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残念令嬢、今世は魔法師になる  作者: 水川サキ


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26、あきらめない

 今日は実技試験の日。

 魔力値測定と違って成績に直結する本格的な試験だ。

 朝食には分厚いステーキとふわとろのパンケーキがテーブルに並び、両親がにこやかに励ましてくれた。


「ミレア、無理をしてはいけないよ。そこそこ頑張ればいいんだ」

「そうよ。難しいと思ったらやめてもいいのよ。ミレアが怪我をするようなことになったら大変だもの」


 うん、私のことぜんぜん信用していないね。

 でも気持ちはわかる。今までに高熱で何度も死にかけてきたから、心配だよね。


「わかった。適当に頑張るよ!」


 笑顔でそう答えると、両親は満面の笑みで大きくうなずいた。


 実技試験は5人ずつ試験場へ呼びだされ、先生の前で魔法を披露する。その方法は何でもいい。審査を担当する先生に加え、試験時間を計測する先生と、魔力値を測定する先生がつく。

 難しく考えなくてもいい。自分ができる魔法を披露すればいいだけ。

 私は風魔法で自分の体を浮かせてみせることにした。今のところ風魔法が一番うまくコントロールできるから。


 失敗しなければいい。最低ラインでも合格点をもらえれば十分だ。

 魔力値は100に近い二桁を目指して、とりあえず50は出したい。

 うん、完璧だ。イメージトレーニング完了。


 最後に順番のまわってきた私は、リベラに励まされて試験場であるエルカノの森へ向かった。

 ところが、予想外のことが起こったのだ。


「出して! ここから出してー!」


 私は今、暗い倉庫に閉じ込められている。


 試験場へ向かっているとき、突然地面が盛りあがり、土が舞った。

 とっさに避けようとしたら、足首に蔓が巻きついて、その先端をクラスの女子が引っ張っていた。

 私の目の前にラナが立ちふさがる。彼女は腕組みしたまま私を見下ろした。

 その瞬間、すべてを悟った。


 倉庫に閉じ込められて外側から施錠されている。魔法で無理やり開けようと思っても、無効化魔法結界を張られているようだ。


「お願い、試験を受けさせて」

「落ちこぼれが受けても、どうせ不合格よ」

「ひどいよ、こんなの」


 私は微動だにしない扉を拳で叩く。

 外側からラナと取り巻きたちの声が聞こえてくる。


「あなただけ特別扱いされていること、学年中から抗議の声が上がっているのよ」

「そうよ。しかも王太子殿下と口を利くなんて、自分の立場を理解しているの?」

「たいした魔力もないくせに」

「あなたが魔法科へ来たせいで、みんな迷惑しているわ」


 最近は直接言ってこなかったから、もう放っておいてくれているものだと思っていた。

 こんなに恨まれていたなんて。


「リベラだってそうよ。あの子、表ではいい顔してるけど、裏で私たちにあなたの悪口ばかり言っているもの。あの子も性格悪いからね」


 その言葉にどきりとした。

 だけど、リベラが私のことをどう思っているかよりも、彼女たちがリベラを悪く言うことに許せなくて、思わず声を荒らげた。


「リベラはそんな子じゃない! 何も知らないくせに勝手なこと言わないで!」


 すると扉の向こうでクスクス笑う声が聞こえてきた。


「仲良しごっこ? あなただけでしょうね」

「向こうはどう思っているかわからないわよ」

「あたしだったら、あとから入った落ちこぼれが特別扱いされたら大嫌いになるわ」

「絶対友だちやめるわよ」

「他人の気持ちがわからない人なのねえ」


 私は何か言い返したかったけど、拳を握りしめたまま言葉を失った。

 たしかに、リベラは誰の助けも借りずに頑張って優秀な成績を残しているのに、私はノエインの指導を受けている。フェアじゃないかもしれない。

 だけど――。


『私はミレアの力を最初から信じていたわ』

『うらやましい気持ちはあるのよ。だけど、それであなたを嫌ったりしないわ』

『誰と競争しているわけでもないの。自分と闘っているだけなの』

『ミレア、一生友だちでいさせてね』


 私はぐっと拳に力を入れて、扉の向こうに向かって叫んだ。


「私はリベラの言うことを信じてる! 今ここで何を言われても、直接本人の口から聞かないことは信じない!」


 すると、扉の向こうから嘲るような声が返ってきた。


「おめでたい子ね」

「頭の中がお花畑なのよ」

「本音と建前って知らないのかしら?」

「口では綺麗ごとを言っても、心の中じゃ憎んでいるのよ」


 もうこれ以上聞きたくないので、私は思いきり扉に魔力を放出させた。地面から扉に向かって土が盛りあがり、亀裂が走る。けれど、その勢いは扉の前で弾かれ、あっけなく霧散した。

 ラナの無効化魔法が破れない。彼女の魔力に私が敵うわけがないから、この結界を破ることは難しい。


「ミレア・エヴァンはテストを放棄して王太子を探しまわっていた、ってことにしてあげようかしら」

「みんなすんなり納得するでしょうね」


 話し声とともに足音が遠ざかっていく。

 どうやらラナたちは本当に私をここに置き去りにしていったようだ。


 無効化魔法は持続するものではないけれど、この魔法が完全に消える頃にはもう私の試験時間の枠は終了している。


「どうすればいいの?」


 他に出口がないかと探してみる。

 壁は硬い石造りになっていてこれを壊すにも相当な魔力が必要になる。試しに土魔法で破壊できるかやってみたけどびくともしなかった。火でも燃えないし、水や風も無力だ。


 ――完全に詰んだ。


 このまま試験が受けられなかったら、普通科に戻されてしまうかもしれない。

 ノエインの指導も無駄にしたくない。

 目の前の開かない扉を見つめながら時間だけが過ぎていく。


 泣きそうになっているところに、ふと以前にリベラが話していたことを思いだした。


『魔力は一定ではないの。特に私たちのような見習いの魔力は不安定で、結界系の魔法は完璧にはならないの』


 私は目の前に張られた結界をじっと見つめた。透明ガラスのような結界は意識を集中すると小さな粒子が渦巻いているのが見える。魔力の波動が強くなったり弱くなったりと揺れているのが感じとれる。

 その中にほんの一瞬そこだけガクンと弱まっている部分を見つけた。


「ここだ!」


 一瞬の隙を逃さず、私は魔力を放出した。

 ぐわんっと一瞬だけ結界の魔力の波動が大きく歪んだけれど、壊せなかった。

 ふたたび魔力の波を見極めて、弱まった部分を見つけて自身の魔力を放つ。時間だけが過ぎていって途方もない作業に思えた。それでも、これしか方法がないからやるしかない。


「もう少し」


 私は何度もそれを繰り返した。だけど、やっぱり最終的には弾かれてしまう。

 やっぱり私の魔力じゃ足りないんだ。

 どうすればいいだろう?


 魔力で対抗するには力が足りない。

 焦りつつ周囲に視線をめぐらせると、倉庫の隅に何本か木の棒が立てかけられているのに気づいた。

 そうだ。物理的にやってみれば――。


 私は土魔法で地面を盛りあげ、木の棒を巻き込んで変形させて鋭く尖った杭を作った。

 これもノエインの指導のおかげだよ。本当はテストで披露できればよかったんだけど、まずはここから脱出することだ。


 ふたたび結界の波動を凝視して、一瞬だけ弱まるところを見定める。

 そして、そこを指差した。


「割って!」


 命令するように声を出したら、結界に杭が刺さり、パーンッと割れて飛散した。

 扉が、開いた。


「や、やった……!」


 でも、今ので魔力を相当消費してしまったので、試験に間に合ったとしてもすぐに魔法を使えるとは限らない。

 それでも、こんなところでじっとしていられない。

 とにかく試験場へ行かなければならない。

 他の4人の試験が終わるまでに間に合えば、どうにかなる。

 そう思って試験場へ走って到着したところ、すでに誰もいなかった。


 試験は終わってしまったんだ。

 私の試験枠が本日最後だったので、先生たちも帰ってしまったのだろう。


 私は途方にくれてその場に立ち尽くした。




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