其の名はアトランティス
ようやく本編がはじまる……
今は昔、恒星アポロンを中心とした第三惑星アトランティスへ人類が到達した。長き時を宇宙で過ごした、人類の方舟の一つたる移民船の名は『アトランティス』。この惑星の名の元となったのは、この移民船だった。
人類はこの星を観察し、人類とよく似た姿を持つ先史文明人というべき者たちと、その当時アトランティスを支配していた怪獣たちの姿を見たのである。
──そして人類は、怪獣と戦い、侵略してでもこの星を開拓すること選んだ──
それが正しいことだったのか。すでに開拓を決め、移民船を地上に降ろし並行してテラフォーミングを行っていた人々はもういない。当時の事情の全てを真の意味で知ることは出来ないが、父であるシキシマ博士に言わせれば──
「この星を無視して別の星に行くには、この星があまりにも人類にとって住みやすい条件が揃いすぎていたのだろう。それに、移民船は長い間宇宙を旅する。その覚悟をして旅立った人々も、移民船の中で命尽きたとしても不思議ではない。であるならば、自分たちどころか自分の子供たちすらも、移民船の中で一生を終えるかもしれないと知りながら、別の星をあてもなく探し求める日々を過ごすことを良しとするか……そう思えば、どちらを選ぶにせよ相当な覚悟が必要な決断だっただろう……」
そう言われれば、先人の選択を軽率に責めることは度し難い行為に思える。現人類が怪獣と戦っているにせよ、移民船よりは遥かに広大な土地で生活していることを思えば、その恩恵を享受しているものが何をいわんや……だ
(とはいうものの、先人たちが怪獣と戦い開拓を行うことにしたことは間違いだ、我々は怪獣を保護すべきだ! と主張する怪獣保護団体なるものもあるのですけどね)
その主張全てが間違っているとは思わないが、大部分の怪獣保護団体の実情といえば、現在アトランティスに住まう人類の政治面と軍事面を統括的に担っている人類統合連合への、いわば難癖をつけるための口実として利用されている。そして彼らの開拓への妨害工作なども、人類統合連合内部での政争に利用するのに便利な攻撃材料として利用されている。
ごく一部には真摯な怪獣保護団体も存在しているらしいが、大部分がそういう政治活動やビジネスを目的として活動しているため、真剣に受け止められることは少ない。
だが、父にシキシマ博士を持つカナタ・シキシマという個人としての意見をいうならば、怪獣そのものへは恨みはない。ただ生きるためには、どうしても怪獣と衝突することがあり、結果的には排除を行う以外に今のところは解決方法が見当たらないだけだ。逆にいえば、人類が生活するのに問題がない場所で生活を行う怪獣までわざわざ駆逐する必要は感じていない。
(その辺を踏まえて、どうバランスを取っていくかが、これからの人類の課題でもあるのでしょうね……)
それはともかく……だ。恒星アポロンからの光を受けて夜空に輝く、アトランティスの麗しき衛星セレネを眺めながらグラスを傾ける優雅なひと時を過ごしていたのは、ほんの昨日の夜のことだ。
「いよいよ、明日になりましたか……今までは水面下での活動ばかりで、実戦的な行動は秘密裏に行うしかなかったですし……ここから全てが動き出す、ここから、ようやく……」
思わずそう独りごちる程度には、長い雌伏のときだったのではないだろうか。息子である自分でさえそう思うのだ。今頃父は何を思っているのだろう? 案外、まだまだこれからだと、感慨に耽る間などないと考えているのだろうか……?
そう、この星は水を蓄えた海を持ち、しかも1Gという人類が過ごすには快適な要素が多い。
──だが、怪獣がいる。それも他の人類が知らないジェネシスと呼ばれる者たちが──
なれば、それに対抗しうる存在が必要だ。今ままでの人類に、それに抗うに足る存在はなかった。だが、ないのなら生み出せばいい。そのために父がいままで研究して、そして一応の完成をみた。父の名を関したシキシマ研究所は、そのための研究を行い、そのためだけに存在していたのである。
とはいえ、問題はある。
──まだ、実戦テストを行えていない──
さて、今の巨神が現段階で今の人類が遭遇してすらいない、ゆえに知るよしもない存在に対抗出来るか。今日この日から、それを確かめる活動が始まるのである。
パイロット、カナタ・シキシマ──このとき、まだ17才の若き少年であった
ちなみにカナタ・シキシマの父親はライ・シキシマ
敷島ってかけば、元ネタが分かる人がいるかもしれない