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忘れ物屋さん  作者: 野々宮可憐
風信子編
7/9

第7話 風信子

「いらっしゃいま…せ?あれ、さっきのお客様ですね。おかしいな…。もしかして、お代を払いに戻ってきたんですか?」


先程のお兄さんがお辞儀をしながら迎えてくれた。そうだ!お代!


「すみませんでした!いくらですか!?逃げるつもりはなかったんです!!!」


私のやったことは立派な犯罪だ!本当に退学RTAになってしまう!必死にショルダーバッグを漁る。


しかし財布の姿は見当たらない。やばい!!!


「ごめんなさい財布忘れてきました!あっ!財布!私の財布を忘れてきたのでください!!?」


自分でも訳が分からないくらい混乱する。お兄さんはこんな私を見てケラケラ笑っている。


「あははっ、落ち着いてください。大丈夫ですよ。うちはちょっと特殊なんです。お代はお金じゃあないですよ。」


お兄さんのこの言葉に一気に体の力が抜ける。


するとお兄さんはさっきのように店の奥に行って、私の財布とスマホを持ってきた。


「はいどうぞ。いいですねこのスマホ。裏の写真はプリクラというやつですか?」


お兄さんは私と椿のプリクラで撮った加工ゴリゴリの写真を指さす。


「そうですよ。私と私の親友で撮ったやつです。」


こういうとお兄さんはそのプリと私の顔を見比べた。


「え?え?別人じゃないんですか??この写真変に目がでかい…。」


「プリクラってこういうものですよ。お兄さんは撮ったことないんですか?」


こういうとお兄さんは困ったように笑った。なんか変なこと言ったかな…。


「そうだ!今日助けてもらったおかげで、入学式に間に合ったんです。そのお礼を言いに来ました。この御恩は忘れません。」


「いや、忘れてもらわないと困ります。」


私は深々とお辞儀をしたのに、このお兄さんの言葉に顔を上げさせられた。


なんて言った?この人。


「あの、忘れてもらわないとうちの商売あがったりなんですよ。なんであなた、さっきうちに助けてもらったことを覚えてるんですか?」


「は?覚えてるでしょ。たった数時間前のことですよ?」


「いや確かにお代貰うの忘れちゃったなぁとは言いましたけど、お代は確かに受け取ったはずで、ただお代が何かを言い忘れただけで、あれ?」


お兄さんまで混乱し始めている。事態の収拾がつかない。


「お兄さんが言うお代ってなんなんですか?もしかして、海外のコンビニみたいに退店時に自動でお買い上げみたいな?」


こういうとお兄さんは頭にいっぱい?をつけた。


「海外にはそんなハイテクな物があるんですか?未来だなぁ。いや、そうじゃなくて、お代はですねぇ、」


お兄さんが言いかけたその時、カランと後ろから音が鳴った。


私が先程入った扉の左にあるもう1つの扉が開いていた。なんで扉が2つあるんだ?


扉を開けたのは腰が曲がったおばあさんだった。


「阿部さん!」


そう言ってお兄さんはカウンターからでておばあさんに寄り添う。


「あらあら店長、来客中だったのね。なに、ちょっと遊びに来ただけなのよ。」


おばあさんはとても上品な雰囲気を身にまとっていた。貴婦人という言葉が良く似合うような。


「こんにちはお嬢さん。初めての来店なの?」


「こ、こんにちは!そうです。今日入学式でちょっとやらかしちゃいまして、それで助けていただきました。」


こういうとおばあさんは「あらあら」と驚いたような顔をして店長とこそこそ話をした。


何か変なこと言ったかな…。


「とてもいいお店よね。あたしもよくお仕事の合間に来るの。忘れ物屋さんだけじゃなくて、忘れ事屋さんも始めてちょうだいって、急かしにね。」


このおばあさんは割とお茶目な一面もあるのかも知れない。お兄さんはまた困ったように笑った。


「だから、システム的に難しいと説明しているじゃないですかぁ。」


「でも可能性を捨てきれないのよ。次来た時は、もしかして奇跡でも起こってるんじゃないかってね。」


おばあさんは駄々をこねる子供なような目でお兄さんを見る。


「あらいけない。お仕事の合間にもう一件行かなきゃ行けないところがあるんだった。じゃあ行くわね。ごきげんよう。」


おばあさんはそう言って店を後にした。かなり高齢に見えたけど、まだお仕事をしているのか。日本もやばいのかもなぁ。


「今の方は阿部さんといって、この店の常連客です。本人も仰っていましたが、まぁ無茶を言われてい…て…。」


お兄さんは私をじろじろと眺める。


なんか変なこと言ったかな…。こうして疑うのは今日3回目だな…。お兄さんは何か閃いたようにハッと目を輝かせた、と、思いきやへなへなとしおれていったのがわかった。


「でもアルバイト…、第一はアルバイト禁止だ…、ちくしょう…。」


お兄さんは力無く呟く。恐らく私のことを言っているのだろう。


「あの、第一学園は数年前にアルバイト可能になりましたよ。」


こういった途端お兄さんはパッと目を輝かせた。


「本当ですか!じゃああなた、うちでバイトしてくださいよ!」


お兄さんは元気よく言い放った。…は?


「実はですねー、何故かあなたからはお代が貰えないようなんですよねー。だからしょうがないから身体で払ってください。レッツ肉体労働!」


お兄さんは元気よく言い続ける。…は?


「待ってください待ってください!無理です無理です!そんなこと言われても!闇アルバイトみたいじゃないですか!」


私は完全拒否をする。だってこちとら入学したばかりのJKだ。忙しくなるだろうしバイトなんて


「いいんですか?お代を払わなくて。入学式の危機を救ったのは誰でしたっけ?」


お兄さんはにこやかに脅す。そんなこと言われたらどうしようもない。


「た、体験…入店…からなら…!」


「よし決まりですね!じゃあ僕のこと店長って呼んでください!あなたは?」


「み、宮城…桜…です。」


いいんだろうか、個人情報教えていいんだろうか。


「いい名前ですね!僕は桜の花が1番好きです。では桜さん、あなたにはちょっと特殊なアルバイトをしていただきます。他言無用でお願いします。」


店長は口に人差し指を当て、しーっのポーズをする。人に言っちゃ駄目なのか。やっぱり闇バイトなんじゃ…。店長は何枚かの写真をカウンターの下から取り出す。


「バイト内容はですねー。この人の家に咲いてる青いヒヤシンスを、この人のお墓に供えてください。」


店長はどこからか分厚いファイルも取り出し、ペラペラと墓地の地図を出した。墓参りのお願い…?


「お使いですか?他に行ける人がいないので?」


「これはあなたにしか出来ないことなんです。頼みます。」


店長は深々と礼をした。そこまで言われたら、まぁやるしかない。


「分かりました。期限とかはありますか?」


「ないです。でも、できる時があれば必ずやってください。その方が、喜ばれると思いますから。」


店長の言うその方とは、お墓の中の人だろうか。店長と仲がいい人なら、自分で行った方がいいだろうに。忙しいのかな?


「わかりました。この人の名前と住所を教えてください。」


「あぁ、分かりました。すぐにメモにとりますね。」


「あ、メモいりません。口頭だけで覚えまず。どうせメモも忘れてしまいますから。」


袋入りませんの調子で言う。


恥を謹んで報告した。メモを忘れてまたこの店に来るなんでちゃんちゃらおかしい。


「…もしや、忘れ事をしないタイプの人ですか?」


店長は訝しげに問う。的中されてちょっと驚いた。


「そう…ですね。その代わりに忘れ物は激しすぎるんですけど。」


「あー!なるほどね!わかった!」


店長は急に大きな声をだす。なにか納得したらしい。


「よし、じゃあ、まぁとりあえずメモにも書いときましょう。住所は…」


店長は教えてもいいのか分からないけど個人情報をつらつらと述べた。そしてメモも渡され、「行ってらっしゃい」と外にだされた。



外はまだ太陽が照りつけていて、時計を見たら30分ほどしか経っていなかった。私は夏休みの宿題は早めに終わらしときたいタイプなので、先程教えてもらった住所に向かうことにした。幸い、バス一本で行けるところだ。近くのバス停まで歩く。そして道中気づいた。貰ったメモを忘れてきた!



「ひっひひ…、あっははは!本当に忘れていった!あははははは!」




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