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第4話「絶世の美少女と逃亡劇」

 ──どうしてこうなった!?


 俺は公園で項垂れながら、額を押さえながら現実逃避したくなっていた。


 あれから必死に逃げたものの、気づけばシエラやルミナ、それに割って入ってきた新たな魔法少女ミラまで揃い、事態はますます悪化の一途を辿っていた。


 目の前では、白と青を基調とした魔法少女服を身にまとったミラが、俺の顔をじっと見つめたまま、頬を赤く染めている。さっきから何やらブツブツと呟いているが、内容がよく聞き取れない。


「……まさか、こんな形で……」


「え?」


「い、いえ! なんでもないです!」


 バッと顔を背けるミラ。しかし、その仕草はどう見ても何かを意識しているようだった。


(ちょっと待て……なんでそんな恥ずかしがるような態度になってるんだ!?)


 ここ最近、俺の周囲の魔法少女たちの思考回路がまるで理解できない。そもそも俺はただのコスプレイヤーであって、「伝説の魔法少女」でもなんでもないはずなのに、どうしてこんな状況になっているんだ……!?


 そんな俺の混乱を他所に、ミラの向かい側でシエラが深いため息をついた。


「……やれやれ。勝手に盛り上がるのは結構だけど、そろそろ現実を見たら?」


「現実?」


「ええ。あなたが何を言おうと、この騒動はもう止められないわ。見なさい」


 シエラが顎をしゃくる。その視線の先にあったのは──


「……嘘だろ……」


 公園の入り口に、人の群れが押し寄せていた。


 警察官数名に加え、スマホを片手にした野次馬たち。そして何より──息を切らしながらこちらへ駆けてくるルミナの姿。


「ルナ様!!」


 満面の笑みで俺の名を(違う)呼ぶルミナ。その後ろには警察官たちが困惑の表情を浮かべながら追ってきていた。


「すみません、ちょっと事情をお聞きしたいのですが……!」


「くそっ、こんなことになるなんて……!」


 俺は頭を抱えた。


 いや、分かっていた。ここまで派手に魔法少女たちが暴れれば、当然目立つ。それは理解していたが、まさか警察まで動き出すなんて……。


『はははっ! こりゃ傑作だな!』


 突如、俺の肩に何かが降り立った。


「うおっ!? なんだ!?」


『ようよう、相変わらず騒がしいなぁ、お前さん』


 肩の上にいたのは──黒い羽を持つカラスだった。いや、ただのカラスじゃない。こいつはシエラが召喚する魔物で、やたらと軽薄で口が達者なやつだ。


『くっくっくっ……『伝説の魔法少女』とやらが、こんな情けない顔してるとはな!』


「お前……!」


『まあまあ、そんなに怖い顔するなって。俺はただ楽しんでるだけさ』


 カラスはクチバシをカタカタと鳴らしながら、俺の髪をついばもうとする。


「うわっ、やめろって!」


『いやぁ、それにしても面白いなぁ。こんなにも盛り上がるなんて、お前さんの魅力は相当なもんだぜ?』


「魅力とかじゃねぇ!! 俺はただの一般人なんだよ!!!」


「……ふん。ここで戦って無関係の一般人が巻き込まれるのは、本意ではないわね」


 シエラが腕を組みながら、じろりと俺を見下ろす。


「ちっ……これ以上騒ぎを起こしても無駄ね。今はここまでにしておくわ」


「え?」


「無関係な人間が巻き込まれるのは避けたいのよ。……それに、いずれまたすぐに会うことになるでしょうしね」


 そう言い残し、シエラは踵を返した。


 だが、俺が安堵する間もなく、ルミナがさらに距離を詰めてくる。


「ルナ様!! ご無事ですか!?」


「だから俺はルナじゃ──」


「……仕方ありませんね」


 その時、ミラが静かに杖を掲げた。


「『祈りの加護サンクチュアリ・ヴェール』」


 ミラの周囲に柔らかな光が広がる。すると、不思議なことに周囲の音が遠のき、俺たちの姿が徐々に薄れていくような感覚に襲われた。


「これで、私たちの姿はしばらくの間、一般の人には見えなくなります」


「え? マジで?」


「ええ。これで警察の方々に見つかることはありません」


 ミラが誇らしげに微笑む。


「さっすが、シエラちゃん。便利な魔法持ってるね!」


 いやいや、そんな便利な魔法があるならもっと早く使ってくれよ!!


 しかし、そんなツッコミを入れる間もなく、俺たちは静かに公園を後にした。


 ──こうして、俺の人生最悪の一日は、まだまだ続くのだった……。

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