アルベルトたちの語らいと戸惑いと
さて、アルベルトたちの現在のカナタへの評価が分かります。
コウガはいい機体だ。出力を重視して造られたという言葉とは裏腹に、機体はストラティマキナのオーソドックスな規格を踏襲している。機体の全高などが変わっていないのは、ストラティマキナからの乗り換えも意識してのことらしい。
さらに、関節機構などにはあえて試験的な機構を積極的には導入せず、質実剛健な造りとなっている。試験的な側面が強いのは、動力源のエーテル・リアクターと呼ばれる疑似縮退炉くらいのものだった。
なお、アルベルトが乗っているのは指揮官用の壱式である。通信機器とセンサー類が一般機より強化されているらしいが、それは電子戦対応型ほどではなく、あくまて味方の位置を把握して指揮を行うための措置だ。ブレンダが乗っているが、電子戦用の機体で、こちらの方がさらにセンサー類とECCM機能が強化されている。カナタが乗る参式が、一番プレーンな基本構成の機体らしい。
(となると、最初から自分が戦闘指揮をとるつもりがなかったことになるが……どこまで読んでいた?)
「ふむ……確かにこうして動かしてみると、ノトスからの乗り換えを意識しているのは分かる。設計思想も堅実だ……しかし、出力の向上幅が大きいのに、機体の軽量化によるパワーレシオの向上も合わさると、どうにも操作感が気になるな……ノトスほど操作系統が洗練されていない感じがある。とはいえ、これは流石に初期ロットの製造品としては、ごく普通の範疇か……」
コウガは、ノトスと比べると細身な印象を受ける。とはいえ、胴体の動力ユニットが小型化したことが主な要因で、コウガはノトスと比べても、あまり極端に軽量化を施されているわけではない。装甲の進歩で、機体を軽量化出来たが、内部の構造は軽量化より剛性を選んだらしい。実に堅実だ。堅実過ぎて、どうして最先端の研究をしているはずの場所で、このような機体を開発しているのかが分からない。
「……あの!」
「……ん? なんだ?」
。ステップや小刻みな歩幅の変更、軽く跳んで推進系や姿勢制御の精度確認など……細かい挙動を繰り返して、操作系統のクセを探っていた。今のところは悪くない。流石にノトスほどの動かしやすさはないが、それは慣れも大きいだろう。
そうやって機体の挙動へ集中いると、ブレンダの方が話しかけてきた。ブレンダの方も機体をただ歩かせるだけでなく、細かな挙動でクセを探ろうとしながら、だ。
(操縦センスは悪くない。むしろ、操縦センスだけなら突出しているか……?)
「あの、アルベルトさんは気にならないんですか?」
「アルベルトでいい。それより、気になるってなにがだ?」
その問いに、ブレンダは一呼吸おく、そして、声を一段小さくして語りかけてくる。まるで密談するかのように。そんなことに、大して意味はないはずだが。
「だって、あの子やおやっさんって人、明らかになにか隠してましたよ?」
「そうだろうな」
アルベルトは認めた。あの二人は明らかに何かを隠している。そのことは流石にすぐに分かった。
「とはいえ、あの手合に素直に聞いたところで、マトモに答えると思うか?」
「ですけど……そもそも武器の話からしておかしいでしょう?」
それは確かにそうだ。確かに怪獣の中には、ノトスのビームライフル程度ではロクにダメージを与えられない。だが、それはデストロイヤー級以上の話だ。ハザード級のリュドウを相手にするなら、ノトスの武器だろうが火力を気にする必要など、あるわけがない
「とはいえ、今のところ俺たちを必要以上にたばかる必要があるとは思えん。戦力が限られている現状ならなおさらだ。それに……」
「それに……?」
そのとき、アルベルトが皮肉めいた笑みを浮かべた。
「あのときの様子、明らかに連中にも想定外の事態に見えた」
「ああ、それは確かに!」
あのカナタとかいう小僧も、動揺することがあるのだな、と思ったのだ。あれで余裕そのものな様子だったなら、また話は違ったかもしれないが。それに──
「あいつは多分性格はおそろしく悪いが……人を騙して権力を得ることに固執する連中のような、性根の腐った感じはしなかった……性格は悪いだろうが」
「なんで二度いったの?」
「まあともかく、だ」
「流された……」
「現状、簡単に思いつくような利害で連中が俺たちに隠し事をしているとは思えん。となると、判断材料が足りない今、連中に楯突いた方が何をされるか分からん」
カナタのこと以外は、あくまで真面目にアルベルトは語り続けた。それにはブレンダも同調する。
「確かに、あの子根は悪い子じゃなさそうだったね……ただなんというか……人個人より皆んなにとっていいことはなにかって、考えてる感じがする」
「分かるのか?」
「……なんとなく」
しかし、ブレンダに言語化されて、アルベルトにも腑に落ちるものがあった。確かにカナタは人類のためなら個人を切り捨てかねない、そんな合理主義的な思想を感じる。今の懸念点はまさにそれ……自分たちが人類のために切り捨てられることだが……
「だが、何度でもいうが、今は判断材料が足りん。しかも、今すぐ俺たちを切り捨てるのは、流石に連中に利点があるとは思えん。警戒はすべきだが、今はこの状況を乗り切ることに集中すべきだ、違うか?」
「……分かった……アナタって案外カナタ君みたいに合理的な考えで動くのね」
「……それは悪口だと受け取るぞ」
そんなことをいい合いながらも、既に目標であるリュドウ五匹に近い場所にまで来ていた。
「カナタはまだ出撃していないか……測距に関しては弐式が上だ。この辺りの地形データを算出してくれ」
「了解」
そして、それによって地形が判明する。そのデータを元に、アルベルトが作戦を立てた。
「この位置が進行ルートと思われる場所の中では、最も戦術的に価値が高い地形だが……どうするか」
その場所は、東に切り立った断崖があり、コウガならその高台からリュドウに大して一方的に攻撃が可能だった。だが、コウガで実戦を経験したことがある唯一の人物、カナタがまだいない。
「流石に、待ったほうがいいんじゃない?」
「……いや、カナタが来ないようなら二人でもしかけよう。流石に他の場所に地の利がなさすぎる」
ブレンダは、コウガで実戦経験がある人物が参加しないことに不安を感じているようだが、この先にリュドウが移動すると、もはや穏やかな丘陵地帯がせいぜいで、数で勝る相手だと回り込まれるおそれがある。
ここは地の利をとるべきだ。アルベルトの勘がささやくのだ。
──だが、彼の心配は杞憂だった──
「まって、カナタ君の機体はんの……え?」
「どうし……」
ブレンダに問い直したアルベルトも、センサーに反応した機体の型番に思わず固まってしまう。
「XSTK-28……? そんな機体があることなど、聞かされていないぞ……しかも、Xナンバーだと……!?」
──だが、彼らの困惑をよそに、事態はさらに混沌へと成り行くのだ──
XSTK-28
キョジン28号クウシキ
真のティタノ・カルディア。ティタノ・カルディアとは巨神の心臓を指す。
この意味が分かる刻、それはおそらく──