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残念令嬢、今世は魔法師になる  作者: 水川サキ


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12、私だけが知っている真実

 広い講堂には魔法科の生徒が集まった。

 最初に院長先生の話があり、そのあと専門の先生が古代の魔法についての話をして、あとは学年トップの子たちの魔法の実演があった。

 水魔法でしゃぼん玉を作る子や、火魔法でたくさんのキャンドルを灯す子、風魔法で中空を舞う子と続き、次の人が登場した瞬間全員が歓声を上げた。


「え? 何、みんなどうしたの?」


 私は初めてなので何が起こったのかよくわからず、となりのリベラに問いかけた。

 するとリベラも歓喜の表情を私に向けた。


「ノエイン様よ」

「えっ⁉ 」

「彼はすごい人なの。学年トップどころか、この学院のトップなのよ」


 きゃあああっ、という悲鳴じみた声に耳が痛くなる。


「そ、そんなに、すごいの?」


 私が耳を抑えながら訊ねると、リベラは両手の拳を握りしめて興奮状態で言った。


「そうよ。あのグランヴェール公爵家の令息だもの。しかも、兄弟でもっとも魔力が強いと言われているお方なの」

「え? そうだったの?」


 グランヴェール公爵家は五大貴族の中でもっとも強い権力を持つと言われている。たしか第二王女の母親がグランヴェール家だった気がする。

 名だたる魔法師を輩出する一族ではあるけれど、私が王宮にいた頃にノエインはいなかった。

 まさか彼があの一族の人間だったなんて――。


「見て。彼は光魔法を使うの。魔塔の魔法師しか使えないのよ」


 リベラに言われて、私は息を呑んで彼の舞台を見つめた。

 ノエインが片手を振りあげただけで周囲が光に包まれて、そこに虹色に輝く獣が現れた。その姿はだんだん大きくなりドラゴンとなって舞いあがり、私たちの頭上をすばやく飛んでいった。

 光と風が通り抜けて、私は思わず目を閉じた。

 次に目を開けたら、すべてが跡形もなく消えていた。


 大きな拍手がわいた。

 ノエインはしばらく真顔で立っていたけれど、途中で何も言わずに舞台から降りていった。

 リベラは拍手をしながら「今回もすごい魔力だったわ」と興奮冷めやらぬ状態で声を上げた。

 私は放心状態で、拍手をするのも忘れて、ノエインがいなくなった舞台をじっと見つめていた。


「彼は学校で学ぶことはすべてマスターしていて、魔塔の仕事を手伝っているそうよ。卒業後は正式に魔塔所属の魔法師になって、将来は宮廷魔法師の道が約束されているらしいの」


 多くの人の止まない拍手と、リベラの声が、私には遠くに聞こえている。


「フェデル王太子殿下の信頼も厚くて、将来は殿下直属の魔法師になるのでしょうね」


 私は拍手をしようとした。けれどできなくて、手を合わせたまま震えた。


「ミレア、体調でも悪いの?」

「えっ……」

「震えているわ」


 リベラが不安そうに私の背中を撫でてくれた。


「大丈夫? もしかしてノエイン様の魔法が怖かった? そうよね。魔力が強いもの。びっくりしたでしょう」

「……うん」

「大丈夫よ。もう授業は終わりだから、少し外の空気を吸えば落ちつくわ」


 リベラは私の背中をさすりながら声をかけてくれた。

 私はぼんやりとノエインの未来の姿を思い浮かべていた。


 前世で私がノエインと知り合った頃、彼は王都を追放された魔法師として、魔塔を永久除名されていた。家族もいなくて、辺境の地でひとり孤独に過ごしていた。

 こんなにも多くの人に注目されて、輝かしい未来が約束されているのに、彼の晩年はあまりにも寂しいものだ。


 ここにいる生徒たちの中で、私だけが知っていること。

 本人だって想像もしないだろう。

 そのことを思うと、胸が痛くてたまらなかった。



「ミレア、少し落ちついた?」

「うん、ありがとう」


 私たちは庭園のベンチに座り、オレンジとベリーのジュースを飲んだ。少しすっきりしたおかげか心が軽くなった。

 心配してくれるリベラにどこまで話せばいいだろう。

 まさか、ノエインの未来のことなんて話せないから、私は今世で起こった事実だけを話すことにした。

 魔法科へ来る前からノエインと知り合いだったこと、その際にカイラと出会ったことなどをかいつまんで説明した。

 そして震えていた理由は、ノエインの魔法に驚いたことと感動したことにしておいた。


「それでお姉様のことを知っていたのね」

「うん。カイラには怖い思いをさせちゃったと思う。だから私はちゃんと魔法を学ぶことにしたの」


 一番の理由はカイラと接触するためにリベラと知り合いになるためだったなんて、言う必要はないと思った。今ではそんな打算めいた理由なんてどうでもいいほど、リベラと一緒にいるのが楽しくてたまらないから。



「ごめんね、ミレア。私ったらあなたの前でノエイン様のことを偉そうに話してしまって」

「そんなことないよ。私は彼がそんなにすごい人だなんて知らなかったもの。リベラのほうが詳しいと思う」

「私は噂を耳にしているだけよ。あとは先生たちがよく言っているのを聞くの。彼の魔力値は1000を超えているんですって」

「す、すごい。私なんて一桁なのに、途方もないよ」


 だけど、話を聞けば聞くほど本当に腑に落ちない。そんなにすごい魔法師がなぜ追放されてしまうのか。この先、ノエインにいったい何があるのだろう。

 私はまた、無意識に左腕のブレスレットを触っていた。


「でもね。私はミレアならすごく伸びると思うの。初めてなのに魔法学は完璧だし、実践も少しずつ訓練すればできると思う」

「そ、そうかな?」

「たとえば、これよ。さっき私たちの学年トップの子が見せてくれた水魔法でしゃぼん玉を作ることは、そんなに難しくないの」


 リベラが人差し指をくるりとまわすと、小さな水の粒がたくさん宙に浮かんだ。それらはきらめきながら次々と形を変えて、やがて丸いしゃぼん玉になり、ふわっと空へ舞いあがった。

 しゃぼん玉は夕暮れの色に照らされて金色に光り輝いた。


「わあ、綺麗」

「ミレアもできるわよ」

「本当?」

「やってみて。水魔法を起こすには空気中の水を集めるの。あまり力を入れずにそっとね」

「うん」


 リベラと同じように人差し指をくるりと回す。だけど何も起こらなくて、思わず力んで何度も指をくるくるさせた。

 すると雫みたいな水がわずかばかり指先に集まって、それから霧みたいに散った。


「失敗しちゃった」

「大丈夫。何度も練習すればできるようになるわ」

「うん」


 私はリベラのとなりで何度も水魔法を試してみた。

 集中して指をくるりと回す。だけど、私の水は形にならずにすぐに消えてしまう。

 それでもあきらめずに繰り返すうちに、ようやく小さな水の粒がふわりと浮かびあがった。

 しゃぼん玉にはほど遠いけれど、それでも3回に1回くらいは、水魔法が成功するようになっていた。


「すごいわ、ミレア。上達してるわよ」


 リベラが目を輝かせて褒めてくれる。

 私は少し照れながら笑った。

 テストまであまり時間はないけれど、できるところまでやってみようと思った。

 

 それにしても、初めて魔法を使ったあの日。

 私はなぜあれほどの暴風を巻き起こす風魔法が使えたのか、いまだにわからない。




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