第9話「レベルアップとリスト画面」
化け物を撃退すると、空間が静まり返った。
そこへ、待っていましたとばかりに主催者が再び姿を現した。ブラウン管テレビのような奇妙なフォルムのそれは、どこか愉快そうに画面を揺らしている。
「おめでとうございます、ルナ様! いや、春斗様とお呼びするべきでしょうか? 見事な初陣でしたねぇ!」
「お前……」
俺は舌打ちしながら主催者を睨みつけた。こいつのせいでこんなことになっているのだ。
「まあまあ、そんなに怖い顔をなさらないでください。ちゃんとご褒美をご用意しておりますよ」
主催者はテレビ画面に映像を映し出す。その画面には俺の名前と共に、“レベルアップ”という表示が浮かんでいた。
「ふむ、どうやら経験値が貯まったようですね。これで魔法少女としての力も強化されるでしょう。そして、特別ボーナスとして……」
「ボーナス?」
「はい! 春斗様に馴染みやすいように、ゲームのステータス画面を実装いたしました! これでご自身のレベルやスキル、そして他の魔法少女の情報も確認できるようになりましたよ!」
主催者が誇らしげに語ると、俺の脳内に何かが流れ込んでくる感覚がした。試しに意識を向けると──
《STATUS MENU》
という文字が浮かび、目の前に半透明の画面が現れた。そこにはトランプのAからK、そしてJOKERのマークと共に名前が記されている。
「な、なんだこれ……?」
「ふふふ、面白いでしょう? ちなみにAにはシエラ様、Qにはミラ様、3にはルミナ様、そしてJOKERにはルナ様……つまり春斗様が登録されております」
俺はそのリストを食い入るように見つめた。シエラがA、ミラがQ、ルミナが3……それぞれ何を意味しているのかはわからないが、少なくとも魔法少女たちの序列か何かを示しているのだろう。
「これが……魔法少女たちの情報……」
リストを閉じると、ちょうどミラとルミナが駆け寄ってきた。
「春斗、大丈夫ですか?」
ミラは優雅な足取りで近づいてきた。その表情には余裕があるが、少しばかり心配もしているようだった。
「ええ、大変な戦いでしたね。でも、無事で何よりですわ」
彼女は穏やかに微笑みながら俺の顔を覗き込む。
「春斗さん、ご無事で何よりです……!」
ルミナも安堵の表情を浮かべる。その目には、本当に心から俺を気遣ってくれている様子が見て取れた。
俺が軽く頷くと、ふと妹がこちらに駆け寄ろうとしているのが視界に入った。
「お兄ちゃん……? じゃなくて、その……助けてくれて、ありがとうございました……」
妹はそう言いかけて──俺の姿をじっと見つめる。
白銀のツインテール、フリルのドレス、煌めくステッキ。
──やばい。
「……!?!?」
妹の目が見開かれる。まさか気づかれたのか!?
「春斗さん?」
「まずい……っ!」
俺はとっさにミラとルミナの手を引いた。
「急ぐぞ!」
ミラは「まあ」と驚きつつも、すぐに俺の意図を察して微笑んだ。
「仕方ありませんね。では、エスコートいたします」
「ちょ、ちょっと春斗さん、急すぎます……!」
ルミナも慌てた様子でついてくる。
俺たちはその場を後にし、夜の街へと駆け出した──。