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残念令嬢、今世は魔法師になる  作者: 水川サキ


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13、不安だらけの魔力測定

 魔法科へ通うようになって2ヵ月が過ぎようとしていた。

 学校での生活にもずいぶん慣れてきたし、ラナたちの嫌みも受け流せるようになった。

 クラスのみんなも魔力値の低い私を最初こそ見下していたものの、最近は興味を失ったみたいで、私は平穏に過ごせていた。


 魔法学の勉強は本当に面白くて、この科目だけならパーフェクトな成績を残せるだろうという自信があった。

 問題は実践テストだ。もうすぐ魔力測定テストがある。


 このテストは定期的におこなわれているものであり、先生の前で魔法の基礎を披露したあと、ふたり一組になって魔法の対戦をおこなうようだ。

 一応、魔力値の近い者同士で組むことになるようだけど、私と相手になれる人でも魔力値2桁はある。


「こんなの無理に決まってるよー」


 私が嘆いていると、リベラがそっと肩を撫でてくれた。


「大丈夫。今日から一緒に特訓しましょ」



 放課後の鐘が鳴り終わる頃、リベラとともに校舎の裏手にあるエルカノの森へ足を踏み入れた。空から斜めに降り注ぐ光が木の葉を金色に染めている。

 ここでリベラは私に魔法の特訓をしてくれることになった。


 魔法の基礎である水、火、風、土魔法。それぞれをリベラが手本に見せてくれた。

 私は魔力が弱いけれど、どうにかその4つを編み出すことができた。もっとも形になったのは水で作ったしゃぼん玉だ。数は少ないけれど、私にはこれが一番安定している気がする。


 問題は対戦のテストだ。

 生徒同士の魔法のバトル。そこでは力の強さと瞬発力、戦術、すべてが求められる。

 私はしゃぼん玉しか作れない。攻撃魔法にはほど遠く、相手の攻撃を避けるのも遅れてしまう。


 すると、リベラはたった一つだけ方法があると言った。


「無効化魔法?」

「そうよ。相手と対戦するときには、みんなこれを使うの」


 その魔法は相手の魔法を無効化する結界みたいなもので、これを作ることでその結界内では魔法が使えなくなるという。

 ただし、結界を張った相手の魔力より小さい場合だ。結界を張った相手より強い魔力があれば簡単にそれを破ることができる。


「私の魔力だと誰にも通用しないかも……」


 私が無効化魔法を使っても、あのクラスには私より魔力値の強い人しかいない。

 しかし、リベラは冷静に首を横に振った。


「いいえ。手はあるの。とても難しいけれど、覚えておいて損はないわ」


 リベラは右手をまっすぐ突きだし、自身から見て左から右へ直線を描くようにすーっと動かす。するとそこに透明なガラスのような壁ができた。


「ミレア、ここに魔法を使ってみて。なんでもいいわ」


 私は言われた通り、水魔法を使ってみた。けれど、すぐに弾かれて消えてしまった。


「これが無効化魔法。相手の魔法をすべて無効化してしまうの。だけど、よーく見て。この壁は常に動いているの」


 私は目をこらしてじっと見つめていると、きらめくガラスの壁は小さな粒子に見えて、まるで波打つみたいにわずかに揺れている。

 一定だと思っていた魔力の波は、一瞬だけ歪んだ瞬間があった。


「あっ、波が弱くなってる」

「そうよ。魔力は一定ではないの。特に私たちのような見習いの魔力は不安定で、結界系の魔法は完璧にはならないの」

「そっか。この弱い部分がわかれば、そこから魔法を破ることができるんだ?」

「その通りよ」


 つまり、私が結界を張っても簡単に破られてしまうけど、私も相手の結界を破る術はあるということだ。


「結界系の魔法は破られたときに一瞬だけ隙ができるの。そのときに自分が一番得意な魔法で相手を圧倒させることができれば勝利よ」


 リベラの説明を受けたあと、私は魔力の弱い部分を見極めて、そこへ自分の魔力をぶつけるように力を込めてみた。そうしたらパンッと弾ける音がしてリベラの結界壁は消えてしまった。


「できたでしょう」


 笑顔でそういうリベラに、私は喜びというより苦笑した。

 なぜなら見極めるのに結構時間がかかってしまったからだ。


「とっさに判断するのは難しいね」

「やり方さえ覚えていれば、あとは訓練よ」

「うん。ありがとう」


 こうしてテストの日まで毎日、リベラは私に魔法を教えてくれた。

 最初はうまくできなかったけれど、少しコツが掴めてきて、魔法を使う感覚に慣れてきた。

 ほんの少しだけど、自信もついてきたような気がする。



 そして迎えた魔力測定テストの日。

 試験会場はエルカノの森にあるガラス張りの訓練棟だった。外観はそれほど大きくないのに、中に入ると広々とした空間が広がっていた。

 高い天井からは木漏れ日がやわらかく差し込み、室内を明るく照らしている。宙には魔法科の紋章がふわっと浮かび、ゆっくりと回転している。

 まるで空気そのものに魔力が漂っているようで神秘的だ。

 足もとは石畳でその上に精密な線で描かれた魔法陣のような模様が描かれ、ぼんやり光っている。

 試験用に土や植木や花壇もあった。

 

 試験官は学年主任のエメリア先生。眼鏡をかけてすらりとした、ちょっと怖そうな女性だった。

 その手には光を反射する銀縁の魔力測定盤がある。

 魔法を放った瞬間、その魔力の強さや性質を数値化する装置らしい。

 私が転籍試験を受けたときも先生がそれを持っていた気がする。


 呼ばれた生徒たちはひとりずつ前に出て、それぞれ4つの魔法を披露していった。

 リベラはすべての基礎魔法において魔力値100を超えていた。

 彼女が魔法を放つたびに周囲からは拍手と歓声が上がり、同時にため息がもれる。

 まさに誰もが認めるクラスでトップの実力だった。


 その姿を見て、私は急に緊張してきた。

 そして、ついに私の番が来た。


 エメリア先生の前で礼をしてから顔を上げると、やけに先生の顔が険しく見えた。

 緊張のあまり手が震える。

 だけど練習通りにやろうと思い、二、三度、深呼吸した。

 水魔法は練習通り、少しだけどしゃぼん玉を作ることができた。

 火魔法は一瞬だけかすむような火を起こせたけれど、すぐに消えてしまった。

 風魔法は木の葉が舞う程度の風が起きた。

 土魔法はわずかに土が盛りあがった程度だった。


 私の基礎魔法は水と風が魔力値10で火と土はそれ以下だった。

 予想通りだけど、ちょっとショックだ。

 私の魔法を見ていたクラスの子たちからも嘲笑じみた笑いがもれた。


「よっわ」

「また平均値下げてくれてるわ」

「対戦なんかできるのかよ」


 私がため息をつくと、リベラがそっと肩を叩いて言った。


「大丈夫。魔力は安定してるわ。落ちついて」

「うん、ありがとう」


 リベラのおかげでいくらか心が軽くなった。


 そしてついに魔法対戦テストが始まった。

 リベラの相手はラナだった。

 どちらも魔力測定で高い数値を叩きだしていて、クラスでも比較されるふたりだ。

 ラナの魔力値は80~90台。リベラと同じく高水準で、対戦は最初から注目されていた。


 開始の合図と同時にラナが火の魔法を放つ。

 彼女の手から一気に炎が噴きだし、それは瞬く間に獣の形となった。燃えさかる炎の獣はまるで本物の魔獣のようで、周囲から歓声が上がる。


 けれど、リベラは動じなかった。

 両手を胸の前に重ねると祈るようにして魔力を解放し、水の魔法が静かに編みあげられていった。

 透明な光の粒が集まると、それは可愛らしい人形のような形になり、やがて水の妖精となって現れた。

 水の妖精は次々と現れて、その愛らしい姿に、私は思わず「可愛い」と呟いていた。


 ラナのほうが圧倒的に勢いのある魔法だった。ラナの魔獣が襲いかかると、リベラの水妖精たちは簡単に消し飛んでしまうのではないかと思った。

 しかし、リベラは即座に片手で魔力無効化魔法を行使した。

 きらめくガラスの壁がラナの攻撃を無効化し、その隙に水の妖精たちが散らばって火の魔獣を覆いつくしてしまった。

 あっという間にラナの魔獣は消えてしまい、リベラの妖精だけが宙に舞っていた。

 対戦時間は見ている側からすると一瞬のことで、ラナも呆然としていた。


 エメリア先生がそれぞれの魔力測定盤を読みあげる。


「ラナ、魔力値92。リベラ、魔力値153」


 リベラの数値が読みあげられると、周囲からどよめきが起こった。


「素晴らしいですよ、リベラ。学年トップです」


 先生の声に周囲から拍手が起こり、ラナは歯を食いしばりながらリベラを見つめていた。

 テストを終えて戻ってきたリベラに、私は興奮して思わず声を上げていた。


「すごいすごい、リベラ。おめでとう」

「ありがとう、ミレア。あなたも頑張って。落ちついてやればきっと大丈夫よ」

「うん、行ってくる」


 リベラのその言葉に背中を押されて、私はゆっくりと先生の前に進みでた。

 胸の鼓動がどくどく鳴った。

 呼吸を忘れそうなほど緊張している。


 どうか、どうか、魔力値一桁を脱出できますように!



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