其は昏く邪悪なる樹 後編
リュドウ君「まだだ、まだ終わらんよ!」
真っ先に動き出したのは、カナタだった。XSTK-28が掲げるビームバズーカを、躊躇もなくゴルイーガ──猛禽類の頭部を持ち、人間の体型を基準にするなら胴長短足。ただ全身が金属のような光沢を放ち、全身を鱗で覆っているその姿がコミカルかどうかは、意見が分かれるところだ──に向かって砲撃する。
それも、ビームバズーカ290型が許容出来る範囲で最大の出力で……だ。望遠センサーでギリギリ補足出来る距離にいたゴルイーガに対し、それが全高40mはある肉体を容赦なく襲う。ビームが炸裂する瞬間は周囲に閃光が迸り、仮に目視していたところで目標がどうなったかは分からなかっただろう。
アルベルトやブレンダは、その一撃で我に返った。
「容赦ないな……」
「……その必要がある相手かを、確かめたかった物で……まあ、必要なかったようですね」
「うそ……なにあれ……黒い……霧?」
反応は三者三様であるが、その一撃でゴルイーガがどうなったかは、二人には予想外だったようだ。ゴルイーガの右半身が腕ごと消失している。しているはずだ……だがそこを黒い霧のようななにかが覆い、なにかを形作ろうとしている。それを望遠センサーで見たブレンダは、いい知れぬ気持ち悪さを感じた。
(……ふむ……ジェネシスの中で、眷属以外を強制使役する能力を持つのは、クリフォトとクトゥルフ……しかし、眷属以外を強制的に改造して支配が可能となると……)
「なるほど、あのゴルイーガ……クリフォトに種子を埋め込まれたようですね」
「クリフォト……? なんのことだ?」
アルベルトがクリフォトの名前を聞きとがめて、こちらに聞き返してくる。だが、それに答える時間さえ惜しい。強制的に通信切断を行い、秘匿通信に切り替える。通信相手はおやっさんだ。
「あいつ、通信を切りやがった!」
「明らかに、なにか知ってそう……」
そういっていることは、カナタには聞こえていない。その間も二人はゴルイーガを見つめている。まだ動き出してはいないが、黒い霧が徐々に塊となって、ビームバズーカで抉り取ったはずの部分を、どんどん埋めていく……しかも、腕に至っては長い樹木のツタのような形状になっている。
一方、カナタの方はおやっさんと簡潔かつ確実に話を進めていた
「おやっさん。あのゴルイーガ、クリフォトに支配されているようです。傀儡にされて、いいように扱われているようです。邪悪な樹とは、よくいった物です」
「ということは、クリフォト本体もいるのか!?」
その質問に、カナタは若干の間をおいて否定する。
「……クリフォトは邪悪かつ狡猾だと資料で見ました。となれば、クリフォト自身がきているなら、ゴルイーガ程度の輩に護衛はさせないでしょう……いくら改造出来るとはいえ、所詮は素体がジェノサイダーにすら劣るデストロイヤーですし」
「……たしか、痛覚は弄らずに操ってるんだったか……? 体を生きたまま改造されるのは、痛み以前に気分がよろしくないだろうが」
その程度ですむ痛みなのだろうか? そうは思ったが、カナタは口にしなかった。早くしないと、手遅れになる恐れすらある。
「それで、エグゾ・グリモアは必要か?」
おやっさんの方が、核心をつく発言をした。まさに、その要件で連絡をしているのだから。
「残念ながら……YSTK-29用とはいえ、ビームバズーカの初撃、それを最大出力で相手を仕留められない時点で、素体では無理でしょう」
「はあ……やはり、必要になったか……上の連中がうるさそうだなぁ……」
「むしろ、いい機会かもしれません」
なにが? おやっさんが続きを聞きたがっている。その裏で、もうエグゾ・グリモアの射出シーケンスが始まっているのを確認して、受取地点の算出を始めながら続きを話す。
「上の連中の中には、たしか巨神計画自体を疑問視している者もいるとか……しかし、クリフォトの実在と、奴に強化されて実質ジェノサイダー級に強化されたゴルイーガ──」
そこで、カナタは邪悪(おやっさん視点)な笑みを浮かべる。
「それを、単騎で倒すことが出来るだけの実績を示せば……計画そのものに反対するのは難しくなるでしょう。表立った反対は、実質出来なくなるかと」
「……裏で手を回す輩は、必ず出てくるぞ……それは、承知の上なんだろうが」
「まあ、それは僕の得意分野ですからね」
「確かに! お前さんは性悪──」
カナタはおやっさんがそこまで喋った時点で、もう聞く必要がないと秘匿通信を切断した。
さて、と。カナタはアルベルトたちに伝えるべきことを伝えることにした。
「とりあえず、アレを倒すことにしましょう」
「……? どうやって?」
「アナタがたは、我々ジパングが秘匿していることを知りたくはありませんか? 今から僕はエグゾ・グリモアを受領しに行きます。それがあれば、あれには勝てます」
「ジパング? ……もしかして、独立遊撃部隊Jって……」
「御名答……ブレンダさん、素晴らしい勘です。そう、ジパングの略です」
しかし、アルベルトは現実的なことが気になっているらしい。
「エグゾ・グリモア……つまるところ、外付けの魔導書……か? それがあれば、あのゴルイーガを倒せるとして、どうやってそれまで時間を稼げと?」
その点に関しては、問題が山積みだった。だが、それはあえて隠す。
「エグゾ・グリモア、コード・バハムート……実はもう既に射出準備に入ってるんですよ。だから、ドッキングにはさほど時間はかかりません」
「ドッキング?」
ブレンダが疑問を発する。それはそうだろう。人型機動兵器でドッキングなど聞いたことがない人間の方が多い。
「俗ないい方をするなら、合体です……まあ、そんなことより」
そういって、カナタは自分のXSTK-29が持っていたビームバズーカを。地面に向かって放る。
「これ、本来はYSTK-29用に作製された代物でして……数値はもうYSTK-29用に弄りました。ブレンダさんになら扱えるかと。ビーコンも出してますので、拾いに来てください」
「え……? なんで?」
「火力が足りないかと……多分、さっき倒したリュドウの中で体が残っている奴らは、動き出している頃でしょうから」
そういうと、カナタはエグゾ・グリモアの着陸予定地点へ向けて、ホバーを組み合わせた最大速度で移動を始める。正直、この件に関してだけは非常に心苦しいのだが、クリフォトの因子が埋め込まれたリュドウの掃討、もしくはいなすことについては、二人が上手く対処してくれることを祈る他ない。
でなければ、エグゾ・グリモア接触前に確実にゴルイーガに補足される。そこからエグゾ・グリモアに接触するまでの時間に、おそらく一人か二人が犠牲になるだろう。
これは賭けだ、三人が全員生き残るための。リュドウとゴルイーガを二人がいなしている間に、こちらがエグゾ・グリモアに接触する他に、全員が生き残る術はない。
そんなカナタの心中はつゆ知らず、自分たちの目の前でリュドウの三体ほどが動きはじめたのを見て、アルベルトは思わず絶叫していた。
「あの、クソガキャァァァァァッ!」
それは、心のそこからの呪詛であろう。ブレンダとしても、流石にカナタを擁護する気にはなれなかった。
ジパングという組織名は、惑星アトランティスの人間には理解出来ない単語です
ただ、ジパングのイニシャルがJなことは理解出来た模様




