晩秋の海 ひとりマグロ漁
バナーを貼るのを忘れていたでござる。
夕日が沈んだ闇の中
季節に従い親潮走る
いまだ昇らぬ月を待つ
水平線に重なる白波に
潜む眼差し
大物の証
スクリュー回して
船首に足かけ
背にした山の
陰背負う
エンジン止めて
息を潜めて
潮渡り
風に合わせて呼吸を隠し
できる限りの小細工で
貴様の姿
捉えたぞ
気付いて無いのか?
眼中無しか?
だとしても
波に渇いた唇を舐めて閉ざして
糸を垂らせば
飢えた息吹が手に染みる
業が深いぜ
お互いに
世間じゃ男は肩身が狭い
ましてや令和
なおさらだ
しかしこの場は
ジジイと
海と
貴様の構図
つまらぬ理屈
入る余地無し
黙って見ていろ
一対一の奪い合い
自慢するほど堅くは無いが
指のマメ、タコ、貴様が締める
自慢じゃ無ぇが
慣れてんだ
カカァの小言
ガキのワガママ
てめえの泳ぎじゃ心は折れぬ
ブルームーンとか
スーパームーンとか
最近ニュースで言うけれど
昇る満月
最後のあがき
飛んだ貴様の
弧影が覆う
機械みてえに生け〆て
機械みてえに神経〆て
機械みてえに内臓抜いて
氷を詰めたら
気が付いた凪
今さらの余韻
眼に映るこの俺は
まるで賢者だな
お前さんには親いるか?
嫁は?
子は?
孫はいるか?
共に荒波巡った仲間は?
すげえヤツだよお前さんはよ。
きっと食卓上りゃ
大事に血肉に換えてくれるぜ……
ダメだな
俺は
何の慰めにもなりゃしねえ
こんなだから家族は嫌う
たんたんたんとエンジン鳴って
凪を荒らして進む船の上
瞼に浮かぶ家族の顔
ホロリ
ダメだろそんなんじゃ
胸を張らなきゃよぉ
これしかできねぇんだ
誇らなきゃどうすんだい
潮臭ぇと言われたってよぉ
俺が選んだ生き方じゃねえか
待ってろ
帰るぜ
歓迎されなくったってよ
俺の港へよ
そんでもカカァが朝日をにらんで
余った芋を
ゴウゴウ蒸かしてらぁ