第5話「カフェでの真実」
人の少ないシックなカフェに入った俺たちは、隅の席に腰を下ろした。
温かみのある間接照明が落ち着いた雰囲気を醸し出し、木製のテーブルと深い緑のソファが、まるで時間の流れをゆっくりにしているかのようだった。昼間の喧騒とは違い、ここには俺たち以外に数組の客しかいない。
彼らは店内で流れる魔法少女出没に関するニュースを流すテレビの方を向いて、こちら側に目を向ける事すらなかった。
……これで、俺の女装コスプレ姿も全国区か……なんて考えても仕方がないので、気持ちを入れ替える。
「……やっと落ち着いたな……」
椅子に沈み込み、俺は深いため息をついた。
追いかけ回された挙句、警察まで出動していたあの騒ぎからどうにか逃げ出し、こうして静かな場所に落ち着けたのは奇跡みたいなものだ。
俺の正面に座るのは、純白のツインテールが特徴的なルミナ。そして、金色の髪をふわりと揺らしながら微笑むミラ。
さて、改めて確認しよう。
俺はただの一般人で、魔法少女でもなんでもない。けど、なぜか彼女たちに「伝説の魔法少女ルナ」として認識されてしまっている。そして、さっきの騒ぎでは、魔法少女のバトルロワイアルなるものが行われているらしい、という話もチラッと聞いた。
……なんか、もう頭が痛くなってきた。
「それで……話を整理させてくれ。まず、お前たちは何者なんだ?」
俺がそう尋ねると、ルミナが真剣な眼差しで身を乗り出した。
「私はルミナ。異世界の貧しい村の出身です。故郷を救うために、このバトルロワイアルに参加しています」
彼女の瞳には強い決意が宿っている。
「……バトルロワイアルってのは?」
俺が聞くと、今度はミラが穏やかに口を開いた。
「魔法少女たちは皆、伝説の魔導書を手に入れるために戦っています」
ミラの声は落ち着いていたが、その奥には確かな思いが込められていた。
「……バトルに敗北したらどうなる?」
俺の問いに、ルミナは少し眉を寄せた。
「……敗北した魔法少女は、力を失い、記憶を消されてしまいます」
「え……」
記憶まで消える? それってつまり……負けたら自分が魔法少女だったことすら忘れるってことか?
「そして、最後の一人になれば……」
ミラが静かに続ける。
「伝説の魔導書を手に入れ、どんな願いでも叶えられるとされています」
「……願い?」
「はい。世界を救うことも、自分の運命を変えることも、あらゆることが可能になるのです」
……そんなものが本当にあるのか?
でも、ルミナもミラも本気でそれを信じているし、それを求めて戦っている。……いや、ルミナは「戦いを止めたい」と言っていたな。
「でも、俺には関係ない話だよな? 俺は魔法少女じゃないし……」
そう言いかけた瞬間だった。
──バチバチッ
突然、空間が歪み、俺たちの目の前に奇妙な存在が現れた。
「ようこそ、バトルロワイアルへ!」
「なっ!?」
そこに浮かんでいたのは、デフォルメされたブラウン管テレビのようなキャラクターだった。
小さな四角いボディに、懐かしいブラウン管の画面。画面には笑顔の顔文字が浮かび、両脇には短い手のようなものが付いている。そして、画面の上下には小さなスピーカーがあり、そこから軽快な電子音の声が流れてきた。
「君たち、なかなか面白い動きをしているね! 特にルナちゃん!」
「だから俺はルナじゃねえ!!!」
思わず叫ぶが、ブラウン管のキャラは気にした様子もなく、くるくると回転した。
「おっと、ごめんごめん! でも、君が今、魔法少女たちの運命を大きく左右する存在になってるのは間違いないよ!」
「は!? 俺、何もしてねえだろ!?」
「それがそうでもないんだな~!」
ブラウン管キャラはクスクスと笑いながら続けた。
「君が現れたことで、バトルロワイアルはより一層盛り上がってるんだよ! だって、『伝説の魔法少女ルナ』が突然戻ってきたんだからね!」
「……だから、それが誤解だって言ってんだろ……!」
俺が頭を抱えると、ルミナとミラがブラウン管キャラを鋭く見つめた。
「あなたは……何者ですか?」
ミラが静かに問いかける。
「おっと、自己紹介がまだだったね! 俺はこのバトルロワイアルの主催者さ!」
「主催者……?」
「そう! つまり、君たち魔法少女たちの戦いを取り仕切っているってわけ!」
ブラウン管キャラはクルリと回転すると、楽しげに続ける。
「さてさて、そろそろ面白くなってきたし、俺ももっとこのバトルを盛り上げる方法を考えないとね!」
「……ふざけないでください。あなたのせいで、多くの魔法少女が……」
ルミナが怒りの表情で睨むが、ブラウン管キャラはひょいっと浮かび上がり、軽く手を振った。
「ま、それはみんなが『願いを叶えたい』って思うからこそ起こることさ! 俺はただ、その手助けをしてるだけ~」
「……そんなの、間違ってる……」
ルミナは悔しそうに唇を噛んだ。
──これ、絶対にロクなことにならねぇじゃん。
そうして俺は完全に、訳の分からない戦いに巻き込まれてしまったのだった。
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