表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/18

第3話「ネットの玩具になった俺」

 息が切れそうだった。


 全力疾走なんて、いつ以来だろうか。


「はぁ、はぁ……勘弁してくれ……」


 夜の街を駆け抜けながら、俺は必死に逃げ続けていた。


 けれど、ルミナとシエラは、まだ俺を追ってくる。


「ルナ様、待ってください!!」

「逃がさないわよ!!」


 くそ、なんでこんなことに!?


 ただのコスプレイヤーだったはずの俺が、今や伝説の魔法少女として崇められたり、敵視されたりしている。


 頭が混乱する。だけど、止まるわけにはいかない!


「……待ちなさい!!!」


 その時、澄んだ声が夜の空気を震わせた。


 俺は反射的に足を止める。


 ──そこにいたのは、金色の髪を揺らし、白いローブをまとった少女だった。


「えっ……」


 ルミナとシエラも驚いた様子で足を止める。


「あなたたち、何をしているのですか?」


 少女は手にした聖なる杖をすっと掲げ、俺たちを見据えた。


 神秘的な緑の瞳が、俺の姿をとらえる。


「ミラ!? どうしてここに?」


 ルミナが驚きの声を上げた。


「ミラ……?」


 俺が思わずつぶやくと、金髪の少女──ミラは真剣な表情で頷いた。


「あなた方がどんな事情を抱えていようと、この場で争うのは許しません」


 その言葉と同時に、彼女の杖が淡く輝く。


 次の瞬間、俺たちとシエラやルミナを遮る光の壁が現れた。


「結界……!?」


 シエラが舌打ちする。


「こんな物、直ぐに壊して追いつくわ」


 そう言ってシエラは黒く光る魔法を打ち込むが、ビクともしない。


 一方ルミナは困惑した表情を浮かべながらも、俺に声をかけた。


「一旦、ミラと2人で先に逃げてください」


 そう告げられた俺は、ミラに手を差し伸べられた。


「さあ、ここから離れましょう」


「えっ……?」


「大丈夫です。私があなたを守ります」


 その言葉に、俺は思わずミラの手を取った。


 すると、ふわりと光に包まれ、次の瞬間、俺たちは違う場所へと転移していた。


◆ ◆ ◆


「ここは……?」


 転移した先は、静かな公園だった。


 さっきの騒ぎが嘘みたいに、風が心地よく吹いている。


 俺は地面にへたり込んだ。


「はぁ、はぁ……助かったのか……?」


 全力で逃げたせいで、膝がガクガクしていた。


 ミラはそんな俺を見下ろしながら、柔らかく微笑んだ。


「ご無事で何よりです、ルナ様」


「いや、だから俺はルナじゃ……」


 その時、ポケットの中のスマホが激しく震えた。


 通知が……めちゃくちゃ来てる!?


 画面を見て、俺は愕然とした。


『速報:魔法少女が現実世界に降臨!?』

『駅前で目撃情報多数! ネットで話題沸騰!!』

『#謎の魔法少女 すでにトレンド1位!!』


「はぁ!?」


 ニュースサイトだけじゃない。SNSでも俺の写真が拡散されまくってる!?


「ま、まずいって……」


 変な汗が背中を伝う。


 しかし、その時──


「逃げられたと思った?」


 ゾクッとした。


 背後から、聞き覚えのある声。


 振り向くと、そこにはシエラが立っており、その肩にはカラスが止まっている。


「う、嘘だろ……!?」


 ミラが驚いた様子で杖を構える。


「どうやってこの場所を……!?」


『ハッハー、俺様の探知は完璧だろ?』


 カラスがからかうようにクチバシを鳴らしながら人語を話す。


『さて、どうする? お姫様ルナもいるし、もう一波乱いこうか?』


「調子に乗らないで。少し黙ってなさい」


 シエラは不敵に微笑んだ。


「さあ、魔導書のことを教えてもらうわよ」


「だから俺はルナじゃないんだって!!!」


 俺は必死に叫ぶが、シエラの瞳は鋭く光ったままだった。


「言い訳は聞かないわ」


  俺は必死に叫ぶが、シエラの瞳は鋭く光ったままだった。


「言い訳は聞かないわ」


 その瞬間、カラスがくつくつと笑った。


『おー、怖い怖い。でも俺は好きだぜ、そういうシエラ』


「うるさい!」


 シエラが手をかざすと、黒い魔法陣が浮かび上がる。


「やばい!!」


「……そこまでです!」


 突然、ミラが一歩前に出た。


 杖を握る彼女の手が、微かに震えている。


「ルナ様には……手を出させません!」


「……っ!」


 ミラは俺の方をちらりと見たあと、唇を噛んだ。


「ま、待ってくれ! 俺はルナじゃ──」


「いえ……間違いありません……」


 ミラはゆっくりと俺に歩み寄ると、ぎゅっと手を握った。


「ルナ様……っ!」


 目の前で、敬愛のまなざしを向けられ、俺は完全に固まった。


「だから違うんだってばあああああ!!!」


 俺の叫び声が、公園の静寂に響き渡る。


 ──こうして、俺の誤解はますます深まっていくのだった……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ