第8話「ルナの魔法」
「くそっ、急げ……!」
俺はルミナとミラに両脇を抱えられ、夜空を駆けていた。
いや、「駆ける」というよりは「飛んでいる」という方が正しいだろう。
普通ならあり得ない状況だが、今の俺にそんな余裕はなかった。
目指すのは、テレビで映っていた妹がいる場所。
通学路の小さな路地。
そこに、化け物が現れた。
「見えてきました!」
ルミナの声が響く。
下を見ると、遠くに見えていた街並みが、ぐんぐんと近づいてくる。
そして、その視界の中に——
「っ!! あそこです!」
妹の姿を見つけた。
そして、そのすぐそばには——
黒い靄のような影をまとった化け物がいた。
「間に合って……!」
そう思った瞬間——
世界が白く染まった。
……何だ?
周囲の音が遠ざかり、時間の流れがゆっくりになる。
まるで、自分だけが別の空間に取り残されたかのような感覚。
そして——
「やあ、また会ったね」
どこからともなく、軽快な声が響いた。
振り向くと、そこには——
デフォルメされたブラウン管テレビのようなキャラクターが浮かんでいた。
「主催者……!」
俺は思わず歯を食いしばる。
「まさか、ここでまた現れるとはな……」
「うんうん、君なら気づいてたんじゃないかな? 僕が言ったボーナスのこと」
「……ああ、分かってたよ」
俺は忌々しげに吐き捨てた。
「俺の目の前で妹を危険に晒して、俺に選ばせるつもりだったんだろ?」
「おやおや、そんな言い方をしなくてもいいのに」
主催者は画面の中の口をゆるく曲げ、ニヤリとした表情を作る。
「君がバトルロワイアルに参加することを選ぶなら、君が魔法を使えるよう手助けをするよ」
「……」
「さあ、どうする? 君が選ぶんだ」
俺は、ぎりっと歯を噛み締めた。
ふざけるな。
こんな茶番に付き合う気なんてなかった。
けど——
俺が何もしなかったら、妹は確実に死ぬ。
その事実だけは変わらない。
だから——
「……っ、分かったよ」
俺は、主催者を睨みつけながらも、宣言した。
「俺が、十四人目の魔法少女になってやる」
主催者は、画面に映る口元を大きく歪めた。
「よろしい!」
次の瞬間——
ファンファーレが鳴り響いた。
「さあ、バトルロワイアル、再開だ!!」
——世界が、一気に動き出した。
「——っ!」
俺の身体が、風を切って飛翔していく。
空中を駆けるように進む俺を、後ろでミラとルミナが驚いたように見ていた。
「春斗さん!? どうして……?」
ミラの驚き混じりの声が聞こえる。
「まさか……飛べるようになったのですか……!?」
ルミナも目を見開いていた。
俺自身、どうしてこんなことができているのか完全には分かっていない。
けれど、確信していた。
俺は、魔法少女になったんだ。
だから——
「間に合え……!!」
俺は翼もないまま、空を切り裂き、目標へと突っ込んだ。
——すぐそこに、妹がいる。
そして、妹のすぐそばには——
化け物。
それは黒い靄のような体を持ち、獣のような鋭い爪を振り上げていた。
このままでは妹が——
「くそっ……!」
俺は迷うことなく、化け物と妹の間に割って入った。
「やめろおおお!!」
俺の叫びと同時に、ステッキをかざす。
——分かる。
どうしてか分からないが、確信がある。
このステッキは、ただのコスプレグッズじゃない。
俺が昔、妄想していた魔法を具現化する力がある。
そう——
「ルナ・エクスプロージョン!!」
俺は、確信と共に魔法を放った。