出撃! 独立遊撃部隊J
さて、ロボット物の初出撃イベントはときに予想外を伴って
カナタにとって予想外の反応だったが……いや、しかし事前に思い至らなかったのには、ある種の問題があるのかもしれない。むしろ、良識的な人間こそ疑問に思うことだからだ。
「君はたしか……17歳くらいだったと思うんだが……?」
「……ええ、そうですが、それがなにか……?」
このときにはもう、聞かれていることがなんなのかある程度の見当はついていた。アルベルト・インパートが真っ当な人間である証拠でもあるが、正直煩わしさを感じなくもない。
「まわりにいる大人は、誰も止めなかったのか……? 人類統合連合で訓練した志願者ですら、実戦は18歳からのはずだが?」
「止めましたよ。ここの職員がみな、マトモな倫理観を欠片も持ってないとでも思っているのですか……?」
ああそうだ。シキシマ研究所の人間は、むしろ大半がマトモな倫理観を持っている。なにしろ、カナタの父であり研究所の責任者でもあるライ・シキシマは、倫理観の伴っていない研究者を嫌っている。カナタも父やまわりから諭される立場だった。
それでも彼は、カナタは12歳からシミュレーションを、そこから実機訓練と実機テストを経て、そして実戦を経験したのだ。大人たちは止めた。だが、カナタ以上の適任者はいないとまわりを説得した。最後にはシキシマ研究所の皆は折れる形でカナタの意思を尊重した。結局、カナタ以上の適任者がいないのも事実だったからである。
「アナタのその生真面目さには好感が持てますが……今は仕事の話をしましょう」
「しかし……」
「人類統合連合のAIが、私に副司令の権限を認めているのです、従ってください」
正直これは言いたくはなかったのだが。とはいえ、ここでこれ以上押し問答をしている時間は無駄でしかない。人類統合連合は、移民船時代から長いこと軍隊としての役職が存在していなかったことから、指揮系統をAIを補助に用いて、指揮権限の優先順位を人員にナンバリングすることで対処している。AIが権限の上位者と定めた人間が上官、ということだ。当然人間の意見も反映されてはいるので、全てをAIが定めているわけではない。
ただ、AIで割り振られた指揮権限順位は、人類統合連合ではよほどのことがない限り覆らない。上位者には従うのが義務だ。それ自体は、軍隊とあまり変わらない。
とはいえ、立場を利用して強制するのは好みではなかったのだが。
「……分かった」
「それから、アルベルトさんはむしろこちらを気にすると思っていたのですが……戦闘指揮に関しては貴方が指揮官として振る舞ってください。私は戦闘の指揮に関しては、アナタほどの才覚があると自惚れてはいませんから」
「いいのか……?」
「AIには、戦闘時に限るという条件でこちらから申請し、人類統合連合でも検討された上で承認されています……戦闘の経験はアナタの方が遥かに上なので、順当ではないでしょうか?」
「分かった……」
「分かりました」
ようやくブレンダが口を開いた。特に反抗するべきではないと思っていたというか、むしろ気圧されていたのだろう。緊張がとけたようだし、なにより彼女もいかにも実戦経験がなさそうなカナタが、現場で指揮をとると言い出さないか心配だった面もあるのかもしれない。様々な意味で納得というか、安堵していそうだ。
「ともかく、我々の当面の目標は──」
──その間隙に、ビーッビーというけたたましいアラートが割って入ってくる──
「この警報は……!?」
「まあ、怪獣でしょうね」
アルベルトとブレンダの慌てた様子に、つとめて冷静に返す。別にカナタとて想定内だったわけでもないが、下手に慌てふためいて余計な混乱を招くわけにもいかない。それに、今日は新型機種であるティタノカルディアの起動テストと、その後に実機訓練を行う予定だったのだ。
研究所全体がそれに合わせてスケジュールを組んでいるのだから、想定外の規模の何かが起こるような実験などは、今日は行われないようになっている。
外部から脅威が来たというのが、可能性としては一番高いだろう。
「……アナタたちは、機種転換訓練は終わっていますよね?」
それは、確認のようであって確認ではない。これから自分たちが何をするかの、多少遠回しな意思表示だった。
「一度も実機訓練もしていないような機体で、怪獣と戦うのか……」
「え……いや、でも! 私たちはまだ実機での起動テストすら──」
「覚悟を決めろ、ブレンダ。ここには、ストラティマキナはないんだろう?」
こちらの意図を察したアルベルトが、慌てるブレンダの機先を制す。彼の言う通りで、この研究所にあるのは彼らにとっては未知のティタノカルディア以外にはない。
「……ただ幸いなことに、ティタノカルディアは機体の規格自体はストラティマキナとほぼ同じですし──」
──それに、アルベルトのいうように、この研究所には他に戦力になるような兵器はないのだから、迎撃するならぶっつけ本番でもやってのける他にない──
その言葉はあえていわなかった。ブレンダもおそらくは分かっているはずだ。いや、分かってもらわないと困る。
「本当に、間がいいのか悪いのか……」
消えいるようなその呟きは、他の人間に聞こえたかどうかは定かではない。だが、次の言葉はあえて力強く告げる。
「独立遊撃部隊J。記念すべき初出撃です」
ストラティマキナとティタノカルディアは別機種とされています
ただし、機体の全高が約30mなのは一緒
違いはレーザーパルス式核融合応と、新機軸のエーテルリアクターという動力源のみ
ただし──