YSTK-29 コウガ出撃ス!
ようやくYSTK-29が出撃するのか、しないのか、どっちなんだい!
いや、出撃はしますけど
一方、カナタではなくおやっさんは事情を察したらしい。
「ボン……お前さんが愛称で呼ぶのなんざ、儂くらいのもんじゃろ」
「……ん? ああ、確かに。おやっさんとはそれこそ赤ん坊のときからの付き合いですし、シキシマ研究所の皆んなはそのこと知ってますから。失念してました」
それでアルベルトたちも納得したようだ。赤ん坊のときからともなれば、両者が共に親しみを抱いて愛称で呼び合うのも、ある意味当然だろう。ただ同時に、おやっさんと呼ばれた人物以外には、愛称で呼ぶ相手すらロクにいないのか……とも思ったようだが。
「それでおやっさん。今回の相手は?」
おやっさんと呼ばれた人物が差し出した、タブレットタイプの端末に、詳細なデータが表示される。
「今回はリュドウが五匹……ハザード級とはいえ五匹ともなれば流石にな。それに……」
ちなみに、怪獣はある程度脅威度で分類されている。ハザード、カラミティ、デストロイヤー、ジェノサイダーの順に強くなっていく。今回の怪獣はもっとも脅威度が低いとされるハザード級とはいえ、怪獣は人間が携行出来るような火器類で倒すのは、容易な相手ではない。五匹もいれば、なおさらだ。人間が罠を仕掛けて討伐するにも、数が多くて難しいだろう。
なお、リュドウ──土喰い怪獣リュドウ──と呼ばれる怪獣は、体毛の代わりに鱗がビッシリの犬が、全高15mほどの大きさで前傾姿勢の二足歩行を行い、前脚がモグラの爪のようになっている……といえば一般人でも想像がつくか。
リュドウは土を喰らって生活しているらしいが、どう考えても純粋な土の成分だけで、運動エネルギーをまかないきれるわけもない。どんなカラクリがあるかは、まだ研究中らしい。
なお怪獣は生物であるため、厳密には個体差によって大きさが異なる。さらに生存する地域などで、生物学的には細かく分類されているが、そのようなことに興味を抱く人間は、この場にはいない。
「それに……?」
「動き方がおかしい……どうにも解せん」
「……なるほど、まるで何かに追い立てられてでもいるかのような、奇妙な動きですね」
「まあ、それはこのさいいいとして……だ。経路を気まぐれに変更しまくっているクセに、なぜか明らかにこの研究所に近づいとる」
この辺りは丘陵地帯が多い。急な傾斜はないわけでないが、明らかにそれに阻まれて進路変更したとは思えない。別の進路に向かったと思いきや、その後に迂回する不自然な挙動でこの研究所に近づいている。本当に妙だ。この動き方、まるで本当に──
──Gの鼓動が聴こえた。まるで何かを呼んでいるかのような……いや、誰を呼んでいるかなど分かりきっている。僕にしか聴こえない、Gの鼓動──
「まさか、他の怪獣に誘導されているとでも?」
アルベルトは疑問を投げかける。人類統合連合で、リュドウを含む怪獣とは何度も戦ってきた。だが、意図的に怪獣を誘導するような怪獣など、見た経験がない
「分からん。現状では、判断材料が足りん。とりあえず、リュドウの討伐を優先──」
「おやっさん」
おやっさんの声を遮り、カナタが声を出す。静かだが、確固たる意思を感じる声音。そして、彼は宙を見ていた。まるで何かがそこにあるかのように。いや、おやっさんには心当たりがあった。あの方向には──
「たしか、ストラティマキナ本体はともかく、ティタノカルディアの武装の互換性を検証する目的で、SM-08のビームライフル800型、予備も含めて二丁程度はありましたよね?」
カナタは、相変わらずこちらを見ていない。だが、その言葉の内容は淀みがなく、そしてその意図もおやっさんには伝わったようだ。
「……技術者から見れば、あれはただの下位互換に近い品なんだがな……いや、いい。実戦に初乗りする機体で行かなきゃならん連中に、武器さえも使ったこともない代物で、というのも酷な話だろうて」
「え! ノトス用の武器があるんですか!?」
「ふむ……乗る側からすればありがたいな。機体に慣れるのさえキツイ状況だ。武器くらいはな」
ブレンダとアルベルトは、この話に素直に喜びを示した。機体の方はともかく、武器は使い慣れた品が用意されるなら、それを使わない手はないだろう。
「あと、僕は──」
そのときである。カナタの携帯端末に連絡が来た。おやっさんにもだ。緊急事態を告げる連絡だろう。
(ちょうどいい時間だ)
「はい、僕です、カナタです──はい、状況はおおよそ分かってます。ですので、そのままにしておいてください」
おやっさんが、その言葉に驚愕している。その気持は分かるが、だがおそらくこれでいい。このままYJTK-29で出撃するのは、きっとマズイ。
「僕は後で出ます。お二人は機体の慣熟も兼ねて、二人で先行して貰えますか? 僕はちょっと用事が出来ましたので」
「……儂からも頼む。お前さんらがノトス用のビームライフルを使う以上、ボン用の火器類について煮詰める時間が欲しい。場合によっては換装もあり得るからな」
「え……? でも?」
「……分かりました」
ブレンダは疑問符を浮かべたが、アルベルトはこの意見を表向きは首肯した。明らかに含みがあったが、とはいえここでそれを問いただすのはやめたようだ。カナタは相変わらずアルベルトたちを見ないまま、
「すみません。貴方がたの出撃以降は、アルベルトさんに戦闘指揮を一任します、後発の僕も含めて」
「なら、整備担当に機体へ案内させるとしよう。壱式がアルベルト、お前さんだ。弐式はブレンダ。それぞれ機体特性が僅かに違う。整備担当から詳しく聞いてくれ」
「分かった……いこうブレンダ」
「ええ!?」
ブレンダはまだ何かいいたそうだったが、アルベルトは思うところはあるようだが、この場は素直に従うことにしたようだ。二人は、おやっさんのそばに来ていた整備担当に連れられて、それぞれの機体に向かっていった。
「さて、それじゃあこちらは内緒話でもするか、ボン」
──その声はもはやアルベルトとブレンダには聞こえない。そして彼らの出撃の時間が来た──
「YSTK-29 コウガ壱式、アルベルト・インパート! 出るぞ!」
「YSTK-29 コウガ弐式、ブレンダ・ファルメール、出ます!」
こうして、二人はコウガで先行して出撃することとなったのだった──
おやっさんの本名はオヤッソである
とはいえ、最初は旧知のライ・シキシマにのみ許していた愛称だったり
この辺は後の断章で、詳しく書きます