第2話「俺、魔法少女バトルに巻き込まれる」
「だから違うって!!! 俺はただのコスプレイヤーだって!!!」
俺は、必死に叫んだ。
けれど、目の前の少女──ルミナは、まるで俺の言葉なんて耳に入っていないかのように、涙ぐみながら俺の手をぎゅっと握ってくる。
「ルナ様……まさか、本当にお会いできるなんて……!」
その潤んだ青い瞳が、まるで夢を見ているかのように輝いている。
俺の脳内に、警報が鳴り響いた。いや、待て待て! どうしてこんな美少女に、そんな感動したような顔で見つめられなきゃならないんだ!?
確かに俺は魔法少女のコスプレをしていた。銀色のツインテールのウィッグ、白を基調としたフリフリのドレス、純白のニーソックス──全部完璧に仕上げたつもりだ。だけど、これが「本物の魔法少女」だと勘違いされるなんて、どう考えてもおかしいだろ!?
「いや、だから俺は違うって……!」
何度も否定するけど、ルミナは信じてくれそうにない。
その一方で、駅前広場は大混乱だった。
さっきの謎の爆発で、周囲の看板は吹き飛び、カフェのパラソルはへし折れ、道端には瓦礫が散らばっている。呆然とする通行人の中には、スマホを構えて動画を撮っているやつもいれば、驚きのあまり腰を抜かしてしまったおじさんまでいる。
「お、おい……今の光、何だったんだ……?」
「もしかして、本物の魔法少女……?」
「いやいや、そんなわけ──でも、あの銀色のツインテール……」
まずい。めちゃくちゃ視線を感じる。
ただのコスプレのはずが、今や街中の注目の的。
それに追い打ちをかけるように、ルミナがさらに俺の手を強く握った。
「でもルナ様……あの闇の魔法を簡単に跳ね返したじゃないですか!」
「いや、それはただのおもちゃのステッキで──」
「そうです! そのステッキこそ伝説の聖杖! 真の持ち主にしか、その力を発揮しないと言われていました!」
「ちょっと待て、これネットで買ったやつだけど!?」
俺の全力のツッコミは、彼女の信仰心には通じなかったらしい。
そんなやり取りをしている間に、倒れていたもう一人の少女──夜月シエラ(やづきしえら)がゆっくりと立ち上がる。
黒と金を基調としたゴシック風のドレスは戦いの衝撃でところどころが裂け、白く滑らかな肌がちらりと覗いていた。長くしなやかな黒髪が風になびき、夜空を思わせる深紅の瞳が俺を鋭く射抜く。
「……くっ、やはり伝説の魔導書を狙うライバルか……!」
「いや、だから俺は違うって言ってるだろ!!!」
俺の悲痛な叫びもむなしく、シエラの瞳は疑いと敵意に満ちていた。
周囲の一般人たちも、状況が飲み込めないながらも騒然としている。
「おい、あのツインテール……本物の魔法少女か?」
「まさか、コスプレじゃないのか?」
「いや、でもあの光……」
完全に詰んだ。
スマホを向けられる人数がどんどん増えていく。中には動画を撮りながら興奮気味に実況するやつまで現れた。
「やめてくれええええ!!!」
耐えきれず、俺はその場から全力で逃げ出した。
「ルナ様、待ってください!!」
「逃がさないわよ!!」
──やばい、二人とも追ってきた!!!
心臓が爆発しそうな勢いで鳴る。まさか人生でこんな日が来るとは……いや、美少女に追いかけられるとか、普通なら夢みたいな展開のはずなのに!
だけど、片方は俺を崇めるような瞳で、もう片方は完全に敵意を剥き出しにしている。
走るたびにスカートの裾がひらひらと舞い、ニーソックスがずり落ちそうになる。何度も転びかけながら、俺は必死に足を動かす。
「くっそ、こんなはずじゃなかったのに!!」
今日、俺はただコスプレイベントに向かう予定だった。
前日から準備を万全に整え、大好きな魔法少女「プリティ☆ルナ」の衣装を完璧に仕上げた。写真撮影を楽しんで、仲間と盛り上がるはずだったのに……!
それがなんで、魔法少女に間違えられて、街中で追いかけ回されてるんだよ!?
もう笑えねえって!!
「はぁ、はぁ……なんで俺が……!」
必死に逃げる俺の横で、突然、カラスが飛び込んできた。
「ようようシエラ、お前また派手にやらかしたな!」
「カラス、黙ってて」
「おっと、冷たいなぁ。ところで、あの男……いや、魔法少女ルナ様は本物なのかぁ?」
「そんなわけないでしょ」
「えっ?」
は? 俺、ずっと否定してるのに、この黒髪ツインテール、最初から疑ってたのかよ!?
「でも、確かに聖杖が反応したのは事実……。もし彼が本当に関係ないなら、どうして?」
「だから俺は違うって言ってるだろおおお!!!」
叫んだ瞬間、足がもつれて盛大に転びかける。
無様につんのめる俺の後ろで、2人が余裕そうな口調で話しかけてくる。
「ルナ様、大丈夫ですか!? こんなところで転びそうになるなんて……っ!」
「ふん、やっぱり見た目だけの偽物かしら」
「はぁ、はぁ……お願いだからほっといてくれ」
──こうして、俺の人生は大きく狂い始めたのだった。