巨神28号、巨神の空の器にて出撃す
XSTK-28 行きます
おやっさんと呼ばれた男、オヤッソには分かっていた。分かっていたのだ。
目の前にいる親友の息子、もはや自分にとっても息子に近しい存在が、何を見て何を決めたのか。だが、それでも──
「XSTK-28 巨神28号空式で出ます」
「なんでだ!? コウガ参式で出ればいいだろう! 他の人間の命まで背負うつもりか!」
出た言葉はそれだった。なぜ、この子がそこまで背負う必要があるのだろう。他の人間に任せればいいではないか……なにより、こんな子どもではなく、本来大人が背負うべき業ではないのか? その疑念が言葉に出る。本来語るべき言葉は、おそらく違ったのだろうが……
「──Gの鼓動──聞こえてしまったんです。だから、おそらくはコウガ参式ではダメなんですよ」
「……なぜだ?」
おやっさんは流石に落ち着いたようだった。だから、出てきた言葉は論理的思考による純粋な疑問に変わっていった。
「Gの鼓動とやらは詩的過ぎてよく分からん……そこら辺はライに似てきたな。ただ、G・リアクターが起動したのは報告で聞いた……」
完全なスタンドアローン状態でな。続きの言葉は、あえて出さなかったようだが、カナタには伝わった。あれが自立起動するのは、理論上ではあり得る話である。それは分かるから、そのこと自体は今は問わないのだろう。
「アイドル状態で放置しろといった時点で、おそらくは乗るつもりなのは分かった。しかし、計画ではまだそのときではないはずだ。なぜ今クウシキに乗ろうとする?」
カナタの目線は、本来隔壁の向こうにある、隠し通路の先にあるXSTK-28を見ていたのは、この研究所の構造に詳しいおやっさんには、手に取るように理解できたはずだ。
「……人型機動兵器に乗るために、神経伝達用促進のためのナノマシンを、血液に打ってXSTK-28に乗ったときから、感じてたんですよ。G・リアクターの起動によって、意識が流れ込んでくるのを……」
おやっさんは、その告白に息を飲んだ。実はそのことは、今までは隠していた。G・リアクターの起動によって何かを感じるなど、おかしくなったと言われても仕方のないことだろう。G・リアクターに関する研究が進んでいなかった頃なら。
「おそらく、今回の件にはジェネシスが絡んでいます。だからアレはGの鼓動で、僕に知らせた」
「……なぜ、そう思う?」
言いたいことはあるのだろうが、おやっさんは必要なことだけ話すことにしたらしい。カナタとしても、その方が気楽だ。心配されても、それには応えられない。
「クリフォト、メタトロンにサンダルフォン、クトゥルフ、フェンリル……そしてG──」
カナタは歌うように、ジェネシスの個体名をあげていく。惑星アトランティスでは、それらは観測されたことがない。もしかしたら、アトランティスにはいないのではないか? という説もあったが、カナタはそうは思わなかった。おそらくは──
「ジェネシスは、開拓地点までの計測では発見出来なかったか、あるいは今の僕たちの技術ではそもそも発見出来ないのか……今回の件で、おそらくは後者だと思ったんです」
「Gの鼓動とやらが知らせたからか?」
おやっさんは、どうやらGの鼓動という表現が気に食わないらしい。だが、巨神の心臓たる空の器、ティタノ・カルディアの真の心臓がG・リアクターなら、Gの鼓動以上にふさわしい表現は、きっとないだろう。
「他のジェネシスと違い、Gは純粋な知的好奇心で人間と接触していた模様です。だから、人間が駆逐されるのは気に食わない……もっというなら、どう戦うのかを見てみたいのですよ、きっと……」
──だから知らせた──
こちらの反応と、観察対象がどうするのかを見たいがために。
「……もし違っていたらどうする? というより、そもそもクウシキが必要なのか?」
「十中八九、規格外骨格も必要になりますよ。だから、XSTK-28でなければダメなんです」
「……あれまで見せるつもりか!? 計画はどうする!? ライがそれで納得するとでも──」
「父さんは、人の命に関わることなら、許容しますよ。甘い人ですから」
その言葉に、おやっさんはため息をついた。父さんならそうだろう、と納得してしまったのだろう。
「しかし、今はエグゾ・グリモアは試作段階だ。バハムートはいけるが、ヤマタノオロチやドラグーンもまだ最終調整が終わっていない。現段階でジェネシスと戦って、勝算はあるのか?」
「おそらく、ジェネシス本体は来ていないかと……来ているなら、アイドル状態で大人しくしているわけもない。だが、ジェネシスからの斥候の可能性はありますね。なら、そこそこの強敵ではあるでしょう。規格外骨格があれば、別でしょうが」
「……筋は通っているな……仕方がない、バハムートも出す予定で待機していよう。だが、ジェネシスが仕掛けてくるとは限らないだろう。最初からエグゾグリモアを使うことは、流石に許容出来ねえなぁ」
それがおやっさんの妥協案だった。とはいえ、それは当然といえる。とはいえ、こちらもいきなりバハムートを使うつもりはなかった。そもそも、わざわざ合体補助のユニットまで開発して、外に射出して外部で緊急合体も出来る仕様にしたのだから、わざわざ合体状態で出向く理由もない。
「分かりました……あと、クウシキはビームバズーカ290型でお願いします」
「注文が多いな、ボンは! だれに似やがった?」
「母さんでしょう、それは」
「コナタの奴は性格悪いからな! 確かにそりゃそうだ」
おやっさんはハハッと哄笑した……しかし、なにやら悪口を言われたような……カナタは疑問に思ったが、気にはしなかった。
「では手筈も整えたし、行きましょうか。流石にこれ以上おまたせすると、あの人たちに何を言われるのか分かったものではないですしね」
「……いや、もう結構言われていると思うぞ、ボン」
ボソッと言われたおやっさんの言葉を、今度は完全に無視した。
──そして巨神の空の器は、あえて受肉せずに出撃するのだった──
「XSTK-28 クウシキ、行きます!」
XSTK-28 巨神28号クウシキ
真のティタノカルディア
G・リアクターを搭載し、エグゾ・グリモアを扱える真のティタノ・カルディア
巨神に至る、空の器にして、規格外骨格を扱える唯一のティタノ・カルディアである。
なお、エグゾグリモアとは『外付けの魔導書』という意味である。