序章の一幕 其れは誰がための力か? 巨神合体のときは来たれり
序章・いつか来る刻の一幕
計画が狂ってしまっている。より狂っていってしまう。
だが、だからそれがどうしたというのだ? この巨神の心臓は何のために生まれ、誰のための力なのかは、他の者に問わずとも知れたことだ。だから、カナタは動じてはいない。
──そう、戦う力なき人々を守るためだ。たとえ人類に大義がなかったとしても……それでも!──
父たちには後で謝ればいい。自分よりもよほど甘いところのある父のシキシマ博士は、人を守るためなら計画の変更については間違いなく許容するだろう。それにそもそも、この機能はいつまでも隠しておけるものではない。単に発覚が早いか遅いかの違いでしかないのだから。
「規格外骨格、コネクティブモード・アクティブ!」
それは指示にして符号でもある。この符号を言えない者に、この力を使わせるわけには行かないからだ
「エグゾグリモア・バハムート、コアユニット型式番号XSTKー28クウシキからの合体要請、受領。合体コード及び音声認証クリア……クウシキより指紋認証と虹彩認証、画像認証による搭乗資格者認定クリア……合体シーケンスに移行」
そのAIからの音声により、バハムートへのアクセスが可能になったこと確認したと同時に、出力の設定を行う。機体の出力リミッターを定格出力の20%へと規定
「流石に、まだ外部の人間にバハムートの戦闘力全てを見せるわけにはいかないので、ね」
当初は存在そのものを秘匿しておく段階だったのだ。状況がそれを許さないとしても、流石に手の内を全てさらけ出すわけにはいかない。敵は怪獣だけではないのだから。であるがゆえの20%制限である。
これは決して油断しているがゆえの判断ではない。相手は確かにデストロイヤー級の怪獣だ。上に存在するのはジェノサイダー級の怪獣しか存在しないほどの脅威だ。
だが、だからどうした? この程度の相手に全力を出すようには、この機体の規格外の外骨格、規格外骨格バハムートは設計されていない。
──クリフォト、メタトロンにサンダルフォン、クトゥルフ、フェンリル、そして、それら超怪獣の中でも最強のG……この巨神はそれら超怪獣と戦うために造られた機体なのだ。それが、超怪獣ですらない一介の怪獣に100%の力でなければ戦えないのであれば、人類に未来はないのだから──
全ての過程たる儀式は終了し、巨神に心臓が組み込まれ、生命の鼓動が目覚めの時を迎える。
戦いのために生まれながら、人を守るためだけに使われることを願われてきた、機械の神にして人類の守護者が今……動き出す。
「合体シーケンス、オールグリーン……バハムート、武装ロック解除、戦闘モードへ移行します」
計器類は全て正常。出力はしぼっているが、携行武装タケミカヅチの使用自体に問題が発生する状態ではない。出力の関係で使い物にならない状態になっているのは、むしろ脚部のフローターユニットである。ただこれは、空中での高速機動戦闘時の話で、地上で動く程度ならそれなりには動く。
──とはいえ、空を泳ぐ龍の名を関する機体が、天を駆けることが出来ないとは──
皮肉なことだ。思わず苦笑してしまうが、今眼前にいる敵を倒すのには支障がないからだ。
迷いは捨てろ。今はもう計画のことなど考えてもどうにもなるまい。眼前の敵を排除し、人を救うことに全てを、自らの身命すら賭せ。人類の守護者たる巨神を扱うということは、そういうことだろうから。
「カナタ・シキシマ! バハムート、行きます!」
そして巨神が、怪獣へと駆け出す。己の存在意義を証明すべく……
巨神ロボ28号クウシキ(空式)は、単体では機能しない
ティタノ・カルディア(TK)たる巨神ロボ28号は、規格外の外骨格、ゆえに規格外骨格と呼ばれる、巨大な機械の体躯なくして切り札とはなりえない
心臓は、その血潮を流す肉体があって初めて機能するのだ
心臓を取り込むことで誕生する巨神は、その儀式によってようやくその力を行使することが出来る
これは、その刻が来たときの一幕に過ぎない