彩り野菜サラダ、牛肉ステーキのガーリックバター添え。

 パンはバゲットにクロワッサン、ブリオッシュまである。

 そしてデザートは大好きな苺のタルト。


 もうっ、最高に幸せ!!


「美味しいかい? ミレア」


 父の問いかけに私は肉を頬張りながら大きくうなずく。

 今までも美味しく感じていたけど、カイラの記憶を取り戻すとその美味しさは格段に増した。

 だって死ぬ前はカビの生えた硬いパンに冷えたスープとりんごだよ。

 こんなすごいご馳走が食べられるなんて。

 神様ありがとう、願いを叶えてくれて。


「よかったわ。ミレアの食欲が戻って」

「ああ、本当だ。ミレア、体調がよくなったら町へ出かけないか? 何でも好きなものを買ってやるぞ」

「まあ、買い物なら行商を呼びましょう。病みあがりですもの」

「それもそうか」


 両親はにこにこしながらそんなことを言う。

 今までこれが当たり前だと思ってきたけど、この人たちはどうもミレアを甘やかしすぎではないかと思う。よく考えてみたら学校に行きたくないと言えばすぐに休ませてくれるし、お腹がすいたと言えば甘いデザートを用意してくれるし、勉強が嫌だと言えば無理してしなくていいと言うし。


 うーん、これは大変な世間知らずのお嬢様になっているわ。

 このままカイラの記憶が戻らなかったら私はふたたび人生を失敗するところだった。

 だって、ミレアはものすっごくおバカさんなんだもの。


「そろそろ学校にも戻れるとお医者様が言っていたわ」

「無理して行く必要はないよ」

「でも、お友だちができるかもしれないわよ。お泊まり会とか楽しいわよ」

「ミレアがやりたいようにすればいいんだ。つらいことはしなくていいんだよ」


 うん、究極の過保護だわ。だからミレアは勉強ができないのよ。

 もうすぐデビュタントも控えているし、さすがにこのままじゃだめだわ。


「私、学校に行きたい。友だちをたくさん作りたいの」


 私がそう言うと、両親は満面の笑みを浮かべ、母なんて涙ぐんでいた。

 学校の授業についていけるのか不安だという両親に、私は大丈夫と答えておいた。だってカイラとして生きた54年分の知識とひきこもり生活で得た膨大な読書量が助けになってくれるから。


 とは言えないけどね。



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