第7話「ボーナス」
「……くそ、何が何だか分からねえ」
カフェの椅子に深く座り込み、頭を抱える。
主催者が現れ、突如として語られた事実。
異世界に向けて戦いが放送されていること。
この世界に化け物が放たれること。
現在、十三人の魔法少女が存在していること。
俺が望むなら十四人目として参加できること。
そして、主催者が最後に言い残した言葉——「ボーナスをあげるよ」。
何かが起こる予感がしてならなかった。
(まさか、本当に俺に何か力が与えられるのか……?)
今の俺は、ただの一般人だ。ルミナやミラのように魔法少女として戦う力なんてない。仮に「ルナ」として認識されていたとしても、それが何か実際の能力に繋がるわけじゃないはず。
しかし——
「すぐにわかるよ」
主催者の言葉が、やけに引っかかる。
俺が十四人目として選ばれる理由。与えられる「ボーナス」。
何かが変わる。これから、それが起こる。
そう思わずにはいられなかった。
「春斗様、ご気分は大丈夫ですか?」
ミラが心配そうに俺を覗き込む。
「……ああ、大丈夫。ちょっと情報が多すぎて、整理してるだけだ」
そう返しながら、俺はふと店内に目を向けた。
どこにでもある落ち着いたカフェ。木の温もりを感じるテーブルと椅子。静かに流れるジャズのBGM。
その空間に、不釣り合いなものが映った。
壁に掛けられたテレビ。
そこに映し出されていたのは、見慣れた景色だった。
あれは……妹が通学で使っている路地だ。
俺は、反射的に息をのんだ。
画面には、パニックに陥った人々の姿が映っている。カメラがぶれながらも何かを追っている。
「速報です! 先ほど○○区の住宅街で、正体不明の怪物が目撃されました!」
アナウンサーの緊迫した声が響く。
次の瞬間、画面が切り替わった。
そして、映ったのは——
「……何だ、あれ?」
俺は、絶句した。
黒い靄のような影をまとい、異様な形をした化け物。
その姿を見た瞬間、頭の奥で何かが警鐘を鳴らした。
(これが……主催者の言ってた『化け物』か!?)
ガチガチと体を震わせながら逃げ惑う人々の中で、俺はある存在を探した。
——いた。
妹だ。
画面の端、青い制服の少女が怯えながら立ち尽くしている。
周りの人々が逃げ出していく中で、妹だけは動けずにいた。
「……っ!!」
俺は椅子を蹴って立ち上がる。
「春斗様!?」
「どうしたんですか!?」
ルミナとミラが驚くが、そんなことに構っている場合じゃなかった。
「俺の妹が、あの場所にいる!」
そう叫ぶと同時に、ドアへと走る。
「ま、待ってください!」
ミラが追いかけようとするが、俺は振り返らなかった。
「待ってられるか! 妹が危ねえんだ!」
この瞬間、すべてを理解した。
「……これが、『ボーナス』か」
主催者が俺に与えたもの。
それは、選択の機会だった。
このまま何もできずに妹を見殺しにするか。
それとも——
魔法少女としての戦いに身を投じるか。
「クソッ……!!」
俺は走った。
頭の中は混乱していた。だが、それでも足を止めることはできなかった。
(間に合え……!)
胸の奥で、何かが疼く。
これは、ただの偶然じゃない。これは、試されているんだ。
俺に、本当に戦う覚悟があるのかどうかを——。